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第二章
真っ暗な部屋に朝日が照らされたお蔭で、室内の様子が分かるようになった。影の形で判断するなら、窓側に事務用の机が一台と、その向かいにもう一台があり。その二台で部屋を半分に仕切っているように置かれ、残りの半分には応接間のようにソワーが二台と長いガラスのテーブルが置かれていた。恐らく、事務用の机は簡易台所を隠すのが目的と思えた。このような室内の影は、まあ、何処にでも有るだろう。疑問に思うのは一番長くて細長い影が有るからだ。見た感じでは人か、等身大の人形と思えば納得するのだが、洋服屋でも無いのだからマネキンと判断するのは変だ。どのように考えても物を売る店、と、言うよりも事務所だ。それなら人だろう。そう思うだろう。真っ暗な部屋にいるのは個人の自由だが、まったく動か無いのだ。呼吸をしているのかは影では判断が出来ないが、 おかしな仕草をしている。まるで突然に時の流れが止まったかのような姿だ。
 そして、朝日が室内を明るくなるにつれて、それが、若い男性と分かった。はっきりと分かると、益々、その男性が人か、人形か判断が出来ない。何故だろう。そう思うはずだ。それは、左手に飲みかけの水が入っているコップを持ち、飲み終えて唇から離れて直ぐの状態だ。そして右手には、飲み終えた薬の袋を持っていた。本当に時が止まってしまったのだろうか、そう思うだろうが、そうでは無かった。正確に時間を知らせる。そう思えるほどの力強い時計の音が響いているからだ。
「ドンドン」
「俺様のお帰りだぞ。早く鍵を開けろ」
 建物の玄関の方から扉を叩く音が聞こえてきた。恐らく、酔っ払いが間違って扉を叩いているのだろう。
「ん」
 男は、その音と言葉を聞くと不審そうに顔を歪めた。そして、微かに身体も動き、これで人間と判断が出来たはずだ。
 それなら何故、この男は病気なのか、そう思うだろうが、そうでは無かった。この男は生前に父から渡された。遺言書と書かれた本。その本の通りにしか生きられない人だった。それだけでなく、人から命令をされなければ行動する事も食事を摂ることも出来なかった。それは突然に病気になったので無く、幼い頃、いや、生まれた時から自我が無かった。乳を与えるにも、母親が手元まで抱きしめ、口元まで導かないと駄目だった。それだけでなく、最後に命令のように細々と、口の開き具合から含み加減まで言い。そして吸って飲みなさい。と、言うように指示をしないと乳も飲めない赤子だった。それを見続けて育てた両親は、歳が取れば普通の子供のようになってくれる。そう思っていたのだが、七歳を過ぎても治らなかった。その事に悲しみと息子の事が心配になり、父がある本を作成したのだ。それが、遺言書と言う。それが本の題名だ。人として生きられるように思案をして作成した。それはロボットを動かすような計算式のような内容と、全ての事柄を思案しなくても良い。辞書のような物だった。両親は、まあ、特に父親が本のおかげで人間らしくなったはず。そう思い、一万冊、いや十万冊以上と思える数を書き残していた。まあ、母は、合っても要らない物で無いから何も言わずに好きにさせていたが、本心は友達と遊んで自然と治ってくれたと思っていた。
 それでも、今は、男の意識や自我は無い。そのように生まれた男を哀れと思い神が使わしたのだろうか、別の人間。いや、男の先祖で、男は生まれ変わりだった。ある男が意識を支配しながら夢を見ていた。それと同時に、友人であり旅の仲間でもある。旅の友の動物も同時に同じ夢を見ていた。まあ、それは夢と現実の合わさった物だった。
「凄く強そうな獣になった。あれを見たら静かも驚くだろうなぁ」
 鏡は、身体が無いからだろう。人々の夢の中を幽体離脱のように渡り歩き続けた。そして、やっと、昔の旅の仲間だった。天猫に会い。又、子孫であり、生まれ変わりの男の身体に戻って来た。 
最下部の第三章をクリックしてください。

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     探偵見習いと化け猫

   化け猫の楽しかった思い出。それは、千年も前の事だった。

