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 第十六章、終章、新しい時の流れ

 薫の両親は十年前に戻された。

「ああ」

 二人は声を無くした。夢にも見ていた。徹が死ぬ寸前の場面を、幽霊のように宙に浮きながら見ていた。

「涙が欲しがっていた。あの指輪を買ってもいいぞ。少し大目にボーナスが入ったからな」

「えっ、本当にいいの。まだ、売れ切れてなければいいわね」

「そんなに急ぐな、何かあったらどうする」

「あっ」

 急ぐあまりに、足がもつれた。そして、乳母車から手を離してしまった。

「大丈夫か」

 妻を抱き止めた。だが、乳母車は前、前と進んで行く。

「あっ、私の赤ちゃん」

 あまりの驚きでぎこちなく歩くが届かない。それでも、二人は、乳母車を止めようとして、手を伸ばすが、乳母車は段々と早くなり、手に掴めない、このまま進めば水路に落ちてしまう。幽霊のような二人は、その場面を、空中から見ていた。

「何度も、この場面に戻りたい。そう思っていた。だが、どうすれば良いのだ」

「何を言っているの。赤ちゃんを助けるの。赤ちゃんを助けるのよ」

 二人の頭の中では、竜宮城の事も幽霊のような自分の事も、思考できなかった。ただ、自分の子供を助ける事だけだった。本能のように乳母車に体ごと向かうが、掴む事も触る事もできない。ただ、通り抜けるだけ、それでも、必死に通り抜けるが、何度も乳母車の前に戻り、何度も止めようと繰り返した。

「お願い、止まって」

 止まることは無かったが、速度は、だんだんと、遅くなっていく。自分の行動が過去の世界では、風を起こしている。それが分かると、もっと必死に祈りながら止めようとした。すると、神に祈りが届いたのか、それとも、玉手箱の力だろう。

「うわー」

 過去の二人は、突然の突風を顔に受け、目を閉じた。

「止まったわ」

「止まってくれた」

 幽霊のような二人が、赤ん坊の笑みを確認するのと同時に、過去の二人は目を開いた。過去の二人も同じような笑みを浮かべると、幽霊のような二人は、過去の二人の体の中に吸い込まれた。時の流れが変わり一体になった。
 そして、時が流れ、徹が自由に言葉を話す頃、弟が欲しいと言う事になる。弟が生まれ、時の流れが、薫と結び付く事になる。そして、時が流れ、江見と会う事になるはずだ
第終章

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コメント
無題
竜宮城と羽衣伝説がベースなんでしょうか。面白かったです。文字の大きさは最終章が一番読みやすかったですね。後、薫さんの「だろう」と「でしょう」の台詞に二面性を感じ少し気になりました。
【2008/12/18 00:59】 NAME[三鷹奇異高] WEBLINK[URL] EDIT[]
ありがとう
感想を書いてくれて、ありがとうね。ベースは、そうですね。自分の見方と考え方で書きました。それと、二面性がありましたか、それは、次回の作品に気をつけようと思います。ありがとうね。また、話しようね。
【2008/12/21 19:41】 NAME[垣根新] WEBLINK[] EDIT[]
無題
面白かったです!最後はどうなるのかと思いましたが、なにはともあれハッピーエンドでよかった♫次の作品を読むのが楽しみ☆
【2010/07/29 12:16】 NAME[Chica] WEBLINK[] EDIT[]
ありがとう
次の作品も気にいると嬉しいです。また、コメント楽しみしていますね。
【2010/07/29 23:53】 NAME[垣根新] WEBLINK[] EDIT[]


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垣根 新
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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