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第二十五章
「甲、都市に帰って来たのよね」
「そうだ、目標点は、都市になっている。間違いないが、何が起きたのだろう?」
「やっとよ。来年は一緒に暮らせるから誕生日のお祝いは二人で選べるわぁ。だから、私の気持ちでは子供としては最後の誕生日のお祝いなの。もう誕生日まで九日なのよ。買えないのなら、別の所に行きましょう?」
 甲の夢であり。研究の為に、他空間の調査や都市の過去を調べていた。その為に、別の空間との誤差により、外界では、今年で八年、来年では十二年が経つ計算で移動をしていた。本当なら時間の時差が無いように、いや、甲は、時差など気にしないで研究したかったのだが、愛の為に、時差の計算していた。その理由は、歳の離れた連れ合いの為だった。
「あのうなぁ」
「なんなの?」
 愛は、乙の言葉を遮った。
「愛、都市を見て何も思わないのか?」
「思っているわ。だから、早く別の所に行きたい。そう、言いましたでしょう」
「そうだな、確かに、そう言ったな」
「ねえ、乙はどう思う」
 蘭は、ニヤニヤしながら問うた。
「あのう、何かが起きたと思います。調べなければ分かりません。そう思います」
「甲、そうだって」
「乙、チョット調べてきてくれ」
「私が一人で、ですか?」
「仕方が無いだろう。後九日しかない。リキの贈り物を早く探さなければならないだろう。俺は運転しなければならないし、まさか、蘭と一緒に居たいのか?」
「いいえ。違います。あの、帰って来ますよね」
「助かったよ。ありがとう」
 甲と蘭は、乙の話を最後まで聞かずに車外に追い出した。そして、この都市から消えた。
「あの、あの」
 乙は、車が消えたと言うのに、何時までも問い掛けている。そして、顔を青ざめながら辺りを見回した。恐怖を感じるのだろう。それも、そうだろう。出発する時の都市は塵一つ落ちてない。清潔な都市だったのに、今は苔や雑草が生え、虫や鳥の声が響く。乙には、その鳴き声が「美味しい食べ物がいるぞ」そう聞こえるのだろうか、びくびくしていた。
「まだ隠れている者が居たぞ」
「嘘だろう。おおお本当だ」
「おおい来てくれ」
「ななっななな」
 乙は驚いて声が出ない。槍や弓、刀を持ち、どう考えても都市の住人には見えない。
「怯えているみたいだなあ」
「大丈夫だぞ、心配しないでくれよ」
 男達五人は、作り笑いを浮かべながら近寄る。だが、乙には自分を捕まえる為に油断を誘っているとしか見えないからだ。一歩、一歩と近づく度に恐怖を感じた。そして、考えを巡らせる。殺されるなら痛みも一瞬だろうが、食べるのなら新鮮の方が良いはず。動けなくして、噛み付くのだろう。考えれば考える程に声が出ない。足も痺れたように動かない。無理やり足を動かした為に縺れて尻を付いた。もう、駄目だ。と感じて気絶した。
「大丈夫なのか?」
「何かの病気を持っているのか?」
「どうする?」
「連れて行かないと不味いだろう」
「俺は背負いたくないぞ。もしだ、病気だと」
「それ以上言うな。私が背負う」
「だが、主の所には連れて行けないぞ」
「そうだな、涙花様の所に連れて行くか」
 一同は用事があったのだろうが、不平な表情を浮かべながら都市から出る。都市を隠せるように森が広がっていたが、上から見れば丸見えだった。恐らく、都市は垂直に降りて来たのだろう。一同は森の中を進んで行くが、それほど歩く事も無く、近代的な建物と言うよりも、都市を小さくしたような避難船だろう。その中にいるのは都市の住人のはず。都市の住人は都市から離れるのが怖いのか、細菌が怖いのだろうか、恐らく両方と思える。それでも、全ての住人が入れると思えない台数だ。その中に居る者は細菌の抵抗が無い者の専用の物だろう。一同は船の棟の前を通るが、感心がないと言うよりも禁忌と思っている様子で通り抜けた。ほっとした表情を見せるが、通り抜けたからではない。自分達の村が目に入ったからだ。人の目線では全ての村の様子が分からないが、六つに点在して作られていたが、建物は同じ木製の簡易家だ。違いが有るのは扉の紋章だけだ。竜や羊などが描かれている。それだけが違うだけだ。一同は羊の紋章がある村に向かっていた。それも、一番精巧な羊が描かれている家に、そして、扉を叩いた。
「涙花様」
「何だ」
 涙花は長い間、男言葉を使っていたからだろうか、それとも、照れくさいのだろう。口調が苛立っているような話し方だ。
「都市の中に人が居たのですが、どうしたら良いか分からなくて連れて来ました」
「まだ居たのか、身体に異常がなければ、本人の意志に任せるべきだろう」
「診てくれますか?」
 涙花は、手振りで室内の椅子を勧めた。
「えっ何で、乙が都市に居る?」
「涙花様の知り合いですか?」
「そうだ。済まなかったな。後は、私に任せてくれ、仕事に戻ってくれて良いぞ」
「分かりました。何かあれば呼んで下さい」
「ありがとう」
(何故、乙は一人で居たのだろう)
「うっうう」
 乙は、意識を取り戻したようだ。
「大丈夫か、確りしろ」
「うっうぅ大丈夫です」
「何が遭った」
「あっ涙花さんですよね。ここは何処です?」
「私の家だ。安心してくれ、何が遭ったのだ。そして、蘭達はどうした?」
「何から話をしたら良いのか、そうですねえ、原因は、愛です」
「私を馬鹿にしているのか」
「違います、愛さんです」
「あああっ済まない。聞かせてくれ」
「はい」
 そして、乙は話を始めた。涙花と同じように、愛も赤い糸が見えると言われた事。そして、相手は十歳にも満たない者だった事。
