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第七章
 白い壁、白いカーテンと清潔を考えて汚れが解るような部屋に、輪は現れた。その部屋には一人の女性が寝台に横たわっていた。意識が有るが目は瞑り腕を胸に組んでいた。
「夢の中でも良いですから。残りの命が燃え尽きるほどの恋がして見たい。家族の様子から判断すると、永くは生きらそうに無いようです。夢で良いです。出会いから始まり、看取られるまでの普通の一生を体験したいのです。在る人から聞いた話では、人が死ぬ時は自分の一生を見ると聞きました。嘘で、いいのです。普通の恋を夢で見せて下さい。神様お願いします」
 女性は寝る時に、願いをしていた。今日は心に思うだけでは効き目が無いと思い、自分の耳に声を聞き取れるか分からないほどの声で呟いた。その言葉に導かれたかのように、輪は意識の無いまま女性に倒れこんだと、同時に歪みが現れ、二人を包み込む。女性は体に重さを感じて悲鳴を上げたが、歪みの為に、この世界には響かず。歪みが消えると、二人はこの世界から消えた。二人は、先ほど女性を置いて消えた所に現れたが、女性はまだ気絶したままだ。歪みの一部が地面に付くと同時に歪みが消え。病弱な女性が、自分の世界で上げた悲鳴が、この世界で響いた。
「キャー、何を考えているのよ」
女性は、声を上げると同時に、輪の顔を殴った。今の様子では病弱には思えない。
 輪は、川の渦のような時間の渦に巻き込まれて、この場所に病弱な女性を連れて戻って来たようだ。空を見上げる者がいれば亀船が見える。輪を包んだ時の歪みと同じ光が粒になって、月から亀船までを光の竜巻が横になったように見えた。その亀船は、輪の親たちが乗る船だ。
「ちょっと、起きてえぇ。ちょと、ちょと」
 初めに連れて来られた女性は、今の女性の悲鳴で目を覚ましたが、不安を感じて、輪を起こそうと、何度もゆすったが起きない。一人で一瞬考えたが何も浮かばない。もう一人女性が居たが何を考えているのか。自分が映画の主人公のようだとか訳の解らない事を騒いでいた。頭でも打ったのか。それとも恐怖で狂ったのだろう。相手にしても仕方が無いと思い無視する事にしたが、恐怖と、不安が消えたのでない。必死に輪を起こそうと何でも頬を叩いた。
「早く起きてよ。お願いだからねえ」
 病弱な女性は、女性の悲しい声が聞こえ、女性の元に行き声を掛けた。
「私に何か出来る筈ですわ。これが夢で無いとすると神が私の夢を叶えてくれたのです。信じてくれないと思いますが、私は満足に歩く事も出来なかったのですが、それがこの通りです。私には力があるはずですわ。任せてください」
 この女性は病室の時は気弱で行動的では無いと思っていたが、まるで別人のようだ。病気でなければ何事にも興味を示した。行動的な人になっていたのだろう。女性を安心させるために話したのだろうが、誰が聞いても不安が増すだろう。
「私が触れば起き上がりますわ。任せてくださいねえ」
 女性の願い事は恋がしたいと頼んだはずなのに、何を考えているのか、自分に本当に力が有ると本当に思っているようだ。偶然と思うが触ると、輪の意識が戻った。
「うううっう」
 輪はうめき声を上げ起き上がった。
「此処は」
 輪は辺りを見回し無意識に声が出た。
「あのう、何故、私達は森に居るのでしょうか、此処は何所なのでしょう」
 輪は未だに顔が腫れている為、舌を噛んだような話し方で、女性に自分が解らない事を総て訊いてみた。もう一人の女性にも問いかけようとしたが、体を動かしては納得をして、木の棒を持ち、掛け声を上げて楽しそうにしていた。何が楽しいのか分からないが、聞いてもまともな答えが返らないだろう。それに見た感じ、心配を感じていない。女性の話を聞いてから考える事にした。だが、自分の原因で、二人の女性を連れて、他世界に飛んだのだろう。今まで、この様な事は無かったのだが、まず、二人の女性を安心させなければならない。そう考えた。
