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第二十三章
「良かった。墜落は間に合いそうだ」
 長老に連絡してから即座に機械の返答が帰ってきた。一つの家族が独断で操作が出来ない為に、機械に指示を要求しても、他家が許可を承諾しなければ動かない仕組みだった。
 安心したような言葉を吐いたが、表情が硬く必死に指示を打ち込んでいた。大きな溜息を吐くと、受話器に手を伸ばした。
「まだ、居てくれましたか、墜落は間に合いました。ですが、以前の状態にするのは無理と思われます。警報を止める作業と都市を維持するには人手が足りません。今なら外界に墜落ではなく着陸する事が出来ます。外界の地に降りる事を提案します。それから、都市の機能や警報の処置を取るべきです。都市の中で何人が細菌に感染しているか分かりませんが、この部署にいるのは、私一人です。他部署に連絡を取りましたが連絡がありません。恐らく、たぶん、この建物にいるのは、私だけかもしれません」
「分かった。降りる指示をしてくれ、候補地は選択が出来るのか?」
 この作業員は話をしている時間も惜しいと思える口調だ。長老は、早口や口調で話すのを聞き、余程、緊急と感じたのだろう。話を遮り、問い掛けた。
「三ヶ所だけですが選べます」
「ホッ。出来るのか」
「ですが、薬を調合する為に、必要な薬草を採取が出来る所は一ヶ所です。恐らく、私のように感染しない者は、一度でも外界に行った事がある者だけと考えられます」
「それでは、都市の殆どの人が感染するぞ」
「はい、そう思います。薬草の備蓄もないでしょう。都市の機能よりも、直ぐにも降りて、薬草の採取を優先すべきと思われます」
「頼む。人命を優先する」
「分かりました」
 電話を切ると直ぐに機械に指示を与えた。すると、即座に指示が実行された。恐らく、この男と同じ事を連絡したのだろう。指示が実行されて安心しているが、密閉の空間だからだろう。都市の八割が感染していた。公共の建物の中や外、自宅などで倒れたままの人が大勢いる。勿論、担ぎ込まれた者や自力で行けた者で病院は満員だ。都市が外界に現れて、一人の女性が驚きの声を上げていた。
「えっ、何故、都市が空にあるの?」
 嗚咽を吐きながら操作をしていたが、ふっとガラス越しに空を見て呟いた。
「まさか、父や長老が獣族を助けに来たの?」
 涙花だけが居る操縦室で声を上げた。都市は見えるが、船や都市のある方向に向かってはいない。船が向かう先と同じ東へ、東へと進んで行く。
「涙花。涙花」
 信は扉を叩く。始めは軽く、だが、扉が開く事も返事がない。何かがあったのかと段々と扉を叩く力が強くなっていった。
「えっ信なの。開けるから叩くのは止めて」
 やっと扉の音に気が付いた。数秒でなく数分だろう。
「どうした。皆が心配していたぞ。泣きながら室に駆け込んだ。そう言われたぞ」
「何でもないわ」
「そうか」
 信はまともな言葉を聞いて、自分も落ち着くのに少しの時間が必要だった。その為に落ち着くまで一人にさせた方が良い。そう思っていたが、知らせたい事があったからだ。
「涙花、変わった乗り物が近づいてくるぞ。友人の乗り物ではないのか?」
「そう見たいね」
「外を見なくても分かるのか、凄いなあ」
「だけど、獣では」
 涙花は、ある程度の距離を飛ぶと速度を落として、獣族を待っていた。その気持ちが小声で口から漏れた。
「えっ何か言ったのか?」
「いいえ」
 涙花は、信の方が悲しい事に気が付いたからだ。親も友人も死んでいるかもしれない事に、自分が同じ事になったら笑ってはいられないだろう。そう思ったからだ。
「なあ、涙花。一度止まって出迎えよう。皆も食事を取りたいと思うしなあ」
「し~ん。私もお腹すいていたの~」
