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第十四章
「木姫様。朝食の儀にお連れしました」
 水姫は扉を叩くと同時に声を上げた。勿論と言うべきだろう。約束の七時半丁度だった。
「水姫様、ありがとう御座います」
「間に合ったでしょう?」
「ぎりぎりです。何故、余裕って時間が無いのです。仕方がありません。この時間の証明書の代わりに写真を撮らせてもらいます」
 今にも泣き出しそうに、真と水姫を扉の前に立たせて写真を撮った。
「それでは、真様。履物は用意してありますので、お入りください」
「ありがとう」
「そして、奥の部屋にソファーを用意しておりますので寛いでくださいませ」
 木姫は、下級階級の育ちの為に何も分からずに建物に住み。真様に尽くすように言われていたのだった。水姫の対応など知るはずもなく、もし知っていれば心臓が止まるほどに驚くだろう。だが、分かっているのは、一族でも有名な日姫の真の想いは知っていた。それで、自分と真が浮気をしている。まあ、側室だから浮気にはならないだろうが、もしそのような行為らしき話が日姫の耳に入れば命が無い。それだけなら良いが、家族の命も危ないと考える人だったのだ。それで、一時間毎に証明書を作る事を考えたのだ。そうすれば分かってもらえるはず。それが一時間後に写真を撮る考えだった。日姫の事を考えると、真が、一メートル以上近寄ると悲鳴を上げてしまう。「日姫様に殺されます。私は、ご友人でも恐れ多いのに、姫になってしまったのです。それだけでも恐ろしいのに、日姫様に、真様に一メートル以上近づいた。子供を成したと陰で言われるのでないか、それを考えると怖いのです。どうか近づかないで下さい」と、泣き叫ぶのだった。さて、今日も今までと同じ状況になるのだろうか?
「木姫さん」
「なななんでしょうかぁ」
「挨拶していませんでしたね。木姫さん。おはよう」
「真様。おはよう御座います。今日も宜しく御願い致します」
「ありがとう」
「きゃあああああ、何故、動くのですかぁ。動かないで下さい」
「えっ」
 真が微かに動くと、木姫が悲鳴を上げた。真はテープルの上にあるポットから紅茶を注ごうとして飲もうとしただけだったのだが、何故か、今にでも死にそうな声を上げたのだ。
「動かないで下さい。な何をしようとしたのですか?」
「いや、その・・・・あのねぇ」
「言葉だけで伝えて下さい。用件は全て、私が致します」
「紅茶を飲もうとしただけですよ」
「はぁあああ、そんな事ですかぁ。私が致します。本当に、心臓が止まるかと思いました」
 二人は同じ溜息を吐いたが、まったく別の意味だった。そして、木姫は、固定に設置されたカメラを自動で撮れるように設定すると、真の前に行き、ポットを取りカップに注ぐ場面を撮った。そして、また、先ほどの正面の椅子に座った。だが、別のカメラを抱え。何時でも、真が動けば直ぐに写真を撮る考えでカメラを覗いていた。
「ありがとう。美味しそうだね。頂きます」
 真が紅茶を飲む姿をコマ送りでも観られるように撮りだした。
「数分間の時間が遅れましたが、朝食の用意が出来ております。隣の部屋に来てください」
「楽しみにしていましたよ。木姫さんの料理は、七人の女性では一番の料理上手ですからね。今日の朝食は、何かな、わくわくします」
 真は、たしかに、料理は楽しみしている気持ちは嘘ではなかった。だが・・・・・。
「どうぞ、好きな物を食べてください」
「又ですかぁ。はぁあああ」
 直径三メートルの円形のテーブルの上には料理が置かれていたが量が多く、現代で言う所のパンがメインの朝食とご飯のメインの両方の料理が置かれていたのだ。それで、驚いたのでない。四隅と天井にカメラが置かれて自動で撮影していた。
「御替りはありますので、言って下さいね」
「大丈夫ですよ。テーブルの上にある物で足ります」
 真は、普通なら片方だけでも残る量なのだが、無理をして両方の朝食を食べた。
「うっ、うぅう」
 やっと食べた後、又、先ほどのソファーに案内されて人形のように動けない時間を過ごさなければならなかった。
「はぁああ」
 部屋に入って九度目の溜息を吐き終わる寸前に、悲鳴と地震でも起きたような響きが聞えて来た。その悲鳴を、木姫が聞くと体を震わせ顔色が死にそうに青ざめた。それだけでなく、真から命の生気でも取ろうとしているように、又、写真を撮り続けるのだった。
「日姫様。私は、一メートル以内に近づいていません。お怒りを静めてください」
 その悲鳴は、日姫だった。それだけでなく、地震のような振動は、欲求不満を解消でもしているのか、それとも、精神の安定の為に家具などを投げ、蹴り上げて壊しているとしか思えない。だが、何故、と思うだろうが、日姫の気持ちも分かるかもしれない。心の底から想っている人と四日も会えず話も出来ないのだ。それだけでなく、真は、女性と二人で部屋に居るのだ。それでは、気持ちが落ち着くはずもないだろうが、それでも、大げさな気持ちの発散には間違いないだろう。そのような様々な理由が重なり、日姫は思いを爆発させる。誰も、日姫の気持ちが分かるはずはない。いや、木姫だけは、六人の女性の中では一番に分かっているからこそ、その場で土下座でもするように祈り続けるのだろう。
「はぁああ。日姫さんは、又なのかなぁ」
「日姫様。何処、何処に居る。どこで見ているの?」
 真の、一言で、狂ったように部屋を見回した。
「大丈夫だよ。木姫さん、安心して。日姫さんは部屋には居ないから、勿論、部屋も覗いて居ないからね。大丈夫だから落ち着いてよ」
真は、近寄って落ち着かせようとしたいのだが、動く事が禁じられている。その為に言葉だけで必死に落ち着かせようとした。
「そそそうなの?」
「部屋には居ないでしょう。それに、外から部屋が見られるはずがないでしょう」
「そそうね。そうよね。あっうわぁあ」
 突然、驚きの声を上げた。真の話で納得したのだろうか、だが、そうでは無かった。決められた時間が訪れたのだ。それは、写真を撮る時間だ。そして、先ほどの撮影から二度の撮影を終えると、丁度、十二時になった。だが、何故だろう。木姫が謝るのだった。
「真様。済みません。と謝罪しなければなりません。昼食事は出来ているのですが、朝食の用意の時に用意した物ですので、冷めているのです。ああ、ですが、味の頻度が落ちている事はありません。ですが、温かい物がお好きだろうと思いましたので、一言だけでも心の底からの謝罪をしたいと感じたのです。本当に済みませんでした」
 真と、七人の女性とは長い付き合いだし、部屋での生活も長いのだ。それ位は判断できる。だが、なら何故、今、謝罪するのかと疑問に思うだろう。朝食と同じ部屋で食べるのだから、見たら分かるだろう。だが、そうではなかったのだ。部屋の半分がカーテンで仕切られて半分の部屋の様子が分からなかったのだ。
「はぁああ」
 又、真は、大きな溜息を吐くが、普通の人なら部屋から逃げ出すか、食事を断るだろう。それ程の料理なのだ。まるで、中華、和風、洋食、と好きな物を選んでくれと思う程だ。それは、バイキングと判断してくれたら分かる凄い料理が並べられていだ。それでも、真は、木姫の気持ちを思って席に着いた。
「どうぞ」
と、真の給し役のように接待するが、それは、給し役と言うよりも拷問の監督のように感じられる。全ての料理を食べるまで勧めるはずだからだ。
「うん、食べるよ。美味しいからね。でも、木姫も朝から何も食べていないでしょう。一緒に食べましょうよ。その方が美味しく感じるからね」
「うっううう。でも・・・・・・」
「私からのお願いでも駄目かな?」
「分かりました。それでしたら、私も昼食を食べさせて頂きます」
 木姫は、向かいの席に座り、部屋にあるカメラが起動しているのかと試してから、安心したのだろう。紅茶をカップに注いだ。それから、ソァーが置かれてある部屋に向かい皿に盛られた沢山のおにぎりを持ってきた。恐らく、何時でも食べられるようにと戸棚にでも用意していたのだろう。その理由は、勿論、真を監視する。いや、真から目を離さないようにする為に準備していた物だろう。
「美味しくないかな?」
「はい、美味しいです」
「なら、味わって食べた方が美味しいと思うよ」
「安心してください。食事よりも真様と、一緒に食べられる事の方が嬉しいのです」
「そうかぁ。それなら、良かった」
 真は、嬉しくなり近づこうとしたのだった。
「うぁあああ。でも、近づかないで下さい」
木姫は、手を振りながら悲鳴を上げた。
「はっああ、はい、はい」
 又、真は大きい溜息を吐いた。心底から疲れるのだろう。それは、当然と思えた。
「真様。食事が終わったのならソファーのある部屋に戻ってくれませんか」