 二人の男女と一匹の獣の子供は満天の星空を見る事も、はっきりと見える綺麗な満月を見る事も無く、焚き火の火を見つめていた。旅で歩き疲れたのだろうか、それにしては傷の手当てした包帯が多い。それに、包帯が新しく血が滲んでいる。まるで、今手当てをしたようだ。それだから、連れの傷の具合が心配なのだろうか、それとも、痛みを感じて、その痛みを紛らわせる為だろうか、女性は男性に話を掛けた。
「ねえ、鏡、今度は西なの、それとも東、何処に向かうの。私、西に戻って都を見物したいわ。通り過ぎるだけで、何処も寄り道もしなかったからね。思い出に残る物を目に焼き付けたいの。ねえ、鏡、いいでしょう」
「そうか、う~ん」
 鏡は腕を組んで考えた。
「そうしましょう」
「なら、天猫、お前は何処に行きたい?」
「天はね。余り人が多い所は行きたくないなあ。化け猫扱いされるしね。でも、鏡兄ちゃんと静お姉ちゃんが一緒なら何処に行っても楽しいから、でも、どうしてもって言うなら北がいいかな、僻地で人が住んで居なそうだしね」
 この者達は、先史文明の最後の生き残りだろう。だが、純血で無く、この地に適応するように遺伝子操作された者だろう。それでも、元の支配者だった者だ。そして、祖先から代々退治屋をしていた。まあ、現代風に言うなら探偵であり、何でも屋だ。だが、好んで退治屋をしていたのでは無い。それは、先史文明が存在していた過去にあった。出産率が低下し続け、もう種族と名のれない程まで人口が減った。その時だ。心の安らぎや全ての職業の担い手を得る為に様々な動物の遺伝子を使い、擬人を造った。それから時が流れるにしたがい、猿の遺伝子で造られた擬人だけが増え続けた。心の安らぎの為だけに造られたからだろうか、それとも、本当の自分達の子、子孫と思ったからだろう。猿の擬人に、この地上の支配権を快く明け渡した。そして、又、長い時が流れ、先史文明が在った事も、自分達と同じように造られたはずの擬人の事も忘れてしまった。それだけで無く、他の擬人を化け物と呼び恐れた。恐れたが何も出来ず逃げ回るだけだった。その様子を見かねて、先史文明の元々の地上の支配者だった者達は、退治屋として猿の遺伝子がある者を守る事を考え行動する事を決めた。それから長い時が流れ、元々の支配者の子孫は何故、擬人を倒さなければならないのか、そして、自分達の故郷は何処なのか、と全ての答えを知りたくて旅を続けていた。
「そうか、なら南に行こう」
「きょ~う、それは、何なのよ。誰の意見も聞かないって、どう言う事なのよ」
「何となくなぁ」
「何となく、それは、理由になって無いでしょう」
「理由はあるぞ」
「何なのよ。言ってみなさい」
「天猫が行きたくない方向には、何かあるって事だろう。動物の感を信じなくてはなぁ」
「まあ、南に行くなら、天と話が出来そうね。南でいいわ」
「ありがとう。静お姉ちゃん」
「天は悪くないからね。鏡が期待をもたらせるから悪いの。気分が悪いから、先に寝るわ」
 そうつぶやくと、静は横になった。
「おやすみ、静お姉ちゃん」
「あっ、天、鏡が変な気持ちを考えそうだから、見張っていてね」
「うん、大丈夫だよ。見張っているから安心していいよ」
「天、そんな馬鹿、相手しなくていいぞ」
 静は疲れているのだろう。横なると直ぐに寝てしまったようだ。もし、起きているのだったら苦情を言ったはず。それも、言葉でなく平手打ちくらいしたはずだ。
「静、寝たのか。そうだな、今日の獣は手強かったからな、ありがとうなぁ。おやすみ」
 その言葉を聞き、天は言葉を無くした。戦いの時、恐い思いをしたのか、それとも、戦っている時に足を引っ張ったのだろう。それでも、ひと声だけ、泣き声を上げた。恐らく、ごめん、と謝ったのだろう。そう思えた。
「天も、頑張ってくれたな、これからも頼むぞ」
 また、天猫は小声で鳴いた。人の言葉を話せるはずだが、難しい言葉は話せ無いのだろうか、それとも、感情が高ぶると獣の言葉になるに違いない。
「如何した。可愛い鳴き声を上げて、寒いのか、それなら、私の膝の上に来るか?」
「うん、膝の上に乗る」
「いい子だ。いい子だ」
 鏡は、天猫が膝の上に来ると体を撫で回した。すると、天猫は気持ちいいのだろう。目を閉じ、猫の様にゴロゴロと喉を鳴らしていた。
「天、て~ん」
(鏡兄ちゃんが呼んでいる。ああ、あのまま気持ち良くて寝ちゃったのか?)
