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第二十四章
 涙花の希望だけでは、ある島国に行く事は出来なかっただろう。元々、この国の王が何十人の者の学者などに、その島の薬草が効くと聞き向かわせる予定だったのだ。その者達は軍人だったが、恐らく、監視も兼ねていたのだろう。それでも、航海術に優れていたお蔭で、船の事には素人の獣族でも航海する事が出来た。島と言えない所でも調査をして、時には住める島では病人などを降ろしながら島に向かった。素人の集まりだからか、調査の為だろうか、その島に着いたのは二年も掛かった。直ぐに全ての船を陸に付けて上陸はしなかった。だが、病人は別として、船団を三方に別れる事にした。この島に住む事を考えていたが、先住民族がいる事を前提に一方は直ぐに上陸して病人や定住の準備の為に、もう一方は北に向かい。上陸ができそうな所で、上陸して、さらに北に向かう。涙花の同族を探す為だった。最後の一方は島を一周して、理想の定住地を探すのが目的だった。
 そして、涙花の同族を探す者達は、都市を見付ける。涙花が船を持ち出してから三年が経っていた。そこで、涙花は驚く事になる。都市の住人は一割にも満たない数だったからだ。それも、細菌を恐れ、怯えて暮らしていた。その地に、信の一族が供に暮らす事を考える。理由は涙花の同族だと知り、今度は自分達が、涙花の一族を守る。恩を返したい。そう考えたからだ。
 最下部の二十五章をクリックしてください。

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第二十三章
「良かった。墜落は間に合いそうだ」
 長老に連絡してから即座に機械の返答が帰ってきた。一つの家族が独断で操作が出来ない為に、機械に指示を要求しても、他家が許可を承諾しなければ動かない仕組みだった。
 安心したような言葉を吐いたが、表情が硬く必死に指示を打ち込んでいた。大きな溜息を吐くと、受話器に手を伸ばした。
「まだ、居てくれましたか、墜落は間に合いました。ですが、以前の状態にするのは無理と思われます。警報を止める作業と都市を維持するには人手が足りません。今なら外界に墜落ではなく着陸する事が出来ます。外界の地に降りる事を提案します。それから、都市の機能や警報の処置を取るべきです。都市の中で何人が細菌に感染しているか分かりませんが、この部署にいるのは、私一人です。他部署に連絡を取りましたが連絡がありません。恐らく、たぶん、この建物にいるのは、私だけかもしれません」
「分かった。降りる指示をしてくれ、候補地は選択が出来るのか?」
 この作業員は話をしている時間も惜しいと思える口調だ。長老は、早口や口調で話すのを聞き、余程、緊急と感じたのだろう。話を遮り、問い掛けた。
「三ヶ所だけですが選べます」
「ホッ。出来るのか」
「ですが、薬を調合する為に、必要な薬草を採取が出来る所は一ヶ所です。恐らく、私のように感染しない者は、一度でも外界に行った事がある者だけと考えられます」
「それでは、都市の殆どの人が感染するぞ」
「はい、そう思います。薬草の備蓄もないでしょう。都市の機能よりも、直ぐにも降りて、薬草の採取を優先すべきと思われます」
「頼む。人命を優先する」
「分かりました」
 電話を切ると直ぐに機械に指示を与えた。すると、即座に指示が実行された。恐らく、この男と同じ事を連絡したのだろう。指示が実行されて安心しているが、密閉の空間だからだろう。都市の八割が感染していた。公共の建物の中や外、自宅などで倒れたままの人が大勢いる。勿論、担ぎ込まれた者や自力で行けた者で病院は満員だ。都市が外界に現れて、一人の女性が驚きの声を上げていた。
「えっ、何故、都市が空にあるの?」
 嗚咽を吐きながら操作をしていたが、ふっとガラス越しに空を見て呟いた。
「まさか、父や長老が獣族を助けに来たの?」
 涙花だけが居る操縦室で声を上げた。都市は見えるが、船や都市のある方向に向かってはいない。船が向かう先と同じ東へ、東へと進んで行く。
「涙花。涙花」
