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第十一章
「此処はどこだ・・・・・む」
 空中から自分を見下ろしていた。
「病の為に、無意識で力を使ってしまったのか、約束を違える事は出来ない。我ら十二人が総て死ななければ、一族を助ける事が出来ない。純血族の者なら止めを刺せるはず、約束したのだ。守らなければならない、総てを擬人に渡すと決めた事だ」
 半幽霊のような姿をしている者は、足音を立てながら苦しそうに、一人事を呟きながら洞窟から地上に出ようとしていた。
「擬人との混血で力が弱わり、力を持つ者も少なく成ってきた。仕方がないのだ。いずれ力を持つ者が生まれなくなる。今なら、まだ神と思われている内に総てを渡せば、八尾路頭家の血族が生き残る可能性はまだある。だが、何故だろうか、我らの遺伝子を使っているのに、殺し合い、奪い合いをするのか、恐怖から来ると思い、我らは親しみを込めて護って来たはず。今度は我らを怖がるとは分からぬ。我らと同じ遺伝子が八割も有るのに、たかが、二割の猿の遺伝子がここまで変えか」
八尾路頭本家の祖は、月で住めなくなり、この地に移り住んで来た。月と言えば、輪もだが、輪の月の住人は、八尾路頭本家の祖と分かれて、月に残った者だ。八尾路頭本家の祖は、この地が身体に合わない為か出産が減少した。子孫を残す為に動物を改良して、自分達と似た擬人を作り子孫を残す事を考えたが、血族は少数しか生まれなかった。逆に、擬人の子が自然と増えてしい。月人は自身の子が生まれない為だろう。擬人を自分の子のように考え、支配と言う形だが、独り立ち出来るように手助けして来た。だが、擬人同士の争いを止める為に、月人の命が一人、二人と消える事を考え、擬人は擬人に託して永い眠りに入る事を、最後の純血種十二人が、次のように説得した。
「反対する者もいると思うが、我々が擬人を作り十万年経つが擬人は増えて、我らは減る一方だ。総てを託して眠りに就こう。擬人独自の高度な文明が築く未来か、月から離れた同胞が訪れるまで待とう。祖が良かれとした事を十万年も費やしたが変わらないのだ。我の提案に全員が賛同して欲しい。一人でも係われば、我々と似た文明に成り兼ねない。それでは同じ事の繰り返しだ」
 地上の光が見えてくると、昔を振り返るのを止めた。
「何が起きたのだ」
 辺りは焼け跡が広がり。まだ、遠くの方では火が燃え盛り消える事が無く、広がって行く姿が見えていた。
「この地を捨てたのか、だが、あの地は未だ作られていないはず。それよりも、我が生きている事が分かれば一族全ての命が危ない。我の命を早く絶たなければならない。何か声が聞こえる」
 無言のまま。微かに聞える方に夢遊病のように近づいていった。
「話が違うではないか」
 現八尾路頭当主が怒りを表して、問うた。
「違う事はありません。総てを譲ると言われました。総てを譲り受けるだけですが?」
 無表情で淡々と語った。
「全てを渡した。お前らが恐怖を感じるだろう。そう思い。純血種十二人も命を絶った。この地も捨て、何もかも総て渡した。早く子供達を帰してくれ」
「私は総てと言ったのですが、神の力は無くなったが、名は未だ残っている」
「意味が分からぬ。お前らが守護八首竜を殺した事で、我らの名は地に落ちたはずだ」
「神の子の力が、まだ渡されていない。神の子がいれば、王とも神とも言われた十二人を殺されて、何もかも総てを取られた。と言われる恐れがあります。そう考えると微かに残る力が、我らは怖いのです。神の子の彼方がたも死んでいただければ、子供はお助けしましょう。子供だけでは生きられないでしょうから、力を持たない者は助けます」
「我々は恨みなど抱いていない。十二人が死ぬ事も総てを譲ると言った事は、我らから言ったのだぞ。我らは、どの様な約束でも違える事はないぞ」
「私は総てが欲しいのです。本当の神の子がいては神の子に成れません。神の子の名前が欲しい」
「神の子の名前もやろう。元々、父の後を追うつもりでいたのだ。父を埋葬して、新しい地で子供が喜ぶ姿を見た後に、力が有る者は全てが命を絶つ。そこまで、言う必要が無いと思い。言わなかっただけだ。安心しただろう。子供達を放してくれるな」
「後からでは怖いのです。それに、今欲しいのです」
「我らが約束を違えると思っているのか」
「今欲しいのです。駄目なのですか」
「分かった。その前に子供達を放せ」
「何故、先に放せと言われる。やはり恨んでいるのですか、それとも、私を信じられないのですか」
「そうではない」
「それでは、良いではないですか」
「分かった。そなたらの矢で、刀で、なのか?」
「神の矢が有ると聞きます。それで、終わった後で、それも譲り受けて欲しいのです」
