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第三十章
 甲は、恐る恐る馬を引いていたが、月明かりに目が慣れたからだろう。夜でしか味わえない静けさと言うか、星に魅入られたような微笑を浮かべている。楽しむゆとりがあったからだろう。井戸に座り込む、乙を見付ける事ができた。
「ほら、帰ってくれ」
 そう馬に声を掛け、手綱を放した。そして、心の中では、乙に気付いてくれ。そう思った。そして、乙は、馬の嘶きが聞こえたからだろう。老夫婦の家の灯りがともり。直ぐに、老人が家から駆け出してきた。自分の馬を見付けるよりも、乙を見付け近寄った。何故、井戸の前に座っているのか分からないが、落ち込んでいるように感じられた。
「どうしたのだ。大丈夫か?」
「馬を返せないし、行く当てもない」
「ほら、馬ならいるだろう」
「自分で帰ってきたのか?」
 生気が抜けたような声を上げた。
「行く所がないのか、それなら、私も歳だから力仕事も辛い。一緒に住まないか、良ければだが、私の息子と考えてもらってもいい」
「え、こんな、私をですかぁ」
「ごめん遅くなって、乙、迎えに来たぞ」
 甲は、変な好奇心を抱いた為に、様子を窺い、話を掛けるのが遅れた。
「えっ」
「良い、忘れてくれ」
 甲が現れると、老人は泣きそうな声を上げた。そして、手綱を手に取り自宅に向かった。
「乙、行こう」
「ごめん、俺、この地に住むよ」
 甲に、そう言うと、老人の所に駆け寄った。
「乙、もし、帰りたくなったら」
「爺さん、居ても良いのだろう」
「本当に良いのか?」
「甲、大丈夫だから気にしないでくれ」
 乙は、振り返り、簡単な別れの挨拶をした。
「分かった。それなら、帰るぞ」
 甲の最後の言葉は、二人の耳には入っていないだろう。本当の親子のように笑いながら家に向かったからだ。甲は、二人が家に入るのを見届けた。その後は悲しそうにうつむきながら、愛達の所に向かった。
「甲、乙はどうしたの?」
「養子になるから帰らないそうだ」
「乙が養子」
 蘭は、甲がうな垂れていた。その為に、それ以上の問うのを止めた。
「都市の跡に行くのですね」
「東国ではなくて、建設途中の」
「はい、東国の南方の建物跡でしょう」
「ああ、そうです」
「直ぐに動きますから椅子に座ってください。良いですか、行きますよ」
 甲は、そう言った後、皆の安全の確認もとらずに機動させたのだろう。一瞬機動音が高く響いた。すると直ぐに、甲は席から離れた。恐らく着いたのだろう。皆は必死に安全帯を締めている途中だった。
「甲、何を考えているのよ」
「えっ」
「着いたのか?」
 蘭は突然の発進に怒りを感じた。そして、男女四人は都市跡に着いた事に驚いた。
「言われた通りの場所に着きました。私達も忙しいのです、直ぐに降りて下さい」
「忙しいのに済まない。何かあった時には出来る限りの事をする。それで、許してくれ」
 信が、全ての責任を引き受ける。そう思う気持ちを心で決め、真っ先に声を上げた。
 他の三人は不満を表していたが、涙花はふっと、蘭に耳打ちした。
(ごめんね。二人で居る所を邪魔して、許してねえ。優しくして上げなさい。そうしたらね。直ぐに機嫌が直るわ。うっふふ)
「もうお姉ちゃんの馬鹿」
「別れの挨拶が済んだのなら、出掛けるぞ」
「良いわ。どこに行くの?」
「この車の本当の使用目的に使う」
「私行きたい所があるの。もう、誰にも係わりたくないから、小さい無人島に行きたいわ。そこで、色々楽しみましょう。そこで、一緒に飲もうとした。あれを、飲みましょう」
 この言葉を最後に、この地を後にした。乙が一瞬笑みを浮かべたが、自分以外に誰も居ない。それは、自分が、使用人のように扱われる事を分かっていないだろうか。
「涙花、済まなかったな。妹さんには、借りを必ず返すからな」
「いいのよ。楽しんでいるのだから」
「そうなのか?」
 そう言うと歩き出した。
 四人が降ろされた所は都市の中では無く。都市外、周りは砂ばかり、砂の海に浮かぶ船。と言うより、竜の細長い背に巻き付かれ空を飛び立つよう形の都市だった。その都市の景観を見惚れたのだろうか、それとも、竜の大きさだろうか。四人は、威嚇のように口を開けたままの入り口、竜の口に向かった。口の前に来ると、信が問い掛けた。三人は惚けているのか、三度も同じ事を口にした。
「それで、長老は何番と言った?」
「剣に印が付いているでしょう。重大な言葉よ。声を上げる事が出来ないでしょう」