 信は扉を叩く。始めは軽く、だが、扉が開く事も返事がない。何かがあったのかと段々と扉を叩く力が強くなっていった。
「えっ信なの。開けるから叩くのは止めて」
 やっと扉の音に気が付いた。数秒でなく数分だろう。
「どうした。皆が心配していたぞ。泣きながら室に駆け込んだ。そう言われたぞ」
「何でもないわ」
「そうか」
 信はまともな言葉を聞いて、自分も落ち着くのに少しの時間が必要だった。その為に落ち着くまで一人にさせた方が良い。そう思っていたが、知らせたい事があったからだ。
「涙花、変わった乗り物が近づいてくるぞ。友人の乗り物ではないのか?」
「そう見たいね」
「外を見なくても分かるのか、凄いなあ」
「だけど、獣では」
 涙花は、ある程度の距離を飛ぶと速度を落として、獣族を待っていた。その気持ちが小声で口から漏れた。
「えっ何か言ったのか?」
「いいえ」
 涙花は、信の方が悲しい事に気が付いたからだ。親も友人も死んでいるかもしれない事に、自分が同じ事になったら笑ってはいられないだろう。そう思ったからだ。
「なあ、涙花。一度止まって出迎えよう。皆も食事を取りたいと思うしなあ」
「し~ん。私もお腹すいていたの~」
 涙花は、信の気持ちに気が付いた。自分は機械で近づく物が分かる。だが、信は分かる訳がない。安全なら止まって、仲間が来るかもしれない。それを待ちたいのだろう。
「そうだろう。皆に知らせに言ってくるぞ」
 信は嬉しくて、室を出た訳ではない。普段のように甘い声色だが、何を話しているかを頭の中で考えなくても分かる口調だ。もう少し時間を置いて、自分から室を出るのを待つ事にしたからだった。
「おお泣いてないなぁ。降りたら食事だぞ」
 信は室を出ると、見回りのような事を始めた。もう一人の命も失いたくないからだろう。
「泣かないもん。僕がお母さんを守るのだからね」
「そうか、えらいなあ」
「お父さんとね。お祖父さんと約束したのだよ」
「そうか、約束したのか」
 そのように話をしていると、船が降りるような感覚を感じた。その同時に、人々のざわめきが聞こえてきた。
「気にしないでくれ、私は感謝される事はしていない。誰でもする事をしただけだ」
 その言葉の元に、信は向かった。その声は、涙花だった。
「涙花、今まで済まなかった」
「し~ん、なに、な~に」
「もう、武道家の振りも、男言葉も使わないでくれ、その左手の武器は、赤い飾り物を隠す為なのだろう。涙花は、あの時の森で会った人と同じ人なのだろう。いや、同じで無くてもいい。私の一生の連れ合いになってくれないか、今まで待たしたお詫びは、これから償う。許してくれて、一生の連れ合いになってくれるなら。はい、と言う言葉だけで良いから、涙花、心からのお願いだ」
「はい」
 身動きも出来ない通路だ。その周りには人に囲まれている。そのような所で、信に言われて嬉しいが、心臓が破裂するほど恥ずかしかった。その言葉を遮ってはならないと、周りは沈黙した。涙花は、顔を真っ赤にしながら微かな声で答えた。
「ありがとう」
 信は、嬉しくて抱きしめた。もう、皆の騒ぎ声の振動で船が壊れる。そう感じる位の声が響いた。もし、自動制御でなければ完全に墜落しただろう。その騒ぎではもう、涙花と信の話は、誰も聞いてはくれない。自分の事のように浮かれ騒ぐ、船が地上に着いてしまうと、もう誰にも止められない。もし、止めようと思う人がいれば殺されるだろう。涙花も信も、声を掛ける事も、椅子から離れる事も出来なかった。不満ではないが椅子に座っていると、一瞬言葉が止んだ。
「英雄の登場だ」
「ありがとう」
 人々が様々な感謝の言葉を上げて現れたのは、遺言男と、甲と乙だった。
「ありがとう。遺言男殿」
「ありがとう。甲殿」
「ありがとう。乙殿」
 涙花と信の前に、無理やりのように連れてこられたように感じた。そして、信の言葉を待っているのだろう。人々は静まり。信は緊張しながら簡単な感謝の言葉を掛けた。皆に無理やり連れられるように、甲と乙は二人の後から消えたが、遺言男だけは、皆から言葉を掛けられるが離れようとしない。皆は恐怖を感じたのか、変人と思ったのだろう。好きなようにさせた。遺言男は、二人の前に立ち尽くしていた。恐らく、涙花の言葉を待っているのだろう。
