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第十四章
 飛河連合西国の象徴と思われる建物の最上階で、猪の紋章を付けた人物が扉を叩こうとしていた。
「第十二族、猪家の長老の灰です」
 扉を叩かずに声を上げた。
「待っていたぞ。入れ、入れ」
 部屋の主は声を上げながら扉を開けた。
「はっ失礼します」
「それで、何か、言っていたか?」
 子供が悪戯をして、親の言葉を窺っているような男が現れた。
「東国の全ての長老は喜んで祝福する。そう、伝えて欲しい。と」
「そうか、ありがとう」
「それでは、室に、ご案内します」
「灰、言葉を掛けられたら、私は」
「何も言わなくて構いません」
「そうか、それと、私の周りを猪家だけにしてくれたか、私の家の者でも怖いのだ」
「扉の外に控えています。宜しいですか」
 その言葉で、この国の王は頷いた。そして、王は地下の祭儀室に行くまで、足が痛い、疲れた。と呟く。それほど、歩きたくないのなら地下か一階にでも住めば良いだろう。そう言いたい者が供にいるはずだが、無言で警護し続けた。王は、地下の階段を踏むまで口を閉じる事がない。まるで、愚痴を言えば疲れが取れると思っているようだ。王が、口を閉じた理由は恐怖を感じたのだろう。地下に入ると供とは違う警護人が、廊下の両脇に控えて剣を交互に十字に重ねていた。それが同時に鞘に収めた事に驚いたのだろう。そして、先頭の猪家の長老の灰が、早歩きで先に室に入り声を上げた。
「十族の長老殿、王が参られました」
 その言葉で、全ての者が席を立ち上がると、畏まりながら王を迎えた。王は、全ての長老を確かめると、室内に目を向けた。周りの壁には獣人の誕生から神と共に住んで居た都から出される理由が描かれ、天井には飛河連合西国の成り立ちが描かれていた。王は、この室に始めて入ったのだろう。何度も頷き、心の底から感心しながら最奥に歩き出す。その先に薄い幕が下ろされ、王が近づくと幕が開かれ椅子が現れた。
「うっ」
 十族の長老は驚きと言うよりも不満を表しているようだ。何故、それは、十一族の象徴の像を台座にした椅子だったからだ。その事に王は気が付いてない。満面の笑みを浮かべ腰掛けた。
「第十二家、猪族は王に忠誠を誓います」
 王が腰掛けると、即座に言葉を上げた。
「うっ」 
 王は何か声を掛けようとしたのだろう。だが、猪の長老に何も言葉を掛けなくて良い事に気が付き、口を噤んだように感じられた。
「それでは、儀式の為に、傅く事を一時解く事を許して戴きます」
 猪の長老は、王に視線を向けた。頷かれると、承諾を得たと感じたのだろう。立ち上がり十族の長老に視線を向けた。
「第一族の長老殿。王の承認に異議が無ければ傅け、それが証とする」
「はっ」
 鼠家の長老は、猪家の長老と同じ姿勢を作った。その姿を確認した後は、猪家の長老は、次々と大声で名前を上げた。そして、全ての十族の長老が傅き終えた。その確認後、壁画に描かれた歴史を話し始めた。それも簡易的に、時間を掛けないように気を使っているように感じられる。いつ、長老が傅きを止めて、苦情を言うのを恐れているように思えた。
「それでは、王冠の儀に移らして戴く」
 猪の長老が王に一礼した後、王の手を持ち室外に案内した。その後を十族の長老が付いて行くが、猪家の家臣が勧めたはずだ。十族の長老が室外に出ると歓声が響いた。王と猪の長老が野外に出たのだろう。その歓声の元に全ての長老が向かう。人々が集まっていたが公園なのか、恐らく避難場所だろう。東国の長老が見れば可笑しいと思う事があった。儀式の集まりのはずだが、儀礼服を着る者は年配者が多い、その他の者は自分の好きな服装をしていた。それを見て、これが自由なのかと嘆いているような顔色を表していた。だが、猪の紋様を付けた者は全てが警護人と感じていたが、よく目を凝らすと、剣も付けない者や女性や子供がいたからだ。東国の長老は礼儀を知る種族がいる事に安心したような顔色を一瞬浮かべたが、恐ろしさも感じたのだろう。これでは、西国の王は虹家が王なのか猪家が王なのか分からないと感じたのだろう。その考えも一瞬で止めた。先代の王でもあり、元虹家の長老の話を思い出した。今の規律や思想が古いと言って、半分の種族を率いて国を興した事を思い出したからだ。
