四つの物語を載せます
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第二章
それは、満月では無いが、満月の時のような月明かりを地表に照らし、照らされた在る場所はまるで、鏡の床に黒い絨毯を敷き、神々の使いの大男が、腕を広げて大地に命の光を与えているように見える。それは、ただの細い農道に、綺麗に水を張っている田んぼに、休憩場所として残されたであろう。大松の事だった。自然の悪戯だろうが、田んぼに当たる月明かりが、一本の大松にだけに照らされていた。人々は不思議な松を見て、子供達に夢物語として話し聞かせていた。 「昔は、此処に位の高い人の屋敷があったのよ。その松は庭の飾りの一つだったの」 親は、自然の悪戯とは言えずに、自分の親から聞かされた夢物語を、そのまま語り聞かせた。人々の中には屋敷が在ったと思い調べた者も居たが、何も出る事がなく自然の悪戯だろう。そう結論をだした。その大松に、先程までは誰も居なかった筈なのに、雲が月を隠している間に、大松の下に人が現れたのか。それとも始めから居たのか。この光景を見た者が居たら、神々の他に居ないだろうが、この男の為に何も出来ない代わりに、せめて足下だけでも照らして上げようと、仕掛けが出来たと思うだろう。それとも、此方に向かって来る女性の為だろうか。 「ゆ」 女性は何気無く松を見て、在りえない者でも見たのか。目を擦っていた。 「ゆ、幽霊」 瞬時に声を吐き、精神の安定を考えた。 「始めから大松の所に居たのよ。そうよ。よっ、酔っ払いよ。この松の場所は明るいし、綺麗だから酔いを醒ましているのよ」 この場所から逃げようとしたが、女性の家は松の木を通り、この一本道の先に在った。 「聞いた話によると、幽霊には声を掛けられたら返事はしてはいけない。見えたとしても、見えて無いようにすれば消えてくれる。気のせいよ。見たら居るかも知れない。居るかも知れないが、見なければ気のせいで済む。もし幽霊なら話さない。否、酔っ払いよ」 知らない間に声が出ていた。 頭の中では、呪文のように同じ事を考えていた。本人は声が出ている事に気が付いていない。走って逃げれば良いだろうと思うだろうが、運悪く松の木の前で転ぶ事を考えると走れなく、早歩きをしていた。 幽霊と勘違いされた者は、変わった服装をしている。それはシーツを半分に折り。折った所から首を出せる分だけ切り。袖は腕の太さで切り、袖口を紐状に切り結ぶだけ。胴は余った布を巻きつけて紐で結ぶだけだ。良く言えば、何処かの民族衣装と言える身なりだが、髪と髭が全てを台無しにしていた。 男は何日も。いや一月は体の汚れを落としていない様な感じに見えた。髪はともかくとしても。髭は濃くなく、伸びていても女性顔と判る顔立ちをしていた。剃っていれば自分の美意識の趣味の服か、役者の民族衣装を着替えずに着ていると思えるだろう。 その男は月を見て泣いていた。 幽霊に勘違いされた者は、心は楽しかった日々に置き忘れ。体は人形のように、此れから先は時が進まない。いや進みたくないと考えて泣いているようだ。 月が雲に隠れると同時に微風が吹いた。 「春奈さん」 男の頬に微風が触れ、呟いた。 微風に在る人の心が運ばれ、手の平に乗っている鈴に乗り移ったように、手の平から落ちた。「昔の事は忘れて前に進みなさい」 と、伝えるように感じられた。 「お守りが」 地面に落ちる寸前に、男は鈴を取ろうと動いた。その時、女性が松を横切ろうとした時と、同時だった。 「キャアー、来ないでー」 女性は声と同じに蹴りが、その蹴りが、男の下腹に入ると、女性の方に倒れた。又殴り、蹴りを何回か繰り返した時、男は仰向けに倒れ、女性は正気を取り戻した。 「人だったの。白い服を着ているからてっきり、幽霊と勘違いしたのね」 女性は言葉が返って来ない事に思い当たり、途中で喋るのを止めた。幽霊には殴る蹴るをしても良いのか。幽霊に祟られる。そう思わないようだ。状況が男性の場合なら、幽霊には必ず祟られ、本当に女性を殴ったとしたら問題が発生する。だが、女性なら限度は有るが、幽霊と思いましたの。済みませんでした。と、丁寧な態度で謝れば済む。そう考える女性なのかは、顔色で判断が出来た。この女性は間違いなく済むと判断する人間だ。 「ねえ。大丈夫よね」 女性は取り返しの付かない事をした。