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第十三章
 四人の一行は二日では着かずに三日も係り、他国に到着していた。直ぐに行動を起こそうとしたのだが、目標点を特定できず丸一日も、都市の中を隅々まで探索し続けていた。
「ぎゃぁー何をするのよ」
「どうした。蘭、大丈夫か?」
 甲は、蘭の悲鳴を聞き駆けつけた。
「乙が、私のお尻を触ったの」
「何だって、何を考えているのだ」
 二日酔いが治らず。身動きが出来ない乙に、掴み掛かった。
「うっうう」
 乙はただ、水が飲みたくて手を伸ばしただけだ。それなのに、甲に喉を絞められて声が出ないようだ。
「甲、良いわよ。殺すほどでは無いわ」
「そうか、蘭がそう言うなら」
「それよりも、甲、早く任務を終わらせましょう。早く二人だけの旅に出掛けたいわ」
「私は、もう少し居ても良いけど、お酒臭いのは何とかして欲しいわね」
 愛は、鼻を摘んで息苦しいそうだ。
「仕方が無いでしょう。乙の為にお酒を飲んでいるのよ。この位のお酒の匂いが充満していれば飲まなくても酔えるらしいわ。酔いが消えると大変らしいのよ。それに、これ以上酔っても大変らしいわ」
「本当に、そうなの?」
「そうよ。二日酔いには迎い酒が良いらしいわ。乙は酒が弱いから匂いだけで同じ効果が得られるらしいの」
「そうなの。乙の事は分かったけど、甲は酔っていると思うわ。大丈夫なの?」
 不信な顔を表しながら問うた。
「大丈夫よ。計画通り進んでいるらしいわ」
「そう」
 蘭は、甲を本当に好きになってしまったのだろう。例え嘘と思える事でも好きな人の言葉なら信じてしまう。もう、このような状態では何を言っても無駄と、愛は感じた。
「甲、そうよね」
「そうだ。目標物は日に二度決まった行動をする。目標都市時間で九時と四時に動く」
「え、本当の話だったの」
 愛は目を見開き驚きの声を上げた。
「えっ何が本当だと」
「なっなんでもないわ」
 自分の周りの人が普通でなくなると、理性が表れるのだろう。自分の身を自分で守らなければならない事に、愛は外界に来て初めて正気らしい言葉を吐いた。と、言うよりも気が付いたのだろう。
「甲、そろそろ八時よ。又様子を窺いながら町の中を回るの。それとも行動を起こすの?」
「起こす。だが、特定が出来ない。一つは擬人の子供だろう。もう一つは愛玩動物と思うが大きさが幼児と同じ大きさがある。もし判断を誤れば命の危険もある。子供には一人で、動物には三人で当たりたいが、どうしても決められなくて悩んでいた」
「私が子供の方に行きます」
 愛は即答した。だが、好んだ訳ではない。蘭が鋭い視線で睨むからだ。
(一人で当たりたくないわ。だけど、あの蘭の視線には断れないわよ。命の危険があるなら甲とは離れたくない。そう言っていたわ。もし、私が言わなければ任務の後で殺されるわ。それなら可能性の少ない方が良いわよ)
と、愛は一瞬で判断を下した。
「愛、済まない」
 甲は深々と頭を下げた。
「馬鹿ねえ。甲、言ってくれれば良いのに」
 蘭は満面の笑みで答えるが偽りのはずだ。
「そうか、ありがとう。今度は頼む」
(蘭には無理だ。あの人を殺せる視線を一瞬でも浮かべたら失敗に終わる。愛なら惚けて立っているだけで良い。だが、愛も切れると何をするか分からない。だから悩んだのだ)
 甲の表情には笑みを浮かべていたが、内心では、今でも悩んでいた。
「目標点は町の中心の公園で暫く時間を潰す。愛は公園で子供が来るのを待ち、現れたら少しの間引き止めていてくれ、私達三人は愛玩動物を調べる」
