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第六章
「目標地点には車内時間で三十分後に到着します。探査虫を飛ばす準備をして下さい」
 車内には四人以外の声が響き、驚き車内を見回した。
「あああ、忘れていた」
 甲だけが意味が分かり、あわてて射出した。
 その虫は人口の蚊に似た物だ。時期によって形は違うが目標地点を探査する機械だ。
「本当にもー。これから如何するのよー」
 愛は又、声を上げた。
「だから、目標地点の安全を確認する為に虫を出したから、そんなに心配するな」
 甲は操作をしながら声を上げた。
「甲で良いですよね。年長者と思い聞きますが、何かの計画を考えているのですよね」
「だから、虫を出したから目標地点に障害物があっても、この時間なら変更が出来る」
 画面を見ながら操作をしていた。その為に苛立ち、問いとは違う事を喚いた。
「何故なの。到着する前から危険に会うの?」
 愛は狂ったように喚いた。乙は気絶して何も言わない。蘭は怒りを表しながら到着まで声を上げるのを我慢していた。それもそうだろう。甲の何も考えていない事に呆れていた。
「ふうー大丈夫だな。衝撃があるかも知れない。しっかりと椅子に座っていてくれ」
 甲が椅子に腰掛けながら話すと、二人は慌てて腰掛けた。数分後、エレベータが急速に落ちるような感覚を感じた。
「俺の車がー」
 喚きながら甲は車外に出た。
「着いたのですね」
 愛は顔を青ざめていた。よろめきながら車から出ると、ホットしたのだろう。
「うぁああ広い空」
 満面の笑みを浮かべ、愛は喜びの声を上げた。
「あいつは駄目」
 蘭は、甲に鋭い視線を向けた。
「何なの。乙はまだ気絶しているの」 
 車内から出る間際に蘭は、泡を吹いている乙にも声を投げ掛けた。
「うぉおおお。これなら都市だけでなく、外界でも何ども行き来できるぞ」
 子供が始めて自転車を買って貰った時のような異常な驚きだ。
「ほう、任務を終了しても都市に帰るのに支障ないのですね。それで、これからの計画はどの様にするのでしょうか。私は歳も若くて、計画を考えられませんわ」 
 笑みと目が釣り合ってない。勿論、声には感情が感じられないが、天性の営業微笑だ。
「そうだな。それなら飲み物でも作ってくれないか、飲みながら気持ちを解そう。今この時間以外は緊張の連続が続くだろうからな」
(この野郎作ってやるよ。どうせ即席の物しか無いのだろう。えっえー)
と、蘭は心の中で思いながら頷いた。
「俺は薬草茶に、同じ薬草を三枚入れてくれよ。それから小さじで一つの酒を、ああ、あいつが居た。匂いでも酔うのだった。諦めるしかないか、全ての物に名前が書いてあるから安心してくれ、作り方も扉に貼ってあるぞ。大抵の物があるから好きな物を飲んでくれ」
「はい、はい。分かりましたわ。用意しますから、乙の様子を診て下さい。愛も惚けていますからお願いします」
 営業微笑は変わらないが、本格的な物がある思いで、目元に微かだが喜びが感じられた。「えっ、乙は病気なのか。それは大変だな」
(この野郎は、車以外は頭にないのか)
 甲の話を聞き流し、蘭は心の中で悪態を吐きながら車内の中に消えた。
「わぉおー泡を吹いている。なんでだぁーやばいぞ。おーい、愛、あーいー」
「もうー何ですか。素晴らしい景色を見ているのにー。ほんとにっ、もー何なの」
 先ほどまでは奇人のように錯乱していた愛なのに、他人事だからか、それとも都市以外の風景を見た事が無いからだろう。まるで別人のような変わりようだ。
「悪いが、乙の様子を診てくれよ。愛が医師職種経験者なのだろう」
 愛はお多福風邪に罹ったような顔で現れ、その為に、甲は怯えた声を上げた。
「そんな事ですか、私ではないですよ」
 乙が見えないのだろうか、用件を聞くと車外に出ようとした。
