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物語が始まる前に、一言。
 
 この物語は、第三十一章で完結です。元々、「探偵見習いと化け猫」の連載が終わった後に連載を開始しようと考えていたのですが、三十一章なので、長い時間が掛かると思い連載を開始する事に決めました。連載形式は、毎月、一章を載せる考えです。長い連載になると思います.
 

そろそろ、物語を始めようと思います。

最後に、もう一言。。。。

主人公の涙花は、いや、涙花が住む都市の住人は、左手の小指に赤い感覚器官があり、背中に蜉蝣のような羽がある。その羽は、羽衣と言われていた。
涙花は、誕生日の日に、父からのプレゼントを貰い。それは、幼い時からの夢だった。
だが、それが、全ての始まりだった。それからは、想像も出来ない生き方を選ぶ事になる。何故、それは、左手の小指の赤い感覚器官が見えると、ある人に言われたのだ。それは、自分の運命の相手のはずだからだ。再び、その人物と再び会えるだろうか、そして、結ばれるのだろうか?
         
それでは、物語が始まります。  

糸の導きを信じて

第一章
 食卓に多くの料理を並べられているが、誰も食べようと手を伸ばす者は居なかった。それなら、装い分けるのを待っているのだろう。そう思うだろうが、違っていた。その理由は、誰もが直ぐに分かるだろう。室内は料理が見えないほど暗いからだ。だが、機械仕掛けの光が無いと言う訳でも故障でも無い。その事は表情で感じられた。怒りを感じる視線を食卓の中央にある燭台を見つめ続け、灯そうともしない。皆は怒りを感じている事だろう。目が慣れるのを通り越して、料理が冷たくなる程の時間が過ぎているからだ。
 カチリと鍵を開ける音が響いた。怒りの表情のままだが、微かな笑みが感じられた。恐らく待ち人に違いない。ギギイ、と扉の開ける音と同時に一本の蝋燭の灯りが見える。
 三人は座ったまま、一本の蝋燭を目線で追い続け、燭台に挿してある全ての蝋燭が灯ると、三人は同時に怒りの声を上げた。
 [お父さん遅い、何をしていたのよ」
「もう、料理を作ったのに冷めましたわ」
 [やっと話せるぅ、死ぬかと思ったぁー」
 この地の住人の習慣で、誕生日の最初の灯りを灯すのは異性の役目、大抵は父と決まっていた。夢を持たせる遊びなのだが、心底から住人は信じている。それは、歳を取る最初の夜の蝋燭の灯りに未来の事や結ばれる異性が現れると思われていたのだ。そして、蝋燭を灯した者は、幻影が本当に成るまでの未来を守り、導かなければならない。そして、歳を取る者は料理を並べた後、歳の数の蝋燭が灯るまで声を上げてはならない。知人や家族は声を上げても良いのだが、蝋燭の囁きを聞き逃しては困るだろう。それで、共に沈黙するのが普通だった。
「最高の贈り物を用意するのに時間が掛かったぞ。待たして済まなかったが、私の贈り物は蝋燭の灯りに映っていたかも知れないぞ」
「えっ」
「えっーお姉様だけずるい。私も欲しい」
「あなた早く教えてあげなさい。驚きの余り息をするのも忘れているみたいよ。窒息で死んでしまうかも知れないわ」
「この都市の人口の星ではなくて、外界の本当の星が見たい。そう言っていただろう」
「えっ、外界に行けるのね」
「そうだよ。遅れた事は許してくれるな」
 父の、これ以上崩れないと思う笑顔を見て感謝の言葉を掛けようとした。その時に、突然耳に、草木の踏む音や擦れる音が聞こえた。
「誰、お父さんなの?」
 その音で夢から覚めた。夢を見ていた事の驚きよりも、人の気配に恐怖を感じた。
「脅かして済まない。火に当たらして欲しいのだが、宜しいかな?」
「えっ、えっ」
