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第十四章、再び江見の家
「涙、薫は大丈夫だろうか」
「え、何が」
「父親に気に入られるだろうか」
「何を言っているの、男だからだってね。薫は婿みたいなのよ。嫁を出す父親みたいに、気に入らなければ断る。そう思わせるように堂々としてなさい。始めが肝心なのよ。始めがねえ。お父さん、分かっているの」
「わかった」
 そう答え、(私も婿なのに、そんな雰囲気でなかったぞ)と、心の中で思い。涙に聞こえないように何かを呟いていた。恐らく、その当時の事でも思い出しているのだろう。
「遅いわね」
 涙は、愚痴を零す。だが、一本の煙草を吸い終わる時間も経ってなかった。
「お父さん、お母さん、お待たせしました。どうぞ、入ってください」
 二人は、玄関に入ると、ホッとした。懐かしいような気持ちになった。それは、古き良き時代と言うべきか、親しみを感じたのだった。昭和のやや終わり頃に思えた。黒電話が置かれ、その近くに走り書きのメモや店屋物を頼む時の食事の目録やチラシが壁に貼られていた。まだ、携帯が普及されていない。全ての連絡などは家に帰らなければ分からなかった時代だ。二人は気持ちが落ち着くと自然と家に上がっていたのだった。そのまま、江見の後を付いて居間に入ると、本当に竜宮城なのか、そう感じてしまった。一通り物があったからだ。テレビ、ビデオ、新聞、雑誌など思い付く物は全て置いてあった。でも、一つの驚く物を見つけ、涙が問い掛けていた。
「ここは竜宮城ですよね。何故、ここに、私達の世界のインスタントコーヒーがあるのです。それも、メーカ名も同じですよ。他の調味料も同じですわね。何故です」
「勿論、あなた方の世界から仕入れてきます。環境が全て変わると精神に異常を起こす人も居ますから、江戸時代風や未来風もあります」
「そうなのですか」
「薫さんは、私と同じような時代から来たのですね。今、ご両親の話を聞くと、そう感じられました。安心して下さい。仕入れ担当の部署に就けば定期的に会えますし、勿論、手紙なども届きます。まあ、薫さんが断らなければ仕入れ担当の部署に就きますよ」
「そうですか、ありがとう御座います」
「いいえ、それでは何か、飲みましょう。コーヒーにしますか」
「はい」
「それでは、豆もありますから挽きましょう」
「すみません」
「いいえ」
 カリカリと豆を挽く音を、暫く聞いていたが、問い掛ける事を思い出したのだろう。
「結婚式はするのでしょう。出席は、私達だけですか、知人とか呼べないのでしょうか」
「無理をすれば呼べなくないですが、出来れば控えて欲しいです。ですが、質素な式ではないですよ。竜宮城を上げての祝いです。それに、今回は三組以上の結婚式がありますので、竜宮城の象徴でもある。王室の全ての方がお祝いに来てくれます」
「ほう」
 驚きの為に言葉を無くしていたが、息子の青白い顔を見て、自分が問い掛けなくてはいけない。そう感じたからだ。
「それでは、どちらが主役か分からないわね」
「それは、私も涙さんと同じ世界から来た者ですから心得ています。安心して下さい。竜宮城に住む事は王の類縁になると言う事ですから、それに、結婚式をする者が三組以下だと、永住証明書を渡す者は王ではなく、王室の類縁の誰かになります」
「ほう、神父見たいな事をするのかな」
 一人事のように呟いた。
「おお、そのような感じです。今回は、本当に名誉な事なのですよ」
「そうですね。この地での一番に偉い人が祝ってくれるのですから有りがたい事ですわ」
「そうですよ。それで、結婚式は十日後です。その間は、この家に泊まり、竜宮城を楽しんで下さい。まあ、今、言わなくても分かるでしょうが、買い物などする時は、薫さんの名前を出すか、私の娘の名前を出して下さい。それで、済みますから」