「それは、私が聞きたいわよ。気が付くと、貴方が寝ていて、この女性が騒いでいたわ。そうそう、私の家で、貴方の顔を冷やしている時に、貴方の身体が痙攣を起こしたの。それから、何が、どうなったのか、分からないわ」
 女性は首を傾げながら話し出した。
「そうですか。それなら想像が付きますから、何も心配はしないでください」
「話が有ります。私の近くに来て下さい」
 輪は、二人の女性に声を掛けた。
「此処は、貴方達が住んでいた世界ではないでしょう。それで帰る方法ですが、私の話を聞いている途中で、自分の世界に帰れるかもしれません。そして、帰れば夢と思うでしょう。但し、私の話を全て聞いても帰れない時は、少し面倒な事になりますが、話の内容を聞いて約束を守ってくれれば帰れます。良いですか。少し時間が経たなければ分かりませんから、時間を潰しと思って聞いて下さい」
 輪は、二人の女性は不安な顔色だが、恐怖を感じて無いので安心して話しだした。
「始める前に、私は輪(リン)と言います。貴女方の名前を聞きますが、名前以外に家名や国名は言わないで下さい。世界によっては同じ血筋の者だと勘違いする人もいます。もし国名も在って敵と思われても困りますから」
「私は秋奈と言います」
 初めに紹介を始めたのは、元の世界では病弱だった。そう語った人だが、健康そのものだ。
「私は夏美よ」
 落ち着きがなく声を上げた。 
「それでは話します」 
「このまま、この場所で聞くのですか」
 夏美は周りを見ながら話した。
「すみません。帰るには現れた所に居る必要がありますので、此処に居てください」
 輪は、地面に頭を付くと思うほど頭を下げて説明を始めた。
「言いたい事は分かるのですが、早く森から出たいの。蛇や毛虫がいるのかと考えるだけでも駄目なのです。こんな気持ちで話をされても頭に入りませんわ」
 夏美が、落ち着かないで立っていた意味が分かり、輪は、一瞬の間だけ思案した。
「分かりました。それならこれを」
 背中に両手を持って行き、背中を掻く様な仕草をした。「バリ、べり。バリ、べり」と、ガムテープを接がす様な音を上げ、腕を背中から前に持って来た。その手に持つものは、綿菓子をトンボの羽のように伸ばした物のような、透き通るマフラーにも見えた。二人の女性は、暫く輪を見詰めていたが、手に持つ物に視線を移し問いかけた。
「これは何です。虫の羽のように見えますねえ。こんな大きな羽の虫が要れば、だけど」
 二人は、輪の手と顔を交互に見詰めた。
「だけど、ふわふわして温かそうねえ。触っても良いの」
 夏美は声を掛けたが、秋奈は言葉を待たずに手に取ろうとした。
「これを二人で持っていて下さい。虫にも蛇にも咬まれませんから。いろいろな事から貴女達を守ってくれます」
 輪が手に持つ物は生き物では無いが、二人は可愛い猫などを見せられた時のようだ。
「わぁー軟らかい。重さが感じられないわ」
 二人は同じに声を上げた、手に持った瞬間に、身体全体に薄い透明な膜が覆った様に思えた。
 何故、そう感じたか、それは、月光が屈折して見えたからだ。
「うぁー気持ちがいい。雲の上に乗る事が出来たらこんな気持ちよねえ」
「雲と言うよりも。卵の中の方が近いと思うわ。卵の中てこんな感じよ」
 我を忘れて喜び騒ぎだした。そして、宙に浮いた。秋奈は自分で思う様に、雲の寝台に寝ている感じに、夏美は卵型の椅子に座る感じのような、母の胎内にいるような感じで、少し背伸びをしたような格好をしていた。
「これって。何ですのぅ」
「私達は、羽衣と言っています」