「ありがとう。遺言男」
「私は役目を果たしたのか?」
 遺言男は問い掛けた。
「そうです、ありがとう。好きなように寛いでくれ、本当にありがとう」
 そう、言葉を掛けると、何も言わず、表情も変わらずに、皆の中に入って行った。そして、自分の連れ合いを探す為に、赤い糸の導きを信じて、誰にも伝えずに旅に出掛けた。
この騒ぎは二日も続き、その昼、やや人々の熱気も収まったような感じた時に、涙花が、信に真面目な口調で話を掛けた。
「信が言っていた。王国には二日、いや、三日で着くわ。だけど、燃料は、そう言っても分からないと思うけど、四日位しか飛べないの。その後は、その国で暮らすの。それは擬人と一緒に暮らす事になるわよねえ」
「いや、その国では暮らさない。竜家の長老に言われた事だが、その国の王は、以前、飛河連合国に使いを寄越したらしい。その王は不老不死の薬と、その薬を探す旅に出る者を探しに来たそうだ。その王に薬を探しに行く。そういえば船などを用意してくれるらしい。その王には嘘を付く事になるが、皆で船に乗り、別な地で暮らす事を考えている」
「そう、いい考えねえ」
 そして、何事の無く王国にたどり着いた。涙花は、感情を表す事もなく、機械的に船を返す作業に没頭している。原始的な船旅が怖いのだろうか、それとも、信の話に王が承諾しないと感じているのか、ただ、外界での使用する時の燃料から、都市機能からの動力変換が面倒な作業なのか、複雑な表情からは全ての事柄に当てはめる事が出来る。
「お姉ちゃん、チョットいいかなぁ」
 扉を叩いたが返事が返らないからだろう。蘭が言葉を掛けながら扉を開けた。
「なっな、何でなのぉ」
「ごめんなさい」
 蘭は、姉の声の返事も聞かずに室内に入った為だろう。即座に謝罪した。
「信じられない。外界よ」
「えっどうしたの」
「え、何時からいたの。それよりも、都市が外界に降りているのよ。何か聞いていた?」
「私は聞いてないわよ。そんな事、お姉ちゃんは気にしなくて良いの。それに、何かあれば、甲の車に連絡が来るでしょう。心配する必要は無いわよ」
「それはそうねえ」
「私達、出発するわ」
「そう、あの男、やっと酔いが醒めたの?」
「そうよ。三日も掛かるとは思わなかったわ。酒って怖いわねえ。人格が変わると聞いたけど、あれほど変わるとは思わなかったわ」
「それで、もう部屋から出したの。遺言男が居れば、入れた時と同じく押さえられたけど、今は居ないわよ。大丈夫なの?」
「それは大丈夫」
「そう」
「それでは、行くわね。あっお姉ちゃん。何度も言うけど、何も考えないで船を送り返せばいいのよ。何かあれば、甲の車に連絡が来て、私達が面倒な仕事をするのだからねえ」
「はい、はい、そうします」
「涙花、涙花、直ぐに出発が出来るぞ」
 信は室に駆け込んできた。
「あっ、お兄さん」
「涙花、一族全てで行くと言ったら、千隻の軍船を使用しても、良いと言われたぞ」
「本当なの」
「お姉さん、行くね」
「あっ蘭さん」
「私達は行きます。お姉さんを宜しく」
「ありがとう。気をつけて、それで、涙花」
 信は、自分の要求以上に支度をしてくれる事に喜び、何も耳には入らなかった。
(ごめん、見送りは出来ないけど、又、会えるわよね。あなたの幸せを祈っているわ)
 涙花は、心の中で願った。
「それで、信。私、東へ行きたい」
「東へ、良いぞ。良いぞ。だが、明日中に出発してくれと言われた。余程、薬が欲しいのか、私達が襲撃にでも来たとでも考えているのだろう。直ぐに乗船してくれ、そう言われたよ。何日も待たされたら、どうしたら良いかと考えていたのに良かったよ」
「信、この船の事で何か言われた?」
「ああ、この船のお蔭だよ」
「まさか、この船と交換で千隻の船ではないわよねえ。それは無理よ」
「落ち着け、そう言う意味ではない。この船を崑崙の使い舟と言われた。この地に住む者も、祖先が崑崙の使い舟で、この地に来た。そう言い伝えがあるそうだ。そのお蔭で同族と思ってくれた。もしだ、この地で住みたい。そう言えば恐ろしい事になっただろう。私は、不老不死の薬を探す旅に来ました。だが、一族で行けるのなら承諾する。そう言った」
