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第二十六章
「蘭、乙が居ないのか、そう言われたぞ。何と言えば良いだろう」
「もー、そんな事。一々聞かないで、乙に会わせれば良いでしょう」
「えっ」
 甲は、蘭の一言で言葉を無くした。
「何で、こんなに忙しいの?」
「それは、普段は乙が遣っているからな」
「それなら、乙はどこに居るのよ。呼んで手伝わせなさいよ」
「あの、その、いや、居ないです」
「だから、呼んで。そう言っているでしょう。私の話が分からないの?」
「あの、都市に置いてきたのですが、覚えていないのですか?」
「もうー、愛は役に立たないわぁ。乙はどこに遊びに行ったのよ。もー、良いわ。甲、紅茶なら作れるでしょう。お願い」
「だから、乙は置いてきた。と何度も」
「もー良いから、作って」
 車外では、愛と獣族の男がいた。そして、何度も、乙を呼んでくれ。そう何度も話を掛けているが、惚けている愛の耳には入らなかった。勿論、車内の中で騒いでいる。蘭と甲に気が付くはずが無かった。
「蘭、やっぱり、時計が良いわ。オルゴール付きのねえ。今ねえ。喜ぶ姿を考えていたのだけど、この玩具では駄目よ。喜ぶ姿が八分位と思うの。時計なら満面の笑みに感じるのよ。だから、もう一度、都市に行きましょう」
 御者に座り、惚けていたが、突然に立ち上がり車内に入った。男は、その姿を見て喜びを現したが、直ぐに愛の話を聞き不安の表情に変わった。
「愛、分かった。後でちゃんと話を聞くから、頼むから食事の手伝いをしてくれ」
「甲、口を動かすよりも、手を動かしなさい。もー、乙は何をしているのよ」
「だから、乙は」
 甲は、二人から突付かれ泣きそうな声を上げた。そして、(食事を済ませれば、話を聞くはずだ。それまでの我慢だ)そう心の中だけで喚いた。
「もー又、口より手を動かしてよ」
「はい、はい」
 蘭と甲は、食事の準備をしているのだろうが、まるで獣と格闘のようだ。その脇で愛は一枚の皿を持ち立ち尽くしている。その表情には、リキの事しか考えられない。そう感じられた。愛はそれでも、蘭と甲の指示で一枚の皿をやっと運び終えた頃、食事の支度が終わっていた。
「あら、お客さんねえ」
「そうねえ。御一緒に食べません」
 愛と蘭は、食事を口に入れるだけの作業だけだからだろう。周りに意識を向ける事が出来た。それで、やっと男に気が付いた。
「あのう」
「ご心配なく、料理は余分にありますから」
 そう、甲は声を上げた。その後に、
(乙の所にお連れしますから心配しないで下さい。それに、涙花さんに、ひょっとしたら会えるかもしれませんよ)
 男に耳打ちした。
「おおお、美味い、美味い」
 そう呟くが、料理をただ口に放り込むように感じる。もしかしたら、料理を早くなくそうとしているのだろうか、確かに無くならば出発が早いのは確かだろう。
「甲、乙は時計を探しているわよねえ」
「大丈夫よ。時間に間に合うように、私も一緒に探すわ。だから、心配しないでねえ」
「あの都市の様子では、ちょっと無理」
「甲、食べたのなら出発の準備をして」
 蘭は鋭い視線を向け、甲の話を遮った。
「愛、大丈夫だからねえ。だけど、時間が許される限り探すけど、無い時は諦めるしかないわよ。リキの誕生日に間に合えないよりも良いでしょう」
「う~ん。そうしますぅ」
 愛は渋々頷いた。
「蘭、準備は出来たぞ」
「はい、はい、食べ終わったらねえ」
「蘭、私は良いわよ」
「そう、それなら行きましょう」
「蘭、愛、食器などは後で良いと思うぞ。盗まれる事は無いだろう。貴方も乗って」
