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今回最後の議題に入る」
 警報事件から二日経ち、都市の中が落ち着きを取り戻し始めた。その午後に人知れずに各部署の長が集まっていた。
「警報の件に付いてだ。現場の二人の告白書によると、女性は、貸し出し禁止の本を読む場合は、例の部屋の看視が義務とされていた。 そう、告白書には理由が書いてある。所長に確認して見ると、五百年以上も作動していない為に故障していると思われ、名目上だったらしい。それは、今回の件で不明の施設や故障と思われていた物が作動したから、女性の気持ちは分かるだろう。だが、我々は、この騒ぎで得た物は多いが、このような事が頻繁に起きては困る。それで、緊急非常警報を使用が出来ないようにするか、そのままにするかを決めて頂きたい」
 老年の男性は透明なガラスのような機器の前で、十八人の同じ年配の男女に問い掛けていた。部屋に居る男女は作戦会議室と思って使っているのだろう。確かに話の内容や雰囲気は近い。だが、元の用途は休憩室だと思えた。何故か、それは、一つだけ置かれている起動していない。その機器だ。それは、一般家庭に置かれている受信を受けて映る娯楽機器と思われるからだ。
 男性は話を終えたからだろう。一つ空いている椅子に向かう。自分には関係ない。後は勝手に決めてくれ、そう思える表情をしていた。その気持ちに気が付いたのか、椅子に座る前に、声を掛ける者がいた。
「貴方の部署は全て起動したから良いが、この都市の半分の機械は解らないままだぞ」
「その警報の事を、今話したはずだが、それとも、直ぐに決を採る事にするかね」
 椅子に腰掛けながら不機嫌そうに呟いた。
「そうね。早く決を採りましょう。あの騒ぎで忙しいのよ。皆さんも分かるでしょう」
 十八人は、誰の声なのかと顔を向けた。それもそうだろう。少女の声色とは大袈裟だろうが、少女が、大人をからかうような響く声だ。同年輩しか居無いはず。だから、驚くのも無理ない。その口調のまま、話を始めた。
「それでは、何かの処置をする。そう思う方は手を上げて欲しいわねえ」
 十八人は声色に聞き惚れているのか、それとも、本当に異議が無いのだろうか、誰も手を上げる者はいなかった。
「議題は全て終わりね。私は帰るわよ」
 老年の女性とは感じさせない声色の女性が席を立つと、他の女性も後に続いた。残りの男性は席を立つ事も無く、視線を送り続けた。やはり聞き惚れていたに違いない。
 全ての女性が部屋を出ると、部屋の男達も、一人、二人と出て行く。用事を思い出したと言うよりも、惚ける夢の度合いの深さのように感じられた。老年の男なら、幾人の美女を見ているだろう。それを夢心地にさせるのだから、あの年配の女性は余程、若い頃は美女だったのだろう。最後まで残る者は、今でも想いを抱いているに違いない。だが、最後まで残る者は、先ほど最後の議題を出した者だ。表情からは夢心地をしているとは思えない。もしかすると、部屋の鍵を閉める役目なのか、それとも、夢心地のまま、部屋に残り続ける者が居ると思っての事か分からないが、男は、一人になると笑みを浮かべた。夢心地になった男達を馬鹿にしたのか、その表情からは若い頃の夢を見ているように思えた。笑みが消えると、やっと腰を上げる。用事を思い出したのだろう。事件の起きた建物に向かった。隣のビルだった為に、疲れる事は無いだろうが、何故だろうか、顔色の表情には心底から疲れを表していた。そして、建物の中に一歩入ると、建物の中は悲鳴の声なのか、指示の声なのか分からない程の慌てようだ。水晶のような球が、点滅してから、全ての機器が動き続け、指示を要求していたからだ。その中を、先ほどの男性は他人事のように歩き続ける。自室に向かうのか、水晶の点滅を確認するのだろう。だが、向かわない。何を考えているのか地下に向かい出した。何か用があるのだろう。地下には倉庫、監禁室、配電室などがある。普段は入る者が居ない。まさか、警報を止める為、それとも、外界に居る獣に会いに行くのか、今は倉庫として使用しているが、当初は地、海、空の乗り物の駐車場だから、探せば乗れる物はあるだろう。