 若い男の声が聞こえる。声色からは疲れが感じられた。歩きながら話をしているのだろう。草木の踏む音が近づいてくる。
「えっ、えっ」
 私達と同じ姿をしていると聞いたが、初めて出会うのだ。猿の遺伝子と我々の遺伝子の複製だ。好奇心もあるが恐怖も感じた。何か答えなければならない。恐怖を感じているのを悟られたら襲いかかるかもしれない。そう心を決めて、言葉を上げようとした時に男が現れた。そして、決めた心が吹き飛んだ。
(あっらぁー、見られる程度の良い男じゃないの。無精髭を剃った姿が見たいわねぇ)
 緊張も恐怖も完全に無くなった。この女性が特別なのか、それとも、全ての女性も色男なら恐怖が消えるのだろうか。
「どうぞ、焚き火の近くに来て下さい」
 色男は犯罪をしないと思っているのだろうか、笑みを浮かべながら手招きをする。
「図々しいと思いでしょうが、温かい飲み物を頂けないでしょうか、お礼に可也の金額を差し上げる事が出来ます。駄目でしょうか?」
 男は本当に飲み物を欲しいのか、金に困っていないと強調して、恐怖心を取ろうとしているようにも感じられた。
「宜しいですよ。お礼なら旅の話や貴方の事などの話が聞きたいですね」
「そうですか、良いですよ」
 女性は、男性の返事を聞く前に、焚き火の周りの石に紅茶の容器を載せようとした。男性に目線を向けながらなのに手元は確りしている。恐怖心も、疑いも感じていないのだろう。そう目が言っている。男性は容器が心配なのだろう。目線を向けながら話を始めるが、ちらちらと手首を見るのは焚き火の火で、火傷をしないか心配をしているのだろうか、その仕草に女性は気が付いてない。
「そうなの、それで」
 直火ではない為に時間は掛かるが、男性の旅の話が楽しくて時間を忘れていた。
「旅をするのは楽しいのは分かりますが、長男で家柄も良いのに信じられませんよ。何故、お父さんは旅を許してくれたのです」
 男性は話し疲れたのだろうか、それとも紅茶が温まった事を知らせようとして、話を止めたのだろうか、視線は容器とも女性の手首とも思える。そんな、視線を向けていた。
「あっ、ごめんなさい。淹れますね」
「ありがとう」
「どうぞ、砂糖はありますよ。それとも塩の方が良いのかしら?」
 女性は容器を地面に下ろしながら尋ねた。
「このままで飲むのが好きですから」
「そうですか」
「いい香りですね。そう、旅を許してくれたのは、叔父の話を持ち出したからなのです」
 男性は喉を潤しながら、又、話を始めた。
「えっ、どのような話ですか?」
 女性の表情からは驚きが感じられない。ただの、相槌のように感じられた。
「母方の叔父が、私と同じ歳に近衛兵に入隊し、忠誠の誓いの時に言った言葉なのです」
「どのような言葉なの?」
「それはですね」
 男性は、先ほどの柔和な表情から真剣な表情に変わり、言葉で足りない事は身振り手振りで表現しながら話を始めた。それは、
「陛下。私は自分の気持ちを陛下に伝える為に入隊の儀式を頑張りました。早く儀式を終わらせ、見知らぬ老人の話で心動かされた事を伝えたい為です」
 男は、物語の主人公のように声色を変えて伝えた。少し話すと、喉を潤すために中断して、今度は叔父の感想を言い出した。
「叔父は死ぬ覚悟で話をした。そして、頷くのを待ったそうです。許されると、満面の笑みを浮かべながら話し出したそうです」
 今度は老人と叔父の二役を演じた。
「貴方は地位、名誉、財産はあるように見えます。それで、次は何を望みですか?」
「えっ、何を言っているのだ。私に言っているのか?」
 老人は路肩に腰掛け、愚痴のように話を掛けた。叔父は、普通は無視するのに笑みを浮かべて、老人の隣に腰掛けた。
 男は二役の動作まで演じるのだから芸人を職業にすれば天下を取れると感じられた。