「そう、分かったわ。脅迫したのね」
 信の話を途中で遮った。急いでいるように感じられた。確かに、自動で船を都市に返す為の設定はした。船の自動起動する時間は迫っている。だが、そのような心配ではない。都市の事だろう。獣国のような危機が迫っている。そんな不安を感じているに違いない。
 
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第二十二章
「甲、今度は戦わないと行けないの?」
「うう、その」
「嫌ですよ。私は車から出ませんよ」
「おおー乙が話した」
 愛が驚きの声を上げた。
「酒が完全に抜けたか、もう菓子はないぞ」
「愛は怖くないのですか、蘭も甲も、神経が無いのですか、死ぬかも知れないのですよ」
「私は、外界のこの地で生きなければ成らないし、少々の血を見るくらい大丈夫よ」
「自分の血を見るかも知れないのですよ」
「大丈夫よ。自分の血は見慣れているわ」
「そろそろ、着くぞ。うるさいから、何でも良いから酒を飲ましとけ」
「はい」
「だから、その血でなく、死ぬごぼぉ、ごぼ」
 愛は酒の瓶を無理やり、乙の口に突っ込んだ。乙は苦しくて手を動かすが、愛は左手で何度も手を払い、手を叩き退ける。
「うぉおおおお、美味いぞ。酒は無いのか足りないぞ」
 乙は、顔を赤くしたり青くしたりしていたが、瓶の中身が半分を過ぎると、自分の手を使い呑み尽くした。
「話は後だ。もう着くぞ。椅子に座れ」
 甲が声を上げた。それから間もなくしてだ。
「おおお、到着点がハッキリしていると、全くの揺れもないぞ。これなら、何でも行き来するのなら、到着点を示す物を置くか」
 甲は、自分だけが到着した事に気が付いて、車内の機器に目を輝かせながら、車内を出たり入ったりを繰り返していた。その時に、聞き慣れない声を聞き振り返った。
「甲、着いたようだな。酒は無いのか?」
 乙は身体の隅々まで酒が回り、完全の酔っ払いに変身した。
「うっ」
 頭痛がするほどの低くて響く声、もし人間が殺人鬼と言うよりも獣になってしまったら、このような声になるだろう。そう思える声で、乙が声を掛けた。
「酒は、まだか?」
「貴方様とは、いつお会いしたでしょうか?」
 甲は、死を覚悟するように震える声で伝えた。乙は、人間の顔がここまで赤く出来るのか、そう思う顔色で、目は酔っているからだと思えるが、生気が感じられない。だが、顔の表情には怒りが感じられた。恐らく、酒が無い為の禁断症状だろう。
「酒は、まだかー」
「はい、はい、はい。愛さ~んぅ。あれ、蘭さ~んぅ、お酒は何処にあるのでしょう」
 愛と蘭は、扉が開くと直ぐに逃げ出していた。外に出ると、涙花に気が付き声を上げた。
「おー姉ちゃぁ~んぅ。助けてー」
「涙さ~んぅ、助けて、お酒をーくださぁーいぃ」
 涙花に声を上げても届かないのだろう。だが、必死に走りながら何度も、何度も声を上げながら走った。涙花は様子が変と思い、二人の元に向かいたかった。その指示を羊の獣に頼もうとした。
「危険だ。私が見てくる。先に行け」
「妹も助けてくれ」
「分かった」
 遺言男が、涙花に言った。そして、羽衣の力を使い、一瞬の内に二人の元に着いた。
「あっ人形さん。助けて、お酒を下さい」
「甲が危ないの、お酒を、お酒、お酒」
「酒、酒か、分かった」
 そして、一瞬の内に避難する人々の元に行き、酒を持ち帰った。
「持って来たぞ」
「中に居る。乙に、乙に」
「甲を助けて」
 遺言男は、愛、蘭の言葉を聞き、車内の殺気に気が付き目線を向けた。
「こーう、私に嘘を付いたのかー、それとも、私に飲ませる酒がないのか、まさか、酒はあるが、私に飲ませるくらいなら捨てた方が良いと思っているのだな」
「ひっひー」
 甲は、何かを言いたいが悲鳴しか出ない。
「何をしている。私は忙しい。要件を言え」
「ひっひー」
「お前は助けて欲しいのか、分かった」
「その酒をくれ」
「お前は酒を要求か、わかった」
(乙と言っていたな、普通とは違うと感じていたのは、人を殺した事がある人間だったのか、この男の手を借りるか?)