 もう今は膝の上で無く、鏡の上着の上で寝ていた。熟睡していると思い、鏡が上着の上に寝かせたのだろう。
「ガチャガチャ」
(何か音がする。何だろう。ああ、刀や武具を身に着けている音だ。ああまだ眠いなぁ。でも起きなければ駄目だ)
 眠そうにうっすらと目を開けた。やはり鏡と静は武具を身に付け、そして、焚き火の火を消していた。直ぐにでも出掛けるのだろう。
「天、て~ん、て~ん」
 主人の鏡が、声を上げているが、何か変と感じた。怪我が治っているのも変だが、身に着けている武具が多い。記憶では、確か、長旅になるから鏡は長剣だけ、静は短剣と弓矢だけのはず、なのに、重装備だった。
「天、て~ん」
 また、声が聞こえ、今度はハッキリと目を覚まし、主を見つめた。そして、
「うわあああ」
 驚きの声を上げた。それは驚くはずだ。鏡が二人居るのだから、片方は静の隣で笑みを浮かべながら手を振っている。何故か声が聞こえ無いが、「出掛けるからおいで」そう言っているのだろう。もう片方は宙に浮いて笑っているが、ハッキリと言葉が分かる。
「やっと気が付いてくれたか、それにしても夢を見るなら、彼女とかの楽しい思い出が無いのか、私達の事を思い出してくれて嬉しいが、千年も生きてきて楽しい思い出が、私達では素直に喜べないぞ」
「えっ、ええ、千年?」
 天猫は意味が分からず問い掛けた。
「自分の姿を見てみろ、念願の立派な大人の獣になっているぞ」
 その言葉を聞くと子猫だった姿が、みるみると大きくなり、巨大な牙が生え、ライオンの様なたてがみが生えてきた。どう見ても子猫にも普通の生き物にも見えない。誰が見ても化け物と思い逃げ出すはずだろう。それほど、恐ろしい年老いた獣に変わった。
「あっ本当だ。強そうだ。これなら、鏡兄ちゃんと静お姉ちゃんと一緒に戦えそうだ」
 自分の姿を上から見ているのに、天猫は不思議に思ってないようだ。
「それでだ。助けて欲しくて頼みに来た。他に頼める者が居ない。聞いてくれないか?」
「いいよ。今の姿なら何でも出来そうだ。前の様に助けてもらうような足手まといで無いから、安心して何でもするよ。でも静お姉ちゃんは如何したの?」
「静なら今も近くに一緒に居るぞ。その事は話が長くなるから今度ゆっくり話しをするよ」
「うん、いいよ。それで、助けて欲しい事って何かな?」
「詳しい事は会ってから話をする。まずは、山田 海と言う男の所に来てくれ、住所などを言っても分から無いだろうから、私の気をたどって来てくれ、今は、その男の守護霊として体の中に居る」
「そうなんだ」
「目覚めるまで、楽しい夢の続きを楽しんでくれ、いろいろ忙しくなると思うからな」
 その言葉を聞き終わると、天猫は目を覚ました。そして、大きな欠伸の後、手足を大きく伸ばし、まるで、長い眠りの為に使わなかった感覚を取り戻そうとしているようだ。
「スンスン、スンスン」
 真っ暗な洞窟の中だから臭いを嗅いで、出口を探そうとしているのだろうか、何度も何度も円を描くように臭いを嗅いだ。そして、主が居る方向が分かったのだろうか、それとも出口の方向が分かったのだろうか、そして、笑みのような表情を浮かべた。人なら満面の笑みだ。最後と思える擬人を倒す時に、共に擬人と時の狭間に落ちてしまった。その主人を千年も待ち続け、そして、夢に現れてくれたのだ。それだけでなく、念願だった主の力になれる喜びが表情に表れたのだろう。
「シャアア」
 洞窟から出ると、天猫は声を上げた。千年も生きてきた老猫だから気持ちを引き締めようとしたのか、それとも、残りの命を主の為に使う。そう決めた意気込みだろう。
「グルルル。ヴァルル」
 また、今度は、何か呪文のように思える声を上げた。すると、子猫としか見えない姿に変わり、歩き出した。
 
