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第五章
 一人の女性が何故、雨に濡れながら歩いているのか、紋章入りの服装から判断すると供がいても同然な裕福な育ちと感じられた。
「雨は恵みの雨だが、このように何日も続くと嫌になるわ。えっ」
 夜と言うよりも、朝と考えて良いほどの時間だ。人が居るはずが無いと感じた。それもそうだろう。雨も降り止まないのだからだ。
「人形か」
 この女性は貴婦人のように見えるが目線からは戦士のように感じられた。だからだろうか、恐怖でなく敵意が感じられた。それを確かめるつもりでは無かったが、帰るには、この道だった為に近づいた。
「人だねえ」
 その人物の下に目線を向けると、陶器のお椀が置かれ、最低通貨が一枚入っていた。
(托鉢をしているのか?)
 そう思い、男の顔に視線を向けた。
「これから、私は軽く食事をしながら飲むのだが、付き合わないか?」
 この男は元々無表情なのだが、女性は雨に濡れて青ざめている。そう思い、自分が無視すれば人が通る時間まで体が持たないだろう。それで声を掛けた。
「私に言っているのか?」
 この男は驚いているのだろうか、表情からも声色からも感じられない。
「そうだ。他に誰か居るように見えるのか?」
 服装からは想像が出来ない。男性のような話し方で、男は驚いているのだろうか。
「むう、うっうう」
 何か考えている。悩んでいるようだ。
「私とでは、食事をしたくないのか?」
 怒り声を上げた。
「いや、違うのだが、女性と二人では何かと、不味いのではないかと考えていた」
 歯切れの悪い口調だ。
「ほう。私を見て色気を感じたのか」
「いや、違うのだが、何って言えば」
「坊やと食事をしても困る事はない」
 この男は坊やではない。二十代前半だ。そして、何かの宗教だろうか、マントの背に遺言命と、刺繍で書かれていた。
 男の話を途中で遮り、声を上げた。
「それでは行くぞ。後に付いて来い」
 女性はお椀を拾い。男の手を引きながら話し掛けた。
「何をしている。来い。酒も付き合えるな。飲めるのだろう?」
「遺言状、第一巻、第二章二十番と、第三章三十番。目上の好意は受ける事、女性の気持ちを尊重する事。にある。喜ぶべき事だ」
 無理やりのように歩かせられ、男は呟くが、雨音に消されて、女性の耳に届かなかった。
「ん、何だ。飲めないと言いたいのか、私の酒を断るとは始めて聞いたぞ」
 このような時間で、雨で人が居ない為だろう。遠くからも店屋の明かりが見える。女性は、男性を引きずるようにして明かりの元に向かった。
「親仁。飯をくれ、酒も頼む」
 常連の親父のような声を上げた。
「まいど、どうも」
 初めての客だが、親仁の癖に違いない。
「それと、悪いのだが、親仁の服と湯を借りたいのだが、金は払うぞ。この坊やに、な」
「貴女様はよろしいのですか」
「私の湯は良い。近くに家があるからな。部屋で窮屈な服を脱いでくる。その間に飯を作っていてくれ、私は直ぐ来る」
「はい。畏まりました」
「あっ」
 店主は驚き、一瞬だが声を掛けるのを忘れた。
 女性の言葉の通りに直ぐに現れたからだが、それだけでなく、先ほどが深窓の令嬢と思える服装から男女兼用の旅装服だ。普通の旅人なら着ても可笑しくないのだが、穴が開いてよれよれだからだ。
「お連れさんは湯に入っています」
「かまわない。酒をくれないか、あれも食事はまだなのだろう」
「はい。ご一緒に食べるのですね」
「そうする」
 店主と女性が話をしている間に、男が湯から上がって来たが、何故か、裏口の扉で立ち尽くしていた。
「おー上がって来たのか」
「何て言って、お詫びすれば良いのか」
「このくらいの事で気にするな」
「第五巻、第二章七番、人の睦言を聞いては行けない」
「ななっ、第、睦言。何、馬鹿な事を言っているの。早く、席に座りなさい」