 それにしては倉庫の灯りを点けない。置かれている場所を知っているのか、壁沿いを歩けば、用途のしれない部屋でも灯りは点いている。だから歩ける。それとも、騒ぎを止める為に配電室に向かっているのか、警報機だけを壊す事は出来ないはずだ。
 さらに、地下に向かうと言う事は監禁室に向かうようだ。室に人が居るとすれば、酒色や口答では分からない者などを入れて反省させる場所だ。勿論、警察のような組織はあるが、建物や地域ごとが親族の集まりだから羽目を外す者がいる為に設けてあった。だが、本家や分家や家長などは無い。年配者を重んじる考えだけだ。この都市に生きる者は歳以上に、上を作らない考えで、大根一本と自動車一台も同じ価値だ。そして、得て、不得手に関係なく生涯の内に全ての職種を経験する決まりだ。全ての差別を無くし、心を丸く最高の人格者になる。そう決められていた。老年になると最後の学問で真実を知る事になる。月に人が住んでいた永い歴史の間に、差別を無くす為に様々な事を試されていたらしい。そして、財の差別は職種にある。と考えられ強制的に職種替えを考えた。だが、軍隊のような自我を無くす事ではない。評価を下げる事が目的だった。当時は、税率の上げ下げの目安とされ、一日の体験だけで行かない者がいたが、その者は、極端の税率上げや新しい職種で役職候補の者が、次の職種では格下げされる。地位も金もない者は、いずれ赴く職種を学ぶ事や助手を務めれば、福祉制度で最低限の生活が出来る。それが嫌な者は一度赴いた職種でも助手でなら仕事に就けた。
「コッ、コッ、コッツン」
 年配者の男性は階段を降り終えると、幾つかの部屋が並ぶと言うよりも、寝起きが出来る位の個室が廊下の両脇に並んでいた。
「おおおおい、誰かいるのだろう。ここから出してくれー。おおーい、出来ないのなら長老を呼んできてくれよー」
 成年に近い声色だが、泣き声に近いからだろう。子供がいても良い位の大人のはずだ。
 この者は、足音が聞こえ大声を上げたのだろう。だが、返事が無い為に扉を叩き始めた。
「まだ、丸一日過ぎてもいないぞ。普段のお前は、監禁室に入られたら評価が下がる。心底から恐れるのに、何を考えている。何の職種でも上位ランクなのに。何故、酒を飲むと職場まで持つ込み、飲み続けるのだ。二日酔いと分かる休み方や何を考えているのか突然休む者もいるが、それを、やれとは言わない。だが、休んで酒を飲まれた方がましだぞ」
 無視していたが、自分の事を呼ばれたからか、それとも、全く反省が感じられない声が聞こえて、無視できなくなったのだろう。
「普通の人の二日酔いの治し方は分かりませんが、私は二日酔いの時は酒を飲んで、飲んで飲み続け、そして吐き続けて、酒が見たくなくなるまで飲めば直るのです」
 声色から判断すると、この室から出たい為に、真面目に説得しようとしているようだ。
 長老と言われた者は歩きながら聞いていたが、立ち眩みを感じたようだ。一瞬足が縺れて振り向いたが、又、歩き始めた。
「長老聞いていますか。真剣に話をしているのに、何故、何も言ってくれ無いのです」
「お前は何度この部屋に入った。この部屋で酒を飲んだか、飲まずに直っただろうがー」
 信じられない話を聞いて怒鳴り声を上げた。
「・・・・・・・・」
 普段の長老は人の話を聞いているのか分からない表情だった為に、この男のように調子の良い者は言ってはならない事を言ってしまう。だが、この怒りようでは余程、男を期待していたのだろう。言った後は何事も無かったように右の通路を歩き始めた。そして、目的の場所に着いたのだろう。
「話がしたいのだが、良いかね」
 コン、コンと扉を叩きながら声を掛けた。
「気が向くまで、この場で待たしてもらうよ」
 普通の人は、このように落ち込むのだ。もう、何をやっても駄目。一生窓際族が決まった。そのように思い続けて開き直るか、好きな職種だけに赴くのが幸せと気が付く。
「誰だが分かりませんが、何の用ですか?」
「今直ぐに出してあげます。その前に話を聞いて欲しいのですが、良いかな」
「何の話です。私の人生は終わりました」
 死人のような声の為に、女性と分かるが年齢まで想像が出来なかった。