「ありがとう。そうします」
「あっ出来れば、明日からにして下さいね。
明日には隅々に、薫さんと、江見の結婚式の事が伝わります」
「はい、分かりましたわ。勿論、お父さんもいいわよね」
 涙は、隣に座る連れ合いに声を掛けたが、何故か、夢中で新聞を見ていた。
「ん、何か言ったか、見てみろ。面白そうな映画をやっているぞ」
「はっあー。そうね。楽しみね」
 涙は大きな溜息を吐いた。今まで話をしていた事は全て聞いて無かったからだ。
「うん、どのような映画なのだろうな」
「父さん」
「何だ」
「はっあー、何でもない」
 薫は、父の姿を見て呆れ返った。
「お父さん、私の父も映画は好きで、可なりの数が家にあるはず、観てみますか」
「まあ、竜宮城で作られた物ですから面白いか分かりませんよ」
「おお、それはいいですね」
 この言葉で七人は、自分の趣味から子供の育つまでの思い出などを交互に話しを始めた。七人もの思い出だからだろう。思い出を話す事で一日が終わっていた。
 二日目の朝、怒鳴り声と悲鳴のような声が響いた。
「母さん、何をするの」
 窓を開け、布団をめくり、娘を起こした。
「当たり前でしょう。薫さんの、ご両親が居る時くらいは全て自分でやりなさい。何も心配がありませんから任せてください。そう行動を見せて分かっていただくのよ」
「何で、こんなに朝早くよ」
「あなたが、何も出来ないのを知っているから、その為に早く起こしてあげたのよ」
「何を騒いでいる。お客さんが居るのだぞ」
「お父さん」
 二人の女性の声が重なった。
「理由は聞かない。二人の声で、もう起きて来るぞ。朝食の用意は出来ているのか?」
「はい、今から」
「その事で」
 二人の女性は、何かを言いたいのを我慢しているように言葉を飲み込んだ。
「済みませんね。私も何か手伝いますわ」
「あっ、お母さん」
「起こしてしまったようですね。すみません」
 娘の声で驚いたと感じて、父は何度も何度も頭を下げていた。
「構わないで下さい。息子さんを任せる事が出来るか、厳しい目で判断して下さい」
「分かりました。そうさせて頂きます」
「そうだ。朝食の後、息子さんと竜宮城を見学してみてはどうですか」
「見学はしようと考えてしました。ですが、連れて行っても、息子も分からないはずですから意味がないでしょう。二人で楽しく歩く事にします」
「そうですか」
「江見さん、朝食も楽しみにしていますからね」
「はい、頑張ります」
 薫と両親は、台所に近寄らなかった。いや、近寄れなかったのだ。盛大な親子の言い争いが聞こえてきたら普通は入れないだろう。それが聞こえてくると、江見の父は恥ずかしそうに咳の真似や話題を挙げて誤魔化そうとしていた。それでも、朝食を食べる時の江見と母は、偽りの笑みを浮かべていた。それは誰にでも感じる事が出来るはずだ。目が、視線が殺意を感じられたからだ。このような食卓では、食べ物が美味しく喉に通るはずがない。食卓から逃げるように食事を済ませると、薫と両親は家を出た。
「薫、あなたは出て来なくていいのよ。新しい家族でしょう。戻りなさい」
「えっ、あの、お母さん。ねえ、お父さん」
 薫は、玄関から江見と両親の怒鳴り声が聞こえ、恐怖のあまり助けを求めた。
「薫、戻るのよ。分かったわねえ。それでは、お父さん、行きましょう」
「そうだな」
 二親は声を掛けると、振り向きもしないで歩き出した。残された薫は、如何する事も出来ずに、その場で立ち尽くしていた。そして、数分後
「薫さんですか?」
 薫は、女性の優しく、柔らかい声を掛けられ振り向いた。
「えっ、あのう」
 顔から下まで均整のとれた体、この様な人が何故、私を知っているのか、それを考えると言うよりも、呆然と見惚れていた。