 驚くと女性の言葉に戻るのか、それとも身の危険を守る為に男性のような言葉を使っているのだろう。
「お連れさんの体を考えて、やや冷たい汁物から出しますが、同じ物にしますか?」
 女性は顔を赤らめ言葉を無くしていた。その雰囲気を変えようとしたのだろう。立ち上がりながら言葉を掛けた。
「そうする。同じ物で良い」
 二人は食べ物の香りに負けたのだろう。調理場を見つめ続けた。そして、料理を出されると、一言も話す事も無く食べ続けた。
「酒は飲めるのだろう。礼の代わりに付き合って欲しい。それとも、貴方が信じる神では酒は飲めないのなら別だが、違うのだろう」
「おっ、付き合ってくれるのか」
 男は無言で杯を女性の目線まで上げた。
「若そうだが、何歳だ」
「歳か、何歳に感じる。貴女は、あっ、
 遺言状、第一巻、第一章、二番の注意事項は、女性の歳を聞かない事」
「何歳に感じる。ん、何の冗談だ。えっ、そうだな、二十歳位に見えるな」
「目は確かだ。二十歳だ」
 男の表情からは判断が出来なかった。女性が見える。それを俯いたように感じられた。
「おまえは、何処から来たのだ?」
「・・・・・・」
「言いたくないのか、そうか、これからの行き先はあるのか?」
「行き先は出来た。第一巻、第二章三番、例え、米粒一つの事でも義理を返す事。
 例え、行き先が地獄だろうと、貴女の護衛をします」
 男は酒を一気に飲み込んだ。普段は酒を飲まないと、言うよりも飲んだ事もない。まして、誰に勧められても飲まないのだが、女性から自分と同じ匂いを感じて、故郷の事を思い出しているのだろう。そう思う微かな笑みを浮かべていたが、全ての感情表現を知る事は、親以外には分からないだろう。
「ほう、面白い奴だな。義理を返すかぁ」
 女性の目が一瞬だが光った。この男の性格が分かったのだろう。そして、試してみた。
「私に義理を返すのだな、それなら飲め」
「そうだ」
 男は機械人形その物に見えた。杯の差し出す時間も、杯の酒を飲み終わる時間は、何度繰り返しても同じだった。
「酔わないなぁ。酒は強い方だろう。それとも、酔っているのか?」
(やはり何も答えないなぁ。試してみるか)
「私に義理があるのだろう。酒は好きか」
 女性の表情は子供が悪戯をする時のような表情を浮かべた。
「義理はある。酒は好きではない。感覚が狂い、眠気を催す。気にするな、美味いぞ」
 この男としては、最後の言葉は冗談なのだろう。だが、無表情で言われれば相手は気にする。それは分かっていないだろう。
「そうか、嫌いか」
(義理と言えば何でも話すのか、先ほどは答えなかったからな、もう一度試してみるか)
「私に義理があるのだろう。それなら、何処から来て何をしに来た」
「義理はある」
 男は女性の悪戯で全てを話してしまった。
 自分が訓の息子の由と言い。あだ名が遺言男と言う事から始まり。地球多次元世界から来た。そこは、無数の地球が存在するが月は一つしか無く、その月が生まれ故郷で、その
月には地球と同じ植物や動物がいる。その住人は蜉蝣のような羽と小指に赤い感覚器官があり。蜉蝣のような羽で次元を飛び。赤い感覚器官の導きで、連れ合い探す。その旅に出た事を話してしまった。
「ほう、赤い糸が繋がる異性を探す旅なのか、私と同じだぞ。あははは。だが、私には羽など無いがなぁ。お前の背中には本当に羽があるのか、その話は誰から聞いた。あははは」
 二人は、元は同じ同族だと知らない。
 男女の祖先は、まだ、通常空間の宇宙の月に植物や動物ともに月人が存在していた時の直系の子孫だ。だが、月に異常が起きて脱出したが、逃げ出す時に、偶然に次元の狭間に入ってしまい。そのまま、時の流れの次元の隙間に取り残されてしまった。その閉ざれた所で生存していた為だろう。連れ合いを探す事が出来るはずもなく、背中に蜉蝣のような羽が生えたのだ。だが、それでも、違う月だが月に住めたのは救いだったはずだ。この月に住む純粋な月人の生き残りが、この男だ。