 遺言男は、乙の目を見るまでは、要求を求めないで酒を飲ませる考えだったが、自分でも感じる殺気の為に考えを変えた。
「だが、酒を渡すが、要求をするぞ」
「何でもする酒をよこせ」
「飲め。来い、行くぞ」
「愛と蘭、涙花の所に行け、良いな」
「はい、そうします」
「甲は大丈夫なのねえ。分かりました。私も姉の所に行きます」
 蘭は、遺言男に頷かれて心を決めた。
「酒を飲ませろ」
「もう飲んだのか仕方が無い、待っていろ」
 今度は抱えられるだけ持ってきた。そして、甲に渡しながら念を押した。
「これで最後だ。用が終われば好きなだけ飲ませる。これで我慢しろ」
「えっ、私も何かするのですか?」
「酒を持ちながら、乙の後を付いて来い」
「うっうう、うっうう、私が、私が」
 二人に睨まれ、承諾するしかなかった。
「我らは、半身獣を避難民に近づけないようにしに行く。石弾は敵の中に入れば撃たれる事はないだろう。分かったな、ならぁ行くぞ」
「そうか、わかった。甲、行くぞ」
「ふぁい」
(酒を飲んで、これほど変われば監禁室に入れられるのは当たりまえだ)
 甲は、そう考え。背中と前に、酒入りの袋を抱えて必死に走って付いて行く。
「遅いぞ」
「済まない。甲、先に行くぞ。遅れても良いが、呼んだら酒を渡せよ。分かったな」
「ふぁい」
 泣きそうな声を上げた。
(この二人、人でないぞ)
 上空には竜が飛び交う。まるで、超大形のヘリコプターと戦闘機のような戦いだ。虹家と鳥家の二台しかないから何とか防いでいるが、石弾が当たったからだろう。泣き声なのか、雄叫びなのか分からない叫びが止まない。石弾を何十発も身体で受ける。その破片が雨のように地に落ちる。それと同じように鮮血が飛び交い。そして、痛みで変身が解けたのだろうか、それとも、命が尽きたのだろうか、一緒に人も落ちてくる。
「俺の頭に落ちないだろうなあ」
 上を見ながら二人の後を追う。
「うぇー、あの中を通り抜けろと言うのか?」
 地上では、五種類の獣が垂直に飛んでくる石弾を受ける者。弾き返す者がいた。竜より酷い有様だ。全身血だらけで、ふらつく者が殆どだ。丸一日石弾を受け続けているからだろう。回りには命を尽きた者が数え切れないほどだ。変身獣が減ってきた為に、変身が出来ない者や変身が解けかかった者が、補うように前進する。元々敵は半身獣の集まりだけでなく、六種族の混合で弱点を補っている。数は対等だが、勝てる訳が無い。抑えているのが奇跡に近い。もう陣が崩れてしまう。その時に遺言男と乙が現れた。甲の姿が見えないが向かっているのだろう。特に遺言男の速さは、虹家と鳥家の空を飛ぶ獣機と同じと思えた。乙も、獣族最速の虹族と同じくらいだ。もし、虹族の完全変身なら敵わなかっただろう。だが、乙は酒の力を使い。ふらふらだが、戦う為の攻撃の形がない為に敵の攻撃が当たらない。奇跡と思えた。
「甲、何処だ。酒を飲ませろ」
 突然に、敵の攻撃がかすり始めた。その時に、乙は大声を上げた。酒で痛みを和らげる為か、それとも酒で、全ての身体の機能を柔軟に出来る。そう思っているのだろう。
「ふぁい、ふぁい」
 甲は、声を上げるが、変身獣の足元で震えていた。だが、何度も言われ、恐る恐る向かい出した。それでも、近寄れない。仕方がなく一本の瓶を、乙に投げた。
「遅い」
 乙は、飛び跳ねて受け取る。一口飲むごとに、人体機能の柔軟性が復活した。殴る、蹴るだけだったが、落ちている刀を拾うと、刺す。切るに変わった。
「大丈夫だな」