「その事で話に来たのだが、話を聞いてくれるかね。聞く気持ちがあるのなら扉の前に来てくれないか、歳だから聞き辛いのだ」
 少しの間だが待ってみると、何か引きずる音が聞こえ言葉を掛けた。
「来てくれたのだな」
 だが、声が返ってこない。一瞬大きな溜息を吐いて、扉に寄りかけながら話し始めた。
「貴女は何も責任を感じる事は無いのです。本を借りに来ただけだ。運悪く貸し出し禁止の本で偶然に事件が起きただけだ。
 この室に入れたのも。貴女の事を隠す為だ。この室に入ったのは誰も分かりません。ただ、貴女がこの建物に来たのは本を借りに来たのではなく。この建物の事件の使いに来ただけです。分かりましたか」
「それでは、私は始末書を書いた事も、そして、事件にも関係が無くなるのですね。分かりましたわ。それで、何時、この室から出してくれるのですか?」
 即座に、喜びに溢れた声が響いた。
「今直ぐに出して上げます。だが、今から話をする内容を、貴女の口で、長老に、全てを伝えて欲しいのです。出来ますか?」
「えっ」
(やはり無理か、仕方がない。この子と共に、私が直接行くしかないのか)
と、心で思い。又、話を掛けた。
「娘さん」
「そんな事で良いのですね。私の祖母ですから大丈夫ですよ」
 一瞬言葉を失くしたように見えたが、長老の言葉と同時に、又、良く響く声を上げた。そして、長老は、鍵を開けた。錯乱の恐れがないと感じたのだろう。
(ほー、あの人の若い頃に瓜二つだ)
 扉を開け、少女を見ると、言葉を無くした。
「如何したのですか、出ても良いのですよ」
「あの、眼鏡は返してくれ無いのですか?」
「私の手に掴まりなさい」
 声が上擦っているように感じられたが、そうだとしても、この女性に対してでは無い。老人が、若い頃の思い出の人と重なっての事だ。
「貴女が、あの方の孫なら何が起きたか分かっているだろう。ただ、一言、人手を借りたい。そう伝えてくれれば、それで良いのです」
 部屋と部屋の間の壁に、小さな引き出しが有り、娘を支えながら左手で開けて眼鏡を取り出した。
「眼鏡は、この建物を出てから掛けなさい」
 少し厳しい口調になったが、若い頃の思い出を隠そうとしたに違いない。
「でも、眼鏡を掛けないと見えません」
「私が手を引いていれば、誰もが客人と思ってくれるだろう。地下から出て来た。何て誰も思わないはずだ」
「そうですね。誤魔化せますわねえ」
 先ほどまでは事件や眼鏡の事もあって、顔を強張らせていたが、笑みを浮かべながら言葉を返した。一歩、歩くごとに怖いのだろう。左手で相手の右手を強く握り締めてくる。
「娘さん。私が左手を添えたら、階段などが有ると思ってください」
「はい、分かりましたわ」
 くすくす、笑いながら答えた。
 二人の様子は、深窓の令嬢と執事のように思えた。女性は、目が見えない為に真剣に歩いているだけなのだが、長老は、女性の為に足元を注意過ぎる程に見ている仕草は、心の底から傅くように感じられた。だが、この都市には主従の関係は無い。それでも、女性の気を惹こうとして良く遊びで見られる光景だった。その様子のまま、地下から1階、そして、正面玄関に出るまで続いた。
 後日だが、長老が流行に乗ると思えない人柄だからか、それとも、美しい女性だからだろう。今の二人の様子を、誰でもが知る話題になっていた。
「それでは、お嬢さん。先ほどの事をお願いしますね」
 正面玄関に出ると、長老は、言葉と同時に眼鏡を渡した。
 長老から、眼鏡を渡されると直ぐに自宅に向かった。そして、身だしなみを整え終わると、優雅に紅茶を飲もうとした時だ。何か思い浮かべて、突然に手を止めてしまった。
「女性ですから、身だしなみを整える時間は欲しいでしょう。整えしだい、なるだけ急いで、私の話を伝えて欲しい」
 その言葉が思い出された。
「さすがに、これは許されないわねえ。一口だけにしますわ。それ位は良いでしょう」
 誰も部屋には居ないが、聞いて欲しいのではなく。自分の心の言い訳だろう。