「チョット待ってくれよ。蘭なのか」
「乙ですよ。私は看護だけです」
「こいつなのか信じられない。愛、チョット待てって」
「もうー何です」
「乙を見ても何とも思わないのか」
「変ですね。何かあれば酒入りのチョコレートを食べさせろと言っていましたでしょう」
「食べさせれば良いのだな」
 甲は言われたように袋を開けて手に持つが、意識が無い者にどうの様に食べさせるか考えていた。乙は酒の匂いで、ぴく、ぴく、と身体を痙攣させて意識を取り戻したのだが、目が虚ろで自分では食べられないだろう。
「もう何をやっているの」
 愛は言葉と同時に、甲からチョコレートを取り上げると、心の底から不満を表しながら無理やり乙の口に押し込んだ。
「ほう、荒っぽい治療だな」
 甲は治療の事が全く分からないからだろう。真剣に愛と乙を交互に見つづけた。
「私に用はないわね。外に居るから」
 返事も聞かずに車外に出る。
「はっふー」
 乙は溜息なのか気合のような声を上げた。
すると、顔中に赤み戻る。と言うよりも酔っているようだ。だが、気のせいなのかも知れないが瞳には知性が感じられた。
「わっおっ大丈夫なのか」
「ああ大丈夫だ」
「本当に大丈夫なのか。何か眼つきと言うか雰囲気がいつもと違うように感じるぞ」
「ああ本当に大丈夫だ。有難う」
 甲が変と感じたのは、乙がおどおどした話し方でなくハッキリとした話し方だからだ。
「そうか。それなら手を貸してくれないか」
「私に出来る事なら。うっうう」
「大丈夫なら簡易小屋を作るのに手を貸してくれ。少し休んでかれで良いからな」
 甲は、乙が何度も頭を振りながら話す仕草を見て不審に思いながら話を掛けた。
「何をやっているの。出来たわよ」
「蘭、乙の様子が変でないか」
「ん。そう見えないけど、どこか変なの。それよりも、これを置く所を作ってよ」
 乙の事はどうでも良いのだろう。愛は一瞬目線を向けるが、目に入ってないに違いない。
「適当に腰を下ろして飲まないか、話の内容によっては準備で忙しくなるはずだ」
「別に良いわ。早く紅茶を取ってよ」
 四人は車内では飲みたく無かった。たとえ座り心地が良い椅子が有っても、都市とは違う開放感を味わいながら飲みたいのだろう。
「外界って凄いのね。空を見ても隔てる物もないわ。それに周りは砂しかないけど、その先は又、空なのよ」
「日が沈んだら驚くわよ」
 蘭は、愛に話に相槌を打った。
「ん。ああっ太陽の事ね。星が見えるのでしょう。早く見たいわ。綺麗でしょうねえ」
 二人の女性は満面の笑みを浮かべる。嬉しさで目が輝くとは、この様な笑みだろう。
「私達は都市から出た事がないのだから驚くのは確かに分かる。だが、そろそろ話を始めても良いかな」
「何を言っているの。いつ話すのか、いつ話すのかと、待っていたのよ。早くしてよ」
 蘭は本心の言葉のように声を上げた。
「そうか悪かったな。許してくれ」
 ここで言い返せば言い争いになる。甲はそう思ったのだろうか。いや違うだろう。蘭の悔しがる顔が見たかったに違いない。それは、甲の一瞬の笑みで感じられた。
「これから話すとしても、あの乙の様子では話をしても頭に入らないわよ」
 蘭は心配などしていない。それは人を馬鹿にしたような勝ち誇る笑みで感じられた。
「ぎり、ぎり」
 甲の顔の表情は変わらないが、耳を澄ましていれば、奥歯の噛み締める音が微かに聞こえるだろう。そして、心の中で悪態を吐いた。
(先ほどから言っているだろうがー、今頃気が付いたのか。この女、良い性格しているよ。
それとも、どうしても俺を怒らせたいのか」
「あっああ、もっもー、ほんとっにっもぉー、一つで駄目なら二つあげたら良いでしょう」
 愛は又、乙の口にチョコレートを入れた。
すると、微かだが目が潤んだ。感謝からと言うよりも酔いが回ったように感じられた。