「あっ、はい」
「心配しなくても良いぞ。恐らく子供は関係がない。それに、我々が近くにいる。何かがあれば直ぐに掛けつけるからな」
 甲は歯切れの悪い返事を聞き、愛の気持ちを慰めた。
「私は大丈夫よ。そっちも失敗しないでよ」
 愛の虚勢で四人の不安は消えた。
「ああ心配してくれてありがとう。車は公園に置いて行くから危険を感じたら隠れろよ」
 甲の言葉を最後に四人は話しを止めた。そして公園に着いても、愛と分かれる時も無言だった。だが、不安からではなくて、一人残る愛の為の願掛けのように感じられた。
「後三十分ね。車の中には居られないわ。早く車から出ないと、えーと後は、あの子は確か北口から来るのよね。そして偶然を装うのよね。偶然ねえ。うーん。偶然。うーん」
 愛は思案に耽りながら同じ所を行ったり来たりしていた。まるで落とした物を探しているように感じられた。そして、三人の仲間達は目標点がいる。その家が見える所だ。
「甲、今日は出掛ける時間は遅いのかしら」
「そうでもないぞ。獣が騒ぎ始めた」
「そうね。同じ時間のようねえ」
「後を追うぞ。それも、自然に歩くのだぞ」
「どうやって離すの。聞き忘れていたわ」
「公園の前に来たら駆け出すよ。獣は子供の危険を感じて、向かってくるはずだ」
「そう、危険じゃないの」
「いや、大丈夫だろう。襲うとしても子供から見えない所に追い込むはずだ」
「ああっそれが目的なのね」
「そうだ」
 三人は、子供と犬の後を追う。故意に追う事を装わなくても、服装からも異人と分かるが、甲と愛は目を血走らせ、乙は足元がおぼつかないほど酔っているのに、必死に二人の後を追っている。それを見れば、誰もが不信を感じるはずだろう。
「甲、獣が走り出したわ」
 獣が子供を引きずるように走り出した。子供は犬の名前だろう。大声を上げながら必死に綱を握り締めながら付いて行くが、公園に入ると子供は躓き、綱を離してしまう。犬は一度振り向き吼えるが、大丈夫。と言っているように感じられた。
「大丈夫だよ。しろ」
 子供も意味が分かったような呟きをする。だが、子供は起き上がり辺りを見回すが、犬がいない事に泣きそうな顔を表した。恐らく普段ならば、主人を引きずって、連れ回しても、何かあれば直ぐに戻って来て、顔を嘗め回すのだろう。
「大丈夫だ。そろそろ近くに現すぞ」
「あそこに居ます」
「えっ」
 蘭は、犬が居ると言うよりも突然後ろから乙の声が聞こえて、驚き振り向いた。
「お前は獣だな。我らの言葉が分かるだろう。お前の要求を聞きに来た」
 甲は真面目な顔で犬に問うた。乙は無表情で犬を見続けるが、蘭は苦笑いを浮かべ、甲に犬が話す訳ないでしょう。そう、言葉を掛けようとした。その時に、
「お前ら、主を襲いに来たのではないのか?」
 始めの一言は言い辛らそうだが、その後はスラスラと話し続けた。
「違うぞ。お前に会いに来た」
「俺か、用は無い。帰れ」
 振り向き、主の所に帰ろうとした。
「それは変だな。お前に呼ばれたぞ」
「呼んだ。呼んでない。帰れ」
 振り向きながら答えた。
「言い方を変えよう。欲しい物か、何かして欲しい事があるだろう。それを叶えに来た。
「ない、帰れ」
「今回は帰るが、もう一度会えないか」
 主の事が気になるらしい。その主に女性が近づくので恐怖を感じるのだろう。その主は辺りを見回して、犬の名前を呼ぼうとした。
「大丈夫。どこか痛いところある?」
 愛は子供の身体を撫でながら確かめた。
「ないよ。お姉ちゃん良い人みたいだね」
「えっ何でなのぉ」