 そして、自宅の扉を閉める時に沈みがちの気持ちは、テーブルの上に置いたままの残りの紅茶の事。それとも、事件に係わりが無いのは本当の事だろうか、それが祖母の力だったら、何を言われるか分からない。そう思い悩んでいる表情をしていた。恐らく、紅茶を残した理由も、長老の言葉を思い出して残したはず。楽しみを残しておけば嫌な事が減ると思っての事だろう。おどおどしながら自分の職場であり。祖母の職場でも在る。建物に向かうが、途中で人と会えば視線を逸らす。人に会うのが怖いのだろう。突然に事件の犯人だ。そう言われる事が怖いのだろう。建物に入る時は、更に青ざめて、祖母がいる部屋に向かった。
「お婆様。御用があります。宜しいですか」
 扉を叩き、暫く言葉を待っていたが、返事が無い。仕方が無く又、大声を上げるが、声色には不安を感じて震えていた。
「入りなさい」
「はい」
 女性が扉を閉め終わると、同時に、温かみの無い声が耳に届いた。
「この部屋に来たと言う事は、手紙が来る前に家を出たのね。まだ、分別はあるみたいね」
「えっ」
 大きい溜息を吐き、胸を撫で下ろした。
「それで、何を言われてきたの?」
 祖母は、笑みを浮かべて声を掛けてくれるが、何かを隠している。そう思えた。
「お婆様に、私の口で直接に伝えて欲しい。人手を借りたい。その一言でした」
「それだけなの?」
「あっのう」
「貴女の事は、何も言わなかった」
 悩んでいると言うよりも、微かに怒りが感じられた。そして、直ぐに作り笑いを浮かべて、話しを掛けようとしたが遮られた。
「ああっあ、言われました。私は事件の現場には居なかった事にした。それから」
「全てを言わなくても分かっているわ。ただ、確かめる為に聞いただけよ」
「えっ、あっ」
 意味が分からず言葉を無くした。
 確かに、自分からは言いたくなかったのだろう。知っているのに何故聞くの。と、驚きの表情を表した。その表情を見て、孫を褒めるような笑みを一瞬だけ浮かべると、又、作り笑いと分かる笑みを浮かべ、問い掛けた。
「貴女は知らない振りをして、元の部署に戻るの。それとも、この事件を解決するの?」
「私の任期はまだ終わっていませんから、部署に戻りたいのですが、やはり格下げされて、別の部署に移るのですか?」
「何故、格下げと思うのです」
「誰もが思っている事です」
「任期間の途中の移動はよくあるのですよ」
「えっ、初めて聞きました」
「貴女は肉体労働の部署には、いつ赴くつもりだったのですか?」
「男性だけと聞きました」
 溜息を吐いた。歳だからか、それとも、呆れているのか、問いの答えを待っているのだろうか、言葉を待つよりも、話し始めるのだから、話し疲れたのだろう。
「それこそ噂です。全ての検査を年に二度するのは健康の検査と思っていたのですか。
 違いますよ。人生の内に全ての部署に就かなければならない事は分かっているわね。
検査の目的は、誰が、何キロ持てるかの基準の様な物。女性の場合は子を儲けた者は免除されますが、その代わりに、人事の緊急要請があった場合は必ず赴く事が決まっています。何故、このような話をしたか分かります。私の所では反省室と呼んでいる所に入れられたようですけど、貴女は、我を忘れて呟いた事を覚えていますか、これで自分の評価が下がった。人生が終わった。そう言ったそうだけど、貴女が居た部署は、逃げ組みと言われているのですよ。私は知っていて部署に入ったと思っていましたわ。評価で言えば下がる事は有っても、上がる事は無いわよ」
「私は、好きな部署から赴いて良いって、だから、そう言われたから」
 言われた事に驚いて、それ以上は言葉にする事が出来なかった。
「大抵の人は、若い時に肉体を使う部署に赴くわ。私が好きな部署からしなさい。そう言ったのは、貴女が糸の導きを信じる。そう言ったからです。神が導く道を歩く人だと思ったから、時の流れに任せるのだろう。だから、好きにしなさい。そう言いましたわ」
「私は、今の部署が終わりしだい。肉体を使う部署に赴きます」
「行きたいと言うなら止めませんが、そんなに評価を気にしているようだけど、何か考えがあるのですか?」
「えっ、考え。だって義務なのでしょう。私の歳では当然だって、だから、私は、私」
 今まで思っていた事が全て違う。そう言われたからだろう。顔を青ざめていたが、やっと気持ちを変えてやり直す決心を決めたのだろう。だが、再度の問い掛けを受けると、我を忘れて嗚咽を漏らして座り込んだ。
(何が行けないの。どうすれば良いの?)