「愛、蘭ありがとう。私を心配してくれるのは嬉しいですが、本当に大丈夫ですから話を始めて下さい」
 乙は、愛と蘭に礼を返して、甲に話しを勧めた。そして、甲は頷き、話を始めた。
「ここからだと、目標物が居る都市は歩きだと半日位の距離だ。二手に分かれるしかないだろう。車を隠し、簡易小屋を建てて二人が残る。もう二人が目標物を確認しに行く」
「チョットまって、その人選を甲が決めるのですか、それで自分は行かないつもりね」
 蘭は掴み掛かるような態度だ。
「まて、まだ話の途中だ」
 死にそうに青ざめているのは、本当は別の考えが無い為か、それとも蘭の鬼のような表情の為だろうか。
「あのう、なあ、あっ近くに民家がある。
 そこで馬を買うか、馬を借りて、車を馬車のようにする方法もあるぞ」
「ほうー皆で目標物に向かうのですね」
「私も、それなら文句ないわ」
 愛は歩くのかと思い悩み、甲とは違う意味で顔を青ざめていたが、大きく息を吐き出すと、赤みを取り戻し始めた。蘭もその姿を見て渋々承諾するしかなかった。
「誰も文句はないようだな」
 乙の承諾も聞かずに計画が決定された。
「甲、何をすれば良いの。夜になる前に終わらせたいのですが、大丈夫ですか」
 愛は話をしながら、夜の星を夢見ているのだろう。目を潤ませ惚けているようだ。
「大丈夫だろう。それでは始めに車に幌を被せて簡易小屋を作ろう。馬に逃げられて立ち往生したように見せなければならないぞ。それでは早く準備を始めようか」
 甲が設計した車は、この世界には無い物だ。この時代から二千年後位に化石燃料で走る物に近い。それは荷物を運ぶ専用車と、簡易宿舎を兼ね備えた車と思ってくれれば分かってくれるはずだ。
「乙、留め金を取ってくれないか」
と、甲が、乙を使用人のように扱う。それを見た二人も、当然のように同じ扱いを始めた。「乙、小屋まだなの。急いでね。食器運ぶから、えっと、それ終わったら火を起こして」
「乙、これ売れそうだから外に出してね。それと、これと、これに、それもね」
「おおお、これなら馬車に見えるだろう」
 甲は一人で喜んでいた。ただ、車輪以外の部分を皮布で覆った。それだけだ。そして傷が付いてないかを撫で回すように探し始めた。
 その少し離れた所で、乙は小屋を一人で建て、火を熾し、湯を沸かし、汗を流しながら無言で売り物にする物を磨いていた。
「ねえ。何か食べ物を作ろうかぁ。もしかしたら、馬と交換が出来るかしら、蘭どう思う」
「そうねえ。ああー塩よ。塩なら売れるわ」
「らんぅ。塩ですかぁ」
 不振そうに、愛は問うた。
「そうよ。塩、塩よ。そう、よねえ」
 蘭は思案していた。他に売り物が無いか考えているのか、それとも、交換金額だろうか。
「愛、思い出したわ。何かの資料でみたわ。確かねえ。金と同じ価値で交換が出来るのよ」
 二人の女性は軽い食事を作るからと、乙に全てを任せて車の中に居た。甲は車の事でまったく気が付かないが、乙は声が聞こえる度に様子を見る。そして塩が売れる。それだけが確実に耳に入る。もう品物と言っていた物を磨かなくて良いのか。不思議そうに、それとも問い掛けているのか、どちらかにも思える視線を向け続けていた。
「乙、どうした」
 車の傷が有るかを確認し終えると、正気に戻ったような顔で辺りを見回した。そして、驚き声を上げた。小屋から全ての用意が終わったからの驚きではないようだ。
「ん、何だ。何だ。女の尻を見ていたのか、不謹慎な野郎だ」
「えっ、えっ」
 想像絶する事を言われて、声が出ないのだろう。そして又、甲の言葉で声を無くした。
「何をしている。そんなガラクタを磨いて遊んでいるのか、早く片付けろ」
 甲は、乙に言うと車内に入った。
「おお食事の支度をしていたのか、済まない。民家に行くのは食事の後にするか」