 夏美の問いに、輪は即答した。
「羽衣なの。そっ、それなら飛べるの」
「秋奈さん。夏美さん。今浮いている事に気が付いて無いのですか」
 輪は首をかしげた。
「これは浮いていると言うよりも。物に腰掛けていると思うのですが」
 夏美は答えた。
「うん。うん」
 秋奈はもっともだと言うように、首を上下に動かしていた。
「それは、夏美さんが、物に乗ると思ったからです。それは、飛ぶのが目的では無く身体を守る物なのですよ」
 輪は即答したが、自分で考えて話した訳ではなかった。それは輪の体に付いている物。手足の動かし方を聞かれたと同じ事で、羽衣が体から離れて使い方を問われると、今のように声が自然と出たように感じられた。
「卵の中に入りたいなんて考えなかったわ」
 夏美は、人格を疑われたと思ったのだろう。輪を殴り掛かるように感じられた。
「そのような話は良いですから。飛ぶにはどのように使うの」
 秋奈は、夏美と輪の間に入り頼み込んだ。
「空を泳ぐように身体を動かして下さい」
 輪は身体を動かしながら言葉を掛けた。
「こうかしらねえ」
 秋奈は声を上げた。
「そのような感じです」
「待って、私も行きます」
 輪は、何回も同じ言葉で励まし続けた。秋奈が、夏美の背丈を越えると、夏美も同じ行動をした。二人は高さが怖いのか、泳ぐのに疲れたのか、それとも、輪の声が届くまで行けると思ったのだろうか、その高さまで行くと、泳ぐのを止めてしまった。
「ひっ。降りるにはどの様にするの」
 秋奈は一瞬悲鳴を漏らし、助けを求めた。
「何もしなければ降りられます」
 秋奈は、少し前かがみで降りているのを確かめながら、這うように降りてきた。夏美も同じ理由なのだろうか、同じ高さ位になると同じ格好で降りて来た。そして、興奮を表し、惚けていた。
「どうでしたか」
 二人の女性に声を掛けた。
「降りてくる時はねえ。降って来る雪に乗っている感じで良かったわ。昇る時は何て言うかねえ。足の裏は触れている感覚が全く無くて、少し気持ち良かったけど。浮いている感覚が無くて、ただ立って手を動かしている感じで、全然面白く無かったわ」
 夏美が話し、秋奈が愚痴を零した。
「目を瞑っていたら、自分のしている事が馬鹿らしくなって止めると思うわ。それに、あれだけ身体を動かしてあの高さでしょう。これを使って栗の実でも取るとしたら、木を蹴る方が楽かも知れないわねえ」
「栗の実?」
「降りる時は良かったわね。無重力ってあんな感じかも。気持ちよかったわー」
「無重力って、貴女達の科学力は宇宙に行けるのですか?」
 輪は栗の実を知らないのだろう。二人の女性に途中で声を掛けたが、気が付かれないでいた。片方が喋ると頷き。又話して頷き合う始末だ。褒める場面になると、輪を思い出したように視線を向けるが、輪を話の中に入れる事は無い。輪の役目は、二人が嬉しさを隠す為に、背中を叩かれるだけの役目しかなかった。そして、輪は大声を上げたが、それでも、耳を貸さない。そして、赤い糸が回転して異変を知らせている。早く修正してください。そう知らせていた。だが、二人にこれからの事を話さなければ行動に移せなかった。
「咽が渇いたわねえ」
「そうねえ」
 二人は視線を輪に向けずに、声を上げれば給仕が用意する様な態度だった。
「聞こえていないの。咽が渇いたのよぉー」
「咽が渇いたわ」
 二人は当然の要求のように、輪に詰め寄り催促した。
「先ほど飛んだ時に、川が見えませんでしたか?」
 輪は、二人に問いかけたが、何故だか怒りを感じている。その意味が分からなかった。
「川の水を飲めと言うの」
「そんな水を飲んだら病気になるでしょうが、何を考えているのよ」
「なっなななななな」