「その中の一つでも、一生掛けて得ようとする人がいるそうです。それで一つでも手にした者は、次に何を得ようと考えるか、それは、若い時に出来なかった思いを取り戻そうとするそうです。特に異性を欲しいと願うそうです。私は、負け惜しみだと思っていました。
 私は地位、財産、名誉を得たのですよ。信じられないでしょう。私は何の為にがむしゃらに働いてきたのか忘れていたのです」
「私は信じるぞ。心の底からの悲しみを感じるが、目は死んでないぞ。何かをやり遂げた。良い目をしているからな」
 男は二役を完璧に演じているから疲れたのだろう。又、喉を潤し、終わると普通に話を始めた。このように普通にしていれば貴族だと言っても、誰でも信じるだろう。
「叔父の身なりで、地位も財産もある人だと思ったからでなく、目の輝きや顔色で何かの思いを感じた。そう言っていました。
 その老人は気が付いたら、その歳になっていた。そして偶然に初恋の相手に再会して、昔の思いを伝えたそうです。そしたら、悲しくなる事を言われたそうです。
 男は突然立ち上がり女の声色を上げた。姿や雰囲気が、育ちが良いから変には感じない。
それが変だと言われれば、確かに変だろう。
「何故、言ってくれなかったの。貴方は馬鹿です。思いだけでも生きて行けるのですよ」
 男は本当に涙を流しながら演じる。涙を流すのを隠す為に演じたのだろうか、何故、そう思えたか、それは、涙の演技だと思わせると、直ぐに腰を下ろしたからだ。
「老人は全てを話し終えると、叔父の肩を叩き頑張れよ。私の様な人間になるな。そう言って笑ったそうです。叔父も、ここの場面だけは笑って言うのです。不釣合いの二人が路肩に座っているから、人の視線を感じ、昔の気持ちが戻って羞恥心を感じたのだろう。そう言いっていました」
 笑みから真剣な顔というより、死にそうに顔を青ざめてゆっくりと声を上げた。
「陛下。私の想い人が、何処かで待っているはず。旅に出る許しを頂きたいのです。旅から帰った後は陛下に生涯の忠誠を誓います」
「・・・・・・・・・・」
 女性は無言で耳を傾けていたのだから、本当の話しと感じたのか、それとも惚れてしまったのだろうか、それで、口から出る言葉を全てが本心と感じたのだろう。
「私も、父に想い人の探しの旅に出たいと言いましたら、一言で許されました。お前はあの男と似ている。駄目だと言って陛下に直談判されては困る。行きたいのなら行け、又、我が部族からあの言葉を吐く者が出たら、王の輩出が出来なくなるどころか、一族全てが抹殺される。だが、必ず見つけて帰ってきてくれ、あの男と同じになってくれるな」
「そうなの、ふううん」
 男の顔色は、無邪気な子供が好きな物語を話すように見えて、女性は口調では真面目な話だと思い装っているが、笑いを堪えているようにも感じられた。
「先ほどから気になっていたのですが、一つ聞いても宜しいでしょうか?」
「なんですか?」
 女性は驚きなのか、それとも不審とも思える顔色を浮かべながら首を傾げた。
「小指と一体になっている腕輪は、何の宝玉なのですか。継ぎ目も無いようですね。不思議だなぁ。そう思っていました」
「これの事ですか?」
 目を見開いて、驚きの声を上げた。
「そうです。連れ合いを見付けた時に、贈りたいと思いまして、何の宝玉なのです」
「このような所に客人とは珍しい。何かの用があってですかな?」
 女性の父は、話し声が聞こえて娘の事が心配になり現れたのだろう。
「いえ、何の用事もありません。占いで、この方角に良い事があると出ましたので、行ける所まで行こうと考えています」
「あっの、あっのうぉ」
 女性は顔を真っ赤にして、父と男は交互に視線を向けて、何かを言いたいのに言えないでいた。だが、心の中では悪態を吐いていた。