 遺言男は、乙の姿を見て安心した。そして、先ほど以上の敵を倒し始めた事を確認した。だが、遺言男は、誰構わずに殺す事は出来なかった。この世界に来たのは、連れ合い探しの為に来た。連れ合いが居ない場合は、時の流れの修正をしなければならない。赤い糸は、連れあいを捜す方向を示す物と赤い糸で傷を付けられる者の命を絶たなければ成らなかった。それは、自分が、この世界に来た為に世界の時間の流れが変わり、死ぬべき者が生きた時間の流れに変わったからだった。遺言男は、命を絶たないと行けない事を思い出したのだろう。大きな溜息を吐いた後、赤い糸を伸びる程伸ばし。鞭のように使いって敵にぶつける。殆どが何も無かったように通り過ぎる。だが、何回かに一回は血が飛び散る者がいる。その人物の所に、羽衣の力を使う事で、信じられない程の速さで向かった。そして、殺した後は、又、先ほどの所に戻る。その行動を、何度も何度も繰り返した。
「あの二人は凄いぞ。涙花の一族なのか?」
 二人の様子を見る為ではないが、避難民が船に入るのに時間が掛かり、心配になり視線を向けたら目に入ったのだ。
「し~ん。ぁ遺言男とおなっじのぉ変人に見えます~の」
 甘い声でしな垂れかかる。
「そうだな」
それしか言えなかった。避難の誘導に時間が惜しいが、それよりも、怒らせると怖い。そう本能で感じたのだろう。そう思う、表情が現れていた。
「お姉ちゃん。今度は甲板の上に案内しても良いのでしょう?」
「いいわよ、お願いね」
「涙花さん。女の人や子供が多いから、予定よりも、千、千五百人位は多く乗れると思うわよ。知らせられないの?」
「そうね。知らせないと行けないわね。長老達と話が出来てれば、う~む。このまま、来るのを待つしかないわ」
「そうですか、分かりました」
「来たらお願いね」
「はい」
「グゴォォー」
 竜が鳴き声を上げた。船に乗る為に集まっていた人々が、全て乗れた事への礼の様な鳴き声に思えた。その意味は獣には分かるのだろう。上空にいる全ての竜が同じ鳴き声を上げ、少し遅れてから五種族も次々と鳴き声を上げる。その喜びのような鳴き声も、十分、二十分、三十分と過ぎてくると、不審とも悲鳴とも泣き声のように思えてくる。獣の言葉の意味がわからなくても、感じ取れる。
「何故、飛ばない」
「飛べ、立っているだけでも苦しいのだ。孫の前では死ねない。早く行ってくれ」
「どうしたのだ?」
「早く、この場から離れてくれ」
 そう、悲しい泣き声に思えた。その言葉を聞いたからか、飛ばない苛立ちだろうか、上空の一匹の竜がゆっくりと降りてくる。それも手に触れられると思える程に近づいた。
「ひどい、鱗が剥がれている」
 涙花は悲鳴を上げた。信は竜の姿を見て助からない。そう感じ取れたからだろう。一言も声を出す事が出来なかった。二人は竜を見つめていたが、突然視界から消えた。
「涙花さん。どうしたのですか、何故飛び立たないのです。故障ですか?」
 竜家の長老は女性の為だろうか、半獣になっていた為に裸のようには見えない。それとも、命の火が消える寸前の為に自分の思う通りに変身が出来ないのだろう。そう思えた。
「まだ、乗れます。急いで連れてきて下さい。それと、私が戻って来た時に、どこに降りたら良いのか、それを聞いていません」
「避難を頼みたいのは、船に乗っている人だけです。今、戦っている人達は、船の安全を確かめしだいに逃がす予定だ。頼むから早く飛び立ってくれ、もう持ち堪える事が出来ない。頼むから急いでくれ、頼むから」
「え、町の人達が船にいるだけ」
 涙花は最後まで言葉に出来ず、嗚咽を漏らした。それを慰めようとしたのか、長老は幼子を癒すように頭を撫でた」
