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第九章
「父上様。参りました」
 巫女服以外は一つしかない。母の手作りの服に着替え父の元に現れたが、目線を合わせずに俯きながら告げた。それが礼儀なのだろう。親と子の接し方には見えなかった。
「それは亡き母が作った衣だな。その衣を渡す時にも言っていた。巫女などになって欲しくはなかった。好きな人が出来た時に、この衣を着て欲しい。そう言っていたな」
 父の声色は楽しい昔を思い浮かべているようには感じられない。今までは、母の事は禁句と言っていたはずだ。それなのに、父は突然に話しを持ち出し驚いていたが、俯いていた為に、父は娘が驚いているに気が付ない。
「御話があると伺いましたが何でしょうか」
 俯きながら問うた。
「それでだ。そなたの母の言っていた事が気に掛かっていた訳だ。お前に良い相手を見付けなければ成らない。そう思い。相手を控室に待たせた。これで心の気遣いが取る。良い思い付きだろう」
 心にも無い事を言っている。それは、誰もが感じる態度だった。
「なっ・・・・」
 春奈は驚き、一声上げ、父を見た。
「良いな」
 父は喜ぶ姿を想像していたが、不満そうな顔を見て、鋭い声を上げてしまった。
「はっ」
 室内に居る家臣は目線で物を言われ、返礼の声を上げ控室に向かった。数分も経たない間に家臣が現れて、一人の男を連れてきた。その人物は身分が在る。誰もが見ても感じる様子だ。服装から判断したのではない。目線や態度で現れていた。その者は自分以外の人を、特に家臣と思える人を同じ人とは見ていないように思えた。家臣の導きが終え、部屋の主を見ると微笑を浮かべたが、やっと人に会えた。そう思える感じだった。  
「参りました。私が礼家の嫡男です。気が早いと思いますが、父様とお呼ぶしても宜しいでしょうか、私の事は礼と呼び捨てて下さい。家長だけ使える名前です」
「良い。良い」
 父は、礼が話す時に髪を弄くる姿を見て、一瞬言葉を詰まらしたが、春奈が幼い時の恥ずかしい時の仕草と同じ為に、この者も恥ずかしいのだろう。そう思い快く答えた。
「準備は出来ているか」
「はっ。出来ております」
 家臣は即座に答えた。
「何時まで脹れている。行くぞ」
 父は娘に声を掛けたが、娘は結婚を決められた事に、ささやかな抵抗をしていた。父には伝わらなかった為に立ち上がり、後を付いて行きながら考えを巡らせていた。(母が亡くなってからは、食事の時は二人だけで過ごしてきたのに、まさか、この男を呼ぶはずがないわ。先ほど母と私の事を気遣っていたもの。まして、私の一生の事ですもの聞いてくれるわ。二人だけになったら、巫女のままが良いというわ。今さら普通の女性に戻れる訳ないもの)
 礼が父の後を何所までも付いて歩く。その後ろを不審な表情を浮かべて、春奈も付いて歩くが、突然顔色が変わった。(まさか)と、大声を上げそうになった。(何故、あの男が食室には入るの。 ああ、顔見せをするのね。その後に、二人で食事をしながら訳を言ってくれるのねえ。父の考えが分からず悲しくなったが、心を落ちつかせ、共に食室に入った。春奈は決められた椅子に座り、先ほどは畏まって居た為に声しか聞えなかったが、人目見て、父が息を詰まらした理由に気が付いた。礼は成人の男子のはず、成人の証は髪を上げて額を出すのが一般的な男子の姿だ。だが、髪を下げ幼い子供のような、男とも女とも見える中性的な姿は巫女に似ていたからだ。父が息を詰まらすほどの嫌悪感は姿かと思ったが、何かの動作をする後とに、前髪を弄らなければ出来ないのか、その事もあるはず。春奈も嫌な感じを受け、その事を父に伝えようとしたが、男は、食室から出る気配がない。顔見せは終わったはず、まさか食事を一緒に食べるの、と、父に目線を向けたが気が付いてくれない。それでも見続けるが、食事が少しずつ運ばれて来るたびに、目頭が段々熱くなり、総てが運び終わる頃は目から涙が溢れでてくる。それを止める事が出来なかった。
「如何したのだ。春奈よ」
 父は、娘が涙を流す姿を見て声を上げた。
「父様。部屋に戻っても宜しいですか」
 此処に居る事に我慢が出来なかった。
「構わん。戻って休むとよい」
 娘が苦しそうに話す姿を見て、最後まで聞かずに言葉を掛けた。
「・・・・・・・」
