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 第八章、一族が消える三十分前、
四人の武将は、部下に出発の準備と武具などの整理を任せると、有る場所に向かった。その場所は、四人の武将の言葉で判断できるだろう。
「かかり、月姫の言葉を伝えに来た。外に出て来てくれないか」
 そう呟きながら扉を叩いた。中でゴソゴソしている音が聞こえる。だが、中々出て来ない。再度、扉を叩こうとした。
「まだ、江見さんは帰って来ていませんよ」
 目には涙の痕が残っていた。恐らく、旅にも行けず、江見とは強制的に引き離された為だろう。泣いていたに違いない。
「そうか、その事で来たのではない」
「そうですか、俺は、その事以外では話す気持ちなどない。帰ってくれ」
「甲羅は持っているか、それが心配で来た」
「ある、中にあるよ。それが何か?」
「そうか中にあるか、それは良かった。甲羅を返して貰うぞ」
「なにぃ、ぐっほ」
 四人の武将は無理やり中に入ろうとした。邪魔なかかりを、まるで、物を退けるように腹に一撃をあたえ。四人は中に入った。
「あった。これだ」
 甲羅は寝台のような所の上に置いてあった。それを取り上げ小屋から出ようとした。
「かえせー」
 かかりは、甲羅を取り戻そうとして、甲羅を持つ左の手に掴みかかり、取り戻した。
「何をする」
 一人の将が、かかりを蹴り飛ばした。小さい小屋だから板壁に叩きつけられ、うずくまった。痛みの為と言うよりは甲羅を腹の下に隠すように思えた。四人の武将に殴られ蹴られるが、動こうとしない。それでも痛みは感じるのだろう。苦痛を感じる悲鳴だけ、何度も響いた。そして、顔面に蹴りが入り仰向けになったが、甲羅は手から離さなかった。
「ごめん。かかり」
 カイが、江見とかかりの事が心配で小屋の近くまで来ていた。だが、かかりの虐待を見ると又、逃げ出した。
「誰かが来たようだぞ。早く事を済まして、この場から消えるぞ」
「そうだな」
「私達だと思われると厄介だからな」
「遊んでないで捕まえていろ。私が甲羅を取る」
 この言葉を最後に、かかりから無理やりに甲羅を毟り取った。そして、かかりは声も上げずに仰向けのまま動かない。唯一の希望が消えたのだから仕方が無い。
 この事を知る者はカイしか居ない。そのカイは誰にも告げずに家で震えていた。それでも家に居るのだ。父が帰るのを待っているのだろう。その頃の父は、まだ、神社にいた。
「村長、全ての村民が、この地から消えるのか?」
「我々が共にではお邪魔になるだろう。我らは陰から一族の為に働かなくてはなぁ」
「私も毎日、お祈りを致します」
「お願いします。それだけが一族の心の支えです」
「私も、他家の名前を名乗っていますが、同じ一族です。気持ちは同じですよ」
「そうでしたな」
「行かれるか」
「そろそろ、親子の会話も終わった頃でしょう。見送りに行かなくてはならない」
 そう呟くと階段に向かった。階段を半分くらい下りた頃だ。
「もう行かれてしまわれた。それほどまで急がれなくても、だが、この気構えなら占いは叶いましょう。これからが楽しみ。そう思っているでしょう。私もそうです。上様」
 木々の隙間から人々の行列が見えた。
「それでは家に帰るか、カイは自分の部屋で震えているだろう。これで懲りてくれればな」
 村長は、江見、かかり、カイが通ってきた道を逆に進み、家に向かった。
「カイ、カイ居るのだろう。出て来なさい」
 家に入ると、直に大声を上げた。普段なら誰かは居るのだが、祭りの為に誰も居なかった。それを知っているから大声を上げたのだろう。
「父上、父上、助けてくれよ。俺も、俺も、かかり見たいに殴られ蹴られるのかな」
「今、何と言った」
 息子が泣き叫ぶ声を聞き流していたが、余りにも物騒な話しを聞き、問い返した。
「だから、父上なら、俺も、かかりも助けられるだろう。あれでは死んじゃうよ」
 かかりは、父の足に縋り付いた。
「本当に邪魔をする者がいたのか、刺客がいるのか?」
「え、刺客」
「それは何時だ」 
 息子の顔を自分に向かせた。
「え、三十分くらい前かな」
「カイ、どこだ。その場所を教えろ」
「えっ」
「いいから、案内しろ」
 そう、息子に問い詰め、かかりの家に向かった。
 玄関の前で、かかりは倒れていた。それを見るとカイは立ち尽くした。最後に見た場所から動いたように見えなかったから死んだと感じたのだ。そして、村長は息子を落ち着かせると、かかりに駆け寄り抱き上げた。呻き声を上げているが、誰が見ても助かるとも思えなかった。それでも声を掛け続けた。
「かかり大丈夫か、確りしろ」
「うっうう、許さない」
「誰に遣られた。えっ」
 何か言っていると感じて、口元に耳を近づけた。
「許さない。うっうう、許さない」
 恨み事を繰り返すだけだった。
「カイ、私の家に運ぶから誰かを呼んで来てくれ」
「はい」
「甲羅は盗られたのだな、私にも、一族の為にも必要な物だ。必ず取り返す。もう心配するな。もう話しをするな」
「うっうう。許さない」