「愛は一緒に暮らしたい。そう考えるよりも、その歳の開きを縮めなければならない。そう考え、大人になるまでは一年に一度しか会えない。そう言いました。そのような考えは普通なら浮かぶ訳ないのです。何故、それは、涙花さんと別れた後に、何気なく愛に尋ねました。愛は偶然に、蘭と甲の話を聞いたそうです。甲は、今回の使命を終えた後は、共に専攻した仕事。それは、都市の歴史を調べる事です。それに来て欲しかったのでしょう。興味を持ってくれるように色々な事を言っていたそうです。その話の中で、外界と都市の行き来だけでも普通の人よりは歳を取るのが遅くなる。甲の場合は回数も多い為に、一年もすれば二、三年の違いが有るそうです。自分では分からないが、親戚の子供が歳を取る事で違いが実感出来たらしいのです」
「それで、何故、一人残されたの?」
 乙が一息付いたからだろう。話が終わったと感じて問い掛けた。
「愛の連れ合い。リキと言うのですが、リキの誕生日が近づくと、贈り物を何にするかで、朝から寝るまで話し続けるのです。そして、何点か決めると、直接見に行くのですよ。今回は都市に来ました」
「そうなのぉ。廃墟になっていて、ビックリしたでしょう。それで、蘭はいつ来るの?」
 満面の笑みを浮かべながら問い掛けた。
「分かりません」
「そうか。お前、都市で待っていた方が良いだろう。もう来ているかもしれないぞ」
 不機嫌な気持ちを男言葉で表したように感じられた。
「あのあの、そのあの。獣国の事は聞きたくないですか、一年毎に三回、違う、ええ、外界だと、一年毎に来ていましたから、それで良ければ話しましょうか?」
 都市に捨てられたくない為に必死に話題を考えた。
「本当なの。皆の消息が分かるのねえ。それなら、皆に知らせなければならないわ」
「チョット待って下さい。消息なんて分かりません。どうの様な状態になっているか、それ位しか分かりませんよ」
「そうか、聞かせてくれないか」
「その前に、此処に二週間位、居させて下さいよ。お願いです」
「私の一存ではなんとも、それで良いか?」
「良いです。考えてくれるだけで嬉しいです。
 それでは話しますね。涙花さんの時間では、一年毎に獣国の周辺に行っているのですよ」
「ああ、リキの住む町だな」
「そうです。時間のずれがあるので、何月何日と確実に、その日には着けないのです。それで、一週間位前には町の近くで誕生日まで時間を潰します。その時です。
「逃げられたのか安心したよ」
種族は分かりませんが、そう言いながら男が現れたのです。私達の顔を覚えていたのではなくて、車を覚えていたらしいです。その時は何も言ってくれませんでしたが、又、一年後来る事を知らせました。勿論、同じ人が来てくれましたよ。その人の話によると、涙花さんの船が視界から消えても、完全に追いつけない時間を確保してから、ばらばらに逃げたそうです」
「そうかありがとう。何も分からないままだな。お前は都市で待って居た方が良いぞ」
「まだ、話は終わっていませんが、良いのですね」
「あっほら、あのなあ。蘭達が帰って着ているかもしれない。そう思っただけだ、帰れと言った覚えは無いぞ」
 涙花は、慌てて必死に繕った
「そうですねえ、涙花さんを信じています」
「もったいぶってないで話せ、考え直すぞ」
「私は聞いたのですよ。西国の人に見付ったら大変でしょう。そう言いましたら、
「心配はしなくても大丈夫だぞ。我々の事よりも、自国の勢力争いで忙しいからな」
そう笑いながら言っていました。そして、帰り際に、もし信さんと会えたら伝えて欲しい。鍵を渡したい。そう言えば分かる。男と会う度に何度も言われました。
「そう、ありがとう。そう言うと思うか、それは何年前に言われたぁ」
 涙花が掴み掛かる。その気持ちは心底から分かる。危険で無いと言ったとしても、自分が恐怖を感じ、仲間が死んだ所だ。好んで来たいはずがないだろう。
「うっう、きょきょぉ去年も言われました」
 乙は首を絞められて声を出せないが、一言上げると、涙花は理性を取り戻した。乙は手を緩められると、一気に声を吐き出した。
「それなら、今年も来るかも知れないな」
「げっほ、げっげげっほ。そう思います」
 涙花は怒り顔を表しながら問うた。それを見ると、乙は、死に物狂いで息を整えた。
「なんとかして、連絡は取れないのか?」
「連絡が取れても、私の話を聞くと思えないですよ。それに、私しか男の話は知らないです。私は緊急の事だと思い伝えたが、耳に入っているか分かりませんよ。あの方達は」
「ふーう」
 何も言葉が思い浮かばないのだろう。大きな溜息を吐いた。
「あっ、都市の機能が使えるなら通信をしてみては、来るとは思えないが、探していた贈り物が見付った。そう言えば来るかも知れないですよ」
「無理だ。都市の様子を見て分かるだろう。もし、正常に機能が動いたとしも、操作が出来る者は居ないはずだ」
「そうですか」
 乙は都市に置き捨てられる。そう恐怖を感じながら、甲達が帰ってくるのを心の底から祈っていた。その祈りが届いたのか、甲達は、乙の話題を挙げていた。それも、リキと初めて会った公園。その国に向かう砂漠で会った。
 最下部の二十六章をクリックしてください。

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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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