「あれは遣れぬ。壊す事にしたのだ。渡したところで使えぬぞ。我らの力を高めて放つ物なのだ」
「ですが、力の無い人でも使えると聞きましたが」
「そなたには、分からないと思うが、力にもいろいろ有るのだ。渡しても役に立たない。意味が無いのだぞ」
「それでも、欲しいのです。そして見てみたいのです」
「そうしよう。持って来てくれ」
 振り向き、一人の女性に声を掛けた。
「はい。今、持って参りますが、駄目だと思います。それでもですか」
 子供達を一瞬見て、聞き返した。変な事を呟くようだが、力が無い者は心が読めるのだ。擬人の心を読んで、皆殺しを考えている。そう言ったのだ。
「頼む、約束は破れぬ。そして後を頼むぞ」
 目で訴えた。
「誰からだ」
 同族が同族を殺す事に涙を流した。
「並んでいる。順番で良いと思いますが?」
 擬人の指示で、八尾路頭家の者が、神の武器と言われた物で、同属の命を絶った。
「これで、子供達を」
「矢を放て」
 神の子と言われた人々の、全ての命を絶った後、振り向きながら呟くが、最後まで話す事が出来なかった。何が起きたかと言うと、神の武器で同属の命を絶った人々を、約束を守らずに、擬人の矢で命を奪ったのだ。最後の一人が倒れると同時に声を上げた。
「後は分かっているな」
「一組の双子を」
「言う必要は無い。後を任せる」
「何所に行かれますので」
「お前らは、お前らのする事をしろ」 
 初めて、人らしい表情を表したが、役目が終り安心した為か、それとも、神の武器を早く手に取りたい。その気持ちが現れたのだろう。
「やはり使えないか、だが神の力を得た」
 死んだ女性の手からはぎ取った。
「総ての計画が終わりました」
「帰るぞ」
 人々は、住みなれた所に戻れる喜びを表した。だが、陽炎のような半透明の者が近づいて来るのを、誰も気が付かないまま、この地を離れた。陽炎のような者が、この場に現れた時には、足跡と死体だけが残るだけだった。
「ひどい・・・・子供まで、惨すぎる」
 一人ずつ意識を確かめては涙を流し。知り合いを思い浮かべては、この場に居ないでくれと願いを込めて歩き回った。
「双子だけが居ない。隠されているのか?」
 耳を澄まし気配を探った。
「移動している。まだ歩け無いはずだ。助けなければ成らない。だが、半不随では追いつけない。八首竜の力が届けば、うっ」
 気配がする方向に体を向けた。その身体は痙攣のような、消えかけているようにも見えた。それが終わると段々と大きくなり、八つの首を持つ恐竜のような光の形が現れた。大地に振動を起こしながら、双子の気配がする。野営の篝火に向って歩き出した。
「この騒ぎ声は何だ。あの音は何だ?」
 渦巻きのように簡易小屋が並び、それを囲むように篝火が焚かれていた。その中心の小屋を一人で使う者が、苛立たしく外に聞えるように大声を上げた。
「八つの首を持つ竜が、双子を渡せと叫びながら、此方に向ってきます」
 警護人が小屋に入り、問いに答えた
「まさか、倒したはずだ」
 声を上げながら、小屋から出た。
「透けて見える。化けて出てきたのか。今すぐに、此処から離れるぞ。我を忘れている者は置いていけ。準備を急がせろ、直ぐに出るぞ」
「その声は富山神家の第二子だな。今すぐに双子を帰せ」
 直接声を聞いた訳ではなかった。相手の心を読み、心に伝えた。
「誰だ。私は約束を交わされた通りにしているだけだ」
「全て殺しただろうが、何が約束だ。お前は知らないだろうが、力を持たないと思っている者は心が読める。お前の心の中を知っていても、信じたのだぞ。我々でも心の中は邪な事を考える。まして、確かな約束を交わし、同じ血の流れる者だ。邪な事を考えるが、殺すはずがないと最後まで信じていただろうに、何故、何故、何故だ。何を言っても仕方が無いが、双子を我に返せ。返せば、全てを忘れる事にする」
「準備が出来たようです」
 合図で知らされ、隣の主人に知らせた。
「行くぞ」
 声と同時に駆け出した。
「待て、双子を帰せ」
 一歩、二歩を踏む時に、突然に半透明な竜が消えた。
「力が途切れたか、助けるまで死ねない。最後の血族だ。この地に一人だけでも残さなければ成らない。一緒に月から離れ離れになった。同胞に知らせなければ、そうしなければ、何も無くなった月が、故郷だと言う事をだぁ」
 半透明な人に戻り、何かを探すように辺りを見回しながら呟いた。
「人だと良いのだが、無理だとしても、何か、鳥か、仕方ない暫く借りる」
 鳥を見つけると、拝む仕草をしながら呟いた。呟き終わると半透明の者は消え、鳥は人々が逃げる反対の海の方向に飛んで行った。
 
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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