 涙花は、信の気持ちに気が付いた。自分は機械で近づく物が分かる。だが、信は分かる訳がない。安全なら止まって、仲間が来るかもしれない。それを待ちたいのだろう。
「そうだろう。皆に知らせに言ってくるぞ」
 信は嬉しくて、室を出た訳ではない。普段のように甘い声色だが、何を話しているかを頭の中で考えなくても分かる口調だ。もう少し時間を置いて、自分から室を出るのを待つ事にしたからだった。
「おお泣いてないなぁ。降りたら食事だぞ」
 信は室を出ると、見回りのような事を始めた。もう一人の命も失いたくないからだろう。
「泣かないもん。僕がお母さんを守るのだからね」
「そうか、えらいなあ」
「お父さんとね。お祖父さんと約束したのだよ」
「そうか、約束したのか」
 そのように話をしていると、船が降りるような感覚を感じた。その同時に、人々のざわめきが聞こえてきた。
「気にしないでくれ、私は感謝される事はしていない。誰でもする事をしただけだ」
 その言葉の元に、信は向かった。その声は、涙花だった。
「涙花、今まで済まなかった」
「し~ん、なに、な~に」
「もう、武道家の振りも、男言葉も使わないでくれ、その左手の武器は、赤い飾り物を隠す為なのだろう。涙花は、あの時の森で会った人と同じ人なのだろう。いや、同じで無くてもいい。私の一生の連れ合いになってくれないか、今まで待たしたお詫びは、これから償う。許してくれて、一生の連れ合いになってくれるなら。はい、と言う言葉だけで良いから、涙花、心からのお願いだ」
「はい」
 身動きも出来ない通路だ。その周りには人に囲まれている。そのような所で、信に言われて嬉しいが、心臓が破裂するほど恥ずかしかった。その言葉を遮ってはならないと、周りは沈黙した。涙花は、顔を真っ赤にしながら微かな声で答えた。
「ありがとう」
 信は、嬉しくて抱きしめた。もう、皆の騒ぎ声の振動で船が壊れる。そう感じる位の声が響いた。もし、自動制御でなければ完全に墜落しただろう。その騒ぎではもう、涙花と信の話は、誰も聞いてはくれない。自分の事のように浮かれ騒ぐ、船が地上に着いてしまうと、もう誰にも止められない。もし、止めようと思う人がいれば殺されるだろう。涙花も信も、声を掛ける事も、椅子から離れる事も出来なかった。不満ではないが椅子に座っていると、一瞬言葉が止んだ。
「英雄の登場だ」
「ありがとう」
 人々が様々な感謝の言葉を上げて現れたのは、遺言男と、甲と乙だった。
「ありがとう。遺言男殿」
「ありがとう。甲殿」
「ありがとう。乙殿」
 涙花と信の前に、無理やりのように連れてこられたように感じた。そして、信の言葉を待っているのだろう。人々は静まり。信は緊張しながら簡単な感謝の言葉を掛けた。皆に無理やり連れられるように、甲と乙は二人の後から消えたが、遺言男だけは、皆から言葉を掛けられるが離れようとしない。皆は恐怖を感じたのか、変人と思ったのだろう。好きなようにさせた。遺言男は、二人の前に立ち尽くしていた。恐らく、涙花の言葉を待っているのだろう。
「ありがとう。遺言男」
「私は役目を果たしたのか?」
 遺言男は問い掛けた。
「そうです、ありがとう。好きなように寛いでくれ、本当にありがとう」
 そう、言葉を掛けると、何も言わず、表情も変わらずに、皆の中に入って行った。そして、自分の連れ合いを探す為に、赤い糸の導きを信じて、誰にも伝えずに旅に出掛けた。
この騒ぎは二日も続き、その昼、やや人々の熱気も収まったような感じた時に、涙花が、信に真面目な口調で話を掛けた。
「信が言っていた。王国には二日、いや、三日で着くわ。だけど、燃料は、そう言っても分からないと思うけど、四日位しか飛べないの。その後は、その国で暮らすの。それは擬人と一緒に暮らす事になるわよねえ」
