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第五章、本の中の物語 第三巻き 命と同等の起点の危機、赤い糸の出会い?
 太鼓の乱れ打ちから神を招くような綺麗な音に変わった。すると、村人や下級の武人は満面の笑み浮かべながら踊る者や歌い始めた。本当に神が来てくれると思っているのだろうか、それとも、今日の宴で嫌な事を忘れ、又、明日からの生きる糧にするのだろう。
 だが、全ての人々が浮かれ騒いでいるのでは無かった。村の有力者や領主や上級武人は真剣な表情で神社がある階段を上がって行く。
「領主様」
「ん」
「あっ、上様」
「気にするな、領主で良い。今まで隠れていた意味がなくなる」
「はい、首が晒され死んだと思っていましたが、ご無事で何よりでした」
「酷いことをするものだな。似た者を探して殺したのだろう」
「影武者でなかったのですか?」
「影武者だと、我が一族は卑怯な事はしない。いや、あの戦まではしなかった」
「分かっています。ですが、私達も、この地だけはお守りする為に名前も誇りも捨てました。この地は上様の即位の地ですから、私達は、私達は、お会い出来たのが嬉しいです。三年も軍備を整えていたとは思いませんでした。それで、今日は戦の日をお決めになる」
「そうだ。占いの結果しだいで、死ぬか生きるかを決める」
「最後の戦いをなさる覚悟ですか」
「最後の戦いだが、数日前に父とは袂を分かった」
「何故です。いいえ、聞かない事にします」
「気にするな、三年で人は変わる。父は、全てを捨てて、始祖の地に帰ると言い出したのだ。同じ考えの部下と家族を連れて行った。恐らく、半分は海を渡るまで持たないだろう」
「それでは、占いの結果しだいでは後を追うのですか」
「例え、海を渡る事が出来ても死しか道はない。恐らく無人の廃墟のはずだ。まだ廃墟ならまだ良いかもしれない。土の下に埋もれてなにもないだろう。我らも含めて全ての一族で行ったとしても結果は同じだ。いや、もっと酷い事になるだろう。一族全ての食料を生産が出来るとは思えない。うっう、父上、父上、私は、父上の希望を考えて残ったのですよ。一族が別れれば希望が持てるでしょう。誇りの為に死んだとしても、何処かの地で生きている。そう思えるでしょう。それに、分かれれば救いの手が来ると、夢も持てるはず」
 村長の言葉は届いていなかった。父と別れる時の事が思い出しているのだろう。恐らく言い争いをしたはずだ。自分の気持ちは共に行きたかったはず。だが、一族の中では誇りを捨て切れない者やこの地に残りたい者、仇を考えている者もいたのだ。一族全てで行動すれば途中で分裂して始祖の地まで行けるはずがない。父の為に一族を篩にかけたのだ。それでも、始祖の地の夢を壊すことだけは言わなかった。言ったとしても信じるはずもなく、それだけは言いたくなかったからだ。
「うぇ、領主様。占いが出来る地に着きました」
 村長は、愚痴のような話しを耳にしたが、何も言わずに聞かなかったような態度だった。
「そうか」
 山の頂上に着くと社が建っていた。質素と言うよりも普通の新築の民家と同じだ。長老の家よりも小さい。だか、何故か土台は立派な作りだった。恐らく、強制的に壊され、他神を強制され、前の建物を材料とされ、そして、土台として社を建てたのだろう。
「こちらの席にお座り下さい」
 最上階段に白装束を着た幼い巫女七人畏まっていた。村長と上様の一行が現れると、それぞれの受け持ちがあるのだろう。言葉を掛けてきた。
「そうか」
 上様が声を上げると、他の六人は、巫女の後を付いて行った。椅子は横にやや三角に並べられ、その前方十歩位前に祭壇があり。その前に祭司が腰掛けて待っていた。その頂点に上様、村長が左に、右に若武者を装っているが、長女の百合が座り、残りの椅子に上級武将が席に座った。全てが座り着くと、祭司が上様の前に行き畏まった。
「これに、占い事を書き記してください」
 供物代の上に紙と筆と墨が置かれていた。それを恭しく差し出した。
「そうか」
 そう呟くと紙と筆を取り、一瞬考えたのちに娘に顔を向けた。娘の微笑みを見たからだろうか、それとも、娘が頷いたからだろうか、全く迷いがない筆の運びだった。