 何度目の溜息だろうか、真は、溜息を吐くと、指示された部屋に移った。勿論、その間の撮影も、ソファーに座るまで写真を撮り続ける事は忘れるはずもなかった。そして、三時まで、真の溜息と一時間後との写真を撮る音だけが部屋に響いた。
「真様、三時ですね。私が作った菓子があります。食べてみませんか?」
「それは、楽しみです」
 真は、手伝うと考えるのが癖なのだろう。
「きゃああ、動かないで、そのまま座って居てください。お願いします」
「はい」
 真は、視線を木姫に向け続け、テーブルに菓子を用意されると、そのまま見詰め続けた。あるで、犬が、主が持って来るご飯を待ち続け、お預けされている感じだ。
「それでは、撮影をしますので、撮り終えたら食べてみてください」
 昨日は、心底から疲れを感じるように動いていたが、まったく動けないのも疲れると感じているだろう。少しでも動きたい為に、ゆっくりと味わって手作りの菓子を食べた。それでも、十五分しか時間を掛ける事が出来ず。また、人形のように動けない時間を過ごす事になるのだ。その時間は二時間だった。勿論、その間は、撮影する音だけが響くのだ。
「それでは、五時になりました。夕食の準備をしますので、その間、湯浴みをしてきて下さいませんか、今度は作りたての温かい料理ですから楽しみしていて下さいね」
「おお、それは、楽しみですね」
 やっと動ける喜びだろうか、それとも、本当に食事が楽しみなのか、それとも風呂か、その両方と思う。そして、嬉しそうに着替えとタオルを手に持ち風呂場に向った。その間は、勿論、動く後との撮影は忘れるはずもなかった。
「ふぁあああ、こんなにも風呂が気持ち良いと思うのは久しぶりだぁ」
 風呂と、言っても広い豪勢な浴槽ではない。七人の女性の部屋に備え付いている小さい風呂だ。二人の大人が入れば窮屈を感じるだろう。だが、今回は、木姫が背中を流しにくるはずもなく、一人で自由を満喫していた。
「そろそろ、上がってきてくださいね」
 木姫の声が聞こえてきた。正確な時間は分からないだろうが、二時間くらいは入っていたのだろう。よく、ふやけないのか、そう思うだろうが、人形のように動けなかったのだ。身体が、それだけ疲れていたからに違いない。そう思うしか判断が出来なかったのだ。
「は~い、今上がりますよ」
 ソファーの部屋に戻ってみると、まだ、エプロン姿をしていた。今、作り終えて隣の部屋に料理を用意していたのだろう。
「今、作り終えたのですよ。美味しいですから楽しみして下さいね」
 勿論、風呂から上がった。と記載する為の撮影を忘れるはずもない。今回の撮影は、自分と真が離れている為に証拠写真は自動で撮影されていた。
「ほう、凄い料理ですね」
 隣の部屋を覗くと、満開全席と思える料理が並べられていた。
「座って待っていて下さい。私は、日姫様の所に用事がありますので、もし、日姫様に用事がなければ、一緒に食事が取れるか声を掛けてきます。楽しみしていて下さいね」
 木姫は、真が風呂に入っている間に、食事の用意は当然だが、その後に、日姫に手渡す。
(真様の、木姫との部屋の様子)と題名を書いた日記と言うか記録集を手渡しに行くのだった。そして、大抵は、日姫は、木姫の部屋に向う。木姫の真剣な目と、困り顔も理由の一つだが、一番の理由は、真と四日も会っていない禁断症状と食事の用意が出来ないからだった。それも、当然だろう。部屋の中は、日姫の欲求不満の解消で戦場の跡のような状態だからだ。
「そろそろ、木姫が来るわ。身だしなみだけでも何とかしないと、また、失神されては大変だわ。それに、真様にも会うのだしね」
 日姫の言葉の通りに、一度、木姫は気絶したのだ。それは、当然と思える。初めて、真が部屋に泊める時だ。日姫に、相談をする為に、日姫の部屋に訪れたのだ。だが、その時、日姫は理由を忘れているだろうが、今日と同じように欲求不満の解消をしていたのだ。それで、そのままの姿で対面した為に、木姫は驚き、自分の部屋に泊める事で鬼のような姿になったと思ったのだ。その時、死ぬほどの恐怖を感じたのだろう。その後遺症で、真と自分の部屋での記録を作り始めたのだった。今までと同じ、日姫の予想の通りの時間に、扉が叩く音が聞えてきた。
「日姫様。私です。木姫と言います。お渡ししたい物があります」
「今、出ますわ。待っていて」
(はっぁあああ)
木姫は、日姫の姿を見て安堵の声を心の中で吐き出した。普段の(木姫の考えではだが)穏やかな姿で現れた。
「日姫様。おはようございます。これが一日の証明写真です」
「まあ、また、真様の写真を撮ってくれたのですね。ありがとう。後でゆっくり見させて頂きますわ。本当にありがとうね」
「それと、私、料理を作りまして、日姫様にも食べて欲しいと考えましたのです。もし、良ければ一緒に食べてくれませんでしょうか?」
「勿論、木姫さんの料理を食べさせて頂くわ。七人の女性の中では一番の料理の腕前がるのは、有名ですからね。誘いが来るのを楽しみしていたのですよ」
「まあ、それは、ありがとうございます」
「なら行きましょうか、真様も食事を食べずに待っているのでしょう?」
「はい、そうだと思います。私は、今直ぐに、真様に知らせに行きますわね。日姫様は、支度があるのでしょう。そう伝えてきますわね」
「いいえ。大丈夫です。一緒に行きましょう」
 書類の袋のような物を下駄箱の上に置き返事を返した。
「そうなのですか、それなら、どうぞ、私の前を歩き下さい」
 木姫は、日姫の前では、緊張して目を合わせる事ができず。頭を下げ続けていた。そして、自分の部屋の寸前で、早歩きをして、日姫の為に部屋の扉を開けた。
「真様。真様。日姫です。一緒に食事を食べるのを楽しみに参りました」
「早く追いで」
「履物をどうぞ」
 真と木姫は、同時に声を上げた。日姫は、木姫には頷きだけで、視線は真が居る方向に向けたまま、部屋の中に入り食事が用意されているだろう。部屋に向った。
「まあ、凄い料理ね」
 日姫は、驚きの声を上げた。
「そうでしょう。美味しそうですよ。早く席に着いて一緒に食べましょう」
 真は、一人で料理の前で待たなければならなかった。その開放の為だろうか、それとも、一緒に食べられる嬉しい気持ちなのか、それは、嬉しそうに声を掛けていた。
「あっ、それでは、私が料理を装いますから好きな物を言ってください」
「気にしないで、勝手に自分で装って食べるから、木姫も一緒に座って食べましょう」
 日姫は、嬉しそうに、隣の椅子を叩きながら勧めた。
「えっ、ありがとうございます」
 木姫は、嬉しいのか、それとも、恐怖を感じているのか、泣きながら椅子に座った。
「なぜ、泣いているの?」
「木姫さん。どうしたの?」
「日姫様。私は、一緒に食べられるのは嬉しいのです。でも、今日と言うか、今までも真様と二人の時は、一緒に食事を食べませんし、一メートル以内には近寄ってはいませんから安心してくださいね」
「木姫さん。気にしないでいいのよ。もし、子供が出来たとしても喜んで祝福しますわ」
「あの、その、いや」
「ねね、早く食事にしましょう。木姫さん、何がお勧めかな?」
 真は、二人の会話から殺気を感じて、話題を変えようとした。
「あっ、真様。それなら、アヒルの漢方蒸しスープがお勧めですよ」
 真が話を逸らしたからだろう。殺気が消えて見た目には楽しい食事が始まった。そして、料理の話題から変わる事が無く、何事もなく食事が終わった。
「そろそろ私は部屋に帰るわ。後は、木姫さん。真様をよろしくねぇ」
「日姫様が、良ければですが、一緒に泊まりませんか?」
「それは、無理と言うしかないわね。今日は、木姫さんの日なのですよ。真様と楽しい日を過ごしなさい。でも、木姫さんが、真様を嫌いと言うなら別だけどねぇ」
「それは・・・・・・・・・・その」
 簡単な事だ。木姫は、館で暮らす事を決められた最低期間が終わった。真が嫌いなら家族の所に帰れば良いのだ。そうすれば、日姫に怯える事も無い。それが、木姫の全ての問題の解決になるのだが、真が好きな為に悩んでいるのだった。
「木姫さん、ごめんなさいね。今言った事は冗談よ。気にしないで、私も用事があるのよ」
「そう、そうなのですかぁ。残念です」
「真様、日曜を楽しみしていますわね。それでは、真様、木姫さん、お休みなさい」
 日姫は、表情では笑みを浮かべているが、目だけは悲しみを浮かべていた。恐らく、今まで思っていたが、木姫に、今まで言わなかった事を言ってしまったのだ。その事よりも、木姫の気持ちが分かったからだろう。二人から視線を外すと、悲しそうに帰って行った。
 その後は、日姫に渡した計画書の通り過ごし過ごした後、真を部屋に寝かせると、木姫は、御経を大声で読み上げ、朝まで祈りをしていた。その祈りは、真との想いを思うのでなく、日姫の怒りを静める為に違いない。
 最下部の十五章をクリックしてください。

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第十三章