「はい。私は鼠家の道と言います。宜しくお願いします」
「はい、はい、みち、さんねえ」
 男は、三人の仕草を見て、安全の為の様々な留め金をした。だが、その意味が解らないのだろう。そして、目を閉じる。その後は膝に顔を埋めると、腿の下で腕を組んだ。恐らく、この男は獣族の獣機に乗った事があり。この姿勢が獣機の助手席の正しい乗り方と感じられた。
「ほう、この男は凄いな。その姿勢ならむち打ち症にも、首を折る事ない。だが、これを強制は出来ないだろうなあ」
「何をやっているの」
「おかしな人ねえ」
「この姿勢は疲れるが、一番安全だぞ」
「そうなの」
「席に着いたな、なら行くぞ」 
そして、タバコを二本くらい吸った位の時間で、乙を置き去りにした所、都市に着いた。
「早く扉を開けてよ。時間が無いのよ」
「甲、この男、もしかして気絶しているの?」
「安全が確認された。席を立て」
 甲は、肩を叩き、身体を揺するなどしたが、起きない為に、冗談で口にした。
「着いたのですか、凄いです。揺れもなくて、時間も早いですねえ。これなら違う意味で心配ですね。子供が乗っても怖がらないのは困ると思いますよ」
「まあ、良いから降りて下さい」
 車外では、愛と蘭が大声で、乙の名前を上げていた。
「あう、あう、うっうう」
 乙は、泣きながら現れた。何故、この場に居る。そう思うだろう。涙花に贈り物にする物を探さなくて良いのか、そう言われて、家から叩き出されたからだ。
「帰って来てくれたのですねえ」
 乙は泣きながら話すから伝われなかったのだろうか、愛と蘭の言葉には微塵も心配していない事が感じられた。
「時計、時計はあるの。探したのよねえ」
「もし、持ってなければ置いていくわよ」
「うっううう。有ります。有ります。置いてかないで、うっううぅそうだ。涙花さんに会いましたよ。蘭に会いたい。そう言ってってぇ」
 乙は、愛と蘭と男にもみくちゃにされた。
「どこにあるの。時計を出しなさい」
「姉さんにあったの。何処に居るの?」
「涙花様に会ったのですねえ。何処です?」
「ぐっえ、ぐっえ、ぐっええ」
 乙は声を出せないかわりに、甲に視線で助けを求めた。だが、甲も、愛と蘭が怖いのだろう。首を横に振り続けていた。
「愛さーんぅ。蘭さーんぅ」
 森の茂みから、三人の男が手を振りながら現れた。偶然を装っているようだが、手には薬草や機械部品などを持っている。可也の時間を都市の中や周りにいたのだろう。涙花の頼みで、愛と蘭たちが来た時の為に、都市の中や周りで時間を潰していたのだろう。どんなに、乙が都市の中で泣き声や悲鳴を上げたとしても無視していたはずだ。それなのに、女性だからか、それとも、涙花に頼まれたからだろうか、満面の笑みを浮かべながら、嬉し涙まで流していた。
「えっ」
「うっうう、涙花さんは、やっぱり心配で護衛を寄越してくれたのですねえ。うっうう」
 乙、一人が感涙していた。だが、男女四人は、この地に知り合いが居るはずが無い。居たとしても、涙花と同じ位の歳なら、自分達を判断が出来るだろうが、まだ、少年のような者に不審を感じていた。
「愛さんも蘭さんも、分かれた時のままだ。子供の時の幻影かと思っていましたが、やっぱり天女のように綺麗ですねえ」
「うっうう、嬉しいです」
「うっうう、美しい」
「えっ、まあ、本当なの、嫌だわぁ」
「やだわっもぉー」
 男たちの視線や喜びの声を聞き、愛と蘭は完全に不審が消え、喜びを感じていた。
「さあさあ、涙花様が待っていますから村に来て下さい」
「えへへ、俺、蘭様に憧れていました」