「いや、その国では暮らさない。竜家の長老に言われた事だが、その国の王は、以前、飛河連合国に使いを寄越したらしい。その王は不老不死の薬と、その薬を探す旅に出る者を探しに来たそうだ。その王に薬を探しに行く。そういえば船などを用意してくれるらしい。その王には嘘を付く事になるが、皆で船に乗り、別な地で暮らす事を考えている」
「そう、いい考えねえ」
 そして、何事の無く王国にたどり着いた。涙花は、感情を表す事もなく、機械的に船を返す作業に没頭している。原始的な船旅が怖いのだろうか、それとも、信の話に王が承諾しないと感じているのか、ただ、外界での使用する時の燃料から、都市機能からの動力変換が面倒な作業なのか、複雑な表情からは全ての事柄に当てはめる事が出来る。
「お姉ちゃん、チョットいいかなぁ」
 扉を叩いたが返事が返らないからだろう。蘭が言葉を掛けながら扉を開けた。
「なっな、何でなのぉ」
「ごめんなさい」
 蘭は、姉の声の返事も聞かずに室内に入った為だろう。即座に謝罪した。
「信じられない。外界よ」
「えっどうしたの」
「え、何時からいたの。それよりも、都市が外界に降りているのよ。何か聞いていた?」
「私は聞いてないわよ。そんな事、お姉ちゃんは気にしなくて良いの。それに、何かあれば、甲の車に連絡が来るでしょう。心配する必要は無いわよ」
「それはそうねえ」
「私達、出発するわ」
「そう、あの男、やっと酔いが醒めたの?」
「そうよ。三日も掛かるとは思わなかったわ。酒って怖いわねえ。人格が変わると聞いたけど、あれほど変わるとは思わなかったわ」
「それで、もう部屋から出したの。遺言男が居れば、入れた時と同じく押さえられたけど、今は居ないわよ。大丈夫なの?」
「それは大丈夫」
「そう」
「それでは、行くわね。あっお姉ちゃん。何度も言うけど、何も考えないで船を送り返せばいいのよ。何かあれば、甲の車に連絡が来て、私達が面倒な仕事をするのだからねえ」
「はい、はい、そうします」
「涙花、涙花、直ぐに出発が出来るぞ」
 信は室に駆け込んできた。
「あっ、お兄さん」
「涙花、一族全てで行くと言ったら、千隻の軍船を使用しても、良いと言われたぞ」
「本当なの」
「お姉さん、行くね」
「あっ蘭さん」
「私達は行きます。お姉さんを宜しく」
「ありがとう。気をつけて、それで、涙花」
 信は、自分の要求以上に支度をしてくれる事に喜び、何も耳には入らなかった。
(ごめん、見送りは出来ないけど、又、会えるわよね。あなたの幸せを祈っているわ)
 涙花は、心の中で願った。
「それで、信。私、東へ行きたい」
「東へ、良いぞ。良いぞ。だが、明日中に出発してくれと言われた。余程、薬が欲しいのか、私達が襲撃にでも来たとでも考えているのだろう。直ぐに乗船してくれ、そう言われたよ。何日も待たされたら、どうしたら良いかと考えていたのに良かったよ」
「信、この船の事で何か言われた?」
「ああ、この船のお蔭だよ」
「まさか、この船と交換で千隻の船ではないわよねえ。それは無理よ」
「落ち着け、そう言う意味ではない。この船を崑崙の使い舟と言われた。この地に住む者も、祖先が崑崙の使い舟で、この地に来た。そう言い伝えがあるそうだ。そのお蔭で同族と思ってくれた。もしだ、この地で住みたい。そう言えば恐ろしい事になっただろう。私は、不老不死の薬を探す旅に来ました。だが、一族で行けるのなら承諾する。そう言った」
「そう、分かったわ。脅迫したのね」
 信の話を途中で遮った。急いでいるように感じられた。確かに、自動で船を都市に返す為の設定はした。船の自動起動する時間は迫っている。だが、そのような心配ではない。都市の事だろう。獣国のような危機が迫っている。そんな不安を感じているに違いない。
 
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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