四つの物語を載せます
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第七章
枯れ井戸を中心に土で固めた家のような物が五件建てられていた。砂丘の上からは建物の中で四頭の馬が鳴いている姿が見えた。恐らく馬小屋だろう。奥行きがあるから十頭位は入れられるだろうか、それにしても何故、馬が鳴いているのだろう。そう思える姿で家人が別棟から出て来た。宥めるよりも辺りを見回した。普段は大人しいのだろうか、家人は首を傾げる。水か飼い葉の催促と考えたのだろう。馬を落ち着かせて二頭だけを放した。何故二頭だけなのか分からないが、馬はゆっくりと出て来て近くの草を食べる。段々と遠くに向かうが気に留めない。残りの二頭を宥めながら閂を閉める。突然に砂丘に目を向けたが、馬から知らされたのだろうか、家人は見慣れない物を見つけ、見つめ続ける。四人はそう思われても仕方がないだろう。馬も無く歩き旅にしては汚れてもいない。と言うよりも新品にしか見えない。そして旅装服にも見えないからだ。そして、家人は用事を思い出したのか、それとも殺気も感じられず、武器を持って無い事が見えたのだろうか、何事も無かったように家に入って行った。 「四頭いるな。これなら多分貸して貰えるだろう。直ぐに行こう。ほら、立ってくれ」 愛、蘭、乙は着いた事で安心したのだろうか、砂丘の上で座り込んでいた。甲だけは目が血走っている。目や表情からは早く恋人に会いたい。そう見えるが、恐らく早く済まして車の場所に戻りたいのだろう。 「はぁい、はぁい」 蘭だけが、嫌、嫌、声を上げる。二人が歩き始めると、愛と乙も付いて行く。 「ほう、これ家よねえ。土を固めた物よねえ。雨が降っても崩れないかしらねえ。蘭」 「もうー何を言っているの。固まったら溶けないの。愛、話しは止めなさい。聞こえたらどうするの。失礼よ。早く来なさい」 蘭は怒り声を上げた。当然の反応だろう。 これから交渉すると言うのに印象を悪くしたくない為だ。 「何の御用でしょうか?」 家人は話が聞こえ玄関に現れた。声色からだけで判断すると優しそうな中年と感じるが、髪と髭が覆われていて老年とも感じた。だが、目は人を殺した事があるような鋭い視線だ。視線が本心なら髪も髭も油断を誘う為だろう。四人は気が付かないが、武道を少しでも学んだ者なら感じるはずだ。 「あのう、ですね。言い難い話ですが聞いて頂けませんか」 甲は心底から困っているように思わせるが、誰もそう思わないだろう。だが、見方によれば御曹司が困っているようには感じられる。 「何でしょうか。もし、宿をお探しなら、小金を頂けたら空き家をお貸し出来ますよ」 家人は右手を隠して話を掛ける。恐らく背中に武器を隠している。そう思わせたいはずだ。邪な考えがあるか確かめる為だろう。 (何も感じないのか、武術を知らなくても分かると思うが、余程の腕の持ち主か、それとも本物の馬鹿なのだろうか) と、家人は思いを巡らした。 「どうしても、町に行かなければならないのです。ですが、馬に逃げられてしまいまして、出来れば馬を貸して頂けないかと、話に来ました。駄目でしょうか」 「ほう、それはお困りでしょう」 穏やかに話を掛ける。だが、疑いが晴れず背中に差してある短剣を握り締めた。 「出来る限りのお金を払います。あっこれをお金に換えに行くのです」 甲は現物を見せれば良い返事を聞ける。そう考えて塩の袋を見せた。 「ほう、海の塩ですか、それも一級品ですね。これだと金の十倍の価値がありますよ」 家人は手触りと味を確かめた。 「そうでしょう。それで相談なのですが、お裾分け程度の塩で保障として考えてくれませんか、後は換金した時に正規の値段を払いますから馬を貸してくれませんか」 甲は、家人が一瞬だが表情が和らぎ手答えを感じて上擦った。 「そこまで言われたら断れませんね。それで貴方が一人で行くのですかな」 「いいえ、三人で行きます。心配でしょうから、もう一つの保障として、この男を置いていきますので好きに使ってください」 仲間から苦情が出ないように一気に話しながら乙の背中を叩いた。 「えっ、そこまでして頂かなくても」 一瞬だが、襲われる心配をして断ろうとしたが、即座に話を持ち出された。 「それで、三頭の馬を借りたいのですが」 「三頭ですか、うっ、ん。良いでしょう」 (考え過ぎか。本当に油断を誘うなら手持ちの塩を置いていくな。まあ襲われても、この四人なら負けるはずがないがなぁ) 「好きな馬を連れて行きなさい」 家人が口笛を吹くと、二頭の馬が直ぐに帰ってきた。そして、二頭を甲に手渡しながら馬を与えた。やはり、先ほど二頭放したのは遊ばせる為でなく、もしもの時に危険を伝える為だろう。