 何度も心の中で考えるが答えが出ない。
「私が、貴女の歳の頃は、赤い糸を真剣に考えていたわ。だから、逃げ組みだったの。それで、手当たりしだいの学科や助手を受けて、出会った男の子に見えるか確かめたわ。あの時は、糸を腕輪型にすると出会う確立が高くなる。そう噂だった。男の子は皆同じ事を言うのよ。噂は男の子も知っていたのね」
 女長老は、我を忘れている女性を落ち着かせようと、思い出を話し始めた。それも、甘い楽しい思い出なのだろう。目が潤み、声色も優しく、少女のような声色とは大げさだが、耳に届いてくれれば、我を取り戻すはずだ。だが、我を取り戻さないからか、それとも、気分を害する事を思い出したのか、怒りを感じる声色に変わりだした。
「初めて違う事を言った人。貴女に言付けを頼んだ長老よ。何て言ったと思う。赤い糸は退化したが、元は身を守る武器と言ったわ。動物の爪や牙と同じと言ったのよ。うぁあああっあああ。今、思い出しても腹が立つ」
 女長老は元気付けようとしていたはず。だが、突然に怒りを表した。それは、花瓶を投げては喚き、近くの物や引き出しなどを撒き散らしていた。
「お婆様。落ち着いて下さい」
 女性は、我を忘れていたはずだ。長老の話も、この場の状況も目に入ってない。偶然と思うが花瓶が肩に当たった。痛みを感じたからか、体が痙攣を始めた。それから直ぐ、我を取り戻したが、痛みの為と言うよりも体の機能が危険を感じて、我を取り戻したように感じられた。
「あの野郎。会議の時も澄ましやがって、あの頃とまったく変わってない」
 女長老は、あの長老が余程嫌いなのだろう。一々憶えているのだから好きなのか、その事は別として、この都市の人々は赤い糸が見えない同士が半数位はいるのだ。何故か、老年の時に受ける。その最後の学問を取得した長老が説き伏せるからだ。
「あの、あの。お婆様。私の話を聞いてください」
 喉が潰れるほどの大声を上げた。
「ごめんなさいね。まさか物が当たったの。貴女の正気を戻そうとしただけなのよ」
 女性の声で直ぐに落ち着いたのだから話の通りなのか、だが、投げる物が無くなったから正気が戻ったとも思えた。
「何、話があるのでしょう」
 先ほどが鬼女なら、菩薩のような笑みを浮かべた。感情の切り替えが安易なのはこの人物が特別なのか、それとも、この老婆くらい歳を取ると当たり前の事なのだろう。
「長老様は、全ての職業の義務を終えたのですか、それとも、終えて無いのですか」
 親しい言葉で問い掛けようとしたが、先ほどの怒りが自分に向いたら命が無い。それで、言えなかった。震えた声が、そう感じられた。
「私は全て果たしたわ。あの男の話を聞いて疑問を感じてね。特に人生の大半は歴史を調べる事に費やしたわ。全ての職業は助手で済ましても、知りたい事はわからないまま、知らなくてもいい事ばかり分かったわ」
「全てを助手で終わらしたのですが、それでは評価は最低ですよね」
「そうよ。誰に何を聞いたかしらないけど、例えば、服や自動車が欲しい時は工場に申請して評価の点数で決められるでしょう。それは助手でも同じなのよ。ただ、時間が掛かるけどね。好きな分野というか、趣味で人生が生きられるわよ。そして、私は自分の趣味を職業として申請しているの。雑用役は派遣されて来るわ。勿論、私も雑用の派遣は赴かなければならないわ。私が言いたかったのは貴女が何をしたいのかよ。長老にも、全ての期間を最高の評価の人はいるわ。だけど、最終の職業というよりも学問でしょうねえ。それを受けて怒りを感じるのを通り越して、自分の人生は何だったのかと泣いていたわ」
「何故、泣いていたのです」
「最終の職業の事は言えない規則なのよ。
 だけど、最低肉体労度の経験は早く済ました方が良いわよ。そうしないと出来ない物や何かしたい時に申請が通らない事があるわ」
「分かりました。直ぐに赴きます」