「はっ」
 父から占い事を見せられ返事を返した。百合は男装だからか、それとも、元々の性格なのかハッキリと男装に恥じない言葉だった。だか、父は血が繋がっているからだろう。娘の声色に微かに喜びを感じて微笑みを返した。
「願い事は書いた。頼むぞ」
 そう、言葉を返しながら紙片を四つ折にし、供物代の上に置いた。
「はい、畏まりました。上様、答えは神のみが知る事です」
 そう、畏まりながら呟いた。だが、頭を上げる事はしなかった。
「そうだな。答えは神の言葉だ。責任も咎める事もしない。心配するな」
 祭司の言葉で顔を顰めた。だが、目線の下で震えながら畏まっている姿を見たからだろうか、そうとは感じられない。子供に話し掛けるような柔らかい言葉だった。
「はっ、全身全霊を持って神に訊ねます。それではお預かりします」
 畏まりながら供物代を持って下がるが、目線を合わせないのは儀式の様式の為とは思えなかった。それは、声色には恐怖が感じられたからだ。
「七巫女、儀式の用意を頼む」
 祭壇の上に供物代を置くと呟いた。
「はい、畏まりました」
 七人の巫女の内の一人は、何かを取りに行ったのだろう。階段を下りるが、残りの六人は細々とした薪を祭壇の周りに置き始めた。その中心で、祭司は祝詞を奏上している。
 そして、残された六人の巫女も、自分の段取りが終わったからだろう。次々と階段を下りて行く。恐らく、七人の巫女が向かった先は同じ所のはずだ。
「祭司様、お持ちいたしました」
 七人の巫女が全て階段を下りると同時に祝詞が終わり。初めに階段を下りた巫女が亀の甲羅を手に持ち現れた。
「私の元へ」
 祝詞を奏上していたからだろう。祭司は興奮しているような声を上げた。
「畏まりました」
「薪の中に収めなさい」
 祭司は隣に巫女が現れると指示を与えた。
「畏まりました」
 巫女は納め終わると、周りにある篝火から一つの松明を手にした。
「準備が整え終わりました」
「上様、これから占いを始めます」
 祭司は、巫女の言葉を聞くと、振り向き、始まりを知らせた。
「宜しいでしょうか」
「始めなさい」
 巫女は、七つ有る薪の中の一つに松明を入れた。即座に火が盛大に燃えた。恐らく油らが掛けられていたのだろう。火の激しく燃える様子は、まるで神の怒りとも神の光臨とも感じられる。それほど、激しくて、目を奪われる。そう思うほど綺麗だ。
この時の同時刻、麓では、江見が驚きの声を上げていた。
「本当に、左手の糸が見えるのですね」
「見えますが、見えると行けないのでしょうか」
「いいえ。行けなくありません。私、私は嬉しくて心がはち切れそうです」
 江見は、先ほどカイが嫉妬を表した醜い様子も、男性特有の力任せの態度も、カイの一言で、統べての出来事を忘れてしまった。
「その糸は綺麗ですね。心が洗われるようです。何故か運命が変わるような気がします」
 カイは、江見の表情から自分に好意を表している。そう感じ取ると、嫉妬と怒りの感情は消えていた。江見を自分の物にする。その欲望だけしか頭になかった。
「私も、カイ様の御顔を見ていると、心が安らぎます」
「ありがとう。例えば、何処が安らぐか聞いても宜しいでしょうか」
 カイは、江見に話しを返したと言うよりも、かかりが悔しがる顔を見たいからに思えた。
「そうですね。例えば、どのような事でも諦めない強そうな意識を感じる目」
(へっ、欲望しか感じない嫌らしい鋭い目だろう)
 かかりは自分の意思に関係なく、心の思いを囁いていた。
「ん」
 カイは、かかりの言葉は聞こえなかったが殺気を感じた。
「全ての生ある者を慈しむ優しい声色」
(女なら誰でも良い、能天気な頭と言葉使い)
「貴族、いや、王のような雰囲気と優美な仕草や容姿」
(親の力で能天気に遊んでいる馬鹿で、日焼けを嫌うオカマ)
「そうですか、そうですか。ですが、今の統べの言葉は貴女に当て嵌まる事です」
「まっまぁままあー、嫌ですわ。もうーカイ様ったら恥ずかしいですわ。もうー」
「嘘ではないですよ。それほど、貴女は美しいのです」
「まっ」