「そうだ、船に居るだけだ。だから、心の底からお願いする。助けてくれ、頼むぞ」
「はい」
 長老は船から飛び降りた。普通の変身が出来ないのだろう。人体機能の危機を無理やり起こして変身を試みたのだろう。
「長老、心配しないで後は任せて下さい」
 信は、言葉を掛けられなかったが、船から飛び降りる時、やっと声が出せた。そして、長老は竜になり、目で言葉を言われたように感じた。死んだら許さない。死ぬ気持ちで守れ。殺気を身体で感じて、そうだと確信した。
「うっうげぼ。うっうげほげほぉ」
 嗚咽も漏らしながら、船内に駆け込んだ。恐らく、操縦室に行ったのだろう。涙花は自分を責めた。一分でも早く来られたら一人でも多く助けられたはずだと、だが、心の底では別の考えもあった。船を貸して貰えなければ六獣族が死ぬはずだった。その事を都市の長老に感謝していた。涙花はホットしているだろうが、ある事を知れば自分の命を絶っていただろう。結局は獣族が死ぬか、自分の同族が死ぬかの運命だった。神は同じ数の命を要求していたからだ。
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第二十一章
「遺言男。そこで何をしているのだ?」
 信に会う前に、涙花は西側の倒壊した城壁から都市の中に入っていた。そして、想像以上に都市の中が倒壊しているのを見て、まさか、信も。そう感じたのだろう。羊家の屋敷に向かった。そこが、元は入り口の門だった所に一人の男が立っていた。
「命令を受けた。此処の地で待て。だから、一歩も動かずに待っていた」
 遺言男の周りには、まともの建物は無い。と、言うか、瓦礫しかない為に元が何なのか全く分からなかった。遺言男は嘘を付いてないだろう。だが、本当は百歩を歩いたとしても、分からない程、瓦礫しかなかった。
「えっ」
 涙花は考えていた。自分が何か言ったかを、そして、突然に笑いだした。
「私は此処の地で待て。そう言った。う~ん。何て言えばいいのか。この都市で好き事をしていて良いから、都市に居てくれ。そう言う意味で言ったのだぞ」
「そうか、済まなかった」
「面白い奴だ。謝らなくても良いぞ」
 又、笑い声を上げたが、先ほどよりは小声だ。だが、その笑い声で、今度は信の耳にハッキリと届いた。何の目印もない瓦礫の中で会えるのは奇跡のはずだ。
「涙花、涙花。ありがとう」
 泣きそうな震える声だ。今まで好きだった人が同一人物だからか、船の事だろうか、それは、会えた喜びで抱きしめたのだから前者のはずだ。そして、羊の獣は安心したのだろう。人の姿に戻った。
「おい、信はどうしたのだ。様子が変だぞ」
 信の部下に問い掛けた。普段の信が恥ずかしい。と何度も言っていた事が分かるような表情を表していた。
「涙花。もう男言葉を使わなくても、武道家の振りもしなくて良いのだぞ」
「んっとにっもぉー。私、私、男の振りなんってぇしたことなぃわよ。しっんー」
「無事の確認は、それ位にしてくれませんか、時間が惜しいのです」
 部下は、二分位は我慢したのだろう。だが、言葉を掛けなければ死ぬまで終わらない。そう感じて言葉を掛けた。それも、本当に恥ずかしそうに話を掛けた。
「ああそう、そうだな」
 信は真っ赤な顔で頷いた。
「済まないが、竜家の長老の元に連れてってくれ」
 涙花は声を上げた。
「それでは、私の背中に乗ってください」
「遺言男。行くぞ」
 そして、涙花は、信に身体を向けると、
「あっのう、し~んさまもぉーきてくださっいぃ」
「少しお待ち下さい。同族に居場所を聞きます」
 目を顰めた。集中しているのだろう。そして、同族から声を聞いた。