最下部の第二章をクリックしてください。
 物語が始まる前に、一言。
では、ないですね。不定期更新なので、長い、長い一言になりました。下記は、長い、あらすじですので、読まずに最下部の第一章に飛んで、物語を楽しんでください。あっ、最後に、一言、この物語は、第十七章で完結になります。
それでは、あらすじから、そして、最下部の、第一章から物語が始まります。

あらすじ
 
空に浮かぶ月は、太古に移住して来た人々の船だった。その地に住む人々は、月人と言われ、背中に蜉蝣に似た羽があり。左手の小指に赤い感覚器官があった。羽で時を飛び、赤い感覚器官で連れ合いを探すのだった。ある時代では繁栄をしていたのだが、時を飛べるからだろうか、それとも、移住して来た。その地に身体が合わなかったのだろう。そう思えた。元々生まれた星が住めなくなった時で、種族としての滅亡が決まっていたのだろう。それでも、諦めることは出来ずに、新たなる星の生物の遺伝子を使い、愛玩や様々な補佐の担い手として擬人、獣人を造った。造ったことで滅びが進んだように思えた。何故、そう思うだろうが、擬人を愛する者が現れ、擬人のことだけを考えるようになり。挙句の果てには、この星の全てを擬人に渡してしまった。それだけでなく、命がある限り、擬人に尽くしたのだった。だが、その気持ちは擬人には伝わらずに、月人は、擬人に殺される者も居たが、ほとんどの月人は、擬人から恐怖を感じられていると分かると、自分達の命まで渡したのだった。そのような理由があり、男女一組を残し全てが死に絶えた。
 そして、時が流れて、月人と擬人の混血の人々や、月人の象徴である羽や赤い感覚器官を捨て、遺伝子を変えてまで擬人として生きる人々は、過去の理由を忘れたのに、まだ、猿の擬人のために、擬人や獣人を倒すために命を削っていた。その中の男女と、一匹の獣は、何故、戦うのか、その理由と、生まれた地や仲間を探すために旅を続けていた。その者達の名前が、男性の擬人の鏡、女性の静、猫の獣の天猫だった。そして、最後の戦いのために、時の狭間に入ったからだろうか、その空間に身体を残すことになり。自分の生まれ変わりでもあり、子孫でもある。猿の擬人の身体で生きることになってしまった。その身体は、男性は海と言い。鏡は、心だけで、共に生きることになった。女性は、沙耶加と言い。同じように心だけだった。残りの仲間の、猫の獣の天猫は、仲間に助けられて、時の狭間から出ることは出来たが、時の狭間の入り口で、千年も主を待ち続けた。そして、やっと、主の鏡に会えたのだが、変な頼みごとをされたのだ。それは、海と言う男を助けて欲しいと言う話だった。だが、簡単な頼みごとでないのだ。その海と言う男性は、ロボット病と言われ、自我がなく、自分の意思が無いために、自分では食事も食べられないのだった。だが、父親が残した遺言書と言われる。大量の本のお蔭で行動は出来たが、完全ではなく、静の心が入っている沙耶加の手助けで少しは人間らしき生活ができた。だが、このような二人では、鏡の願いを叶えることの手助けになるはずもなく、同属の猫の力を借りて行動を起こすが、苦労することになる。それだけでは済まずに、猫の天国に行くことになり、そこで、女性の純血の月人に会う。敵なのだろうか?。そして、また、時の狭間に入り、様々な獣人と戦うことになる。そして最強の竜とまた、戦うことになり。その時に、やっとロボット病の原因が分かるのだった。その時、男性の純潔の月人に会う。その男性は、敵か味方なのか?。そして、天猫は鏡の頼みこと。ロボット病を治せるのか、獣や最強の竜を倒せるのだろうか、時の狭間から抜け出せるのか、主達の身体を取り戻せるのだろうか、様々な問題があるが、全て解決が出来るのだろうか、そして、元のように楽しい旅が出来るのだろうか、それらの全ては、天猫の力や行動力にあった。

 