「だってえ、しろがぁ来ないもの」
「そう、頭の良い犬ねえ」
 愛は言葉を掛けながら頭を撫でた。
「お姉ちゃん。その赤いのぉ綺麗だね。指輪なの。小指の物は初めて見たよ」
「えっ見えるの?」
 愛は驚き目を見開いた。
「うん、見えるよ。本当に綺麗だねえ」
「好きな人いる?」
「いるよ。お姉ちゃんが好き」
「う~ん」
 愛は悩んでいた。それもそうだろう。十歳以上離れている相手から赤い糸が見えると言われても普通は悩むか、信じないはずだ。
「ありがとう。お姉ちゃんの事忘れないでねえ。そうしたら、又会えるからねえ」
「いつ、明日」
「明日は会えないわ。忘れなければ、又会えるからねえ。私と同じ背になる頃に必ず迎えに来るから忘れないでねえ」
「もう会えないの。忘れちゃうよ。明日も会えたら忘れないと思うなぁ」
「うぅんん。明日同じ時間に来られる?」
 愛は死ぬほど悩み言葉を掛けた。
「うん。来られるよ」
 無邪気に答えた。その言葉が大声だからだろう。獣が叫び声を上げた。
「大丈夫。安心してくれないか、あの女性は仲間で、愛と言う」
「脅迫するのか?」
「違う。一緒では話が出来ないと思っただけだ。勘違いしないでくれ、今決められないのなら、もう一度会えないか、そうだ、今夜は会えないか、その時にゆっくり話そう」
「一度会えば気が済むのか、分かった」
「ありがとう。明日の朝まで公園にいるから何時でも良いです」
 甲は心底から安心したのだろう。口調まで優しく丁寧に伝えた。
「必ず行く。もう良いな。行くぞ」
 獣は伝えると、直ぐに主の所に向かった。
「ワン」
「シロの声だ」
「よかったわねぇ」
「うん。明日ね。必ず来てよ」
「大丈夫よ。必ず来るからねぇ」
「うん。シロ。行こう」
 余程嬉しいのだろう。普段は犬に散歩されている感じなのに今は違っていた。心の底から嬉しい気持ちを感じたからだろうか、身体全体の機能が活性したような動きだ。
「うぅぅん」
 獣は鳴き声を上げた。人間語に訳すなら何かあったの。そう言っているようだ。
「うぅうあん」
 又、鳴き声を上げた。本当に悲しそうな鳴き声だ。恐らく、ご主人様、早いよ。そう言っているはずだ。鳴き声の後は諦めたのだろうか、俯いているとは言い過ぎかもしれないが、主人の顔を見ようとせずに、諦めて地面を見ている。と言うよりも、昔を思い出しているように感じられた。
(どうしたのです。ここは、私のお気に入りの所ですよ。ご主人様も息づきが出来ると喜んでいたのに忘れたの。あっ転ばしたから怒っているのかなぁ。危険を感じたからですよ。それとも、あの女に何かされたの。今のご主人様は変です。私が居ないと家にも帰れないし、犬や猫の前を通る事も出来ない。方向音痴で怖がりなのに、何か遭ったのですか、今のご主人様の考えは分かりません。今までは考え事は分かったのに、これなら、先ほどの変な男に、ご主人と話が出来る事が願いだ。そう言えばよかった)
 今までの主人なら、犬の全ての思いを感じ取ったはずだが、今は違っていた。
(綺麗な人だったなあ。それに、あの指輪を見たらドキドキした。本当に綺麗だからドキドキしたのだろうなあ。お姉さんに会いたいよう。早く、明日にならないかなあ)
 もし、獣でなくて家族が、いや擬人が子供を見ていれば余程楽しい事があったのだろう。そう思うはずだ。地が足に付いてない。と言うよりも、酔っているのか、そう感じるはずだ。それなら何故、方向音痴で怖がりが家に帰れるのか、そう思うだろうが、愛に夢中の余り感情も思考も、目を開いているが愛の姿しか見えていない。身体の機能で残るのは生命機能のみ、それも、今は使われない微かな獣だった時の帰家本能だけが機能していた。