 春奈は悲しみの為に声が出せなくなり、仕草だけの最高の礼を返して食室を出た。自室に戻る間に警護頭に声を掛けられたが、会釈が精一杯のような姿をして自室に入った。室の前で警護頭は扉を叩こうか、警護する元に場所に戻ろうか、何度も繰り返していた。思い切って扉を叩こうとした時に、部屋から嗚咽声が聞えて何を思ったのか、扉を叩く事も警護する場所とも違う方向に走り出し、自室に駆け込んだ。警護をする場所から離れるという事が、どのような事になるか分かっているはずだ。警護頭は自室から、布のような物を手に取り、真剣な表情から突然に微笑を浮かべた。
(昔を憶えていますか、まだ、共に幼かった頃に言いましたよね。春奈様と同じ歳ですが警護をするのが代々の役目です。春奈様の好きなように振舞って下さい。どの様な事が起きようと、命を懸けて守る事が役目です)
 微笑の間は昔を思い出していたが、突然に苦顔に戻ると自室から駆け出した。何かが吹っ切れたのか、無邪気な少年のような笑顔を浮かべながら、春奈の部屋の扉を叩いた。
「どなたですの」
 春奈は啜り泣き声で問うた。
「私です。春奈様、警護頭を務めている者です」
 警護頭は、春奈の泣き声で昔の思い出と重なった。春奈は幼い時、血筋の為か、それとも、幼い時に良くある、枝が揺れただけで恐怖を感じて、幻覚を見ては、私に石を投げた事が遭った。そして、私です。春奈様、もう大丈夫ですから落ち着いて下さい。その私の言葉で我を取り戻していた。
「何の用件ですか」
 扉を開け、涙を隠すため、俯きながら問うた。
「春奈様。これを使って下さい。これを使えば飛ぶ事も、身を守る事も出来るようです。別の地で新しい生活する事も、輪様達と一緒に旅立つ事も出来ます。後の事は、私が何とか致します」 
 警護頭は笑みを浮かべながら羽衣を手渡すと、警護する場所に向かった。警護の場所に何事も無く戻れた為だろう、微笑を浮かべていた。その笑みに気が付く者は、見慣れている親だけだろう。
(主様が、現われになられた)
 警護頭は靴音が聞え畏まった。この奥の扉は食室で扉は二個あるが、入り口と出口用だ。使用出来る者は二人だけだ。春奈様と、この地を治める最高権力者だけだ。足音は、段々近づいてくる。そして、信じられない事が、それは、自分の目の前で足音が止まったのだ。
「警護頭、何所に行っていた。ん。良い事があったか、お前でも喜びが顔に表れるのだな。今回は珍しい顔が見られたとして許すが、次は無いぞ」
 人を殺せる様な鋭い目線を放ちながら言葉を掛けた。警護頭は恭しく面を上げた。その顔を見ると不思議な物を見たように驚き、微笑みを浮かべた。
「はっ」
 声を掛けられると、即座に畏まる為に膝を折ろうとしたが許された。
「良い、良い。そのまま警護を続けろ」
 恐怖に引きつる顔では、親でも心の隅の喜びは感じ取れないはずだが、さすが、この地の最高権力者だ。顔色で心の隅々を見抜かなければ治められないのだろう。再度許しの言葉を掛けると、娘の部屋に向かった。
「春奈入るぞ」
「父様、何の御用ですか」
 怒りを感じている為に扉越しに声上げた。
「春奈よ。まだ泣いていたのか、二人だけで食事をしないか」
 自分で扉を開けて、娘の元に向かい、頭を触ろうとした時に言葉を掛けた。
「私の部屋に来たのは初めてですね。此処まで来て結婚を勧めに来たのですか、理由を聞かして頂ければ命令と思い従います」
「理由など無い」
 娘に命令と言われて大声を上げた。娘は、父の顔を見ると涙が次から次に溢れ出た。
「あっ、わっ、悪かった。大声を上げて悪かった。理由は本当に無いのだぞ。お前に普通の女性のように、お洒落や会話をしながら食事を楽しんで欲しいだけだ。巫女など辞めて、笑顔の溢れる生活をして欲しいと思っているだけだ。理由など無いのだぞ」
 春奈の涙が止まるまで、笑みを浮かべ、出来る限りに優しく言葉を掛けた。
「何故、礼なのです」
「お前に似ているからだ」
「・・・・・」
 春奈は意味が分からず言葉を詰まらせた。
「言い方が悪かった。嘘が付けず、直ぐに顔や仕草に出てしまう。お前のように嘘を言う必要が無かったのだろう。違う意味で、お前と同じに世間知らず。そう言う意味だ」 
 真剣な表情だが、声は優しい口調のまま話しを続けた。
「結婚をして巫女を止める事でなくて、ただ、巫女を止めて普通に暮らす事は行けないのですか」
