四つの物語を載せます
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第十六章
「お婆ちゃん。その後の話しは良いよ。お母さんが怒って、甲斐性無し、と、お父さんに言うと、必ずその話になるから聞き飽きちゃった。そして、さっきの、お姉さんのお父さんが、娘よりもお前さんの方が心配だから、娘を連れて行きなさい。そう言うのでしょう。それよりも、恐竜や綺麗な巫女様や秋奈さんには会ったの。秋奈さんは、やっぱり病院で暮らしをしているの?」 「そよね。別の話しをしましょうね」 「明。何、大声上げているの」 「お婆ちゃんが別の話をしてくれると、言ったのに寝ちゃたよぉ」 「話し疲れたのね。外で遊んできなさい。起きたら話の続きを頼んであげるから」 「うん。起きたら教えてね」 不満そうにしていたが、別の楽しみが浮かんだのだろう。外に駆け出した。 「はい、はい、起たらね」 数十分後、家に帰ってきて、祖母の部屋の扉に視線を向けた。 「お婆ちゃんは起きた」 「まだよ」 「何時、起きるのかな」 小声で呟いた。 「明、扉を見ていても起きては来ないわよ。それよりも、お母さんの手伝いをして」 明は、母の手伝いや食事が終わるまでは、祖母の事を忘れていたが、食べ終わると不満を表した。 「まだ、起きて来ないよ。起こして来ようか、お婆ちゃんも、お腹が空いていると思うよ」 「明、お風呂に入って来なさい」 食事を片付けながら声を上げた。 「もう少しで起きて来るかもしれないよ」 「眠くなったら入らないと言うでしょう」 「絶対入るよ」 「お婆ちゃんも起きて来たら言うわよ。お風呂が終わったらねって、今入らないと、もっと時間を待つ事になるわよ。そうなっても良いの」 「御風呂に入って来る」 明は、風呂から上がり、祖母がまだ起きて居ない事を知ると、頬を膨らませ、扉を見続けた。その姿を見て、息子が可愛そうになり話し掛けた。 「お婆ちゃん。起きて来ないわね。お母さんも知っているのよ。何の話が聞きたいの、お婆ちゃんでないと駄目かなぁ」 「お母さんも知っているの」 満面の笑みを浮かべた。 「そおよ。何の話がいいの」 「秋奈さんの話は知っている」 「その話は、まだお婆ちゃんも知らないでしょう。お爺ちゃんが帰って来ないと分からないわ。他に聞きたい話はないの」 「それなら、恐竜の話は知っている」 「恐竜なんて、お婆ちゃん話したの、ああー守護竜ね。何所まで知っているの?」 「消えた所まで」 「恐竜はね。遠い、遠い昔に言ったのよ」 「どのくらい昔に行ったの」 「そうね。このまえ神社に御参りに行って凄く大きい木を見て驚いていたでしょう。その木のお爺ちゃんの、そのまたお爺ちゃん位かな。そこにはね。恐竜の仲間が沢山いるの。だけどね、仲間は生まれた所に帰りたいって泣いているの。あらあら、寝てしまったのね」 明を優しく抱き上げて、部屋に連れっていた。暫く寝顔を見詰めていると、扉の開く音が聞え確かめる為に、居間に戻った。 「お婆ちゃんなの?」 恐怖で声を震わせていた。 「驚かせて済まない」 「あら、何をしているの、御父さん」 「お腹が空いて、食べ物を探していた」 台所から離れ、食卓に腰を下ろした。 「何か作りますね」 「婆さんは」 「寝ています。明に、昔話を聞かせていたのですが、疲れたのでしょう。早くに休みましたから、そろそろ、起きると思うわ」 「やっと終わったよ。最後の秋奈さんに会ってきた。婆さんが起きたら話すからな。先に言っとくが話の途中で消えても、心配するなよ。月に帰るのだからな。お前も月人の連れ合いがいるのだから、分かるだろう。それとなく、明には誤魔化してくれな」 「はい。あの父さん。私の時も、こんなに時間が掛かるの?」 「私達の場合は特別だ。三つの世界が絡まって締まったからだ。お前は大丈夫だ。安心しろ。だが、婆さんが居なくなると子守をしてくれる人もいなくなるし、歪みが消えるから他世界に行く事になるだろう。憶えていないか。三人で他世界を飛び回っていたのだぞ」 「憶えているわ」 俯き、涙を堪えていた。両親を亡くした事を思い出したのだろう。 「大変だと思うが頑張れよ。