最下部の第一章をクリックしてください。
第三十一章
 道のお蔭で、一回目の旅立ちの時に千人が集まってくれたが、花と同じような症状が殆どだった。人々を見て、想像できない位の酷い戦だったと感じた。二度の竜機の飛行の時は、愛とリキが挨拶に現れた。皆が、愛を忘れるはずもなく、結婚をしたと聞き。無理やりのように竜機に乗せてしまい。一族全てで結婚式を行なった。愛は、「どうやって帰るのよ」そう、怒りを表していたが、本心ではないだろう。恐らく、時が過ぎてからだから恥ずかしかったのだろう。まあ、乙、甲も一緒だったから帰る心配はなかったが、分かれる時に、甲と乙の時はみてなさい。そう笑いながら声を上げた。蘭と甲は時期が近いだろうが、乙はまだ、一人だ。最後に祝福される人は想像も出来ない騒ぎになるはずだろう。もともと、馬鹿騒ぎが出来た気持ちは、前回も、二回目の時も怪我や病人が多かったが、死んだと思っていたのに、会えた喜びだろう。だが、戦だったのだ。死んだ人が多い。そして、会える期待も大きい。それで、慰める気持ちと、父や母や兄が素晴らしく、立派だと教える為と、二度と戦が起きないように、子供や病人などに、話を聞かせていた。
「涙花お姉さん。もう話しは終わりなの?」
「涙姉さん。お父さんとお爺さんに手紙を書いたから届けて」
 涙花は笑みを浮かべながら涙を堪えていた。死んだと確認できた者の知らせは、大人でも、死んだと知らせても耐えられる者にしか知らせてない。特に子供には、病気や仕事で、この土地に来られないと話し、手紙を書かせていた。勿論、返事は来る。だが、別人が書いていた。
 そして、三回目。竜機の最後の飛行日が近づく。前回の時は見送りや薬品などで忙しかったが、最後だからだろう。子供が竜機の見物と手紙を渡す者しか集まらなかった。
「お姉ちゃん。お爺さんは変身すると、どの位の大きさなの。後ろの竜機と同じくらい」
「はい、話は終わりよ。又、明日ね」
 人には最後の飛行でも、竜機には壊れるまでの使命がある。種族と国の象徴として、子供達の夢や希望だ。
 涙花は、楽しい事も悲しい事も、全てを子供達に伝えた。その子も又、子供に伝え続けた。その気持ちが竜機に伝わったのだろう。いつまでも壊れる事なく、証拠として、竜機は残り続けた。
 
最終章

第三十章
 甲は、恐る恐る馬を引いていたが、月明かりに目が慣れたからだろう。夜でしか味わえない静けさと言うか、星に魅入られたような微笑を浮かべている。楽しむゆとりがあったからだろう。井戸に座り込む、乙を見付ける事ができた。
「ほら、帰ってくれ」
 そう馬に声を掛け、手綱を放した。そして、心の中では、乙に気付いてくれ。そう思った。そして、乙は、馬の嘶きが聞こえたからだろう。老夫婦の家の灯りがともり。直ぐに、老人が家から駆け出してきた。自分の馬を見付けるよりも、乙を見付け近寄った。何故、井戸の前に座っているのか分からないが、落ち込んでいるように感じられた。
「どうしたのだ。大丈夫か?」
「馬を返せないし、行く当てもない」
「ほら、馬ならいるだろう」
「自分で帰ってきたのか?」
 生気が抜けたような声を上げた。
「行く所がないのか、それなら、私も歳だから力仕事も辛い。一緒に住まないか、良ければだが、私の息子と考えてもらってもいい」
「え、こんな、私をですかぁ」
「ごめん遅くなって、乙、迎えに来たぞ」
 甲は、変な好奇心を抱いた為に、様子を窺い、話を掛けるのが遅れた。
「えっ」
「良い、忘れてくれ」
 甲が現れると、老人は泣きそうな声を上げた。そして、手綱を手に取り自宅に向かった。
「乙、行こう」
「ごめん、俺、この地に住むよ」
 甲に、そう言うと、老人の所に駆け寄った。
「乙、もし、帰りたくなったら」