「ワン」
 獣は答えてくれないと思うが鳴いてみた。
家に着いたからだ。喉も渇いたし、お腹も空いたから催促してみた。普段の主人なら家に着くと同時に、喉が渇いただろう。そう言いながら家に入れてくれる。そして、少し待っていてね。と、言ってくれるのだが、今日は言ってくれないし、家にも入れてくれない。
「うっうう」
(これ位の事で主人の守りを忘れない)
 主人以外に伝わらない言葉を上げた。そして、獣は空腹を紛らわせる為だろう。昔を思い出していた。
(まだ、使命が終わっていない。大主人が帰るまでは確りしなくては駄目だ。主の母が死ぬ時に頼まれたのだ。今は家に主が一人だ)
「うっ」
 獣は空腹の為に腹音を鳴らした。気持ちを切り替える為だろう。一声を上げた。それから五時間位経っただろうか、声を掛けられる。
「シロ、私の出迎えありがとう。本当に頭が良いなあ。ああそうか出掛けるのだったなあ。もう良いぞ。遊んで来い」
「ワン」
(お腹が空いた)
 主人しか分からないと思うが、鳴いてみたのだろう。だが、
「ん、どうしたのだ。私が門を閉めるから良いぞ。シロ、ん。帰って来たら知らせろよ」
 獣は空腹の為だろうか、それとも気持ちが通じないからだろうか、よろよろと門を出ようとした時だ。大主人の声を聞き振り返った。期待がはずれ益々落ち込んで門を出た。
「ワン、グゥオン、ギャワン」
(おの男達と会ってからだ。許さんぞ。許さんぞ。お腹も空いたし、今日は散歩も一回だけだ。一度位噛み付かなければ気分が落ち着かない。もし、居なければ意地でも探すぞ)
 獣は目を吊り上げて公園に向かった。
 同時刻の公園では、愛が怯えながら問うた。
「あのう、甲」
「なんだ、どうした?」
 甲の声色だけで判断するなら男らしい。そう思うが、顔の表情は引き攣っていた。
(何を言う気なのだろう。まさか、血が吸いたい。そう言わないだろうなあ。だが、この女なら言いかねないぞ)
「あのねえ。何時に帰るの?」
「愛、私達は何をしに来たのでしょう」
 頭を抱えそうになったが必死で堪えた。
「ああっなぞなぞねえ」
 満面の笑みで答えた。
「ああっ答えなくても良い。直ぐに帰れない事が分かっているのなら言わなくても良い」
 甲は答えを聞きたくなかった。もし、考えられない事を言われたら、愛の首を絞めるだろう。自分を抑える事が出来ないからだ。
「あああっ蘭、聞いて、聞いてよ」
「なに、聞いてあげるけどねえ。お願いだから、甲と同じ事は言わせないでね」
「赤い糸が見える。そう言われたの。だからね。だからね。明日までは居たいの」
 顔色では喜びを感じるが、声色では、今直ぐに泣き出しそうな声色だ。
「嘘、いつよ、いつ、そんな時間があったのよ。誰なの乙なの。まさか、まさか甲なの」
「恥ずかしくて言えないわ。どうしても明日まで公園に居たいの」
「甲、あ、な、た、ねえー」
「蘭、違うぞ。俺では」
 蘭に迫られたからか、それとも、鬼の顔を見たからだろうか、最後まで話す事が出来なかった。それでも必死に、愛に救いを求めるように視線を向けた。
「乙が言うと思う」
 蘭はゆっくりと、甲の首に手を伸ばした。
「愛、必ず明日は、いや、好きなだけ公園にいるから名前を言ってくれ」
「だけど、名前は知らないし」
「そうよね。自己紹介してないものねえ」
「せめて、私で無い。と、それだけでも」
 蘭の手は、もう目の前だ。時限爆弾の時間で言うと、二秒前と同じだ。
「そうなの。愛」
「甲ではないわ」
「ふー」