「そうだったな。済まない」
「機動後は、自分で変えろ。そう言っていました。信以外の人が剣を手に入れても、一度しか機動できないようにした。そうですよ」
「何だ。別の鍵があるなら真剣に剣を守らなくても良かったのかよ」
「道。あんたねえ~」
 花は満面に怒りを表した。
「ごめん、神聖な物ですから当たり前でした。だけど、凄いですよねえ。甲殿の車がそのまま、通れそうですよ」
「通れるぞ。この中に、我の猪の獣機も、他家の獣機が収納されているからな」
「凄いですね。凄いです、花が乗る猪の獣機が見てみたいです」
 信は、花が道をたこ殴りにされるのが見たくなかった。と、言うよりも、この場を荒らされたくなかったのだろうか、それとも、涙花が、竜家の長老が死んだ。それが確かなのを知り、涙を流している。その姿を見たくない為に思えた。
「涙花、羊の宝。獣機を直接見られるのだぞ。私でも見た事がないのだ。見たいだろう」
 信は、一瞬だが、涙花が興味を感じた。そう思い。微笑みを返した。
「うん」
「そうだろう。鍵を開けるぞ」
 信は、剣に書かれてある。参。と書かれた数字を憶え。竜の口に入り、歯と牙を探った。
歯と牙には数字が書かれていた。信は、参と書かれた歯を見付けると、横に動かし、剣型の溝が現れた。
「舌が動くから、一度外に出てくれないか」
 剣を刺すと、舌が中に入るにしたがい、喉奥が開いた。
「いいぞ」
 そう言うと、三人は中に入ってきた。そして、薄暗い長い通路を四人で進んだ。もう少し明るければ、即座に周りの物を見て、悲鳴か歓喜の声を上げたはずだ。
「あっ」
 涙花が驚きの声を上げた。
「何だ。もう気が付いたのか、両脇にある物は動くのだぞ」
「えっ、全てなの」
「そうだ。十二種族、全ての獣機がある」
「だって、あの戦いの時に使われたのに、何故、西国の獣機が、この場所にあるの」
「それは、西と東に分かれる時に、西国の要請で何台かを持ち出したらしい。その時の西国の者は獣に変身できる者が少なくて、軍事力の関係の為に仕方が無かったらしい」
「そうなの」
「ああっここだな」
 脇に、下に降りる階段があった。外側から見れば、右手に持つ玉の部分に行く階段だ。
「先に起動が先だな。それから医務室だ」
 円形の室の中心の床に、竜が描かれていた。その口に溝があり。そこに剣を刺した。と同時に、全ての照明と機械が起動した。
「医務室は最後尾だな。一箇所しか無いのか。ん、移動医療機もあるのか」
 信は、機械操作をしていない。剣を触っているだけで、脳に情報が流れる仕組みだ。
「音声入力に切り替えだ」
 信は情報に基づき、そう声を上げた」
「鍵番号を変更しますか」
(六番に変更する)
 そう、頭で考えた。
「変更を確認しました。音声入力を起動します。医療機を起動します」
「浮上しろ」
「小型診察機を、この場によこしてくれ」
 船の返事だろうか、振動し始めた。
「甲さんの乗り物で忘れていた。直ぐに席に座れ、気持ち悪くなるほど揺れるぞ」
「うっわあ」
「何だ、止まったぞ」
 振動が直ぐに止まったのは、都市に巻き付いていた物が、解け、浮いて止まったからだ。
「外の様子を見てみろ」
「おお凄い。浮いているのか、これが、外の様子なのか。凄いぞ、凄いぞ」
 竜は雲のように浮き。手に持つ球が、乳白色から透明に変わった。室内から見れば上、下と、全ての外の景色が見る事が出来た。そして、診察機が、現れ、花を診察した。その結果を、信だけに伝えられた。
「道、楽しそうだな。もう一つ良い事を教えよう。花の身体は元のように治るぞ」
「本当ですか」
「ある程度の時間は掛かるがなぉ」
「うっう、ありがとう、ありがとう」
 余りにも嬉しくて涙を流した。
「感激しているのに悪いと思うが、一週間後に、この地を出る。それを」
「分かっている。全ての人に言えないが、ある何人かに言えば伝わるはずです。私は直ぐに出掛けますから、花をよろしく」
「わかった。あっ、それと、花と同じような人がいれば、手を貸す。そう言ってくれ」
「分かっていますって、それでは行きます」
 最下部の最終章をクリックしてください。

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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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