「水姫様。真様をお連れしました」
と、火姫は、朝の十時になると水姫の部屋に向い。そして、用件だけを伝えた。
「まま真様。お待ちしていました」
と、水姫は、火姫に礼儀も返礼も返さず。扉を開けると真の手を取り部屋の中に招き入れた。そして、思い出したように、火姫に頭を下げた。
「火姫さん。ありがとうね」
 火姫は、水姫の言葉を聞き、無言で丁寧に礼儀を返すと、自室に向った。その向う途中に、部屋の中居るはずの水姫の大声が響き渡っていた。
「真様。私、一週間も待って居たの。早くぅ。早くゲームをしましょう」
 部屋の中では、水姫が真にすがる様に、壁に書いてあるダーツの的のような物に指を指していた。疲れたように真は頷いていた。恐らく真にとっては嫌な事でも始まるのだろう。
「又、週一回だけのゲームを始めましょう。ねね、やってくれますわよね」
「は、い」
 真は、疲れたように頷いた。よほど、嫌なのだろう。
「ねね、それで勝った人は、勿論、勝つ度に言う事を一つ聞くのでいいわよね」
「は・・・い」
「それでは、まず一回目、負けた方が昼食を作る。それでいいわよね」
「は・・・い」
「ダーツの的に赤い感覚器官で三回刺して、点数が多い方が勝ちよ。真様は、ダーツの矢ね。それでは、先に、私から先に行くわよ」
と、水姫は、左手の小指の赤い感覚器官を手の平と水平に伸ばした。そして、手の平をダーツの中心に合わせた。
「当たれ」
と、声を上げると同時に、赤い感覚器官が水平にダーツの的の中心に刺さった。
「やったわ。十点よ」
 それは当然だろう。赤い感覚器官は身体の一部だ。伸びる長さは決まっているが、手で物を掴む様な感じだ。それだから狙いは百パーセントだ。
「次は、真様よ。がんばれぇ」
「そうだね。当たるといいなぁ」
「大丈夫よ。しっかり狙えば当たるわよ」
 水姫は、簡単の様に言うが、自分と違い、真は、ダーツに付いている専用の矢だ。当たる確立は百パーセント勘と考えていいだろう。中心に当たる訳が無いのは分かるはずだ。それでも、笑みを浮かべて声援しているのは勝利の女神のつもりだろうか、いや、そうでは無いだろう。勝ちが決まっているからの余裕の笑みに間違いないはず。そして、真は、何度も中心に当たるように狙い。ダーツを投げた。勿論だが、外れた。
「あらら、残念ねぇ。八点だったわ。でも、三回の勝負だから次は当たるわよ」
「そうだね。次は当てるぞ」
「そうよ。そうよ。どうする。今度は、真様から投げますか?」
「そうだなぁ。先に投げてみるよ」
 真は又、真剣に狙い中心を狙い。二度目を投げた。だが・・・・・・。
「おおおお、凄いわね。又、八点だわ。今度、私が六点以下なら負けるわ。怖いわ。どうしましょう。怖くて手が震えてきたわ」
「がんばれ、大丈夫だって深呼吸して落ち着いてから投げた方がいいよ」
 真は、本心なのだろうか、赤い感覚器官は手が震えようがまったく逆の方向を向いて伸ばしても頭で思った狙いの場所に曲がって当たるのだ。それは、分かっているのだろうか、いや、感覚器官が無い為に判らないだろう。震える手を見て真剣に祈ってあげていた。だが、水姫は、曲がった性格なのだろうか、真の練習の為なのだろうか、同点が何度も続いた。その回数は、二人は分からないだろう。それでも、一時間も同点の争いが続き。食事の用意をするぎりぎりの時間。十一時に決着が付いた。勿論、水姫が勝ったのだ。
「うぁわああああ。中心に当たりましたわ。やったわ。私の勝ちですねぇ」
(真様。ごめんね。私は、というか女性はね。男性で全ての人生は決まってしまうの。運も、力も無ければ駄目なのよ。それに、優しいだけでも駄目なの。家事も何でも出来ないと駄目だと思うの。だから、私は、試しながら遊んでいるのよ。ゲームでも戦いの役に立つはずだし練習にもなるわ。だから、ごめんね。私が勝ってしまったわ。ああ、でも、私が楽をしたいからでは無いの。だって、真様は、赤い感覚器官が無いし、何かの武器の練習をしないと駄目だと思うわ。自分を守る事も戦う事も出来る。それで、私も真剣に相手をしているの。がんばってくださいね)
「負けたね。それで、水姫さんは、何が食べたいのかな?」
「オムライスが食べたいわ。綺麗な半熟にして下さいね」
「先週は失敗したね。大丈夫だよ。今度は半熟にするからね」
「うわぁ。楽しみですわ。でも、真様。私、先に、サラダから食べたいわ。それから、スープねぇ。それで、出来上がるまでニ品を食べながら待っているわ」
 水姫は、注文を言った。真が困った顔が見えないのだろうか、満面の笑みを浮かべた。
「そうかぁ。いいですよ」
「ありがとう」
 水姫は、真が汗を流しながら作っていると言うのに、「サラダを早く頂戴」「スープはまだなの?」など注文を付ける。やっとメインのオムライスが出来上がると、食後の紅茶が欲しいと駄々をこめる。仕方なく自分の食事を中断して用意すると、今度は「早く食べて終えてゲームをしましょう」と言い出すのだった。
「早く、早く」
「はい、うん、直ぐ食べ終わるからね」
 真は、サラダも、スープもなく、オムライスを紅茶で流し込むように食べ終えた。そして、真が片付けるのを見ながら次の勝負の約束事を口に出して考えていた。
「そうだぁ。今度、負けた人は、部屋の掃除をするって事にしませんか?」
「水姫さんが、それを希望するなら・・・・・」
「なら、決まりね」
 水姫は、真が悩んでいる姿など構わないで勝手に決めてしまった。勿論、また、真が負けて掃除をする事になり、次の勝負は、洗濯、肩を揉むなど様々な事を勝負する。そして、負けたからと言う理由でやらせた。それが、夕方が過ぎても続くのだ。勿論、夕食の食事も湯浴みの用意から寝室の寝具の用意まで忘れるはずもなく。極めつけは、明日の朝食と七時に起床するから起こしてくれと言い放ったのだった。そして、真は用件をすませ湯浴みから床に入る時は、朝の三時になっていた。直ぐに熟睡できたが、朝食の用意の為に仮眠のような睡眠を取り、約束の朝食を用意してから起こしに向った。
「水姫さん。時間だよ。起きてくださいね」
と、扉越しから言うが、それで起きるようなら起こしてくれなど言うはずもなかった。ドキドキしながら扉を開けて中に入ってきた。ドキとするような寝相の悪さに驚きと言うか微かな喜びを感じながら、水姫のオデコを叩いた。
「ううっう、もう朝なの?」
「七時は過ぎたよ」
「着替えて直ぐ行く。真様の用意は出来ているの?」
「用意?」
「エプロン姿のままでしょう。早く着替えて」
「えっ」
「木姫から言われているのを忘れていたわ。必ず七時半には部屋に連れてきてって言われているのよ」
「えっ」
「だがら、早くしてね。私が着替え終わる前には、部屋から出られる用意をしてよ」
 真は、下着の乱れなど忘れる程に急いで着替えた。それと同時に部屋から水姫が出てきて一言だけ呟いた。
「納豆にはネギが入ってないのね。来週はちゃんと入れてね」
「えっ」
「それでは、また、来週の勝負を楽しみしているわ」
「あっ」
 信じられない事を言うと、急いでも木姫の部屋に向うのだった。
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第十二章
 七人の女性は同じ部屋で寝ていたからだろうか、それとも、左手の小指の赤い感覚器官の遺伝子の記憶だろうか、七人の女性は同じ夢、過去で起きた。転生する前の、自分の過去の事を夢で見るのだった。七人の女性は気が付くはずもないが、完全に熟睡した。それから、十二時を過ぎた頃から夢が始まった。その夢とは・・・・・・・・・・・。
 現代の七人の女性が生活している時代よりも7500万年前の現在の月での生活だった。その月は、現代で分かりやすく言うのならノアの箱舟と思ってくれたら分かり安いだろう。勿論、月の主は、始祖の真だ。住人は、代々、近衛部隊の片翼を担っていた一族が住んでいた。その一族の女性で、真の后と側室だった。七人は愛称で呼ばれていた。今日子は、日姫と呼ばれていた。美穂は、月姫。由美は、火姫。瑠衣は、水姫。明菜は、木姫。明日香は、金姫。真由美は、土姫。だった。その名前が、自分達と分かるのは当然だろう。自分自身の過去を見ているのだからだ。それは、本名では無いが、一週間に一度だけ真と会えて、持て成すのが役目だった。その為に、決められた曜日の名前で呼ばれていたのだった。そして、月の中心に真と七人の姫の専用の建物は一族が守るように建てられていた。その建物の月曜の朝から夢が始まるのだった。それだけでなく時刻を知らせるように決まった時間に悲鳴のような声が響く事も思い出すのだ。
「うぁあああああ、もう時間が過ぎているわ」
と、それは、今日子であり。日姫の叫びだった。
「早く、真様の部屋に行き支度の準備をしなくてはならないわ。まあ、月姫だから何も言わないだろうけど、今度の月曜からは早く起きるわよ」