 爆弾解体者の気持ちが、心の底から分かったような顔色を表していた。その時だ。
「ウォーン」
「来てくれたようだぞ」
 甲が車内から出ようとして、半身だけ出た時だ。獣が襲い掛かり、腕に噛み付いた。
「わぁーやめろー」
「食われたくなければ何か食べさせろ」
 獣は、甲達には隠す意味がない為だろうか、いや、声色や言葉の内容で判断すると空腹の為だろう。もし、甲たちが居なければ、誰かまわず、人間の言葉で喚いたはずだ。
「わかった。何でも食わすからやめてくれ」
 甲は必死に頼み込んだ。
「待つ間に腕の一本でも食べて良いか?」
「ら~ん。何でも良いから与えてくれ」
「これ食べられる?」
 蘭は、即座に手近いにある果物を与えた。
「肉が食いたい。無いのなら腕」
「分かりました」
 蘭は恐ろしくて、獣の話を最後まで聞きたくなかった。
「いい加減にしなさい。主人の命令ですよ」
「お前が、俺の主人だとおおー」
「愛、やめてくれー」
 甲は泣き出した。
「愛、怒らせてどうするのよ。えっ、今何て言ったの。愛が主人と言ったのよねえ。それでは赤い糸って、あの子供なの」
「そうよ」
「ら~ん。早く与えてくれよ。お願いです」
 甲は、まだ腹の上にいる獣に怯えていた。
「我が主人を子供と呼び捨てにするのか、分かった。お前らを食ってやる」
「分からない獣ねえ。私は主人と結婚する運命なの。だから主人なのよ。分かったわね」
「うっうううっううう」
「人の言葉で話しなさい。分からないわ」
 愛は又、挑発的な態度を崩さない。
「ら~ん。ら~ん」
「ハム入り野菜炒めを食べてください。お願いです。後で肉を用意しますからね。愛も落ち着いてよ。愛、まるで別人よ。お願い」
「すっん、すんすん。仕方がない。食べてやるよ。後で肉を食べさせろよ」
 獣は匂いを嗅いだ後に愚痴を零すが、食べ方で判断すると好物と思えた。
「ううっううっう。ら~ん。怖かったよ~」
 甲は極限の緊張で幼児に戻ったようだ。
「大丈夫よ。大丈夫よ。もう怖くないからね。安心してねえ。大丈夫だからね」
 蘭は、甲を抱きしめながら呟く。それも甲の震えが消えるまで何度も呟いた。
「うっ」
 獣は、蘭と甲の様子を見て、主人の母が死ぬ時を思い出していた。呟きは違うが、二人と、その時が重なるのだ。主人が泣き叫び、母が抱きしめながら誤る姿が、全く同じ様子に思えた。その為だろうか、それとも食欲が満たされた為ではないと思えるが、愛の話が聞きたくて仕方がないのだろう。
「おい女、先ほどの話を聞かせろ」
「主人に向かって女と言うのですか」
 愛は又、獣に挑発的な態度を取った。今度は殺されると思い。蘭は必死に止めた。
「むっむむうっうう」
 蘭は必死に両手で、愛の口を塞いでいた。
「獣様。願いを言いに来たのですよね」
「願い、う~ん。そうだ。そうだぞ」
 何も考えもなく、ただ、空腹と怒りの発散の為に来た。そう言えなかった。
「分かっていますって、獣様。主様と話が出来るようにしたいのでしょう。ねえ」
 甲は、手を擦るように猫なで声で、精一杯、護摩をすりながら話を掛けた。
「そのような事が出来るのか?」
「出来ますとも、出来ますとも、獣様」
「それを願いにするぞ」
「それでは獣様と主様二人で、今まで通りに明日も公園に来て下さい」
「わかった。済まなかったな。噛み付いて」
「いえいえ、気にしていませんよ」
 甲と蘭は、獣が帰った後、盛大な溜息を吐いて座り込んだ。
 暫くして蘭は、愛の様子を窺った。
「愛、大丈夫」
 愛は口と鼻を塞がれた為に気絶していた。