 江見は恥ずかしくて言葉を無くした。
(真顔で言えるのだからカイは普通でないよ)
 かかりが心の中で思った。
「それで、祝い物を食べに来たのでしょう。普通に並んでいたら無くなってしまいますよ。私と一緒なら一般以外の参拝道を通る事ができます。早く行きましょう」
「まあ、そんな事をしてもカイ様は大丈夫ですか、心配ですわ」
「江見さんの為なら何でもできますよ。心配しないで下さい」
「まっ」
 江見は頬を又、赤らめた。
「かかりも一緒に来るのだろう」
「いいのか?」
「何を言っているのだ。友達だろう。気にするなよ」
「とっと、友達、う~ん」
(江見さんが綺麗なのは分かるが、女性と一緒だと、これほど変わるのか)
 思案していた為に言葉を上手く伝える事ができなかった。
「それでは、江見さん行きましょう」
「あ、俺たちは食べて来たから、屋台を覗きに行くよ。いいだろう」
 取り巻き立ちは、カイの視線が帰れ。そう言っていると感じ取った。
「そうだな。一度行ったのに付き合わせたら悪いからな気にしなくていいぞ」
「おう、又な」
 取り巻きが消えると、江見に言葉を掛けた。
「行きましょう」
「かかり行くわよ」
 三人は、人が並ぶ最後尾まで戻り、カイの自宅、村長の家に向かった。村長の家は板壁で仕切られ、中の様子が見えない程の高さがあった。その板壁に沿って右側に向かえば村長宅の門が見えるが向かわずに、道なりに真っ直ぐ山の方に向かった。すると、赤い鳥居のような小さい門があり。その前の立て札に、神社関係者以外は立ち入り禁止と書かれていた。この出入り口は神社の巫女などが食料品などを買出しに使用している所だ。木々で何も見えないが、丁度、村長宅の裏に当たる。入ると直ぐに神社に向かう坂道と下ると祭りが催されている広場に行く事ができた。三人は太鼓が響いて聞こえてくる、坂道を下った。もう五分位前だったら巫女が亀の甲羅を手に持ち坂を上っていくのが見えただろう。
「おわー、何か配っているわね。あれを頂く為に並んでいたのね」
 森を抜けると、人々は何列も並んで炊き出しの様に順番に器を貰っているのが見えた。
「そうですよ。祝い物だから欲しがるが、数には限りあるのです」
「そうなの。残念ね。かかりは食べた事があるの?」
「無いよ。祭りに来たのも始めだから」
 かかりは、江見に問い掛けられたが、何も答える事ができなくて俯いた。
「江見さん。私と一緒なら並ばなくても頂けます。心配しないで下さい」
 カイは得意げに言葉を掛けた。
「そう、でもね。私、何をやっているか分かったから良いわよ」
「江見さん。本当に気にしなくていいのですよ。折角きたのだし食べましょう」
 カイは予定通り、江見が喜ばないからだろう。声色からも態度からも苛立ちを表した。
「でも、並んでいる子供に悪いわ」
 江見は、子供の泣き声のような言葉と子供に連れ添う親の冷たい目線を感じ取った。
 もし、カイと一緒でなければ並んで待て、そう言われながら叩き出されたはず。そう思うと、カイが居なくなった後の事を考えると、この場から早く離れたいと思った。
「江見さんは優しいですね。ここで待っていて下さい。今、持って来て上げます」
 カイは勝手に解釈した。江見は、回りの人に何かされる。そう思って恐がっていると、普通の人なら諦めるのだが、カイは違っていた。取り巻きと同じだと感じたのだ。虎の威を借りたい。そう思っているはず。取り巻き達も始めは、今の江見と一緒だった。恐いと言っていたのだった。だが、一度味を占めると、次回からは、自分から要求するように変わるからだ。カイは、江見から離れようとした時だ。かかりが驚きの声を上げた為に振り返った。恐らく、自分の分も欲しい。そう言うはず。そう感じる表情を浮かべていた。
「亀の甲羅だ」
「えっ」
 江見は、振り返り、巫女が甲羅を抱えている。それを見て、顔を青ざめた。
「ん、如何した亀の甲羅が珍しいのか、かかりの分も持ってくるから心配するな」
「カイ、まさか、亀の鍋か」
「そうだが」
「あっ」
 江見は探していた亀が食べられた。そう考え、めまいを感じた。
「江見さん、大丈夫ですか?」
 カイは、言葉を上げるよりも即座に体を支えた。それと同時にかかりが声を上げた。
