四つの物語を載せます
× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 第十一章 PR 第十章 第九章
第八章
「あれはなんだ。雄叫びなら止めさせろ」 都市の中心にある。ただ一つの木造の家から、光と同時に怒鳴り声を上げる者がいた。 古い組み立ての家だが質素には見えない。この都市の象徴物か、支配者の家だろう。建物の壁面には豪華に六頭の彫り物が描かれている。家紋か、神話の彫刻だろう。それにしても何故、他の家々からは灯りを灯す家はないのかと感じるはずだ。それは、獣の血が流れているからに違いない。獣の様に空腹か発情期以外は寝て過ごす習性が微かに残っているからだ。何故この男だけが、そう思うだろう。確かに気性は激しいが、住人を守る気持ちと、その仕事で睡眠が少ない為と、余りにも愛の喚き声が大き過ぎるからだ。 「今調査をしていますが、悲鳴のようです」 「悲鳴だと、東国は干渉しない。そう確約したはずだぞ。欺いたのか、許せん」 「落ち着いて下さい。擬人のようです」 「擬人だと、調査だけで済ますな。擬人なら自国に帰るまで付けろ。もしもの時は」 主の気持ちを考え、途中で話を遮った。 「はい、言わずとも。それでは失礼します」 部下は即座に部屋から退室したが、部屋の主は悲鳴が消えるまで、窓から離れる事も灯りが消える事もなかった。この悲鳴が直接の原因ではないが、愛、蘭、甲、乙の四人が、この世界に来たのが原因で、二つの種族が種族と名乗れないほど、命が消える事になる。 そして、甲は、どうしたら良いか悩んでいた時だ。どの家からか分からないが、家の主人だろう。家族に言われて苦情を言いに来たに違いない。だが、甲は気が付かない。 「どうしました?」 今は夜中で朝ではないのに、朝刊の新聞でも取りに出て偶然に会ったような話し方だ。 「えっ」 甲は驚き、声が出なかった。苦情などなら即座に答える事は出来ただろうが、清々しく笑みまで浮かべていた。 「お連れさんが奇声を上げているようですね。人に、それとも獣に襲われたのですか?」 耳が聞こえないのなら分かるが、今見聞きしたような驚きだ。 「えっ」 甲は言葉の意味が分からないのだろう。愛と主人を交互に目線を向けた。 「お嬢さんも馬車では怖いでしょう。又、襲われるのではないか、そう心配しての悲鳴なのでしょうねえ。今のお嬢さんの状態では、直ぐに旅立つ事は無理でしょう。だが、この町には宿は有りません。どうしたら良いでしょうねえ。仕方がない家内に聞いて見ます」 突然に現れた男は、自分の思いを述べ、自分で勝手に納得して、家に帰ろうとした。 「あのう、話したい事があるのです」 蘭は二人の様子を見て、自分だけ正常の判断が出来ると感じたのか、いや違う。甲の様子を見て魔女のような笑みを浮かべた。その笑みの通り、邪な考えが浮かんだのだろう。 「なんでしょう」 「貴方の言う通りなのです。変な集団に襲われるし、何の獣なのか暗くて分からなかったのですが襲われました。それは忘れられるのですが、連れの男は変態で常識を知らないのです。普段はどちらかが起きて見張っているのですが、あの状態ですから困っていました。ああっ何故に一緒にいると思われるでしょう。あの男の家は名の知れた資産家なのです。それで、男の父親から始めての仕事の監視を任されたのですよ。お願いと言うのは、あの男は甲と言うのですが、人生の経験と言う名目で朝まで仕事をさせえてくれませんか、昼間寝てくれれば、私達も安心出来ます。どの様な事でも命じても構いません。もし渋るようなら車と言ってくれれば喜んで働きますよ」 蘭は泣き顔、微笑みと様々な表情を作りながら説得を試みた。どの表情に弱いかを確かめて女の武器として使った。そして、言葉を待った。 「分かりました。そうしましょう。甲さん以外は、私の家でゆっくり休んでください。何かあれば車と言えば言いのですね」 主人は穏やかに言葉を掛けるが、心の中は違っていた。 (擬人は何を考えているのだ。この擬人の心は読めない。嘘を付いているのは分かるが、同属をいたぶって楽しいのか?) 「そうです。心の底からの感謝をします」 主人が振り向き家に向かうと、蘭は、子供が悪戯を成功したような笑みから、魔女のような笑みを浮かべた。そして、馬車に向かう。 「愛、愛、大丈夫よ。この家の主人が泊めてくれるそうよ。安心だから落ち着いて、ね」 「ふぅあ」 愛は錯乱して、自分が誰かも忘れていた。 「そうよ。安心して良いの」 愛は喚き騒いでいたが、蘭の言葉が分かったのだろう。微かだが、我を取り戻した。 「甲には悪いと思うけど、私は、愛の様子を見ないと、そう思うでしょう。だから、一人で礼を返して欲しいの。それと、換金場所やこの世界の常識などもね。大丈夫よ。良い人ですもの簡単な用事よ」 「そうだな。調べて見るよ。余り時間を掛けていられないからな。