 今日子は呟くが、今日子と真は、幼馴染で,
幼い頃から同じ建物で住んで居た頃から考えていたが、一度も守る事が出来なかった誓いだった。
「おお今起きたかぁ。また、同じ誓いかぁ」
と、真は、自室で身支度を整えて待っていたが、無理して待たずに次の曜日の姫の所に向かっても良いのだ。だが、姫の気使いとして共に次ぎの姫の所に行くのが普通だ。一人で行くと、その部屋の姫が不手際をしたと思われるからだ。それでも、時間だけは守るのが礼儀だったのだが、日姫は、一族の長であり、許婚であった。それで、他の姫とは特別の扱いだったのだが、限度はあるだろう。悲鳴が響いてから、呆れるくらいの時間が過ぎているのだ。一時間くらいだろうか、時刻では十時が過ぎていた。約束の時間から二時間も過ぎているのだ。
「お待たせしました。あっ、身支度は済んでしまったのですね」
「許婚だが、未成年ですし、私も恥ずかしいですよ。着替えは一人で出来ますよ」
「そうよね。それでは、月姫の所に行きましょうか?」
「そうですね」
 真が頷くと、館から出た。この建物は変わった作りをしていた。建物の中心に寄り添うように二軒の部屋が作られ、別々に真と日姫が住んでいた。それを守るように周りに六軒の部屋で囲まれていたが、行き来をする為に廊下が作られていたのだ。その廊下を二人だけで歩き、月姫の部屋に向う。無言で歩いているのは、時間に遅れて月姫に済まない気持ちからだと思えた。そして、部屋の前で立ち止まり言葉を掛けた。
「月姫様、朝食の儀に、真様をお連れしました」
 扉の前で待っていたのだろうが、直ぐに言葉が返ってきた。
「日姫様、お連れの儀、ありがとう御座います。後は、私にお任せ下さい」
 扉越しに言葉が聞え、その言葉を聞き終わると、日姫は、真に会釈をすると自室に帰っていった。真は、日姫に頷くと扉を開けた。
「月姫、おはよう」
「ニャ~」
「真様、おはようございます」
 何匹の猫の鳴き声と同時に、月姫の挨拶が聞えた。この姫は、別の愛称、猫姫とも言われていたのだった。部屋の中に、三十匹の猫と暮らしていた為だろう。
「今ねぇ。猫のご飯や掃除していたの。ごめんね。真様の専用の椅子に座って少し待っていて、直ぐに朝食の用意をしますからねぇ」
 月姫が、そう呟くと、シートに覆われていた椅子を勧めた。真は頷き、自分でシートを退けて座った。何故、隠しているのかと疑問に思うだろうが、それは、真に対しての気遣いだった。猫の毛などで汚れないように被せていたのだった。勿論、それは、無駄に終わるのだが、椅子は毛が付いてなくても、猫が、真の膝の上に座りに来るし、足や手などに擦り寄ってくる。そうなれば、猫の毛が付いてしまうからだ。別に、真は猫が嫌いでないから気にはしないが、座る前から毛などで汚れているのを気にすると思い、月姫が考えたのだろう。
「真様、湯浴みの用意はしてあるけど、入ってきませんか、まだ、少々時間も掛かりますしね。ああ、変な意味で用意しているのではありませんよ。私、寝坊してしまって、湯浴みが済んでいなかったのです。もしよければ、先に入ってきませんか?」
 真に視線を向けずに、愛しそうに猫のご飯や、水を変えながら問い掛けた。
「そうしようかなぁ」
 真は、自分が、月姫の邪魔しているように思い。湯浴みをしようと考えた。その行動は偶然だったのだろうか、月姫の思惑だったのだろうか、猫が真に興味を感じたのか、遊んでくれると思ったのだろう。猫の殆どが真の後を付いてきて、浴室の扉のガラスを引掻いて遊んでと訴えていた。そのお蔭で、掃除などが遣り易くなったのは確かだった。
「月姫さん。良い湯加減でしたよ」
 自分が着てきた物が無く、着替えを用意されていた。何時、来たのか気が付かなかったが、この準備をする気持ちがあるのだから変な思惑とは考え過ぎだろう.だが、真が変な思惑と考えているのは、普通の男性なら泣いて喜ぶのだが、真は、まだ、子供なのだろう。
「真様。それは、良かったです。無理に勧めて済まないと感じていたのですよ」
「私も、朝の湯浴みは好きですから、気にしないでくださいね」
「それでは、私も湯浴みをしてきますね。その後に朝食の用意をしますわね。自分の物や猫なら猫の毛など入っても気にしませんが、真様には食べさせられません。直ぐに上がってきますので、待っていてくださいね」
「そんなに、気にしなくてもいいのですよ」
「駄目です。真様が病気になっては大変ですからね」
「はい、楽しみして待っています」
 それから、月姫が湯浴みから上がり、朝食の用意を初め、食べるのには十二時は過ぎる頃になった。日姫が、月姫なら何も言わないと考えたのは、このような状態を知っていたのだろうか、それとも、六人の中では付き合いが長いから許してくれると思ったのだろうか。
「それでは、ゆっくり食べてくださいね」
 朝食は一般的な物だった。現代の日本で例えるのなら納豆と海苔と玉子焼きだった。勿論、味噌汁はあるが、手間が掛からない物だった。それと、当然だが、食事の間だけと思うが、全ての猫は別室に閉じ込めていた。猫の事が一番に考えると思ったのだが、先ほどの猫の毛の事は本当の気持ちのようだ。
「ありがとう」
「美味しいですかぁ?」
「うん、味噌汁が美味しいね」
「良かったわ。お替りもあるからねぇ」
「うんうん」
 お替りはしなかったが、真は、お腹が一杯になったと、礼を返した。そして、月姫は、片付けが終わると、嬉しそうに隣の部屋を開けて猫を出して上げた。真は、月姫が嬉しそうに猫を抱え上げた姿を見て、問い掛けたい思いが膨らんだ。
「ねね、月姫さんは、何故、何十匹も猫を飼うのです?」
「飼う動機はね。他の六人の女性は一人で部屋に居るのか、どのような生活をしているか知らないけど、私は、一人だったのね。それで、寂しくて一匹のトラ猫を飼ったの」
「それで、私も、他の人の普段の事は聞かないねぇ。でも、皆、楽しんでいると思っていましたよ。月姫さんは、寂しかったのですか」
「この部屋に来て直ぐの時ねぇ。今は、忙しくて、そのような気持ちにはならないわ」
「そうかぁ。なら良かった」
「それでねぇ。トラ猫の臭いが体に付いてたのかしらねぇ。街に買い物を行くとね。野良猫がね。私の所によってくるの。お腹が空いているのかな、それとも、寂しいのかな、両方かもね。それで、何度か会っていると、抱っこしたくなって、ご飯も上げたわ。そうするとね。家まで着いてきてしまって、まさか、帰りなさいとも言えなくなってね。飼う事に決めたの。それの繰り返しね。それで、三十匹も飼う事になったわ。でも、家には居ないけど、ご飯だけ食べに来る猫も居るのよ」
「ご飯だけ、食べて帰るの?」
「そうよ。たぶん、その猫は、一度は飼われたのかもね。捨てられたと思うわ。もしかすると飼われたり捨てられたりを繰り返して、人とは暮らすのを諦めたのかしれないわ」
「そうか」
「私は、そう思っているから無理に触ろうとか、飼うとかは考えてないの。でも、何時でも部屋に入れるように隙間は開けているの。寒い時は、勝手に入って寝ているのよ。ご飯を上げたら直ぐ外に出て行くけどね。もしかして縄張りの見回りなのかもねぇ」
「猫って、そうなのか?」
「分からないわ。私の空想よ」
「なら、猫専用の建物でも作るように掛け合ってあげようかぁ」
「それは、無理よ。人の言葉が分かるはずもないし。空き家では住まないかもねぇ」
「そうか」
「そうねぇ。猫って気分屋な所もあるしねぇ」
「何となく分かるよ。楽しくないと住まないよ。そう言う理由でしょう」
「そうねぇ」
「ごめんね。変な事を聞いて」
「いいわよ。そうそう、猫の毛繕いをしてみる?」
「簡単なのかな?」
「簡単よ。猫専用の鉄の櫛で梳かすだけよ」
「ほう」
「見ていてね」
 そう真に言うと、猫を抱っこして左手で頭を撫で、猫の気分をそらして、櫛で梳かす。それを何度か繰り返した。真様は、その姿を見て感心していた。恐らく自分でも出来ると思っているのだろう。
「やって見ますかぁ?」
「うんうん」
 この一言で、今日から月姫の部屋での仕事となってしまうのだ、それは、まだ、気が付かないでいる。真であった。
「猫って温かくて柔らかくて気持ちがいいね」
 真は、猫を抱えるまでは良いが、その後の櫛で梳かすのに、自分の血を流す事になるのだ。当然だろう。猫は櫛で梳かされるのが嫌いだし、長い間触られるのも嫌なのだからだ。でも、時々体を触って欲しいと気まぐれな気持ちもあるのだが、それは、まだ、今は気が付いていない。
「痛い、痛い、噛まないでくれよ」
「それは、仕方ないの。適当にしたら止めて、他の猫の毛を梳かすの」
「そうか」
「何匹もしていると、猫の方で遊んで欲しくて近寄って来るから又、梳かしてみてねぇ」
「うんうん、そうしてみるよ」