「爺さん、居ても良いのだろう」
「本当に良いのか?」
「甲、大丈夫だから気にしないでくれ」
 乙は、振り返り、簡単な別れの挨拶をした。
「分かった。それなら、帰るぞ」
 甲の最後の言葉は、二人の耳には入っていないだろう。本当の親子のように笑いながら家に向かったからだ。甲は、二人が家に入るのを見届けた。その後は悲しそうにうつむきながら、愛達の所に向かった。
「甲、乙はどうしたの?」
「養子になるから帰らないそうだ」
「乙が養子」
 蘭は、甲がうな垂れていた。その為に、それ以上の問うのを止めた。
「都市の跡に行くのですね」
「東国ではなくて、建設途中の」
「はい、東国の南方の建物跡でしょう」
「ああ、そうです」
「直ぐに動きますから椅子に座ってください。良いですか、行きますよ」
 甲は、そう言った後、皆の安全の確認もとらずに機動させたのだろう。一瞬機動音が高く響いた。すると直ぐに、甲は席から離れた。恐らく着いたのだろう。皆は必死に安全帯を締めている途中だった。
「甲、何を考えているのよ」
「えっ」
「着いたのか?」
 蘭は突然の発進に怒りを感じた。そして、男女四人は都市跡に着いた事に驚いた。
「言われた通りの場所に着きました。私達も忙しいのです、直ぐに降りて下さい」
「忙しいのに済まない。何かあった時には出来る限りの事をする。それで、許してくれ」
 信が、全ての責任を引き受ける。そう思う気持ちを心で決め、真っ先に声を上げた。
 他の三人は不満を表していたが、涙花はふっと、蘭に耳打ちした。
(ごめんね。二人で居る所を邪魔して、許してねえ。優しくして上げなさい。そうしたらね。直ぐに機嫌が直るわ。うっふふ)
「もうお姉ちゃんの馬鹿」
「別れの挨拶が済んだのなら、出掛けるぞ」
「良いわ。どこに行くの?」
「この車の本当の使用目的に使う」
「私行きたい所があるの。もう、誰にも係わりたくないから、小さい無人島に行きたいわ。そこで、色々楽しみましょう。そこで、一緒に飲もうとした。あれを、飲みましょう」
 この言葉を最後に、この地を後にした。乙が一瞬笑みを浮かべたが、自分以外に誰も居ない。それは、自分が、使用人のように扱われる事を分かっていないだろうか。
「涙花、済まなかったな。妹さんには、借りを必ず返すからな」
「いいのよ。楽しんでいるのだから」
「そうなのか?」
 そう言うと歩き出した。
 四人が降ろされた所は都市の中では無く。都市外、周りは砂ばかり、砂の海に浮かぶ船。と言うより、竜の細長い背に巻き付かれ空を飛び立つよう形の都市だった。その都市の景観を見惚れたのだろうか、それとも、竜の大きさだろうか。四人は、威嚇のように口を開けたままの入り口、竜の口に向かった。口の前に来ると、信が問い掛けた。三人は惚けているのか、三度も同じ事を口にした。
「それで、長老は何番と言った?」
「剣に印が付いているでしょう。重大な言葉よ。声を上げる事が出来ないでしょう」
「そうだったな。済まない」
「機動後は、自分で変えろ。そう言っていました。信以外の人が剣を手に入れても、一度しか機動できないようにした。そうですよ」
「何だ。別の鍵があるなら真剣に剣を守らなくても良かったのかよ」
「道。あんたねえ~」
 花は満面に怒りを表した。
「ごめん、神聖な物ですから当たり前でした。だけど、凄いですよねえ。甲殿の車がそのまま、通れそうですよ」
「通れるぞ。この中に、我の猪の獣機も、他家の獣機が収納されているからな」
「凄いですね。凄いです、花が乗る猪の獣機が見てみたいです」
 信は、花が道をたこ殴りにされるのが見たくなかった。と、言うよりも、この場を荒らされたくなかったのだろうか、それとも、涙花が、竜家の長老が死んだ。それが確かなのを知り、涙を流している。その姿を見たくない為に思えた。