「竜家の長老殿。王冠の儀をお願致します」
 全ての長老が椅子に腰掛け、人々が歓声を止め、何時始まるのかと待っていた。そして、不信を感じる位の時間が経った時に、猪家の長老が、少し苛立つように立ち上がった。それも、そうだろう。この儀式だけは飛河連合国を興した。始祖十二族から同じだからだ。そして、王に一礼した後、竜家の長老の後ろから声を掛けた。少し驚いたようだ。隣の席に居たからではないからだ。席は、第一族から第十二族と横一列に並べられ、猪家は一番端で竜家は王の隣だった。
「はっ」
 竜家の長老は一瞬済まないと言おうとしたようだが、言える訳がなく。畏まりながら王の席の後ろにある。王冠台から王冠を持ち上げた。そして、人々に見えるように高く上げたまま王の頭上に、そして、乗せた。歓声が盛大に広がり、王と十一族の長老は、人々の歓声を見つめ続ける。ある程度の熱気的な歓声が静まるのを待って席を立とうとした。
「東国の長老殿。宴席の用意が整いました」
 猪の紋章の者が一人、一人に畏まりながら伝えた。元々席を立とうとしていた為に、素直に従い、先ほどの地下の祭儀室に使われた所に案内された。室内に入る前に一瞬だが顔を顰める者がいたが、その気持ちも分かる気がする。確かに豪華な部屋だが、椅子だけが置かれて、談話しながら食事を取る部屋とは思えないからだ。それでも、テーブルが並べられるだけ並べて、その上に菓子、果物、酒などが並ぶと雰囲気が変わって見える。その為だろうか、室内に入ると穏やかな表情を浮かべた。それぞれの、紋章の描かれた椅子に案内されて、西国の王と長老を待った。
「お待たせしました」
 誰となく、同じような言葉を答えた。
「何も話をせずに帰るのは失礼と感じて、待っていた。軽く食事を取った後は帰らせてもらう。それで、構わないな」
 東国の一年間の王、兎家の長老が伝えた。
「構いません。我らも歳を取りました。恐らく、これが最後の十二族の顔合わせだ。昔の思い出を話す機会も無いでしょうから、今日の事も楽しい思い出にしましょう」
「そうですな。猪の長老」
 兎家の長老が笑みを浮かべ頷いた。他の長老は気が進まないのだろう。黙々と飲んでいたが、一人が昔の話をすると、
「そうですな。あの時は困りましたぞ」
と、一人、二人と増えていった。
「西の方々、主賓の王が寝てしまわれたぞ」
「無礼講と言われたのは、王ですからな」
 西国の鳥家が笑いながら声を上げた。
「まだ若いから、酒の飲み方を知らないのでしょう。お気になさらず。飲めましょう」
 酒の飲め方を知らないのは、西国の者に思える。自国の王を全く無視して、会話を弾ませ飲み続けるのだからだ。
「珍しい。猪の長老も寝てしまわれたぞ」
「東国は、兎家と竜家だけですな。負けていられないですぞ。ん、西は、ワシだけか」
 鳥家の長老が目を擦りながら回りを見回した。口調は確りしているのに、眠気が酷いのだろう。少し、不信に思ったのだろう。竜家が問い掛けようとした。
「なんだか、眠気を感じるが、何の酒ですかな。と、りけ、のちょう」
 竜家の長老は最後まで言えず、倒れ込んだ。他の二人の長老も、ほぼ同時だった。それから間もなく、猪家の老人が現れた。
「西国の王、西の長老は各部屋に連れてってくれ、東国の長老は地下室に放り込んどけ、念のために手だけは縛るのを忘れるな」
と、呟き。主を見詰めていた。
(主様。何故です。始めは人質にすると言われたのに。二日程飲み食いしている内に終わるから止めろ。と言われるからです。私には何を考えているのか分かりません。ですが、確実の手段を取りました。これで、確実に勝てますぞ。これで、猪家が全ての王です)
 最下部の十五章をクリックしてください。

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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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