「江見さんは、自分の亀を探していたのだよ」
「そうなのですか、江見さん」
「責めて、甲羅だけでも取り戻さなければ」
「甲羅が欲しいのですね。私なら何とか出来ますから心配しないで」
「江見さん、確りして、甲羅を取り返さないと駄目だろう」
 カイとかかりは、ほぼ同時に声を上げるが、正気に戻したのは、かかりの声のはずだ。それほど、真剣に殺気をも感じる言葉だったからだ。
「居ないわ。何処なの、さっき、巫女が甲羅を持っていたわ。行き先は分かる」
「ごめん。分からない」
 かかりは、何度も首を振って答えた。
「江見さん。私に任せてください。取り返して上げます」
「分かるのね」
「はい、分かります。私が言えば直ぐに返してくれますよ」
「何処、何処、早く、私の亀を取り戻したい」
「は~あっ、江見さんが、そこまで言うのなら直ぐに行きましょう」
 カイは、色気の楽しみもなく、遊ぶ楽しみも無い事に肩を竦めた。
「カイ、俺も行くぞ」
「いいだろう」
そう呟くと、江見に視線を戻した。
「江見さん、行きますよ。歩けますか」
「カイ、今来た道を戻るのか?」
 かかりは言わなくても分かる事を呟いた。それは問い掛ける。と言うよりも、江見の肩や腰に手を添える事に気持ちが許さない為と感じられた。それでも、許しているのは、自分では恥ずかしくて女性に触れる事ができない。もし、できたとしても、カイは気分を壊したら案内を断るはずだ。それに、江見は、自分の運命の人。赤い糸が見える者が隣にいる事で安心している。その姿を見ると何も言えなかった。
「そうだ」
 カイは、つい大声を上げてしまい、江見が不審な顔を向けた。
「何でもないよ。安心して、私に全て任せていれば大丈夫だからね」
「うん」
 江見は、運命の連れ合いだからだろう。何も心配を感じられない笑みを浮かべていた。
「何処に行く?」
「えっ戻るのだろう」
「上に行くぞ。神社にあるはずだ」
 かかりは、先ほどの赤い鳥居を抜けた所、三股に分かれる道でカイに指示をされた。
「神社だな、分かった」
 かかりは、江見に、かっこ悪い所を見せたと感じて、それを、隠す為だろう。やや早歩きで階段を登っていった。三十段位だろうか、登ると階段が無く、何かが有ったかのように小山で塞がれていた。この丘は、元々は城が建てられていたのだ。恐らく、この小山は砦の址だろう。もし、小山を登れば、兵を速やかに移動する為の道があるはず。だが、壊されているに違いない。それでも、痕跡は見る事ができるはずだ
「カイ行き止まりだぞ」
「左側に獣道みたいのがあるだろう。それを行ってくれ」
「分かった」
「江見さん。狭いですから一人で歩けますか、もし、駄目なら」
「大丈夫です。気持ちも落ち着きましたから歩けます」
 江見は、カイの言葉を遮った。何を言われるか分かったのだろう。いい歳の女性が男性に背負われる事が恥ずかしかったに違いない。
「本当に狭いわね。もしかして本当の獣道なのかしら、熊でも出たら恐ろしいわ」
「それは、大丈夫ですよ。獣道でないですから、人が歩く度に土が固まり、邪魔な木々が折られて道みたいになったのです」
「そうなの」
「そうです」
 先に歩いているかかりを心配する事無く話しをしていると、かかりが立ち尽くしているのを目に止めた。カイと江見には見えないが、かかりは階段の前で二人を待っていた。
「カイ、これから、どう進んだらいい」
「かかり、階段は使わない。階段を横切り、又、森の中に入ってくれ」
「わかった」
「え」
 江見は、不安を感じて、カイに視線を向けた。
「あの、ですね。このまま階段を登って占いを邪魔したら、理由を聞かずに叩き出されます。だから、私が、父の様子を見ながら声を掛けます」
「そうなの。信じていますから心配していませんよ」
 カイを先頭に、三人は森の中を歩き出した。
最下部の六章をクリックしてください。
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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