「涙花、羊の宝。獣機を直接見られるのだぞ。私でも見た事がないのだ。見たいだろう」
 信は、一瞬だが、涙花が興味を感じた。そう思い。微笑みを返した。
「うん」
「そうだろう。鍵を開けるぞ」
 信は、剣に書かれてある。参。と書かれた数字を憶え。竜の口に入り、歯と牙を探った。
歯と牙には数字が書かれていた。信は、参と書かれた歯を見付けると、横に動かし、剣型の溝が現れた。
「舌が動くから、一度外に出てくれないか」
 剣を刺すと、舌が中に入るにしたがい、喉奥が開いた。
「いいぞ」
 そう言うと、三人は中に入ってきた。そして、薄暗い長い通路を四人で進んだ。もう少し明るければ、即座に周りの物を見て、悲鳴か歓喜の声を上げたはずだ。
「あっ」
 涙花が驚きの声を上げた。
「何だ。もう気が付いたのか、両脇にある物は動くのだぞ」
「えっ、全てなの」
「そうだ。十二種族、全ての獣機がある」
「だって、あの戦いの時に使われたのに、何故、西国の獣機が、この場所にあるの」
「それは、西と東に分かれる時に、西国の要請で何台かを持ち出したらしい。その時の西国の者は獣に変身できる者が少なくて、軍事力の関係の為に仕方が無かったらしい」
「そうなの」
「ああっここだな」
 脇に、下に降りる階段があった。外側から見れば、右手に持つ玉の部分に行く階段だ。
「先に起動が先だな。それから医務室だ」
 円形の室の中心の床に、竜が描かれていた。その口に溝があり。そこに剣を刺した。と同時に、全ての照明と機械が起動した。
「医務室は最後尾だな。一箇所しか無いのか。ん、移動医療機もあるのか」
 信は、機械操作をしていない。剣を触っているだけで、脳に情報が流れる仕組みだ。
「音声入力に切り替えだ」
 信は情報に基づき、そう声を上げた」
「鍵番号を変更しますか」
(六番に変更する)
 そう、頭で考えた。
「変更を確認しました。音声入力を起動します。医療機を起動します」
「浮上しろ」
「小型診察機を、この場によこしてくれ」
 船の返事だろうか、振動し始めた。
「甲さんの乗り物で忘れていた。直ぐに席に座れ、気持ち悪くなるほど揺れるぞ」
「うっわあ」
「何だ、止まったぞ」
 振動が直ぐに止まったのは、都市に巻き付いていた物が、解け、浮いて止まったからだ。
「外の様子を見てみろ」
「おお凄い。浮いているのか、これが、外の様子なのか。凄いぞ、凄いぞ」
 竜は雲のように浮き。手に持つ球が、乳白色から透明に変わった。室内から見れば上、下と、全ての外の景色が見る事が出来た。そして、診察機が、現れ、花を診察した。その結果を、信だけに伝えられた。
「道、楽しそうだな。もう一つ良い事を教えよう。花の身体は元のように治るぞ」
「本当ですか」
「ある程度の時間は掛かるがなぉ」
「うっう、ありがとう、ありがとう」
 余りにも嬉しくて涙を流した。
「感激しているのに悪いと思うが、一週間後に、この地を出る。それを」
「分かっている。全ての人に言えないが、ある何人かに言えば伝わるはずです。私は直ぐに出掛けますから、花をよろしく」
「わかった。あっ、それと、花と同じような人がいれば、手を貸す。そう言ってくれ」
「分かっていますって、それでは行きます」
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垣根 新
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自己紹介:
物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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