運が良ければ、月で会えるだろう」 「そうよね」 悲しみの表情から笑みを浮かべ、呟いた。 「ちょっと婆さんを見て来る」 部屋に入ると、寝具が二台置いてあり。その一つに夏美が眠っている。起こさないように静かに寝具に腰を下ろした。寝顔を見詰めていると気配を感じたのだろう。 顔の表情が寝覚めるような動きをした。 「あっ、帰っていたの」 目を開けると、輪の顔があり、驚いた。 「ああっ、皺のある顔を見ていた」 「やあね、馬鹿。本当にもー何考えているのよ」 若い時なら、恥かしさを隠すのに平手打ちをしたのだろうが、目線を逸らすだけだった。 「その皺顔が見られないと思うと、目が離せなくてなあ、忘れないように見ていた」 「秋奈に会ったのね」 破顔して、言葉を待った。 「会ったよ」 「元気だった」 「ああ、それは後で話すから」 「旅は終わったのね」 喜びというよりも、悲しみが顔に表れた。 「待たせたね」 二人は扉を叩く音に気が付かなかった。 「直ぐ、月に帰るの、明にね、秋奈さんの話を聞かせる時間はある」 「明は寝てしまったよ。私達は明日まで入られない。身支度を整える位の時間しかないよ」 「そう」 「私は食事を食べるが、婆さんはどうする」 「もう出来上がっているだろう。冷めてしまう。行こう」 輪の問いに、夏美が頷くと、支えながら部屋を後にした。 「済まない」 料理を食卓に並べて、娘が待っていた 「お酒もあるわよ」 「いいよ」 輪は食事をしながら、秋奈の話を語っていたが、途中で夏美が名残惜しい様に席を立った。娘が気を遣い浴室の用意をしてくれていた。 「綺麗ね。御母さん」 浴室から上がると声を掛けられた。 「有難う。話は全て聞いたの」 「はい。明の喜ぶ顔が浮かぶわ」 「婆さん行こうか」 輪は夏美の手を取り、玄関に向った。 その後ろ姿を見ながら、玄関を出る。その時、別れの言葉を上げた。 「御父さん、御母さん。本当の娘のように育ててくれて有難う」 「私の娘だろう。何を言っているのだ。なあ、婆さん」 「そうよ。月で今度会ったら、妹か弟に会うだろうね。楽しみでしょう」 「うん、うん」 声を出そうとしたが出せなくて、何度も頷きながら、代わりに涙が零れ出ていた。二人を見送ろうと顔を上げたが、涙目では、もう何も見えなかった。二人にも見えなくなるのが分かっていたのか、手を取り合い楽しそうに話しながら、もう振りかえる事をせずに歩き出した。 「途中までしか聞けなかったけど、秋奈さんは元気だったの」 「他世界に行った事で、病気が良くなったと喜んでいたよ」 「えっ、何で、なの」 「病名や専門的な理由は分からないが、普通の人には何でも無い科学物質が、秋奈さんには毒となり体内に溜まり。それを直すには化学物質の無い所で、生活しながら汗と一緒に毒を出して、体を鍛える事だったそうです。秋奈さんの世界には、その様な場所は無くて、治療の方法も病気名も、知らされなかったそうです。それが一日いなくなって、現れると治っているのですから、皆は驚いて全てを話してくれたそうです」 「秋奈は他世界に行った事を話したの」 輪に問うたが、答えが分かっていたのだろう。悲しい顔をしていた。 「話をしても信じないと思い、自分でも分からないと言ったそうです」 「そうなの。喜んでいたでしょう」 「病気が治り本当に喜んでいましたよ。秋奈さんと別れる時に言われたよ。私と又会えて、話もできて良かった。私が現れなかったら、夏美さんと楽しく過ごした事を、夢と思い忘れていたって、そして、私も幸せに生きるから、夏美さんも幸せになって、そう言われたよ」 輪と夏美は、身体が月明かりに溶けるように消える。まるで、月までの階段があるように空を昇っていた。 PR
早く月に帰りたい
こんにちは(・・)/
昨日はどうもです…早速読ませて頂きました。 とても細かい風景まで書かれていて、その状況が浮かんできました。 かなり抽象的な表現で表されている事も多く、感覚的な発想で物事をとらえられているのかな?とおもいました。 |
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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