 夏美は、極度の怒りの為に声を出せず。口を開けたり、閉じたりしていた。その代わりのように、秋菜が答えた。その、理不尽な言葉を聞くと、輪は、精神の安定を保つ為だろう。大声を上げた。そして、二人は、輪の様子を見ると信じられない行動をした。
「いい子ね。いい子ね。良い子だから怒らないでね。良い子だからねえ」
 二人は真剣な表情で正気を疑う言葉を上げながら、輪の頭を撫でた。
(この二人は、この二人、うゎああ。こっお)
 輪は、心に思う事を声に出そうとした。だが、極度の怒りの為に言葉にならず。脳の血管も限度を超えて切れてしまい。輪は、気絶した。
「秋奈のいい子。いい子で頭の傷に触れ、それで気絶したのよ」
「違うわ。夏美が咽を撫でるから息苦しいく、我慢の限界が来て倒れたのよ」
 二人は、輪の背中を叩かないと話せないのか。話題に上げた事を実行するが、撫でるではなくて首が折れる位動かすわ。咽を撫でるではなくて殴りつけていた。この様な事をされれば、死んでいる者も生き返るだろう。
「いい加減にして下さい」
「ごめんなさい」
 二人は心からの謝罪ではない。ただ、驚いて声が出ただけだった。その様子を見た輪は、驚きの仕草が心からの謝罪と思い、それ以上の言葉を飲み込んだ。そして、輪は、二人が話を聞く気持ちなったと思い。地面に腰を下ろした。そして、二人は、輪を上から見下ろすと、顔の痣や傷が増えている事に気が付いて、首を傾げていた。恐らく、記憶がないのだろう。話し疲れたのか、それとも、痣や傷は、自分達が原因と感じたのだろうか、正座をして言葉を待った。
「秋奈さん。夏美さんも、自分の世界に帰りたいと、思っていますよね」
 二人は頷いたが、本心は分からない。輪の顔の表情や目線からは帰らせてやる。と感じられ、恐怖で首を上下に動かしたように感じられた。
「先ほどは、時間が経つと戻れると言いましたが、今まで待っても、帰れないのですから駄目だと思います。貴女方が帰る為には、私が今までして来た事を、遣らなくては帰れそうもないです。ただし、貴女達は何もしないで下さい。理由を言いますから、この世界に私達が入り世界を変えてしまった為に、私達が必要とする世界に変わってしまったのです」
「必要ですってえー」
「やはり、その為に呼ばれたのですのねぇ」
 夏美は悲鳴を上げた。秋奈は嬉しそうに呟き終わると、はしゃぎ回り喜びを表した。
「その事について、今話します。貴女達は宇宙まで行ける文明社会から来た人たちですから、祟りだとか、神隠しと言う誤魔化した言い方はしません。今、私は必要と言いましたが、秋奈さんが思っている事とは違います。そうですねえ。例えば、この木を指に乗せると釣り合いますよね。この木がこの世界と思ってください。そして土が、私と夏美さん。秋奈さんです。付けると釣り合わないですよね。土を取らなければ指から落ちてしまいます。この木は、一秒も待っていられません。その為に私達の代わりに、別の生き物が犠牲になりました。私達はこの世界の住人として、一つの歯車にされたのです」
 二人の女性が話の途中に大声を上げた。
「元の世界に帰れないの」
「私は嫌よ。此処の住人として暮らすなんて絶対に嫌ですわ」
「話の続きはまだあります。この住人に成りたく無いのなら、出来る限り草木を折る事も、虫を殺す事も絶対に駄目です。これ以上世界を壊さないで下さい。この世界が、夏美さん。秋奈さんの住む世界に関係していたら、次元世界の自動修正で、夏美さん。秋奈さんが不必要とされて、存在が出来なくなる恐れもあるのです。まだ、今なら私が修復できます」
「分かりました」
 輪は全てを話し終えると、二人の言葉を待った。秋奈は直ぐに答えてくれたが、夏美は話の間も終わった後も、悩む姿を解いてくれなかった。
(何故、何を悩むのだろう。先ほど、存在出来なくなる。そう言った事だろうか?) 