「私、江見の友人の明日香と言います。江見に話があったのですが、忙しいみたいね」
「そうですね。今、会ったら命の危険を感じると思います」
「ホホホ、面白い方ですね。薫さんなら、人と違う事を言ってくれるみたい」
「え」
 薫は、何故、笑われたか分からなかった。
「もし、良ければ、私の悩みを聞いてくれませんか?」
「はい、いいですよ」
 明日香は、薫の手を取り歩き出した。
「えっ」
薫は惚けている為に、何を言われたか分かっていないようだ。二人は、住宅街から商店街へと歩き、喫茶店に入った。もし、薫が惚けていなければ驚きの声を上げたはずだ。
「薫さん、何かを飲みましょう。飲みながら、私の話を聞いて欲しいわ」
「そうですね。それでは、同じ物をお願いします」
「それでね。私の、人ね。ああ、お父さん、連れ合いね」
「はい」
「もう、一月も、私の体に触れてもくれないのよ。浮気しているかも知れないわ」
「そうなんですか」
「そう、それでね。浮気の事はあきらめるわ。喧嘩しても仕方ないし、私も浮気すればいいと考えました。ねえ、分かりますよね。私が言いたい事、ねえ」
 明日香は、薫を誘惑するように話を掛け続けた。
 同じ時間、薫を見捨てた。二親は、驚きの声を上げていた。
「おおおお、何なんだぁ。あれは?」
「わああ」
 江見の家の周囲では分からなかったが、数分歩き、通りが変わると、暖簾、旗、看板などで、薫の結婚式と同族になる事の知らせをしていた。それも、信じられないほど目立つ、まるで、芸能人、いや、それ以上の知らせ方だ。でも、薫だけでなく、三組の結婚式の知らせだった為に、少し不満を表していた。それでも息子の名前が出ているのが嬉しくて、又、違った看板があるかも、何処まで続いているのかと、歩き続けた。
「ねえ、お父さん、ここは食堂よね」
「そうだろうな」
「うわあ、薫の名前が付いた物があるわよ。魚料理かしら肉かな、食べてみましょう」
「そうだな、だが、支払いは気にしなくてもいいと言われても、後々の事を考えると」
 涙は、連れ合いの話を聞かずに、店に入ってしまった。このように一軒、一軒見て回るのだ。時間を忘れて、直に一日が終わってしまう。
「そろそろ、日が沈むわ。もう帰らなければ行けないのですね」
「そうだな」
 二人は、一度見た物だからだろう。帰り道は、時間は掛からず家にたどり着いた。
 その、向かう家では滅多に鳴らない電話が鳴っていた。江見だけが理由が分かるのだろうか、どきつい漫才のように料理を作っていたが、突然、手を休め駆け出した。
「江見、言われた通り連れ出したけど、口説く事はしなかったわよ。真面目で、江見だけしか愛さない人みたい、良い人を見つけたわね。でもね。帰り道が分からなかった見たいだから玄関まで連れてきたわ。でも、家に入らないの、何故かしら、後は任せるわね」
 明日香は、電話では爽やかな声で、穏やかな内容だが、喫茶店から出た後は、言葉で駄目なら雰囲気のある場所に連れて回し、何度も何度も誘惑した。それは日が沈むまで続けられ、飽きたからだろう。それで、江見に電話をしたに違いない。
「薫どうしたの。まさか、一日中、ここに居たの?」
「え、なに、ああ、居なかったよ」
(あっ今、話しを思い出すと、明日香って人は、私を誘っていたのか、まっ、まさか)
薫は、惚けたまま立ち尽くしていた。
「あら、お母様、お父様、お帰りなさい」
 江見は、明日香からの電話を切ると、玄関の外に走り出し、薫と家族に会った。
「何か、薫が変なのよ」
「お母さん、私もそう思います。薫、どうしたの、家に入りましょう」
 江見は知っているはず、薫が夢心地のような、熱があるような様子の理由をだぁ。
「さあ、お母さんもお父さんも家に入りましょう」
「そうね。お父さんも行きましょう」