 あっと言う間に三時が過ぎ、おやつと、昼食にしようと言われたが、まだ、二匹しか梳かしていなかった。捕まえようとするから猫は、遊んでくれていると思い逃げ回っていたからだった。
「いいわよ。食事を食べてから又、お願いしても良いかしら?」
「うんうん、いいよ」
「真様、湯浴みの用意が出来ているからどうぞ。猫の毛が付いて気持ち悪いでしょう」
「いいよ。手だけを洗って、服の毛は外で払ってくるよ。もし私の考え過ぎなら良いけど、私の為に無理に、月姫も湯浴みするのなら気にしなくていいからね」
「そう、なら、私も真様と同じようにしますね」
「うんうん、それで、いいよ」
真は、食事が出来るまで少しでも猫の毛を梳かしていた。そして、月姫は、真に一週間前に言われた事を思い出し、中華そばを作り、猫の話題をしながら楽しい昼食を済ました。二人が食べ終わると、真に猫の毛を梳かす事をお願いすると、今度は、猫の食事と猫のトイレの掃除を始めたのだった。真の表情からは疲れと嫌気を感じているように思えたが、真は、何も言わずに続けた。その様子を、笑みを浮かべながら月姫は見ていた。月姫は、手伝う事はしなかったが、猫を撫でて気持ちを穏やかにして手助けをしていたのか、ただ、可愛がっていたのかは判断が出来なかった。真が全ての猫の毛を梳かし終わったのは、夜の七時になっていた。
「大変だったでしょう。手の噛み傷や引っかき傷に薬を塗って上げますわ。手を出してください。少し沁みると思いますが我慢してくださいね」
「ありがとう」
「もう、嫌になったでしょう。お疲れ様ね」
「いいえ、楽しかったよ」
「なら、また、来週もお願いしようかしら」
「うんうん、いいよ」
「それでは、夕飯を食べましょうかぁ。今日は鍋よ」
「おおお、そうかぁ。楽しみですね」
「私は、鍋の用意と猫を部屋に入れてきますから、湯浴みをしてきて下さい」
「うん、そうするよ」
「湯浴みの後は、また、薬を塗ってあげますね」
 真は、猫との格闘で疲れたのだろう。月姫に、夕食が出来たと呼ばれるまで湯に使っていた。自分では気が付かなかったが寝ていたのだろう。そして、謝りながら上がってきた。そのような理由があったからだろう。食事が済むと直ぐに横になり寝てしまった。それでも、月姫は、熟睡するはずがないと思い。そのまま寝かせていた。月姫の考えていた通りに起きだし、床で寝るように勧めた。そして、火姫の部屋に向う為のぎりぎりの時間までを起こさないように決めた。勿論、その朝は又、真が起きないように注意をして、朝の猫の御飯を上げて居たのだった。
「真様。火姫様が待っていると思いますよ。遅れると可哀想です。出来たら、私も一緒に、火姫様の所に行きたいので起きてください」
 七人の姫達は、出来るなら真一人だけでは部屋に行って欲しくなかったのだ。自分の落ち度が合ったと思われる考えもあるが、他の姫と会えるのはお連れする時だけ、まあ、買い物とかで出会う時もあるが、一日の始まりの挨拶だけでもしたいし、元気なのかと顔が見たいと思う気持ちがあるからだ。
「ああ、もう時間になりましたか、起きますよ。それで、もし出来れば、コーヒーが飲みたいのです。火姫さんの所ではお茶しか飲めないと思いますので、飲ませてくれませんか」
「いいわよ。でも、急いで支度をしてくださいね」
「それは、大丈夫ですよ」
 真が、着替えをしている間に、月姫は、コーヒーを作ってくれていた。寛いで飲める時間は無かったが、それでも、気持ちの良い気分を味わう事はできた。
「それでは、行きましょうかぁ」
 月姫は、先に扉を開けて、真が部屋から出て来るのを待っていた。そして、案内をするように、先を歩きだした。案内するほど遠くにあるのではない。隣の部屋に行くのだ。まあ、それでも、普通なら隣の家に行く程は離れている。
「火姫様、真様をお連れしました」
「・・・・・・・・・」
 月姫が扉を叩き、声を上げるが返事は無かった。それで、仕方がなく。月姫は、真を一人残して帰って行った。規則として他の姫の部屋には入れない事になっていたのだ。
「姫、おはよう」
 真は、火姫だけには、姫と言っていた。ひひめ。と言い辛いのもあるが、火姫の性格にも理由がある。それは、極端の人見知りなのだ。それと、火姫の部屋の様子を見たら分かるだろう。
「真様。お待ちしておりました。中にお入り下さい」
 扉を開けて中を見れば、大抵の人は驚くだろう。部屋の四隅には本棚が置かれている。と言うか本棚しかないのだった。その中心には、小さい卓袱台と部屋の様子から考えて見れば、不釣合いな本格的な茶道の道具が置かれていた。それと、座布団が二つ、それだけだった。
「ありがとう」
 真は、会釈すると中に入り座布団に座った。
「まず、白湯を飲んで待っていてください。飲み終わる前には、朝食を用意します」
 真には、その後に何が出てきて、何をするか何年も同じだった為に分かる。それでも、楽しそうに待っていた。
「今日のフリカケは山葵の味がするのですよ」
と、茶碗に、ご飯を装うと、フリカケをかけて手渡した。
「ありがとう」
 そして、火姫は、本格的の茶道のようにお茶を立て、茶碗に注いだ。
「頂きましょう」
 自分も同じ物を用意していたので、お茶を注ぐと食べ始めた。
「美味しいでしょう?」
「そうだね。美味しいね」
 真は、余ほど空腹だったのだろう。一気に食べるとお替りをお願いした。二杯目を食べ終わる頃、火姫も食べ終え、そして、又、お茶を立て始めたのだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
 真と火姫は、無言で同じように五度もお茶を飲み。六度目のお茶を立てようとした時だ。真は、無言に堪えられなくなり言葉を掛けた。
「姫さん。今日は何の本を読むのかなぁ。楽しみです」
 火姫が満面の笑みを浮かべると、本棚から本を取りだすと声を上げて読み始めた。それは、本当嬉しそうだ。面白い物語を伝えたいからでは無いだろう。真と同じ趣味と思い。そして、真と二人だけの会話が出来るからに違いない。まあ、真も今読んでいる本だけを読んでくれて、その感想などの会話から二人が頬を赤める会話に発展してくれたら嬉しいだろうが、それは無理だった。火姫は、一冊が読み終わると感想の話しになり。また、そして、また、と深夜まで本を読み続けた。途中で休憩したが、それは食事を食べる二度だけだ。三時と、八時だった。その食事もお茶漬けだ。時間を無駄にしたくないからなのか、その判断は分からないが、美味しそうに食べる。そんな、火姫の表情を見ると好物なのかもしれない。流石に次の日を過ぎた時間になると疲れたのか、湯浴みの用意をすると言って立ち上がった。
「姫さんは、本当に本が好きなんだなぁ」
と、真が呟くが、このような状態では好きと言う言葉で表す事は出来ないだろう。そして、
「真様。湯浴みの用意が出来ました」
 火姫は、大声を上げるが少し恥ずかしそうな声色だった。
「ありがとう」
と、返事を返し、火姫の声がする風呂場に向った。
「真様が好きな湯加減の四十度に合わせました。もし、調整して欲しい時は言ってくださいね。ああ、それと背中は流しますので、その時は教えてくださいね」
 火姫は、水着姿で恥ずかしそうに話をかけた。
「ありがとう。でも、いいよ。身体くらい一人でも洗えるからね」
「でも、一族の補佐役であり、真様の私生活を取り仕切る侍従長に、私が叱られます」
「大丈夫だと思うよ。まあ、義理の父みたいな人だしね」
「でも、でも」
「姫さんが、そうしたいならお願いしようかなぁ」
「それでは、背中を洗わして頂きます」
 真は、自分の背中に気持ちを集中していた。そして、正面の鏡から火姫が真剣に洗ってくれる姿を見ていた。時々、「痒い所はありませんか?」と話をかけてくる。「無いです」と返事を返す。本当に無かったのだ。丁寧で、全ての場所を綺麗に洗う。その心底からの気持ちが伝わってくるのだ。
「ありがとう。後は、自分で洗うからいいよ。姫が入る準備でもしてきなさい。その頃には風呂から上がっていると思うからね」
「はい、着替えとタオルの用意をしてきます。真様の着替えは二種類の服を用意してありますので好きな物を着て下さい」
 二種類と驚くだろうが、帰りの服装と寝巻きだった。泊まって行くか帰るか、真が決めて欲しいからだった。
「ありがとう」
と、湯船から答えるが、帰る気持ちが無い。皆は、月の主と思っているだろうが、自分だけが別の一族の者だ。分かり安く言うのなら婿養子に来たと思ってくれれば分かってくれるだろう。真が風呂場から出ると入り口の前で、火姫が着替えを持って待っていた。
「上がったよ。なら寝るね。おやすみ」
「はい、お休みなさいませ・・・・・・・・」
 火姫は、決められた言葉だけの会話のようだ。その後は、真が寝室に入るまで見続け、それから、風呂場に入った。そして、出る頃には、真は寝ているだろう。まあ、熟睡しているか分からないが、火姫も、真の寝室に入るはずもなく自分の床に入った。