 何もかもが、吹っ切れたような表情をして、部屋を出ようとした。
「そう、何所に赴くか知らないけど、今回の事件を担当してみない。それだと、肉体労働に、兵務の経験にもなるわよ。どう」
「兵務は経験したくないです」
 即座にでも部屋から逃げ出したい。そう思える表情を表した。
「運が良ければ外界に行けると思うわ」
「わぁー、それ本当ですか。私赴きます」
 女性は満悦の笑みを浮かべて即答した。
「それで、何所に赴けば良いのです」
「事件現場の建物よ。長老に会って聞きなさい。私が宜しく。と言っていたって伝えて」
「はい、伝えます」
 今直ぐに走り出すのでないか、そう思える様子で部屋を出て行った。
「ふっはー」
 一人になると深い溜息を吐いた。その後は独り言を呟いた。
「嘘は付いてないわ。でも、本当にあの子でないと、事件を解決出来ないのかしら、あの野郎の目の保養の為だったら許さないわよ」
 だんだんと不満を解消するような呟きに変わった。そして、自分の耳にも聞き取れない言葉になり、幼い頃を思い出しているような表情に思えた。
 女性は長老の部屋を出た後は、自宅の紅茶の事など忘れ、直ぐに事件が起きた建物に向かった。そして、建物の中の騒音の事など耳に入るはずもなく、嬉しそうに扉を叩いた。
「入りなさい」
 扉を叩く音と同時に声が聞こえた。
「失礼します」 
 嬉しいような恥ずかしいような複雑な表情をしながら礼を返した。恐らく、反省室での醜態を思い出したのか、それとも、外界に行ける喜びだろう。そう思えた。
「真面目な人だ。直ぐでなくても、何日か考えてからでも良かったのですよ」
「あのう」
(外界に本当に行けるのですか?)
 そう問い掛けようとしたのだろうが、遊び半分でするのか、そう、言われる気がして声を掛けられなかった。
「引き受けてくれて有難う。詳しくは明日、昼食を食べながら話そう」
「はい」
 即答で答えたが、部屋をでようか、問い掛けようか、迷っていた。
「貴女が思っている通り外界に行けます」
「えっ、本当に行けるのですね」
「驚いているようですが、貴女の考えが分かった訳ではないのです。外界に行くと言えば、皆は極端な反応を示します。貴女は承知してくれたのですから外界は好きなはずですね」
「はい、好きです。有難う御座います。私頑張ります。それでは失礼します」
「娘さん。明日の昼は、この部屋に来なさい」
「あっ、はい。済みません。済みません」
 場所も聞かずに部屋を出ようとして引き止められ、顔を真っ赤にしながら何度も何度も頭を下げながら部屋を出て行った。そして、念願の外界に行ける喜びだろう。興奮を表したまま、寄り道などせずに、自室に向かった。恐らく、外界の写真や資料を見て想像したいのだろう。だが、何故か、女性は自室に戻ると、湯を沸かす容器を見つめ続けている。年頃の女性特有の湯が沸く音でも楽しいのだろうか、それとも、先ほどの失態の事を思い出しているのだろうか、そして湯が沸くとさらに、嬉しそうな笑みを浮かべながら容器に紅茶の葉を入れて、湯を注ぎ入れる。目線はテーブルの上の本に向けて歩き出した。腰掛けて美味しそうに一口紅茶を飲んだ。その後は本を開くが、溜息を吐いて何度も本を閉じてしまう。何かを思い出しているのか分からないが、自分の耳にも届かない声で呟いた。
「早く、外界に行きたいなぁ」
 女性は外界を楽園と思っているのか、それとも、深い思い出が外界にあるのだろうか、それにしても、それほど好きな本が読めないとは、悪魔か、それとも、神に導かれている。そう思えるような陶酔しているような顔色をしていた。
 最下部の第四章をクリックしてください。
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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