(もうお父さんの馬鹿、なんでこんな時に現れるのよ。現れるのならもっと早く現れればいいのに。本当にもー。この男も名前を言うか、先ほど尋ねた話題を出しなさいよ)
「あっの、あっのうぉ」
「ほう、自由気儘の旅ですか、いいですな」
「今、頂いているような嗜好品は飲めませんが、異国の様々な物を見る事が出来ますからね。本や話を聞くのとは違います。目の保養にも、心を豊かにもしてくれます。それが、一番の楽しみですね」
「そうでしょう。お若いから出来る事です。私にも聞かせて欲しい。私もこの歳です。そのような話を聞く位が楽しみですからなぁ」
「いいですよ。私も旅の話で本当に喜んでくれる。その顔を見るのも楽しみの一つですから、そうですね。何から話しましょうかね」
「あっの、あっの」
 娘は顔を真っ赤にして、死ぬほど恥ずかしいのだろう。必死に我慢して声を上げているのに気が付いてもらえない。父は、娘が居る事を、男は女性が居る事を忘れていた。
「あれも見てきたのですか、それは、それは、良かったでしょう。私も感動しましたよ」
 二人だけの会話が続いていた。笑い声、感動の声や自分が見たかった場所などを交互に話し掛ける。その脇で女性は必死に目線を向けているが、しだいに涙目に変わり嗚咽を漏らし始めた。それでも、男二人は話に夢中で気が付かないでいた。
「そうそう、私も話だけで行った事はないのですが、砂漠のある国では川が飛ぶらしいです。私は蜃気楼と考えていますが、貴方は聞いた事がありますかな。必ず話題に出るでしょう。まさか、その国も見て来たと言いませんよねえ。どうです、次の旅の目的にしてみては、どうですか?」
 娘の父は話し方に熱がこもる。誰でも、この話題を持ち出せばさらに盛り上がるはずなのだが、男は突然に笑みから真剣な顔に変わった。二人の会話や笑い声が大きかった事に気が付き、生物の眠りを妨げるとでも思ったのだろうか、それとも、本当に可也の時間が過ぎて疲れたのだろうか。
「あなた方の連れが戻られたようです。私は失礼した方が良いようですね」
「何故、私達は朝まで居るつもりですが、仲間にも話を聞かせて欲しい。それに、夜中を無理して歩かなくても良いでしょうに、お疲れなら焚き火の近くで休まれては、仕事の後ですから仲間も休む者もいますので、お気遣いなされないで下さい」
「いえ、私は失礼します。何やら揉め事が起きるような気がしますので」
「そうですか」
「あっの、あっの」
 父は不審な表情を表し、娘は嗚咽を漏らしていたが、男と目線がやっと合い笑みに変わった。男も笑みを見たからだろう。微かな笑みを返したが、声を掛けようか迷っているように感じられた。
「焚き火に招いてくれた事と、美味しかったお茶のお礼として、名前を名乗ります。
 飛河連合東国、第八王家、羊長信です」
(トガ連合トウ国、第八王家。よう、ちょう、しん様。私は一生忘れません。父を説得して必ず貴方の元に行きます)
 娘は心に刻むように耳を傾ける。目線は男の全てを忘れないようにする為だろう。目に焼き付けるように真剣に見つめていた。
「最大の感謝として言いますが、貴方が話しをしていた。幻の河に住む国の者です」
 最後の言葉は歩きながら語る。同時に仲間が現れて、男の声と仲間の声が重なって声が届いたのか分からない。全てを言い終わる頃には、木々に隠れて見る事が出来なかった。

最下部の第二章をクリックしてください。

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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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