「このような時に、乙は何をしているのだ」
 甲は、獣と同じく八つ当たりと思えた。
「えっ。乙は放心しているわ。酔いは醒めていないから仕方が無いでしょう。一緒に騒がれたら、どうするのよ。役に立たないのだから、このままで良いのよ」
「蘭、話が出来るようにする。そう言ったが、子供に何と言って納得させたら良いと思う」
「赤い糸が見えるようになったから、話が出来るようになった。それで良いでしょう」
「それで納得するだろうか」
「大丈夫よ。本当に獣と話せるのよ。納得するしかないでしょう」
「それも、そうだな」
 蘭と甲は、心の底から安心した微笑みを浮かべた。気持ちが落ち着いたのだろう。二人は空腹を感じて遅い夕食の準備を始めるが、その食べ物の匂いが車内に充満したからだろう。匂いに釣られ、愛も意識を取り戻した。乙も、二日酔いの吐き気が少し良くなったのだろうか、それとも、食欲を感じたのだろう。這いずるように席に着いた。四人は、余程空腹だったのだろう。口が開くが、話す事には使われず、物を入れるだけに使われた。
 その後は、今までの通り、男は車外で、女性は車内に残り、暫くは、二人の話し声が聞こえたが、聞こえなくなった。恐らく、寝息を立てているのだろう。
「乙、今日は朝まで付き合えよ。俺は、今日は寝られない。何か獣が来そうな気がする。乙も寝られないだろう。先ほどまで寝ていたのだからなあ」
 二人は朝まで起きていた。甲は酒を飲み続け、乙は酒入りのチョコレートを一晩で食べ尽くし、正気を無くすほど酔っていた。
「ワッン。ワッン」
「お姉ちゃん。どこにいるの」
 一人と一匹は公園に現れた。一人は悲しみのような不信のような声色で問い掛け、一匹は喜び溢れる叫び声を上げた。犬の主人は公園の入り口から離れずに何度も問い掛ける。
その様子が不満のように犬は見上げている。主人が遊んでくれないからか、それとも連れて行きたい所があるような感じだ。少しの間は我慢していたのだろうが、痺れを切らしたように主人を引き摺る。入り口からは見えないが、外れの方には馬車が止まっていた。その場所に向かっているようだ。主人は行きたく無いのだろうが、幼い子供よりも大きい犬の力では止める事が出来る訳がない。嫌々だが引き摺るように連れられて行く。
「シロ。行っちゃ駄目。ここに居るの」
 主人は怒りよりも不信を感じていた。普段は、自分の言葉が分かっている。そう思っていたのだろう。主人も犬の気持ちが分かると思っていたのだ。自分が命令をすると嫌々従う表情だと感じる時は、止めたりしていた。それなのに、今の表情や吼え方は喜びしか感じていない。そう思えたからだ。
「ウォォン」
 犬が吼えた。この犬を知る人でも恐怖を感じてしまう。野生の獣のような吼え方だ。
「来た。愛、先ほど言った事を頼むぞ」
 甲は、犬の吼え方が聞こえると馬車の中に隠れていた。そして、愛に頼んだ。恐らく一晩中考えていたのだろう。酒を飲みながらの考えだから良い計画と思え無いが必死だった。
「ウォォン」
 犬は吼える。恐らく遅いと言ったはずだ。
「私に従いなさい。そうすれば主人と話せる力を与えます。従うのなら証拠として、お座りをしなさい。それが承諾の証です」
 愛は満面の笑みを浮かべながら馬車から出て来た。子供と会うのが楽しみなのだろう。
その後を、引き立て役のように乙も現れ畏まった。だが、愛は直ぐに、犬に視線を向け大声を吐き出した。
「お姉ちゃん。えっ、シロと話せるように出来るの。本当に出来るの?」
 子供は、愛の姿を見ると声を掛けるが、話を聞き即座に問い掛けた。