「真様。おはよう御座います。支度の用意が出来ました」
 火姫は、小声で伝えるが起きてくれなくて、真のオデコを軽く叩いた。
「ん、あっおはよう」
 火姫は、朝六時に真を起こしに来た。
「八時まで、水姫の所に向わなくてはなりません」
「そうだったね」
「真様、早く着替えましょう」
 火姫は丁寧なのだが遅い。でも、自分で着替えると言えずに任せていた。着替えが終わると、湯浴みの用意がしてあると言われたが断り、洗面だけで良いと伝えた。
「それでは、朝食の用意をしてきます」
「いいよ。直ぐに行くね」
 直ぐに向ったのだが、また、正座で無言のまま、長い時間を待つ事になるのだった。確かに、茶碗にご飯が装ってあるが、それだけだ。火姫は、真剣に茶の用意をしていた。
「今日の朝食は鮭の茶漬けにしましたよ。鮭の場合はお茶をかけた後に振り掛けるのが美味しいのですよ。楽しみしていてね」
 そう言うと、嬉しそうに茶碗にお茶を注ぎ入れた。
「そうなんだ」
「鮭の旨味がお茶に溶けてしまうのです」
「ほうほう」
 まあ、3食もお茶漬けを食べる。と言うか毎週火曜日はお茶漬けの日だった。
「うんうん。味が違うかも美味しいよ」
「・・・・・・・・」
 また、無言で見詰められた。食べているから無言と言うのではないだろう。予定外の返事だった為に、何て言うか考えているのだろう。恐らく、火姫は味が違うのは当然で「美味しい」その一言か、好意を感じる言葉でも聞ける。そう感じているようだった。そして、また、水姫の部屋に向う時間まで、無言でお茶を飲み続ける事になるのだった。
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第十一章
 公園と名称だが、木々が九割を占める。元は、いや、今でも墓なのだが、公園と名称が付いたのは、この地の持ち主に理由があった。その者は、明治の有名な富豪だったが、天涯孤独で、自分が死ぬと、誰も墓に訪れる者は居ない。そう思ったのだろう。それで、生前に広大な墓の敷地の中に野外劇場を作り人が集まるようにしたのだ。まあ、野外劇場と言っても形だけで素人が発声練習をするような小さい物だ。席は、50人位あるだろう。それでも、考えていた用途としては使われていなかったが、持ち主の考えの通りに人が集まる公園としては利用されていた。その、公園の入り口で戦争のような騒ぎが起こしていたのが、新一を守る七人の女性と初音と三十人の警護人だった。
「新一が逃げたのよ。早く追いたいの。あの女達を早く片付けなさい」
 新一が狂ったように叫びながら消えた後、睨み合いが続いていた。
「お嬢様。ですが・・・・・・」
「拳銃が駄目なら素手で戦いなさい。まさか、女に負けるはずがないでしょう」
「はっ・・・・い」
 荒井の気持ちもわかる。拳銃の弾を弾き返したのだ。そのような者と戦っても勝てるはずもない。だが、その気持ちを伝える事が出来なかった。そのような事情で睨み合いが続いていたのだ。それでも、初音の言葉で、恐怖を感じながら少しずつ近寄って行った。
「今日子、どうする?」
 明菜が、明日香たちの後ろから問うた。
「どうするも構えを解く訳には行かないでしょう。拳銃で撃ってきたのよ」
「そうよね」
「明日香、美穂、由美、真由美。あのヤクザ達が消えるまで守りをお願い」
「良いわよ。でも、ヤクザなのかな?」
「当たり前でしょう。拳銃よ。普通の人が持っているはずないでしょう」
「刑事とか特種の任務の人かもよ」
「あの男達の顔やあの女の言葉使いを聞いたら判断が出来るでしょう」
と、明日香以外は防御を崩し言い争いを始めた。その話は、初音にも届いていた。
「なっななっんなの。私達がヤクザだと言いたいの」
「おお嬢様、おおお待ちを・・・危険です」
 今日子達が、自分達の事を言われていると感じて、怒りを表したまま近寄った。
「確かに、祖父の代はヤクザだったわよ。でも、この者達は、いや、他の者達も今では世界的に有名な警護校を卒業し正式な警護人なのよ。この者達が希望すれば首相でも大統領でも警護が出来る優秀な者達です。ヤクザではありません。訂正しなさい」
「そうだったのですかぁ。済みませんでした」
「もういいわ。許します」
「あっ、いいえ。済みませんでした」
と、明日香以外は、防御も攻撃の構えを解くと、意味が分からないまま謝っていた。
「許します。それで、荒井は、私に付いてきなさい。他の者は公園で新一を探すのです」
 初音の自分だけが正しいと思う思考判断で、そく行動していた。その初音の雰囲気だろうか、それとも、真剣に自分が正しいと思う話し振りで雰囲気が変わっていた。先ほどまでの殺気の嵐からお嬢様と普通の子との価値観の違い。そんな口喧嘩に変わっていた。
「散れ。お嬢様、どこに行くのです?」
 荒井は一言だけ呟くと他の者達は新一を探しに向った。そして、すたすたと歩く初音の後を追いかけ、追いつくと初音に問うた。
「決まっているでしょう。必ず戻る場所で待つのよ」
「おお、幼馴染だから隠れる場所が分かるのですかぁ」
「何を言っているのです。自宅に決まっているでしょう」
 初音は、もう七人の女性には興味が無い。と言うよりも始から会っても居ないような感じで公園の外へと向った。そして、残された七人の女性は、不思議そうに初音が消えるまで呆然と立ち尽くしていた。
「明日香、もう大丈夫と思うわ」
 明日香が一人で防御の構えをしていたので止めるように勧めた。
「・・・・・・・」
 明日香は辺りを見回して殺気が消えたと感じたのだろう。赤い感覚器官の回転を止めた。
「先ほどの新一と言う人を探すの?」
「今日は諦めましょう。先ほどのヤクザ屋さんに会うと命の危険を感じそう」
 怯えるように、由美と真由美が、今日子に視線を向けた。
「そうねぇ。もし、探していて、一人であの人達に会ったら命の危険を感じるのは確かね。探すのは止めましょう」
「今日子、でも、帰るには早いわよ。如何する?」
「そうねぇ。親公認だし、昼まで遊びましょう」
「うぉおお」
「この時間の平日ならケーキバイキングが良いと思うわ」
 明日香が独り言のように呟いた。
「それが良いわね」
と、歓声の声を上げた。そして、皆は、昼食を忘れているようにケーキバイキングへと向った。勿論、昼に戻る事は出来るはずもなかった。その頃、初音は、荒井に車を呼ぶように指示を下し、新一の自宅の前に向った。勿論、初音の性格を熟知している荒井は、車内で寛げる車を指示と食事を忘れるはずがない。当然の事だが、新一が帰って来るまで車内から出るはずもなく夕方まで寝てしまっていた。そして、新一の自宅に居る母親も、近所の者も車に近づくはずも無く。それ程に迷惑と感じる車だったのだ。
「今日子、もう一時よ。昼に帰るって言っていたけど、今からでも大丈夫?」
「大丈夫でしょう。赤い感覚器官の導きのまま歩いて時間が経ったと言えばいいわよ。それよりも、問題なのは、母の料理を食べられるかって事なのよ」
「そうねぇ。もう何も食べられないわ」
「でも、帰った方がいいと思うわ」
「そうね。帰るわ。皆は、どうするの?」
「一緒に帰るわよ。私達、今日子の手助けをするって事で、学校を休んだのよ。両親にも連絡が行っているはずだしね」
「うっううう、ありがとう」
 今日子は、皆の優しい心遣いを感じて涙を流した。だが、六人の女性の本心はそれぞれ違っていた。明日香の本心は分からないが自分の事だけを考えているはずだ。明菜は、親と大喧嘩して家に帰りたくないから当分の間は、今日子の家で過ごすと考えているはずだ。瑠衣と真由美は、明後日から始まる。好きな芸能人のコンサートを行く為に、今日子を利用する考えだろう。美穂は、念願の十六歳になり、バイクの免許を取りたいと親に言ったが断られ許してくれるまで家に帰るはずがない。由美は、今日子と同じように好きだった人が赤い感覚器官が見えない。そう言われ思いを忘れる為に、今日子達と馬鹿騒ぎしたかった。それでも、六人は、今日子を心配する気持ちは嘘ではなかった。それに、赤い感覚器官が不思議な反応をしていた。それだけでなく、始祖の復活の話を聞き全てを知りたいと言う気持ちがあったので、六人は最後まで今日子の側から離れるはずがなかった。
「今日子、時間に遅れたのだし、少しでも早く帰った方がいいと思うわ」
「うん、そうね。帰りましょう」
 その後は、先ほどのケーキバイキングの話をしながら家に向かった。
「遅かったわね。でも、約束の通り帰ってきてくれて良かったわ」
「お父さんは?」
「あなた達が心配で、始祖様のお墓でお祈りをしているの。そろそろ帰って来ると思うわ」
「お父さんが・・・・・そう」
「そうよ。お父さんは、今日子は遅れて来る。二時頃だろうって。でも、今日子、もう何か食べてきたのでしょう。いいわよ。昼に来て食べたって言っておくわ」
「ごめんなさい」