「おれ、先に行って、皆に知らせてくる。今度はゆっくり居られる。そう、涙花様に言っても良いのでしょう」
「蘭、駄目よ。直ぐ帰るわよ」
「そうねえ。仕方が無いわ。お姉ちゃんには又、必ず遊びに来るから。そう伝えて」
「愛、探していた時計は有ったのか」
「甲、有ったわよ」
「そうか、それでは行くか」
「チョット待ってください。涙花様か信様に伝えたい事があるのです。少しだけ、時間を下さい。お願いします。お願いします」
 道は土下座をして頼み込んだ。
「う~ん、でも。本当に時間が無いのよ」
「この地から村までは遠いのですか、近いのなら、愛、二、三時間なら良いだろう」
「愛、私からもお願い。お姉ちゃんと少し話すだけだからねえ」
「分かったわ。近くならねえ」
「近いです。ですが、この男は、あの戦いで一緒に居たのでは無いのですね。それでは連れては行けません。ここで待っていて下さい。直ぐに来ると思います」
 道の土下座を見て、仲間では無い。そう感じて顔色を変えた。
「俺はこの場に残る。お前は信様に知らせに行ってくれないか?」
「蘭様から離れたくないが、仕方が無い」
「ごめん。頼む」
「気にするな。一つ貸しだぞ」
 そう呟くと、この場から走り出した。
 この場に居る者にとっては長い時間と感じただろうが、信と涙花が来るまでの間は、一時間も経たなかった。
「お姉ちゃんなの?」
 蘭は頭の中で解っていた。自分には三年だが、姉達には八年が経っていた事に。
「そうよ。老けたでしょう」
「二歳しか変わらないはず、私が苦労をかけた為に、済まない。そればかりか、着飾ってやる事も出来ない」
「ばぁか」
 涙花は心底から恥ずかしかったのだろう。顔を真っ赤にして、悲鳴のような声を上げながら、信の頬を叩いた。
「うっううう、幼子が叩くような力にまで落ちたのか、気が付かなかった。済まない」
「信、いい加減にしないと本当に殺すわよ。それよりも、時間が無いのでしょう。着いてから話を聞くわ。行きましょう」
「そうだな」
「甲さん、私たち二人も乗れるの?」
「七人ぐらい、大丈夫ですよ」
 そう言いながら車内に招いた。そして、隠された椅子を出し、信と涙花に勧めた。
「はい、ありがとう」
 道と信は椅子に座ると、即座に、安全の為の様々な留め金を閉める。そして、膝に顔を埋めると、腿の下で腕を組んだ。
「信、何をやっているの?」
「なにって、涙花、早く腿の下で腕を組め。舌を噛むだけで済めばいいが、下手をしたら首の骨を折るぞ」
「大丈夫よ。様々な事故防止用の安全留めをしているでしょう。これで安心よ」
「そうなのか」
「もう良いから、私と同じ姿勢をして、愛さんが睨んでいるわ」
「済まない」 
 信は、そう言って体を強張らせた。
「もう着いたわよ」
 そう言いながら、信の肩を叩いた。
「え、嘘だろう。何分経った。と言うよりも、いつ出発して、いつ着いたのだ。振動は感じられなかったぞ」
「そうねえ。十五分ぐらいかな。んっ、あれよ。赤が点灯すれば出発と到着を表すの、青は安全確認が終わった。それでよ」
「乙、町から馬を借りてきてね。早くよ」
「はぃ~」
 乙は心の底から嫌だ。そう感じられた。
「この男またかよ。信さん、起こし方があるのでしょう。お願いしますよ」
 甲は、そう信に声を掛けながら車外に出るが、その時、信の起こし方が聞こえた。
(やっぱり、あの言葉で良いのか)そう思い、笑い声を上げた。
「蘭、足りない物があったか、大丈夫だったろう。皿など持ち去る者など居無いよ」
「えっ、誰か何か言った?」
「乙、俺も一緒に行こうか」
「気にしないで下さい。良いですよ」
 甲は、次々と、皆に声を掛けるが、相手にされないからだろう。車の点検を始めた。