四人は気が付かないでいるが、世間話をする中でポツリ、ポツリ出てくる内容がそう感じられた。それは、自分はこの近くの水の管理と関所を兼ねていると、四頭も馬が居るのは伝書の為だと話をしたからだ。 「そのような大切な馬を貸して頂いても宜しいのですか、任務の支障は無いのですか」 「大丈夫です。一頭いれば足りますから」 家人は、そう伝えた。 (この甲と言う男は、代替わりになっての始めての仕事だろう。少し様子が変だが報告はしなくても大丈夫だな) 甲は安心した。話をして心を落ち着かせられた。そう感じた。視線が和らいだからだ。 「ああっ忘れていました。この男は乙と言うのですが、働きに渋るようでしたら、この菓子を与えて下さい」 と、言いながら酒入りのチョコレートを家人に手渡した。乙に視線を向けるが苦情を言わないのは馬に乗りたくないのだろう。それは馬が近寄る度に顔が引き攣っているのだから間違いないはずだ。三人は家人に分かれの挨拶をすると即座に行動に移した。 愛、甲、蘭は何も話さずに車のある場所に向かっていた。乙の為に目標物の確認と換金を終わらせて戻る為ではないだろう。ただ、馬から振り落とされない為なのかもしれない。「やっと着いたぞ」 甲はふらつきながら車に向かった。 「外界では、このような物に乗って移動しているの。信じられないわ」 「だけど、蘭、行きの半分の時間も掛かってないわ。馬に乗って来たから夕陽も見える事が出来るのよ。良かったわ」 だが、馬の方にも言い分がある。自分の周りに蚊のような機械が飛んでいるからだ。まだこの世界には機械など無い。始めて機械の音(人の耳にも聞こえないのだが、馬の方も聞こえたのでなく人口物を感じて恐れたのだろう)で死ぬほどの恐怖を感じたはずだ。 「蘭。それ位にした方が良いわ。馬だって好きで乗せていた訳でもないし、聞こえていたら本当に怒るかもしれないわよ」 「えっ、そうね。そうよね」 蘭は顔を青ざめた。先ほども死ぬ気持ちを味わったのに、本気で怒らせたら殺される。そう思っているからだろう。馬の手綱を持つ手が震えていた。 「ねえ、甲まだなの」 蘭は震えた声を上げた。甲から馬は臆病だぞ。大声を上げたら暴れる。そう言われたからだ。だが、甲の耳には届かない。夢中で車を馬車に見えるように装っているからだ。 (ほんとにっもぉー) と、心の中で悪態を付き、甲の所に行こうとしたが行ける訳が無い。馬車に装う作業の音。特に、金槌の音が聞こえ無い所で、逃げないように馬を捕まえているからだ。どうしようかと迷っている。馬から離れたい為に声を掛けた。それも馬を気にしながら何度もした。 「ねえ、ねえ。甲まだなの」 声が届いたのだろうか、それとも偶然なのか、甲が声を上げた。 「良いぞ。連れて来てくれ」 「愛、良いってよ」 「えっあっ、はい」 愛は空を見て惚けていた。 「お願いだから暴れないで歩いてよ。そう、そう、そうよ」 「ありがとう。馬を馬車の木枠に繋ぐから、もう少し捕まえていてくれよ」 甲が工夫をして馬車のように装ったが、ただ、車体を布で覆っただけだ。確かに車の後ろに木枠を固定して馬を繋げば、馬車に見ようと思えば見えなくもなかったが、大きさから見ても三頭では動かないだろう。それとも自力で動かすのか、それなら問題がないが後ろ向きで長距離を走れるか疑問だ。 「ねえ。甲、大丈夫なの」 愛は疑問を感じて問い掛けた。 「えっ何がだぁ」 「蘭も。そう思うでしょう」 「そうねえ。後ろ向きではねえ」 蘭は馬から離れる事が出来て、普段のような勝気の声色に戻った。 「あああ、その事なら大丈夫だぞ。手動なら「前方方向の運転席側だが、自動運転なら後ろ向きの荷台向きに動くからなあ」 「えっ何故そんな仕組みにしたの」 二人の女性は驚きの声を上げた。 「愛、そう言う事は聞かないのよ。甲の専攻職種の問題だと思うわ」 顔を顰めながら首を横に振っていた。恐らく話題にするな。と、言っているのだろう。 「おおお、良く分かるなあ。そうなのだよ。愛なら分かると思っていたがなぁ。星を見ながら行動したいだろう。私も地図を見ながら地形を見ないと行けないからなぁ。まさか蘭が、気が付くとは思わなかったよ」 満面の笑みを浮かべて話を始めた。 「その話は後で聞くわ。早く町に急ぎましょう。乙の元に早く帰らなければ行けないわ」 蘭は顔を顰めて話を逸らした。愛の問い掛けで気分を壊しているのに、その愛は荷台に座り夕陽を見ながら惚けていた。 「愛、良かったわね。夕陽もゆっくり見られて楽しみにしていたものね」 「はっ、出発するぞ。私は中に居るから、愛と蘭は確りと手綱を持って馬車のような感じに思わせていてくれよ」 甲の溜息は、二人の遊び気分に疲れを感じたのだろうか、それとも、愛車の傷の心配なのか、恐らく車の傷だろう。そう思えた。