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第二十七章
 愛に殺されるかもしれない。乙は、悩み悩んで、一歩も進める事が出来なかった。
「う~ん、どうしよう。毎年、適当な菓子を用意するのだが、今回は、そのような時間が無かった。これでは、馬を貸して貰えないだろう。う~ん、時間に遅れても、馬を連れて行かなくても、馬を盗んでも殺されるかもしれない。どうしたら良いのだろう」
 乙は、頭を抱えながら座り込み、泣きながら呟いていた。
「どうせ、殺されるのだ。盗むしかない」
死にそうな顔で立ち上がった。そして、神からの贈り物だろうか、ポケットから何かが落ちた。金属の音が耳に入り、不審そうに、それに視線を向けた。
「懐中時計、愛が持ち忘れたのかぁ。これで、頼んでみよう」
 もう、夕陽が沈みかけていた。乙の目には、向かう家しか入っていない。恐らく、自分が二時間近くも悩んでいた事も、今の正確な時間も分かっていないだろう。そして、駆け出し、家の扉を叩いた。
「はい、今開けますよ」
 その言葉の後に、家の中で囁き声が響いた。
「婆さん、やはり来たぞ」
「私の事よりも、開けるのが先でしょう」
 乙には室内の声が聞こえなかった。それで、もう一度、扉を叩こうとした。
「今年も来ましたね。待っていましたよ」
「済みませんが、今回は、この懐中時計で馬を貸して貰えないでしょうか?」
「変わった品物ですなあ」
「なんですのぉ。甘い物、辛い物、なんですのぉ。美味しそうな物なのでしょう」
「今回は懐中時計と言う物らしいぞ」
「済みません。来年は必ず。食べ物を持ってきますから、馬を貸して下さい」
 乙が、余りにも低姿勢な態度だからだろう。老夫婦は、不気味な笑みを浮かべた。
「まあ、中に入って下さい」
「あのう、分かりました」
 乙は、毎年菓子を渡すと、直ぐに帰るのだが、今回は懐中時計の用途などを教え、馬を借りる為に説得しようとした。
「ほう、太陽の位置が分かるのですか?」
「そうでなくて、時間が分かるのですよ」
「おお動いているぞ」
「馬を貸してください。返しに来た時に、どの様な事でもしますからお願いします」
「ふぅ、ゆっくり出来ないのですか、良いですよ。今度は話を聞かせてください。今日は楽しかったのですよ」
「済みません。お借りします」
 老夫婦には簡単な挨拶で済まし。死ぬ気で愛の元に向かった。やはり、愛はやはり車外で待っていた。遅くなり殺されると思っていたが、愛は泣いていた。乙には分からないのだろう。愛は約束に遅れるからでも、会える時間が削られる為でもない。もし、時間に遅れて居なかったら、それが怖いのだ。早く着く事が出来れば、自分から声を掛けられるが、遅れたら声を掛けられない。いつも怖いのだ。歳も離れ、私だけ歳を取らない。怖がれる事もなく、毎回、毎回、満面の笑みを浮かべ話を掛けてくれる。
「お姉ちゃん、早いねえ。今度は、僕が待っているからねえ」
 そう言って笑ってくれるから、話が出来るのだ。それでも、笑みを見るまでは、心の中で化け物。そう言われる事を恐れていた。愛が、今までの事を振り返っていると、
「愛、遅れて、ごめん。泣かないでくれないか、まだ、間に合うのだろう」
「話をしている時間が惜しいわ。だけど、これだけは言っとく、女の涙は高いのよ。あなたは、女性の涙の原因で、女性の涙を見たのですからね」
「うっ」
 愛は視線で殺せるような目で、乙を見つめた。乙は、まるで、蛇に睨まれた蛙のようだ。
「蘭、愛は泣き止んだようだぞ」
「甲。駄目よ、出ないで、石にされるか、死ぬかよ。女が泣いた後は、満面の笑みを浮かべるか、殺されるかなのぉ。そんな事も分からないの。女の子を泣かせては駄目。そう、親に言われなかったの?」
「乙が帰ってきたから笑っているかも」
「本当に馬鹿ねえ。殺気を感じないの?」
「殺気」
「そう。甲、乙に言った方が良いわ。愛が帰る前に、何所かに消えた方が良い。とねえ」
「大袈裟だろう」
「それ程の事なのよ。女の涙はね」
「分かった。伝えて来るよ」
「まだ駄目よ。死にたいの、この殺気の状態では二時間位は出られないわよ」
「乙は死んで居るのでは無いのか?」
「台風の目と同じよ」
「台風の目?」
「そうよ。殺気を放って、自分が死んでは困るでしょう。だから、自分の中心では何も起きてないのよ。乙は中心にいると思うわ。それだから、まだ生きているはずよ」
「そうなのか?」
 甲は半信半疑だったが、蘭だけが感じたのでは無い。まだ、信達も近辺に居た。
 最下部の二十八章をクリックしてください。
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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