 父の言葉が止むと直ぐに問うた。
「今は、私が要るから良いが、私が死んだ時に女一人では何も残せない。結婚をして婦人となれば理由を作れるからだ」
「父様は体が悪いのですか」
 父の話の途中で遮り問うた。
「いや。どこも悪くは無いが、お前くらいの女性が子と楽しく暮らす姿を見ると、私も見たくなった。私が思うのだから、お前も感じていると思い相手を探したが、巫女を辞めたくないのか、だが、私が死ねば強制的に辞める事になるのは確かだぞ」
 春奈の言葉を待った。
「父様。普通の暮らしをして見たいと思いますが、礼では、心が躍る気持ちになりません」 
「心の中に思う人がいると言う事か?」
 春奈のコロコロ変わる顔色や仕草を見ていると、作り笑いでなく無邪気な子供のような笑みを浮かべてしまう。
「あのう、すみません。何て言えば良いのか、礼を見ても楽しみたい事が想像できないのです。想像ができなければ父様が思っている。楽しい笑みが溢れる生活はできません。そう言う事です」
「喜ぶと思ったが、嫌か。礼だが、知る限りの女性には評判は良いと聞いたのだがなあ」
 娘の為に、自分の考えを要れずに、知る限りの女性の考えを聞いていた。
「礼のような軟弱な人でなくて一番強い人と結婚したいです。それで父様にお願いがあります。人を集めるだけ集めて一番強い人と結婚したいと思います」
 春奈は警護頭が勝つと考えていた。噂で、賭け試合では上位三人が常に同じ為に、賭け試合が暫く行なわれていないと聞いたからだ。それに、警護頭は思う人がいるらしい。残り二人は結婚をしている為に、誰が勝っても結婚しなくて済む。そう考えていた。
「春奈は、それで良いのだな。礼のように嫌とは言えないのだぞ。もし、それで礼が勝ったらどうするのだ。礼は、あれでも強いぞ」
「えっ」
 春奈は、礼の見た目と違いに驚いた。
「お前は世間を知らな過ぎる。結婚は保留にする。周りの人々の話を聞いて見ろ」
 娘に失望した。
「父様。世間を知るために、輪様と旅をする事をお許し下さい」
「結婚を保留にしたはずだが、何が気に入らないのだ」
 怒りよりも悲しみが感じられた。
「私は、今気付きました。結婚をすれば、国を治めるか、連れ合いの補助をしなければならないはず。私は人の上に立つ運命です。それならば、世間を知らなければ行けないと気が付いたのです」
 そう話したが、心の中では、輪様たちと共にいれば、幼い時のような喜びが感じられる。春奈は初めて嘘を付いた。悪魔の囁きを聞いてしまい。一瞬だが、魂が奪われた様な笑みを浮かべた。その時に、左手の小指に痛みを感じた。声を上げる程ではないが、小指の皮膚の切れる感覚だった。自分では気が付かないが悪魔に魅入られて、運命の歯車を狂わせられた者だけが、気が付く痛みだ。
「分かった。お前の連れ合い候補で一番近い礼が、供を承知したら考えよう」
「分かりました。それと、巫女頭は明日で辞める事にします。次の巫女頭は、修練頭が適任だと考えます。それ以上の役職だと我らの血族です。使命すれば承諾するでしょう。後々問題が起こる可能性があると思います。明日の夕方までに総ての巫女と話し合って決めますが、恐らく修練頭に決まると思いますが、父様が最終の決定を決めて下さい」 
 巫女の時は、何かを伝える時には巫女言葉を使っていた。父に失礼と考えたが、説得力があると思い。巫女言葉を口にした。
「そうだな。血族には、それとなく聞く事にする。殆どが、娘可愛さで丁重な断りの便りが届くだろう。決定は、夕方までに警護頭に伝える」
 父は、娘の事は頭の隅に置き。政治の事でも考えているのだろう。上の空で部屋から出て行った。居なくなると、明かりを消し床に入ったが、明日で巫女を辞める。そう思うと心が躍って寝る事が出来なかった。話で聞いた様々な景色を思い。知らない内に夢と重なり、夢の中で楽しんでいた。

最下部の第十章をクリックしてください。

 

 

 

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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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