「いいの。それで、今日子、又、出掛けるの?」
「う~むむ」
「今日子、ちょっと来なさい」
 母は、一瞬、真剣な表情を表し、今日子だけを隣の部屋に来るように伝えた。そして、娘を座らせると話を始めた。
「気持ちは分かるわ。いいのよ。幼い時から晶君、晶君って言っていたものね。悲しいのは分かるわ。今日は、疲れるほど遊んできなさい」
「うっ」
「お小遣いが無いのでしょう。それは分かっているわ。お父さんも分かっているの。お父さんはね。自分から渡せないから、私から渡しって言われたわ。だから、前の様にとは無理なのは分かるけど、お父さんの前だけは笑みを見せてあげてね」
と、母は、自分と連れ合いの気持ちを伝えた。伝え終わると、今日子にお金を渡した。
「今日子?」
「怒られたの?」
「・・・」
「大丈夫?」
「一緒に謝ってあげようかぁ」
「言い訳してあげるよ?」
 今日子が心配なのだろう。近寄って、それぞれの思いを伝えた。
「えへへ、大丈夫よ。ねね、軍資金が出来たの。遊びに行きましょう。どこでもいいわよ」
「えっ、今日子のおごりなの?」
 六人の女性は、同時に興奮を表した。
「そうよ」
「きゃぁああああ」
 叫び声を上げると、その響き声が消える前には家から居なくなっていた。何処かに遊びに行くのか、それは、考えなくても十六歳が思う場所に、資金が無くなるまで遊ぶ事だろう。早くても夕飯時までには戻れれば良い方だろう。そして、新一とシロ猫と真は、どうなったか、想像は出来るだろうが、新一の自宅の前に、初音が乗っていると分かる車種だ。初音が消えるまで、自宅の近くで隠れていた。勿論、初音の警護人は、公園で探し続けている。初音が自宅に帰ると当時に帰宅の命令が届くはずだ。そして、今日子達は・・・
「今日子、ありがとうね。奢ってくれて。今度、この礼は必ず返すわ」
「いいの。私の感覚器官のお蔭で付き合ってくれているだけで嬉しいし、晶の事も合ったでしょう。それで、帳消しよ。そうそう、夕飯も食べていってね」
と、美穂に言っているようだが、皆に、それぞれ、視線を向けていた。
「うんうん。楽しみしているわ。ご馳走に間違いないもの。食べるわよ」
「皆に、言っているのよ。ありがとうね。勿論、泊まっていってね」
「分かっているって、何のご馳走だろうね」
「最近、私、肉は食べてないしね」
 六人の女性が、言葉で返事を返す者、肩を叩く者、笑み浮かべる者と居るが、本心から喜びを表していた。
「今日子、七時よ。大丈夫?」
「うん、大丈夫と思うけど、その為に皆に泊まってもらうのよ」
「そう」
「・・・・」
「もう、その代わりって変だけど、私を口実にしたらいいわ。瑠衣、真由美、明後日からコンサートに行く口実を考えていたのでしょう。それに、美穂は、バイクの免許を取るのでしょう。皆の企みは、私に任せておきなさい」
「今日子、そろそろ、家よ。堂々と玄関から入るの?」
 最後のカラオケの店を出ると楽しみの余韻を楽しんでいたが、今日子の家に近づくにしたがい、今日子が話題を変え、それぞれの気持ちを確かめた。そして、玄関を開けると・・。
「おかえり」
と、心配して待っていたのだろう。今日子の父親が出迎えに出てきた。
「それらしい人には会ったわよ。でも、面倒な事になりそう」
 今日子は、拳銃で撃たれた事は黙っていた。それは当然だろう。その話をしたら探索する事も家からも出してもらえない。そう考えたからだ。だが、赤い感覚器官が拳銃の弾を弾かなかったら父親に相談したはずだろう。
「面倒な事だとぉ」
「その男、凄い女性に好かれているみたいなの。でも、その男は好意を感じてないと思うの。その事なの、面倒な事ってね。心配しなくても大丈夫よ」
「そうなのか?」
「うん。それで、一週間くらい様子を見たいの。その間は学校を休んでいいよね」
「まあ、一週間は様子を見ようと考えていた。校長も、同族だし始祖様の事だからなぁ。許すだろう。明日の朝でも連絡をしてみる」
「お父さん。勿論、友達もよねぇ」
「う・・・まあ話してみる。校長よりも家族が心配するだろう」
「お願い、お父さんから承諾してくれるように連絡をして」
「でも・・・・友達にも用事があるだろう。一週間もお前の為に貴重な時間を使わせるのもなぁ。そう思うだろう」
「お父さん。私達は、大丈夫だからお願いします」
と、六人は同時に声を上げた。
「そう言うなら良いが、だが、朝と夜には、自分達で家に連絡だけは入れるのだぞ」
「は~い」
 先程と同じように返事を返した。
「父さんは用事がある。後で食べるから早く皆で食事を食べなさい」
「母さんも、父さんに用事があるから話しをしてくるわね。あ、それと、客間の二部屋に床の用意をしておくわ。寝る時は、襖を外しなさい。友達と話しながら寝たいのでしょう。あっ、それと、夕食は直ぐ出なくていいわね。私が帰ってきたら一緒に食べましょう」
 父は娘と言うよりも友人に気を使ったのだろう。それを感じて、母は、父に謝罪をしようとしたのだろう。二人で玄関から出て行った。社か洞窟に向ったのだろう。父は笑い声が聞えてきて、母が戻り食事をしている。そう感じたはずだ。そして、笑い声が消えると母屋に帰り食事を食べた。それは、七人の女性が、銃弾を弾く恐怖や初めて赤い感覚器官を使った為だろう。早く床に付き楽しい夢を見ている時間だった。そして、七人の女性は朝起きると驚きを感じるのだ。それは、七人が同時に同じ過去の夢を見たからだった。その夢を思い出し、自分達が転生した事実を受けとめ左手の小指の赤い感覚器官の導きを信じて行動するのだった。
 
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第十章
 時間を三十分遡る。時刻は朝八時。七人の女性と、真が、今日子の家から出る時だった。真は、七人の女性と離れ、興味を感じたまま行動した時だ。
「北に方向を変えました。あっ、いや、南に変わりました」
 明日香が声を上げた。
「広い空き地の近くからは離れないわねぇ。何かを探しているの、逃げているのかな?」
「先ほどと同じ所で、同じ男性・・・そう感じるわ」
「二キロの範囲は変わらないわ。もしかすると、学校裏の森林公園かも知れないわね」
と、真由美が思案して結果を伝えた。
「真由美が言った通りかもね。森林公園に行ってみましょう」
 七人の女性は、話題に上がった。その男性の話をしながら公園に向かった。もしかすると、七人の中の誰かの運命の相手かも知れない。誰が言ったのでないが、そう心に感じたに違いない。そして・・・・・・・・・。
「ねね、由美」
「なに?」
「由美は、男性と感じたのでしょう。どのような様子って言うか、容姿とか分かるの?」
「そこまで、分からないの。何て言うのかな・・・・」
「うんうん」
「それで、それで」
「幽霊のようにぼんやりと見えるの。男性だなぁって」
「それだけなの?」
「そうなの。私は、背が高い人なら妥協してもいいかなぁ」
「やっぱり顔でしょう」
「ええ、なんでぇ。性格が、一番でしょう」
と、七人の女性は、その容姿とか様々な事を笑いながら歩いていた。
「そろそろ、公園よね。何も感じないの?」
 今日子が、周りを見回すと呟いた。そして、北へ、北へと向う。すると何かを呼ぶ声が聞こえてきた。七人を呼んでいるはずではないが、何故か、自分達を呼んでいるように思い向う。一歩、一歩と近づくと、正確に何て呼んでいるのか分かった。
「シロ、シロ、どこに居る。シロ、シロ、出て来てくれ」
 新一の叫ぶ声が、はっきりと耳に入る所まで近寄ると、七人の女性の感覚器官に痛みを感じた。そして、七人が同時に、同じような言葉を一言だけ呟いた。
「あの男よ。間違いないわ」
 七人が指を刺す方向には、複数の人が居た。だが、問いただす事をしなくても同じ人を刺しているはずだ。その方向に居た人々は、勿論、初音の警護人の一人も居た。女性の声だから振り向かなかったのか、そうでは無かった。学校が近く運動部などが柔軟体操などで使用している為に、大声や叫び声などでは不審を感じるはずもなかった。指差された。その男性はまだ。
「シロ、シロ」
 叫び続けていた。それも、森林公園の中に入ろうか、それとも、住宅街の方に戻ろうかと考えているようだ。その様子を見て、今日子が近づいた。
「シロって犬なの猫なの?」
「えっ、猫です。でも・・・・・・何故?」
「猫を探しているのでしょう。一緒に探してあげる」
「でも、その制服を着ているなら学生だよね。学校は?」
 新一と今日子が話しをしていると、六人の女性も集まってきた。それに、気が付かない振りをして、初音の警護人は、この場から逃げるように消えた。恐らく、警護頭の荒井に知らせに向ったのだろう。
「あらあら、八時三十分ね。今からでは遅刻だわぁ。急いでも仕方ないわね」
「でも・・・・・その・・・」