「それなら、果物を取って食べる事も」
 悩める仕草のまま首だけを動かして、艶っぽい話し方で問い掛けてきた。
「わ、わっ私に言って下さい。私が確認すれば果物くらいは用意しますから」
 輪は、恥かしくなり視線を逸らした。何故、大袈裟に言ったかを忘れているようだ。一時間も経たずに、三人が居る場所が変わり果てた姿になったはず。
「分かりましたわ」
 その時に、二人の女性は悪魔の様な笑みを浮かべた事に、輪は気が付かなかった。
「此処で朝まで休みます。それとも移動しますか。羽衣があれば怖くありませんよね」
「私、本当に咽が渇いていますの。探して下さるのなら一緒に行きますわ」
「私も、それなら良いわよ」
「湧き水が見つかれば休むとして。それでは出かけますか」
 輪は、腕時計を見るみたいに左手を動かして、小指に有る赤い糸に視線を向けた。赤い糸は方位磁石のように北東に向いていた。指を真後ろ北東に向け、二人に声を掛けた。
「行きましょうか。こっちですよ」
 二人は声を返さないが、顔色では不満だと分かる表情をしていた。二人の表情を見て声を掛ける事を止めたが、それでも、後ろに居るか、変な事をしてないか、と何度も振り返り確かめていた。足よりも、首が疲れを訴えるほど歩いた時に、小指に針を刺すような痛みが走り、腕を動かし小指を見た。赤い糸は北東から北に変わっていた。
「何かしませんでしたか。いや、何か起こりませんでしたか?」
 二人が何かをした事は確かだが、追及すれば二人の事だ。理由に関係なく騒ぐだろうと考え、これ以上、この世界を壊されたくない為に言葉を飲み込んだ。
「いいえ。何も」
「少しの間、此処で休んでいて下さい」
「何かありましたの」
「何もありません」
 輪は、早く場から離れたい為に、二人の話を遮ったが、振り向くと顔を青ざめた。
「ねー。何が、あったのよぉー。ねー」
 夏美は枝を振り回しながら呟いた。
「いつ折ったのです。その枝」
 輪は声を震わせながら指差した。
「蜘蛛の巣が有ったからねえ。それで」
「枝を折らないで、そう言いましたよね。勿論、虫も。それだけでも世界は変わってしまう。本当に止めてください。私は直ぐに帰って来ますから、夜も明けた事ですし。この場で何もしないで休んでいて下さい。良いですね。お願いしますよ」
 輪は丁寧な話し方だが、よほど悔しいのだろう。涙を浮かべ、利き腕の拳は震えていた。二人は、輪の気持ちが全く解らない。枝や蜘蛛が世界を狂わす。限度は有ると思うが泣くほどの事なのか。そう、考えたが、輪の姿を見て言葉を飲み込んだ。二人の俯く姿を見て安心して、輪は、修正する為に行動に移った
赤い糸は、この世界の悲鳴(世界の自動修正が効かなくなる事)だ。三人が、この世界に来なければ死ぬはずのない命の悲鳴。それを受けて、修正する場面を見せる。目を開いていても見えるが、画像は透ける為に日常生活も支障はない。例えば手のひら位の幽霊が目の前で劇をすると考えれば近いだろう。輪の目には二つの場面が見えていた。狐が雲雀を襲う場面と、狐が罠に掛かり死ぬ場面が見えていた。この世界に、三人が来なければ、狐は餌を探し周り罠に掛かるはずが、三人の話し声や枝の折る音で、狐は偶然に雲雀を見つけてしまった。修正とは、雲雀を助けて、狐を罠に掛ける。大声を上げれば良いだろう。そう思うだろうが、それだと、森中に騒ぎが広がり雲雀は助かるが、狐も助かってしまう。自然に逃がす為に、動物が獲物に近寄る時に似た。いや、幽霊の様に無音で、糸が示す場所に向かわないとならない。突然に止まり座り込むのだから、目的の場所に着いたのだろう。その場所は、二人からはそれ程離れていない。大声を上げれば聞えるだろうが、木々が邪魔で見えない位の距離にいた。
「枯葉で間に合えば良いが」