 女性の方は、当時、月に無質転送装置があり。それで、無事に地球に着いた。その装置は簡単に言えば、月から地球までの重力を軽減するトンネルと思ってくれたら分かるだろう。そして、地球に逃げ延びて暮らしていたが、月人は、時が経つにしたがい子孫を残す力が衰えた。そして、様々な職種の担い手や自分の子孫を残す為に、動物と月人の遺伝子を使い擬人を造った。だが、猿の擬人だけ何も獣としての力が無い為だろう。擬人として信じられない程に慈しんだ。他の動物の遺伝子を使った人々を獣人と差別した。それだけでは済まずに、月人は、擬人が、獣人を怖いと言えば倒してまで、擬人の願いを叶うように手を貸し続けた。このまま係わっていれば、月人は、一人、二人と消えてしまう。そして、全ての同族が消える。そう考えた。だが、それだけで収まれば良いが、擬人が月人と同じ歴史を辿らせては成らない為もあった。それで、この地の全てを擬人に渡し、残りの月人は係わりを絶つ為に、都市だけで住み。都市を雲のように浮かべて空から見守る事を考えた。元々、月に住んでいる時は、月から地球を見守っていたのだ。それと、同じ様にしようと、都市の周りの地面を切り取り、周りの砂や土の時間を止めて船のように作り変えようとした。月に住んで居る時は、何でも無い事だったのだが、永い月日の為に知識や使用方法を忘れたのか、それとも、都市の機械設備の限界だったのだろう。成功しなかった。その結果が、異空間に都市が漂い浮く事になったのだった。その子孫が、この女性だ。
 この男女とも地球人類から連れ合いを探すのだが、蜉蝣のような羽がある男性は、より純粋な月人の血を探す為だろう。二人の共通する事は、赤い糸の感覚器官がある事と、遠い過去を忘れている事だ。何故に忘れたか、それは、最後に全機能が使用されてから数千年の時間もあるが、その時の使用目的だったはずだ。
「まあ、嘘でも良い。私の気を惹こうとしたと思うぞ。冗談も言えるのだな。あっははは、面白い奴だな。私を涙花と呼び捨てして良いぞ。なみだの涙、と、花と書いて、るいか。可愛い名前だろう。この名前で呼ぶ者は、お前を入れて二人目だ。光栄に思え。あっはは」
 女性は楽しそうに、男から聞き出していた。話し出す内容によっては真剣に頷きながら声を掛けていた。始めの内は自分の知らない血族と思っていたのだろう。だが、羽衣の話を聞くと突然に笑い声を上げた。赤い糸も嘘に違いない。自分に気を惹こうとして、外界に住む獣人の夢物語を話したのだろう。そう感じた。
「そろそろ夜が明けるな。私は少し寝るが、お前は如何する。宿は無いのだろう。私の所に来るか。宿と言っても自宅のような物だ。空き室があるぞ。来ないか」
「・・・・・・」
 遺言男は無言で頷いた。
「親仁。お代はここに置くぞ。釣りは良い」
 女性は紙幣を見せると、食卓の上に置いた。
「ありがとう。御座います」
 女性は楽しそうだ。男と会う前は雨具も使わず。雨に濡れながら歩いていたはずだ。よほど男との会話が楽しかったのだろう。それもそうだろう。世界中探しても男と同じような変人は居無いはずだ。心の底から笑いすぎて、嫌な考え事は忘れたに違いない。
「雨は止んだようだ。行くぞ」
 店を出る前に、男に振り返り言葉を掛けるが、後を付いて来ているのか気にも掛けずに歩き出す。その後を遺言男は顔を赤くして呟きながら歩き出す。
「既婚、未婚に係わらず。女性と二人で家に泊まる事は、遺言、遺言、遺言」
 父親も書き忘れがあったようだ。それとも息子と違い。父親は女性と二人で部屋に泊まる事が当たり前で、書き残す事が思い浮かばなかったのだろうか。
 最下部の第六章をクリックしてください。
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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