話し終えてから数分後に偽馬車は動き出した。辺りには、二人の女性の心の底から楽しんでいる会話が辺りに響いた。 三人が向かう先は飛河連合西国と言われる都に向かっていた。その国は幻の国と言われていた。何故、幻か。それは、獣人しか居ない為に、擬人が軍隊で攻めて来る者や邪な考えを抱く者を、獣人の嗅覚、殺気や心を読む力で感じ取り、都市中の獣人が消える事が出来た。その事に不審に思うだろうが、都市の生命線の河が不規則に流れを変えるのだ。砂の上を河が流れる為に酷い時は十キロも変わってします。その度に新都を造っていた。その為に、何か危機を感じたら旧都市に逃げる事が出来たからだ。その数も無数とは大袈裟だが、そう思うほど都市の跡があった。 「ねえ、甲。本当に町があるの。周りは廃墟しかないわよ。まさか、この車で一夜を過ごす事になるの。ならないわよね」 夕陽が沈んで、念願の満開の星空を見ていたが、何も変わらない事に気が付く頃だ。愛の気持ちを考えて、二人は無言でいたと言うのに、その本人が沈黙を破った。 「愛、そうでも無いと思うわ。 堀の向こうを見てごらん。最近まで住んでいたように新しいわ」 「そうなの。暗いのによく見えるわね」 「月明かりでも見えるわよ。建物が確りと残っているし、恐らく堀でなく河だと思うわ。 底の方に光っているのが見えるもの。河の流れが変わったのよ」 「そう。私は眼鏡だから見えないのかな」 「あっ愛ごめんなさい」 蘭は心の底からの悪いと思い謝罪をした。 「星も見飽きただろう。それなら、馬車の速度を上げても良いか」 二人の話し声が聞こえ、車内から問うと。 「ああ甲、良いわよ」 「ねえ甲、話を聞いていたでしょう」 「ああ、蘭の言う通りだ。河の流れが変わったようだ。五キロほど先に人体反応があるから住人は移ったのだろう」 「五キロなの。そう、まだ時間が掛かるわねえ。だけど、そんな時間に店屋が開いているの。本当に部屋に泊まれるのよね」 愛は話せば話すほど、険悪を顔に表した。 「えっあっあ、愛、流れ星を見たか」 甲は、愛に恐れを感じて話を逸らした。 (この女が一番怖い。表情や殺気が本物なら何をするか分からんぞ。この様な人が我を忘れて、原形を留めない程に殴り殺すのだろうなあ。何とかしないと不味いぞ。流れ星を探し疲れて寝てくれないかな) と、心で思いながら恐る恐る目線を向けた。 「えっ流れ星。ななんですか。それは」 一瞬で表情が変わった。目をキラキラさせえて、もう先ほどまで何で怒りを感じていたのかを忘れているようだ。 「仕組みなどを聞いているのではないよなぁ。知っていると思っていたよ。何て言えば良いのかな、星が動くと言うより流れるのだよ。見れば直ぐ分かるぞ。それよりも、擬人には面白い話しがあるぞ。流れ星が消えるまでに願いを言えれば叶うらしいぞ。試してみろ」 話し終えると、大きく溜息を吐いた。愛の顔色や様子で誤魔化せたと感じたのだろう。 (これで、明日の朝まで夢中で星空を見ていてくれよ。俺が流れ星に祈りたいよ) そう心の中で祈った。 「愛は何を願うの。ねえ愛」 蘭も女性だからだろうか、本当に楽しそうに話を掛けるが、愛は夢中で流れ星を探していた。町に入るまでは馬車の中も回りも静かだったのだが、流れ星が見つからなかった為だろうか、愛は喚き声を上げた。 「なな、何なの、無人じゃないの。これで人がいるの。これじゃ部屋に泊まるどころか食事も駄目でしょう。甲、絶対に何とかして」 愛が無人と思っても仕方がない。普通の町なら全ての家の灯りが消える時間ではない。それに、家々が粗末と言うよりも機能重視の簡易家だからだろう。夜だと人が住んでいないように見える。だが、三人は町の外側しか見ていないが、町の中心に行けば粗末な家がなくなり、開いている店もある事に気が付くはすだ。恐らく、故意に廃墟とは大袈裟だが、人を寄せ付けない考えだろう。住人全員が人付き合いを嫌っているか、それとも、襲撃を恐れているのだろう。町の造りでそう思えた。 「なあ、愛落ち着いてくれ、今日は馬車に泊まってくれよ。明日、塩をお金に換えたら好きな物も、好きな所を連れて行くからなあ」 「ぎぎゃあ、甲、変な事を考えているでしょう。寝言を聞きたいの。寝顔が見たいのね」 甲が何を言っても、愛は、我を取り戻してくれない。声は段々大きくなり、何を言っているか自分でも分からないのだろう。甲は頭を抱え座り込んだ。それもそうだろう。愛の叫び声が都市中に響いているはずだからだ。 最下部の第八章をクリックしてください。 PR |
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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