 もう、村長の声は、かかりの耳には届いていない。二人になって数分くらいだろう。カイが現れた。恐らく自宅でなく。近くの家か、祭りを楽しんでいた者に頼んだのだろう。数人の男女が戸板を担いで現れた。
「村長なにがあったのです」
 現れた中の一人の女性が声を掛けながら水筒を手渡した。
「占いの甲羅が盗まれた。誰か、月姫に知らせに行ってくれないか」
「はい、分かりました。あなた、行って来てお願い」
 女性は、一人の男に声を掛ける。男は頷くと駆け出した。女性の連れ合いだろう。
「かかりに出来る限りの事をしたい。私の家まで手を貸してくれないか」
 戸板に乗せ、村長の家に向かうが、かかりは恨み言を呻き続ける。その間に人々が何事かと見に来るが、恨み言を耳にすると、係わりたくない為に直に離れた。それなのに、村長の家に着くまでには、村人の統べてと感じる人々に噂が広まっていた。それでも、祭りは続いていた。止められるはずもない。神に感謝する行事だ。それもあるが、不吉な事を払えればと、その思いで騒ぎが大きくなったようにも感じられた。
「奥に寝かせてくれないか」
 家に着くと、村長は指示をした。その場所は客間と思えた。
 かかりは恨み言を吐き続ける。それなのに、誰の言葉にも反応しない。それだけでなく、腕や体を動かす事もしない。もう、痛みも感じてないのだろう。
「村長、甲羅が姫の所にありました」
 日が沈み、祭りも終り、幼子が母などの手を引かれ家路に向かう者や夕食を作る煙が多くなる頃だ。村長が使いに出した者が帰ってきた。時間にして三時間くらい経っただろう。
「何故、月姫様の手にあったのだ」
「それは、姫の考えを間違って判断して、無理やり取り返した者が居たらしいのです」
 村長の言葉を伝え。それで帰って来るだけなら一時間半もあれば十分なのだが、手にある書状の為に倍の時間が掛かったのだろう。
「そうか」
「詳しい事は、これに、書いてあるそうです」
 男に労いの言葉を掛けると書状を読み出した。それには、月姫が問い詰め。統べての事が書かれていた。そして、月姫の指示が書かれている。直には会えない事、一番重要な事は、占いが凶に変わる事を恐れて、社を建て、甲羅を祀るようにと書かれていた。そして、この書状の事を統べて、かかりに伝えて欲しい。そう書かれていた。
「かかり、月姫は嘘を付いていないぞ。甲羅も返してくれたぞ」
 村長は、そう言葉を掛けるが、かかりの耳に入っていない。今も恨み言を呟くだけだった。それでも、村長は、かかりの手当てを続けた。でも、かかりは、朝日を見る事は出来ずに息を引取ってしまう。この後、直ぐに村長は、祭司の所に向かった。
「そのような事が起きていたのですか、う~ん」
 祭司は、顔色を青ざめた。不吉な事を感じたのだろう。
「祭司様、占いに影響がありますか?」
「そう成る可能性はある」
「なら」
 村長が問い掛ける。
「それなら、かかりを神の見使いとして祀り上げる事が最善かと思う」
「う~ん」
 今度は、村長が考え始めた。
「甲羅を祀るなら、かかりを側に置いておかないと凶になる可能性があるぞ」
「う~ん。やはり、それは出来ない。盛大に弔ってやろう。それだけだ」
 村長は、祭司の提案を断った。
「分かりました」
 祭司は不満そうだが、返事を返した。
 かかりを弔い。数日後、魚が取れなくなり、異常な天候も続いた。村人は、食事が偏る者や食べられない者が増え、死ぬ者もいた。この統べての事が、かかりの怨みの念だと騒ぐ者が多くなり、日にちが経てば、経つほど、その数が増え続けてしまった。仕方がなく、村長は無視する事が出来なくなり、祭司に相談を持ちかけた。
「やはり、かかりを祀るしかない」
 祭司は、即答した。
「それしかないか」 
 村長の言葉で、その日の内に祀り上げる儀式をした。すると次の日、天候も変わり、魚も大漁になり。かかりの事は一部の者以外は忘れられた。その一部の者は、それは怨みを生業にする者達だった。何故か、かかりに怨みの願いを言うと、願いが叶ったのだ。その為に、近隣から心の底から怨みを思う者が訪れるようになった。それから、数年が経つと、桜が満開の時期に限り、甲羅の欠片を持つ者から一つ、一つ手元から消える事が起きた。かかりの祟りだ。江見の祟りだと噂が広まった。その事件は、かかりの甲羅の欠片だけになるまで続く、その頃になると、八百万の人々の事も忘れられ、典雅が政治を仕切り、月姫の孫が、この国の二種族の、ただ一人の王の直系とされ、将来が約束されていた。これで、統べての占いが叶った為に、かかり、江見の事など書き記す者もいるはずもなく、二人の事は忘れられた。それでも、怨み言が叶う神社として、平成の現代まで語られていた。
 最下部の第九章をクリックしてください。

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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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