 心で思い。枯葉を生き物のように優しく両手で掴めるだけ掴み。拝むように頭上に上げた。風は微風ほども吹いてない。だが、枯葉は一枚一枚が蝶のように舞い上がった。
 時の流れ自身では何も出来ない。だが、自動修正は物などを動かし、事件や物事を大事にする。例えば、焚き火だった物を山火事にする。そして、力を与えられた枯葉は赤い糸の示す方向に飛んで行った。輪は座っていた為に、舞い上がる姿しか見えないが、枯葉は、木々を蝶のように避け。人が見える限界ほどまで飛び。枯れ木の枝に一枚一枚止まった。その枝は、狐と雲雀の直線上の真ん中にある。総ての枯葉が集まると鳥が木から飛び立つ時に似た。いや、少し大げさな音を立てて、枯葉は飛び散った。その音に驚き、雲雀は真上に飛んだ。枯葉は飛び散った後、地面に点々と微かな枯葉の山を作った。修正が終わったのだろうか。だが、輪は、緊張を解いてない。雲雀の羽ばたき音が止むと、枯葉の山々は狐を誘うように、兎が飛び跳ねる足音に似た音を上げた。狐の耳は風の音か獲物かと、確かめるように何度も動かしている。耳を頼りに一歩を踏み出しのだから獲物と考えたのだろう。だが、それ以上動かない。枯葉は狐に向って行く。兎が狐に気が付かないで、向うように。狐は兎と認識したのだろう。隠れようと後ろに数歩下がった時、片方の後ろ足の自由がなくなり悲鳴を上げた。その悲鳴が聞えると緊張を解いた。修正が終わったのだろう。微笑みと同時に溜め息を吐きながら立ち上がった。一歩を踏み出した時に、視線のような殺気を感じて、腕時計を見るように小指の赤い糸を見た。
「考え過ぎか」
と、呟いた。輪は二人が何かをしたと考えたのだろうが、反応は無い。思い過ごしと思い、二人が待っている方向に一歩を踏み出した時だ。輪を呼ぶ大声が聞えた。
「やっと、修正が終わったと言うのに、あいつら」
「何が有りましたの」
「大丈夫ですかー」
「きゃあ。きゃあー蜘蛛よー」
 輪は、嗚咽のような声を吐いて、頭を抱えた。二人は手に棒切れや小石を持ち、大声や悲鳴を上げて輪を捜しているが、その手に持っているのは、輪を助ける為ではなかった。虫が死ぬほど嫌いな為に、虫に石を投げ、棒切れを振り回して蜘蛛の巣を払い退けていた。人を探すというよりも、未開の地に道を広げているようだ。輪は生き物の悲鳴を感じて立ち上がった。
「いましたわよー。此処よ。此処」
「あれ、あれ、何所、何所。居たわ」
 辺りは阿鼻叫喚のような惨状だ。輪は、その惨状を見て、硬直した。
「良かったわ。怪我は無いようねえ」
「木から落ちるような音が聞えたから、貴方が落ちたと思って心配したのよ」
 夏美と秋奈は、輪の元に着くなり同時に言葉を掛けた。輪は問いには答えなかった。声を出せば怒りの言葉しか出ない。だが、ぎりぎりの均等で保っている。この場所が、二人がいれば又、自然を壊すのは間違いない。そして、修正をする羽目になる。自分を殺して一言だけ吐き出した。
「此処から離れます」
 二人に顔を合わせずに歩き出した。
「怒っているみたいね」
「そうみたいね。理由は解らないけどねえ」
 二人は本当に解らないようだ。二人が歩いた後を見れば、自然を愛していない人でも理由は思い付くはずだ。それなのに、今度は、輪の態度に腹を立て、愚痴を言い始めた。
「水まだ見つからないの。ねえ」
「水もだけどねえ。お腹が空きましたわ」
 秋奈も夏美の話に同意した。
「ねえ。聞いているの」
 輪は、夏美の問いに困っていた。水の事など忘れていたからだ。二人が自然を壊した為に、怒りを静めようと歩いていたからだ。それを、二人に正直に言えば、先ほど以上の地獄を見ることになる。あの惨状は森の中を歩いただけで起きた事だ。怒りを現し発散したら、どのようになるか考えたくもない。二人が、話し疲れて悪魔の笑みを作るまでに、回避する方法を考えなければならなかった。