「食事も、間もなく出来ますから待っていてくださいね」
「あら、江見さん、何かあったの、御父さんが、変よ」
 玄関に入る前、涙は庭に視線を向けた。すると、江見の父が、何故か庭に椅子を持ち出し、耳を塞ぎながら座っていた。
「涙、薫を頼む。私は、江見さんの父の様子に想像が付く、少し話をしてみたい」
「そう、分かったわ。お願いね」
 妻の言葉を聞くと、一人で庭に向かった。そして、自分の息子が悩んでいる時のような感じで、後ろから肩を叩いた。
「ん」
「私にも耳を塞ぎたくなる気持ちはわかります。妻が料理を作る様子を見聞きしたくないのでしょう。私も、薫が生まれるまで、同じ気持ちでしたよ」
「あ、貴方も、なのですか」
「あ、済みませんでした。私の事は田中でも、進でも好きな方で言って下さい」
「気を使ってくれてありがとう。私も、田中さんと同じ世界の者です。家の様子を見たら想像が付くと思います。田中さんは、私より未来でしょうか、過去でしょうか?」
「恐らく、未来でしょう。ですが、数十年後くらいと思いますよ」
「そうですか、私の名前は、卓です。この閉鎖された別の空間の為でしょうか、それとも、ここの住人は名前しか使わないからでしょうか、名字は忘れました」
「そうですか、私は変な勘ぐりなど感じていませんから、気にしないで下さい」
「ありがとう」
「卓さん。今日、始めて台所に入ったのですね」
「そうです。妻が、娘と、怒鳴り合うのは何度か聞いた事はありました。だが、台所で、あれほど、豹変するはと驚き、いや、恐怖を感じました」
「そうでしょう。顔、髪、衣服、台所の様々な所に、血や汁などが付いていたはず。それだけでなく、怒鳴りあっているのに、手元も見ずに包丁を扱う姿でしょう。私も、あれを見た時は、心臓が止まる思いでした。私を殺す為の料理か、それとも、人の肉でも料理しているのかとね」
「うわあああ」
「卓さん、思い出したのですね。あの台所の場面を、だが、忘れるしかないのです」
「うっうう」
「私も、代々の家訓を破らなければ見る事が無かったのです」
「家訓とは、男は家事に係わるな。その事ですか」
「そうです。家訓には理由があったのです。夫婦が円満に暮らせる為に必要な事が語り継がれているのだと感じました。私も、あの場面を結婚する前に見ていたら、夢も希望も消えうせて、独身を貫き通したはずです。今、思えば、家訓を破らなければ楽しい夫婦の生活が出来たはずです。私は馬鹿でした」
「そそ、そうですね。あれは戦場でした。私に、家訓を教えて下さい。それを役立てたいのです。娘の為、いや、薫さんの為、二人が楽しい夫婦生活をして欲しいからです」
「そうですか、構いませんよ。まず、第一、男は何があっても台所に入ってはならない」
(薫、婿は大変だぞ。私も婿だから気持ちが心底から分かる。全てを守ってくれないだろうが、台所の関係だけは守ってくれるに違いない。少しは楽が出来るようにしたからな)
 二人は泣き、笑い。そして、真剣に家訓の事を話し、憶えようとしていた。それは、二人の連れ合いが心配して現れるまで続いていた。
 このような日々が二日、四日と過ぎていく、このままだと、十日が過ぎても、息子の為に偽の家訓を伝える考えも、江見が薫を試す事も、薫の両親が竜宮城を全て見て回れない。そう思えるほど、あっと言う間に時間が過ぎてしまった。
 最下部の十五章をクリックしてください。

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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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