「あなたも遅刻ねぇ。早く学校に行きたいのでしょう。なら、一人で探すよりも八人で探しましょう。それの方が早いわ」
「その・・・・・あのぅ」
「私は、鏡家の今日子よ。宜しくねぇ]
「私は、櫛家(くしけ)の明菜よ」
「白家(はくけ)の明日香」
「粉家(こなけ)の瑠衣。宜しくねぇ」
「えへへ、筆家(ふでけ)の美穂よ」
「宜しく、琴家(ことけ)の由美よ」
「弦家(つるけ)の、真由美です」
 新一は、七人の女性の人垣の隙間から初音を探した。一瞬だが、初音を見かけたのだが、初音は、何故か、近寄ろうともしなかった。そして、初音が、視線から消えたので学校にでも向ったと思ったのだろう。それで、安心したのでは無いだろうが、七人の女性に聞かれた事を話し出した。まあ、殆どが猫の話しだったが、それとなく、七人の女性は、左手の小指の赤い感覚器官を見せていた。恐らく、見えると言って欲しいのだろう。だが、初音は、新一が、七人に囲まれている姿だけを見て、怒りを感じたのだ。新一は気が付いていないが、そろそろ、初音が、荒井に武器の用意を告げた。八時三十五分は過ぎようとしていた。この時に、直ぐに八人でも、新一が一人でも猫の探しをしていれば、新一が森の中で倒れる事も、真がシロの体に入る事もなかったはずだ。その事は、新一が分かるはずもなく、まだ、話が続いていた。そして、やっと、八人の男女が、一人一人に別れて猫を探しに行こうと、その結果を出るまでには三十分も経っていた。時間では、九時を過ぎた頃、その時だ。
「守って」
と、何故だろうか、明日香が叫ぶと同時に、左手を体の真横に、新一を守るように上げた。
「ん?」
「ビューゥウウウウウウ」
と、七人の男女が不審を感じると同時に、風を切り裂く音が響いた。
「何だ?」
初音が、荒井に武器を用意しろと言った。その武器から放たれた弓矢の音だった。
「明日香、その左手の指・・・・」
 明日香が声を上げると同時に、赤い感覚器官は一メートル位まで伸び扇風機のように回転した。そして、信じられない事が起きた。弓矢は銃弾より遅いとしても人を殺せる凶器なのだ。それを、赤い感覚器官で弾き返したのだった。今日子は、二重の驚きを感じたのだ。運命の人しか見えないはずの赤い感覚器官が見えたのだ。恐らくだが、武器として使う場合は見るに違いないと感じた。
「え、嘘、なぜ、弓矢が飛んで来るの?」
と、明菜が驚きの声を上げるが、今日子が怒りの声をあげた。
「まだ駄目よ。防御して」
 その声を聞くと、六人は転生前の事が分かるとしか思えない行動をした。それは、美穂、由美、真由美が明日香と同じ仕草をした。それだけでなく、体を盾にするように新一の周りを囲んだ。そして、残りの三人は、威嚇から敵を探すように視線を動かした。それだけでなく、左手の小指の赤い感覚器官が敵を探すように動くと、敵を探し出したのか、又、変化した。今日子の赤い感覚器官は剣として構え、明菜の物は、鞭のように唸り、瑠衣のも槍のように伸びた。
「ん・・・・玩具?」
 今日子が、再度の攻撃が無いと感じたのだろう。視線は周りを探すのを止め、放たれた矢に視線を向けた。そして、驚きの声を上げた。驚くのも当たり前だろう。矢尻が凶器でなく吸盤だったのだ。それを見て安堵しようとした時だ。
「七人の女達ぃ。新一は、私の物よ。直ぐに消えなさい」
「私達の事を言っているの?」
 初音が叫び声を上げた。それも、四十メートルも離れているのに声が届くのだ。心底からの怒りで可能になったのだろう。だが、それだけでは収まるはずもなかった。
「もうぉおお、離れないのね。そう、分かったわ。荒井、矢尻を変えずに放ちなさい」
「えっ」
「放ちなさい」
「お嬢様?」
「放ちなさいと言っているのに聞えないの?」
 鬼の形相のように変わっただけでなく、声までも殺気を放っていた。
「辰(たつ)、放て」
「誰に向って放つのでしょうか?」
「新一に決まっているでしょう」
「七人の女性でなく、新一様に向けて放つのですか?」
「新一が、女性に色目を使うから悪いのです。常に、私だけを好きと言っていれば今回のような事にならなかったはずです。だから、新一に矢を放つのです。これからは、私だけを愛さないと命が無い。それを分からせるのです。分かったのなら直ぐに放ちなさい」
「お嬢様の言う通りです。新一様が、女性から離れるまで放ち続けます」
「そうよ。やっと、私の気持ちが分かったようね」
「お嬢様。辰が放てと言う言葉を待っています。命令して下さい」
 荒井は、人を殺したくない為に、初音の人間としての気持ちに縋った。だが、組の為、そして、お嬢様、その家族や仲間の為なら命を捨てても守るはずだろう。
「うんうん、放ちなさい」
 だが、荒井の気持ちが分からないのだろう。満面の笑みを浮かべながら命令を下した。
「当たれぇ~」
と、辰は、先ほど、初音に言った事を実行するように真剣に狙いを定めて放った。
「え、何故、又、放つわよ」
 初音が、あれ程の大声を上げたのだ。もし、隠れていたとしても場所は特定出来るだろう。だが、初音は、本心からの叫びだったのだろう。堂々と姿を現して、新一に指差していた。
「守って」
と、明日香は、殺気を感じて放たれる前から構えて待っていたはずだ。そうでなければ、放つと同時に叫ぶ事は出来なかっただろう。
「ん?」
 七人の女性は、金属と金属がぶつかり合うような音を聞き、驚きを感じた。
「え、嘘、玩具ではないわよ」
 跳ね返った。その矢を七人の女性が見詰めた。だが、直ぐに、今日子と明日香が叫んだ。
「まだよ」
「今日子、明菜、瑠衣、私達の後ろに隠れて」
 明日香の言う通りに、二度目、三度目と、矢が新一に向って来る。そして、七度目の矢を弾き終わると、それ以上は放たれなかった。終わったと感じたが、その代わりに、初音の叫び声が響いた。
「何をしている。当たらないでは無いの」
「お嬢様、確実に当たるはずなのです。ですが、何故か、手前で弾き返るのです」
「そう・・・・・・なら威力が足りないのね。拳銃なら届くでしょう。拳銃を使いなさい」
「お嬢様、それでは、脅しでなく殺す事になりますが?」
と、荒井が問い掛けた。
「矢で駄目なら仕方ないわ。そう・・・なら足か手にでも狙って、なら死なないでしょう」
「はい、畏まりました。それなら、私自身が打ちましょう」
「早くしなさい」
 初音の掛け声で拳銃の引き金を引いた。一発、二発と続けて撃ったが同じように跳ね返された。それが信じられないのだろう。呆然と立ち尽くした。
「何をしているの。早く当てなさい」
「それが・・・お嬢様・・」
「跳ね返るのね。なら皆で撃ちなさい。誰かは当たるでしょう」
「ですが・・・・」
「何をしているの。私の命令が聞けないの?」
と、初音は鬼のような形相で指示をした。警護人は、初音の姿を見て心底から恐怖を感じたのだろう。三十人の警護人は、隠し持っていた拳銃を取り出すと直ぐに、新一に銃口を向けると弾奏にある全ての弾を撃った。だが、又、全てが弾き返されたのだ。
「むむむむぅううう。何をしているの。私は当てろと言っているのよ」
「それが・・・・」
「むむむ、まだ、弾は有るわね。全て撃ち尽くしなさい」
 初音の指示で、弾奏を取れ変えた。その様子をみて、新一は、恐怖を感じたのだろう。叫び声を上げながら公園の中へと逃げ出した。
「うぎゃぁああああ、殺される~ぅ」
「駄目、今、出てったら危険よ」
と、今日子は、新一に伝えるが、我を忘れているように走り続けた。その後を、今日子と友は、初音と警護人も追い掛けたかったのだろうが、殺気を放ちながら睨み合いが続き、動けなかった。その様子が分かるはずもなく、新一は走り続けた。それも、森の中へ、中へと、そして、自分の居場所も分からず、人の気配も感じられなくなると、心細くなった。すると、虫の鳴き声に怯え、蜘蛛の巣が顔に付くと泣き声を上げながら猫の名前を呼び続けた。
「シロ、シロ、出来て、シロ、怖いよ。シロ出てきてよ。シロ~」
 そして、新一は、また、違う蜘蛛の巣が顔に付き、それが目に入ったのだろう。痛みと恐怖で目を瞑りながら歩き続けた。このような歩き方なら街中でも、森の中でも転ぶのが当然だろう。思った通りに、三歩も歩く事もなく転んだ。
「シロ、シロ。助けて、助けにきて」
 だが、助けを呼んでも、シロは来てくれなかった。それよりも、新一には、これから死ぬ程の恐怖を体験するのだった。普通の人なら死ぬ程の恐怖ではない。ただ、顔の上を虫が歩き回ったのだ。
「ぎゃああああああ」
 普通の人でも気分が悪くなるだけだろうが、新一のように失神するはずがないはずだ。
 そして、悲鳴を上げた後、三時間後、シロの体に入った真と出会うのだった。
 
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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