「えっ」
 二人の話し声が途切れ、視線を向けた。
「ふふっ・・・・」
 夏美と秋奈は、輪が死にそうな顔を向けられ、気持ちを解そうとしたのだが、輪には、邪な考えを隠す悪魔のような笑みに感じて、その極限の恐怖の為に、聴覚が鋭く発揮され、聞えるはずのない水が流れる音を聞いた。三人は、その場で耳を澄ました。秋奈は落ち着きが無くなり、二人の手を取ると、二人を急かした。輪は、気が疲れないように左手の赤い糸を見て、水の音がする方向と同じと分かり安心した。
「わああ。川の底まで見られるわね」
「気に入りましたか。魚を獲りますが、焼き魚は食べられますよね」
 秋奈と輪は、川が見えると駆け足で向かったが、夏美は疲れているのか、二人の後をゆっくりと付いてくる。輪は、川に着くと直ぐに火を起こし始めた。秋奈は子供が始めて親に川に連れてこられたように、目を輝かせ川を見ていた。すると夏美が近寄り声を掛けた。
「それで、この水飲めますの?」
「まだ飲んでなかったの。美味しいわよ」
「そうねえ。美味しそうよね。だけど、ずいぶん深そうねえ」 
 夏美の言葉には感情が感じられなかった。それとは逆に、秋奈は落ち着きがない。夏美に水を飲むように勧めたが、確かめもせずに、輪の元に向かい嬉しそうな声を上げた。
「釣竿は作るのよねえ」
「いいえ。潜って捕まえます」
「そうなの」
 輪の言葉で一瞬悲しそうな表情をする。それを心配したのか、夏美が近寄って来た。
「美味しかったでしょう」
 秋奈は微笑みを浮かべ問うた。
「水が怖いのですね。大丈夫ですよ。羽衣は自分が危険と思うものは避けますから、試しに、水に入ってきて見てはどうです。私は、その間に魚を捕まえますから。ゆっくりと遊んできて下さい。私の方も、三人分は時間が掛かると思いますからね」
「輪さん。あのねえ」 
 秋奈は恥ずかしいのだろう。顔を赤くして、輪に声を掛けたが伝わらない。手を伸ばし中指で輪の肩を叩き。自分に振り向かした。
「なっ、何ですか」
 輪は少し驚き振り向いた。
「今までに一度も泳いだ事ないの、それで泳ぎ方を教えてくれませんか」
 輪は、秋菜に頼まれたが、自分も泳ぎが得意でない為に、羽衣を使用すれば、息をしながら底を歩けると話した。だが、何故か、秋菜は悲しみの表情を表した。その理由は、自分にあると思い、どうしたら笑みを浮かべてくれるかと考えていた。だが、そうではなかった。秋奈は、本当の自分が思い出されたからだ。この世界では健康だが、生まれた世界では病院暮らしで、学校には行けない日の方が多かった。そして、輪の話し方や顔色が、時々見舞いに来てくれる友人と全く同じで、腫れ物に触るような態度と感じたからだ。
「あっ」
「早く行きましょう」
 秋奈は、突然に左手に温もりを感じて、後ろを振り返った。それは、夏美が、秋奈を元気付けようと、川遊びに誘う為に手を握ったのだ。
「飛び上がる事や水の上を歩く事はしないで下さいよ。お願いしますよ」
 秋奈は、満面の笑み浮かべ、喜びに満ちた声を上げた。川に行く事よりも、その温もりを放したくないのだろう。逆に手を引き催促をしていた。輪の声は届いているはず。だが、返事は返って来なかったが、輪は始めて、笑顔と殺気を感じる微笑みの違いに気が付き、その笑顔を見ていると、秋奈が可愛いと感じて姿が見えなくなるまで見続けた。
最下部の第八章をクリックしてください。 
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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