「分かりました。従うのですね。私が頭を撫でるのを許しなさい。そうすれば話が出来るようになります」
 愛は話ながら子供と犬の所に向かった。
「約束の通り来ましたよ」
「うん。嬉しい、ありがとう。ねえ、お姉ちゃん、シロと話せるって本当なの?」
「そうよ。ああっ私の事は愛で良いわ。あなたの事は何って言えば良いの?」
「ぼく、リキって言うのだよぉ。力と書くのだよ。強い人に成れるように付けたのだよ」
「そう、良い名前ね。りき」
「なあーに、愛お姉ちゃん」
「シロに、話を掛けてごらん」
「うん。シロ、僕の言葉わかる?」
「わかりますよ。お主人様」
「本当だ。凄い、愛お姉ちゃん何で、何で」
「それはねえ。私は、リキが大人になるまで一緒に居られないの。それでよ」
「そうなの、シロ」
「そうです。ご主人様」
 シロは、これから、主人と話せるならどうでも良かった。愛が理由を考えてくれたのなら、それで良かった。
「何日くらいなの。愛お姉ちゃん」
「リキが大人になるまでは一緒には居られないの。だけどね。誕生日の時は会えるわよ」
「そんなに会えないの?」
「ごめんねえ。シロと話せるから寂しくないでしょう。だけどねえ。他の人に教えては駄目よ。私とリキとシロの三人だけの秘密よ」
「ご主人様、嬉しくないのですか、愛様が居ない間は、シロが遊んであげますよ」
「シロ、ありがとう」
「いいえ、愛様。シロが死ぬ気持ちでお守りしますから安心して下さい」
 シロは、愛に人と言われた事が嬉しかった。それで、心から従う事に決めた。
「シロ、お願いします」
 愛が深々と頭を下げた。
「ご主人様、そろそろ時間です」
 シロが頷き。リキに話を掛けた。
「もう時間か」
「リキごめんねえ」
「いいよ、仕方がないよ。仕事でしょう」
「うん、そうよ。誕生日に会えるのを楽しみにしているわ。お土産を楽しみにしていてね」
「うん、楽しみにしている。またね」
「リキ、またね。シロ、お願いね」
「ウォーン」
 シロが、愛の言葉に答えた。
「ふー、やっと帰ったぞ」
「そうねえ。やっと終わったわね」
 甲の独り言に、蘭が答えた。
「えっ何が?」
「任務よ。そう言う意味でしょう。獣とも接触して、獣の願いも叶えたでしょう」
 蘭は、不思議そうに問い掛けた。
「そうだな。直ぐ帰るか」
「えっ、もう少し外界に居たいわ。任務は終わったのですから遊びましょう」
「そうだな。飛河東国に戻ってみるか」
「そうしましょう」
「乙、出発の準備をするぞ」
 甲は声を上げるが、蘭に話を掛けられると、これからの東国の話に夢中になり、全てを乙に任せてしまう。愛は御者席に居るが惚けたまま、虚空を見つめていた。恐らく、公園の景色を見て、では無い。リキとの未来の夢を見ているのだろう。乙は、いい加減な三人に、時々視線を向けるが何も言わず。全ての準備が終わると、愛の隣に座り。今直ぐに死にそうな顔で、息を整えていた。
「もうー何かを作るわ。まだ、連絡はしないで、東国に行ってからにしてよ」
「分かった。それでは出発するぞ」
乙が準備を終えて、太陽が中天に昇るまでと言うよりも、甲の腹の音が鳴るまで、この地を出る事が出来なかった。
 最下部の十四章をクリックしてください。

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自己紹介:
物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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