「出てきたな。話を聞かせてくれないか」
 信と道が車外に現れた。
「はい、簡単に言います。竜家の長老に剣を、信に渡してくれと言われました」
「まさか」
「信様、そうです。竜の獣機の鍵です」
「それよりも、何人位が生存しているの?」
「六種機の獣機も、竜の中にあるそうです。それも信様に任せる。そう言われました」
「そうか、分かった。この地から持ち去ろう。それと同時に、生存者も連れて行くぞ」
「ですが」
「皆を初期の古都跡の地に、連れてきてくれないか、頼む」
「ですが」
「あの地は墓標と同じだ。あの地なら西国も手は出さないはずだ。お願いだ。私は、あの時は何も出来なかった。だから、生存者が居るなら家族に合わしたい。うっうう」
 信は、最後まで話す事が出来ずに泣き崩れた。自分でも悔しいのか、悲しいのは分からないのだろう。だが、自分だけが幸せに過ごした時間を、生存者にも味わって欲しいと心底から願っての涙を流した。
「分かりました。言ってみますが、もう、普通に暮らしている者もいます。皆が来るか分かりませんよ。それでも」
「構わない。私は何度も、この地を行き来する。その為に獣機を使う」
「それでは、竜家の長老が思っていた事と違うと思います。恐らく、長老は封印を願っていたはずです」
「だが、私に託すと言ったのだろう」
「ですが」
「三度だけ許して欲しい。今回と、一年後と二年後、三回だけ使用する。生存者に、共に暮らそう。そう、伝えてくれ。それでも、この地に残る。そう言うのなら諦める。その後は必ず封印する。お願いだ。三回だけだ。信じてくれ」
「分かりました。それで、発つ日は」
「一週間後に、そして、一年後と二年後に必ず来る。そう伝えて欲しい」
「伝えます。それでは、鍵を渡しますから一緒に来てください」
「涙花はどうする」
「一緒に行きます」
「お姉ちゃん」
「ごめんねえ。今度は遊びに来て、その時は、楽しい話をしましょう」
「うん、お姉ちゃん、遊びに行くねえ」
「それでは、行こうかぁ」
 案内をする道は一人者と思えた。信と涙花は、二人で居られるだけで嬉しい。そう姿や表情で感じられた。その姿や表情を見たくない為だろう。道は無言のまま、早足で先頭を歩き出した。
「必ず行くねえ。お姉ちゃん」
 蘭は、姉に伝える為では無いだろう。今度会う時は、もっと歳が開き、親子のようになるだろう。それで、姉妹でいられるのは最後と感じての呟きに思えた。
「行ったのか?」
「うん」
「お姉さんも信さんも、何か楽しそうだな」
「うん。も~、馬鹿、愛も乙もいるのよ」
 蘭は、甲に手を握られ恥ずかしそうに声を上げた。そして、大きな溜息を吐いた。
「乙はいないぞ」
「バッカねえ~、同じ事でしょう」
 又、大きな溜息を吐いた。姉の嬉しそうな後姿を見たからだろうか、それとも、甲が握る手を離したからか、それは、蘭が嬉しそうに、甲の手に、自分の手を触れた。女心が分からない為だろう。そう感じられた。
 邪魔者にされた。愛は、満面の笑みを浮かべながら懐中時計を綺麗に包んでいた。時々、殺気を放つように車外に耳を傾けている。恐らく、乙を待っているのだろう。そして、時計に視線を向けて、溜息を吐くのだ。日付が変わるまでに、リキの元に着けるか心配なのだろう。
「乙。もし、間に合わなければ殺すわよ」
 
最下部の二十七章をクリックしてください。
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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