やっと、顔色を変えた。様子を見ようと男の方に足を向けた時に、陶器の鈴を踏んだ。 「キャアー」 音に驚き悲鳴と足を上げた。 足下に気持ちが行き、男の事を完全に忘れ、足下には陶器の破片があり。元の形は解らない。陶器の破片を無造作に一つ取り上げて見ると、破片の下から白い紙が現れ、紙を手に取る。男は気が付いてもいい位の音が響いたが、目を覚まさない。死んでいるのだろうか。女性は男の事は忘れて、白い紙に意識を向ける。白い紙には、今書かれたような艶があり。古文で書かれていた。 「月神様よ。この輪が正しい道を進めるように足下を照らして下さい。私が代わりに祈ります」 それは、近くの神社のお守りに書かれる見慣れた文字だ。輪と書かれた所を、自分の名前や子供の名前に置き換えて使われている。女性は文字を暫く見つめ、幼い頃を思い出したのだろう。そして、文に、輪の文字が書かれていたから思い出したのか。男に視線を向けた。 「あら、小指に赤い糸、今の流行かしら」 女性は男の容態よりも、小指に関心を向け触ろうとしたが止めて、指先から順に身体を見詰めた。怪我の容態を診ていると思える。 「靴は履いて無いわね。服は白だから、死に装束として丁度良いわね。木に紐を括り逃げようかしら。もし生きていたら、私がやったと言われ兼ねないわ」 女性は物騒な事を呟き考え込んだ。男の容態を気にせずに、生きていたら止めを刺して逃げる様な感じだ。 「趣味の感覚は別として。背丈に、身体の感じは良いわよね。肝心の顔はボコボコで分からないけど。ちょっと惜しいわね」 自分がボコボコにしたと言うのに、今度は自分の趣味に合うかを考え始めた。 「う、うう」 男が声を上げた。女性の呟きは聞こえて無い筈だが、声を出さなければ止めを刺され兼ねない。と、本能で感じて声が出た感じだ。 「生きている」 生きていては困る様な驚きだ。 「擦り傷と思うが、ハンカチを濡らして看病の振りをして持ちましょう。 自分で歩いてもらわないと困るわ。 それに顔と声を確かめなければね」 ハンカチを出し、田んぼの水で濡らしていた。自分が田んぼの水で顔を洗われたら半殺しにするだろう。他人事だからか、子供がお腹にいる母の様な笑顔を浮べて、顔を見るのが楽しいのか。それとも看病するのが楽しいのかは分からないが、本当に楽しそうだ。 「流行でも、赤い糸付けるなんて恥ずかしく無いのかしら」 男の小指を見ながら呟いた。 「本当の赤い糸って、右、左かしら。こんな事も分からないから、まだ一人なのよね」 自分の世界に入っていた。濡れたハンカチの雫は、男の顔に掛かっている。 男の容態はかなり悪い診たいだ。顔は可なり腫れているが、雫が掛かれば気が付きそうなのに。頭の打ち所が悪かったのだろうか。 「本当の赤い糸って。私にも有るわよね」 小指を見ながら溜め息を吐いた。 「まさか、この人って事はないわよね」 男の顔を見詰めて初夜の事が浮かび、顔と耳が赤く目尻も下がり、大声を上げた。 「やだー」 恥かしさを隠す為に、男の顔を叩いた。 「痛い」 男は声を上げた。 少しでも早く意識が気付かないと本当に殺されてしまう。本能で感じたようだ。 「貴女様は」 男は起き上がろうとしたが、腹部に痛みが走り。又、横になろうとしたが、人の気配が感じて声を上げる。 「大丈夫ですか」 女性は男の背中に腕を回したが、支えきれず、体を寄せた。 「す、みません」 男は痛みで何を言われたか分からず。気に掛けられた事に感謝の声を上げた。今の言葉で人柄を感じて、女性は一瞬笑みを浮かべた。 「もう少し休まれた方が宜しいですわ。顔も冷やした方が宜しいですしね。遠慮なさらず力を抜いて下さって良いのですよ」 女性は背中を支えていた腕をそのままにして後ろに下がり、男の頭を膝に移した。 「うっわ」 男は痛みを感じたのか、それとも後ろに倒されたのが怖いのか分からないが声を上げ、寝てしまった。身体が危機を感じたのか。膝枕が心地良い為なのか。判断出来ないが、ボコボコの寝顔から見ても、膝枕は気持ちが良くて、痛みも和らぐ楽しい夢のはずだ。 最下部の第三章をクリックしてください。 PR |
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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