(竜家の長老は来るなと言っているぞ。そして、もう人々を避難に向かわせたから、信様は船で合流してくれ。と、そして、竜の長老は、もう一度変身して援護するらしい。涙花様が着たから安心したのだろう。変身が解ける者や息を止めた者もいる。もう獣は半分以下だが、獣に変身できる者は軍属でなくても配置に就くように伝えたそうだ。勿論、変身出来ない軍属も全てだ。二人には気付かれないようにしてくれよ。それが、涙花様の礼儀返しとなる。それが、獣族の全員の考えだ)
「人々は船に向かっているそうです。時間が惜しいから来なくても良い。人々を頼む。
 竜家の長老に、そう言われました」
「そうだな、船に行こう。頼む」
「それでは、少し離れてください」
 変身した後、お辞儀するような仕草をした。
「遺言男、何をしている。乗れ」
「その速度なら着いて行ける。気にするな」
「話をしている時間がない。行くぞ」
 苛立ちながら信は声を上げた。
「速い。涙花、何者なのだ」
 遺言男は、背中に蜉蝣のような羽がある。それを羽衣と呼んでいた。羽衣は羽ばたく必要もなく、肌から離しても付けたままでも同じ働きをして、飛ぶ事も浮く事も出来た。
「同じ人間よ」
「人間」
「そう、私も、遺言男も、し~んっもよぉ~」
「そうだな。頼もしい友人を持っているな」
 羊の獣が、避難してくる人々の中を駆け抜けると、様々な喜びの声が聞こえた。
「信様。涙花様が来てくれたぞ」
「おっおお船が見えて来たぞ」
「有難う御座います。涙花様」
 涙花は、様々な言葉に何ども頷いた。
「皆、船はもう少しよ。がんばって」
 涙は、何度も、何度も同じ事を言った。
「遺言男、聞こえるだろう。私の事は良い。この人達を護ってくれ、無事に船に入れるように、頼むぞ。義理があるのだろう」
 涙花は必死に声を上げた。遺言男が頷くのを見るまで、何度も、何度も繰り返した。
 そして、ふっと船の後方に視線を向けると、空間の歪みが見えた。それは、甲、乙、愛、蘭達が乗る車だった。
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第二十章
「おっおお涙花様が着てくれたぞ」
 全長百メートル位あるだろう。都市上空に現れた。だが、空中浮遊が出来ないからだろうか、それとも、攻撃を恐れてなのか、都市から二キロ位だろう。離れた所に直陸した。
「信。私の背中に乗せるから、信が出迎えなさい。そして、船で避難の指揮をしろ」
「えっ。私は、一族の指揮をしなければ」
「変身も出来ない者は足手まといだ。それも分からないのか。ん、えっ」
 竜家の長老は、上空に飛んでいる同族から知らせを受けた。同種族で変身が出来る者は、
言葉で無くても会話が出来た。
「どうしたのです」
「飛行物が向かって来るらしい。涙花が都市に向かって来るのだろう」
(涙花を掩護してくれ頼む。そして、非難の為に西側の城壁を壊してくれないか)
 信に簡単に伝え、竜家の長老は上空の同族に頼んだ。
「ワォー」
 竜に話が伝わったのだろう。一声鳴いた。
「信、西の城壁に向かえ」
竜の長老が信に伝える。と同時に、西の城壁を竜が体当たりして城壁を壊した。
「私の背に乗ってください」
信の部下の一人が羊の獣に変身した。
「済まない」
 信は背に乗り、西に向かった。
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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