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二十九章
「蘭。そろそろ、良いかな」
「そうねえ。殺気は感じられなくなったわねえ。大丈夫かな、良いかも知れないわ」
「わかった。出てみるよ」
「待って、私も一緒に行くわ」
 二人が車外に出ると、乙は、うずくまり震えていた。
「何をしているの?」
 蘭は、疑問に思い問い掛けた。
「あの、あの、あの、ここから動けないのです。身体が自由に動かないのです」
 乙の身体の状態は、蛇に睨まれた蛙のような状態だった。
「そうでしょうね」
「助けてくれませんか?」
「それ位ならまだ良いわよ。愛と会えば殺されるわ。早く逃げなさい」
「でも、でも、動けません」
「もう大丈夫よ」
「本当に、そうなのですかぁ?」
 乙は、恐る恐る手を伸ばした。
「早く逃げるのよ」
「でも、どこに逃げたら良いでしょうか?」
「それは、自分で考えるしかないだろう」
「私達が決めてもねえ。気に入らないかもしれないでしょう」
「馬は、どうしたら良いでしょう。返さなければ、この近くに居られないですよ」
「それは心配するな。また、借りなければならないだろうから、老夫婦の家の近くで馬を放すよ。それで良いだろう」
「それより、早く行きなさい。愛が、いつ来るか分からないわ」
「は~い~」
 顔を青ざめ、振るえる声でうなずいた。
「乙、気をつけてねえ」
「邪魔者が居なくなったな」
「馬鹿ねえ。可愛そうでしょう。ふっふふ」
 蘭は微笑みを浮かべながら、乙の後姿を見る事もなく、甲の目を見詰めていた。
 乙は、とぼとぼと歩いていた。行き先は三通りしかない。近くの町には、愛が居る。元の東国は廃墟だから行っても無駄のはず。最後の選択は老夫婦の家しかない。そして、喉が渇いたのだろうか、老夫婦の家の近くの井戸の前に立ち尽くしていた。何分くらい経っただろうか、乙は涙をポロポロ流しだした。心の底から悲しいからだろうか、足に力が入らなくなり、座り込んでしまった。
「うっうう」
 乙は、いつまでも涙を流し続け、日付が変わるが、動く事が無かった。
 その、少し前の時間に、甲と蘭は、
「乙が居ると酒は飲めないからな。良い酒があるぞ。愛の連れ合いの誕生日が間もなくだ。それを乾杯として、飲まないか?」
「そうねえ。良いわよ」
「椅子に座っていてくれ、持ってくるから」
「楽しみにしているわ」
 そう言うと、愛は車内に入らずに、御者に腰掛けた。
「蘭、グラスを取ってくらないか」
「はい、美味しそうねえ」
「そうだろう。少し時間が過ぎてしまったが、いいだろう。ん、どうした?」
「馬の鳴き声が聞こえたような」
「こんな何も無い所で、真夜中だぞ。誰も、居るわけ無いだろう」
「それもそうねえ。いや、気のせいではないわ。甲、やっぱり聞こえるわよ」
「そうか、ん。本当だ。誰だ」
 甲は笑っていたが、耳を澄ましてみた。
「愛、愛みたいよ。何でなのぉ。一緒にいる男性は、あの時の子供なのかな?」
「そうだろう。大きくなったな」
「私ねえ、私ねえ」
 愛は満面の笑みを浮かべ、馬上から、声を上げながら近づいてきた。
「愛、どうしたの」
 蘭は、御者から降り、愛の元に近寄った。「あっ」
甲は、酒を飲まれる事が心配なのか、顔を青ざめながら車内に戻る。それとも、リキの飼い犬がいる。そう思い、初めてあった時の恐怖が思い出されたに違いない。
「蘭、私ねえ。毎年、誕生日になる日。十二時に贈り物を置いてから、朝まで、あの公園で、シロから一年間の出来事を聞いていたの。
だけどね。今回は、お父さんとお兄さんに見付ってしまったの」
「まあ、酷いわね」
「何で酷いの」
「だって、帰れと言われたのでしょう。それとも、泥棒と言われたの?」
「違うの、あのねえ」
「だから、どうしたのよ」
 愛の煮え切らない態度に怒りを感じた。
「貴女が、リキの幼い頃からの想い人ですよね。そろそろ、リキと結婚して、一緒に暮らしませんか、そう言われたの」
「本当なの。よかったわねえ」
 蘭は、そう言いながら、愛の耳元まで近寄り。そして、リキに聞こえないように囁いた。
(あの愛、歳の事は誤魔化せたの?)
(私の事は飛河連合東国の人だと思っているわ。それでねえ。幼い頃に会って居たのは、私の母か姉でしょう。そう言われたわ)
(リキもなのぉ)
(そう見たい)
「愛、良かったわねえ」
「ありがとう。そして、お別れを言いに来たの。それに、馬も返しに来たわ」
「結婚式はするのでしょう。出席は出来ないけど、遠くから見て祝福するわね」
「ありがとう。だけど、飛河国に睨まれないように、内輪で済ました方が良いって」
「そう、なんか悲しいわねえ」
「ううん。一緒に住めるだけで嬉しいわ」
「そうよねえ」
「乙は居ないようねえ。甲、馬を返して来て、お願いして良いでしょう」
「愛、おめでとう。馬や他の事も心配するな。自分の事だけを考えろよ」
「うん」
「近くに来たら、遊びに来て下さい。慌ただしいですが、これで帰ります」
 そう伝えると、愛はリキが乗る馬の後ろに乗り、幸せそうに話しながら町に戻っていた。
「蘭、乙をお姉さんの所に連れて行かないか、野垂れ死にされたら、寝覚めが悪いしなぁ」
「そうねえ。居る所は分かるの?」
「馬を借りた家にしかないと思うぞ」
「そう、私も行くわ。それで、車で行くの?」
「そうだな、車で行こうかぁ」
 一頭引きの馬車に装い、出掛けようとした時だ。悲鳴のような怒鳴り声のような音が聞こえて来た。だが、恐怖は感じなかった。獣が居る訳が無いのは分かっていたからだ。
「お姉ちゃんかな?」
 そう感じた。
「蘭、違う。と分かったら車内に入れよ」
「やっぱり、お姉ちゃんだ」
 自分の名前がハッキリ聞こえたからだった。
「病人がいるのよ。建設途中の新都市跡まで連れて行ってくれない。お願いよう」
「私一人で馬を返してくるよ。お姉さんとゆっくり話す機会がなかっただろう」
 甲は、そう言葉を掛けると、蘭も信達もうなずいた。花だけが、不満そう態度だ。
 最下部の三十章をクリックしてください。
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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