「蘭の話では塩は金と同じ価値があるのよ」
「そうか、馬と交換出来るな。待てよ。それは大きい町で交換しよう。良い考えが浮かんだよ。我々は塩を交換する為に町に向かう途中で馬に逃げられたとしよう」
「だけど、それなら馬はどうするの」
「大丈夫だ。任せてくれ」
 四人は直ぐに食事を始めた。愛と蘭は夜が楽しみだと嬉しそうに話ながら食べる。甲は、誰が小屋などを作ったのか、などを聞きもせずに惚けていた。おそらく又車の事だろう。
 その横で乙は、汗を掻きすぎて、もう汗は出ないのだろう。その代わりに塩を噴出しながら無言で食べていた。
「ねえ甲。民家に行くのでしょう。ゆっくりしているけど、そんなに近くなの」
 蘭との話も尽きたのだろう。愛は心配そうに尋ねた。その心の中は日が沈んで、星を見逃してしまう。それだけだろう。
「そろそろ行くとするか、愛大丈夫だぞ。往復しても日が沈むまで戻れるはずだ」
 甲は空にある太陽を見て問いに答えた。
「勿論、塩だけを持って四人で行くのよね。まさか、誰かを残して大事な車の見張りをしろ。なんて言わないわよね」
「ああ勿論そうだ」
「ふううん。そう、荒らされない自信があるの。それとも理由があるのかしら」
「ああ警報機も入れたしなぁ。小屋があれば近くに人がいる。そう思うだろう」
 蘭の笑みは、確認と言うよりも、甲の表情が変わるかを確かめながら遊んでいるようだ。
「良いな。それでは行くぞ」
 その掛け声で話を止め、甲の後を追う。
 四人の頭上には、やや西に傾いた太陽が輝いていた。時間にして二時頃の時間だった。
 一同は民家に向かうが、その住人は、砂漠にある数少ない水源の管理と国境の監視を任されていた。国境と言っても同じ獣人族の飛河連合国なのに変だと思うだろうが、国の成り立ちに原因があった。獣人は、猿人とも擬人とも人とも言われる人々に係わらないように東洋系は西へ、西洋系は東へと逃げるように移り住んだ。そして、この地に行き着き。一つの国を興した。自然と衝突を避ける為に東洋系と西洋系とに分かれて住んだのだ。
 それが丁度この水源が西と東の境であり。今では国境線となった。
「甲。本当に民家の方向に向かっているの。まさか迷ったとは言わないわよねぇ」
 太陽の位置が動いたとハッキリ分かる頃で、そして、身体が疲れを感じて歩くのが嫌になったのだろう。蘭は愚痴のように問い掛けた。
「間違ってはいない。あれが見えないのか、虫がいるだろう。確かに、太陽だけを見ていれば可也の時間が過ぎた。そう思うが、それほど歩いていないぞ。砂の上を歩き慣れていないから、そう感じると思うぞ」
 甲は空を見上げながら話を掛けた。
「えっ虫」
 愛は意味が分かれず声を上げるが、蘭が指を指して伝えた。
「あれ、あれよ」
 乙は話に乗らずに無言で歩き続ける。声を上げる気力もないのだろう。休んでいたのは食事の時だけだ。心底疲れているのだろう。
「あれだ。前を飛んでいるだろう。あの虫の設定は、我々の歩く早さの平均より下だぞ」
「分かったわよ。それで、後どの位なの。いい加減に疲れたわ」
 蘭は、甲をやり込めようとしたのだろう。だが、出来ずに頬を膨らませた。
「そろそろ着いても良いのだが、仕方が無い。あの砂丘を登り、見えなければ休もう」
 三人は休める。そう思ったからだろう。愚痴を零さず、笑みまで浮かべ砂丘に向かった。
「あれだ」
 甲は指を指して声を上げた。一人だけ喜び顔だ。他の三人は休まずにまだ歩くのかと苦渋を表している。だが、砂丘を登り民家が近い事に安堵したような表情を表した。
 最下部の第七章をクリックしてください。
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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