任せてくれ」 甲は、蘭から殺気と言うか、不審を感じて視線を向け続けるが、表情からは判断できず。考え過ぎかと思ったのだろう。快く即答した。 「御免なさい。後はお願いしますね」 目を潤ませながら頭を下げた。それも深々と、甲は済まない気持ちからだろうと、言葉を無くし、甲は何ども頷いた。だが、蘭は、 (けっけけけ。これで仕返しが出来たよ。私を馬鹿にするからだ。それも長老の前で、だけど、これで全てを忘れるわ。安心しな) 目を潤ませたのも、頷いたのも、嬉しさの余りに堪えきれないからだった。 「愛、行くわよ。甲、お願いね」 蘭は、明日の甲の表情を考えると、嬉しくて、嬉しくて、心の底からの満面の笑顔だ。 「ああゆっくり休めよ」 (やっぱり女の子だ。部屋で泊まれる事であんなに喜んで可愛いね。私は車外で寝る方が怖いぞ。車内の方が清潔なのになぁ) 甲は、完全に女性の笑みに騙された。二人が心配で、扉を叩き、家内に入るまで身届けた。その後、車内に泊まる準備をした時だ。声を掛けられた。 「待たせました。甲さん、行きましょうか」 「えっ、そうでしたね。分かりました」 甲は、主人の指示通りに車を進める間、優しく言葉巧みに話を掛けられた。そして、確実に何かを知りたい時は、ある言葉を使用して聞き出した。そうあの言葉、車と言って聞き出せたが、半分も理解出来なかった。 「甲さん。底の敷地です。好きな所に止めて下さい。大丈夫ですよ。馬車を触る人などいませんから安心して下さい」 「あっはい。ありがとう」 主人は何を慌てているのか分からないが、車から降りると歩きながら甲に伝えた。そして、周りにあるのと同じ土で作られた家に向かった。知人の家にしては変に感じる。何かを警護しているように人が立っているからだ。 「まだ、寝ていなかったのですね。良かったよ。頼みたい事があるのです」 笑みを浮かべながら知人に近寄った。何故か、甲に聞こえるように大声を上げた。 (至急知らせなければ、神が居るはずがない。 あれは禁じられている武器のはずだ。まして、神の子孫など言い訳だろう。我ら六氏族を滅ぼす企てをしているはずだ) だが、心の中では真剣な思いがあった。 「良いですよ。暇ですから」 その様子を後ろから甲は見ていた。世間話をしながら近づき抱きついたのだ。甲は、驚き見つづけたが、相手も同じ事を返した事で挨拶だったのかと、安心したが、挨拶なら女性にもするのだろう。そう思い、自分には出来ない。と、顔を赤らめた。 「大丈夫です。なぜ真っ赤な顔をしているのか分からないが、不審には感じてないようです。何があったのです。顔が真っ青ですよ」 警護をしていた者が小声で呟いた。主人は大きな溜息を吐いた後、抱き付きながら相手の耳元で、心の思いを囁いた。 「まさか」 「感情を表すな。気付かれたら困る。私は六種族の危機の恐れがあると知らせに行く」 「私は」 「あの男を頼む。朝まで寝かせないでくれ」 「わかった。私も探ってみる」 と、挨拶と思える事をしながら一瞬の間に伝えた。 「甲さぁん。来て下さい」 主人は振り向くと、心の中を見透かれない為だろうか、微笑みを浮かべた。 「なんでしょう」 「この人の指示に従ってください」 「はい」 (やはり、何かするのか、はっー) 甲は、心の思いを言葉にしなかったが、表情には不満をハッキリと表した。 「それでは入国許可書を見せてください。まあ、形式ですから勿論持っていますよね」 「えー必要な物は塩をお金に換えたら揃えようとしたのですが、今すぐ必要ですか」 「えっ」 意味が分からず言葉を無くした。 「如何しました。私が何か可笑しい事を言いましたか。ん、大丈夫ですか」 甲は即座に問い掛けたが、口を大きく開けて、虚空を見ていた為に声を掛けた。 「えっええ、大丈夫ですよ」 (この男は本気で言っているのか、まあ何でもいいか、言いがかりを付ける積りだったのだ。手間が省けた。さて、何をして貰おう) 「そうなのですか、分かりました。購入しなくても良いですよ」 「それは、どういう物なのですか?」 「ん。そうですね。礼儀と思ってください。人は一人では生きて行けないでしょう」 「そうですね」 「分かってくれましたか、それでは名前と生まれた所を教えて下さい」 「名前は甲と言います。生まれは神の国です。分からないですよね。それならエデンで分からなければ崑崙なら分かりますよね」 「んーう。仕方がないですね。甲さんですか、生まれた所は良いですよ」 (言うわけ無いか。さて、どうするか?) 甲の事を始めから間者と考え、その為に何を言っても誤魔化しだろうと考えるのだ。それにだ、神の国って言う方も、普通に考えれば変に違いない。 「それなら旅の理由は、この都に来た目的は何でしょう。それも言えませんか?」 「この都に来たのは、塩をお金に換えに来たのですが、日が暮れて困っていました」 「それはお困りでしょう。朝になれば両替屋を教えますよ。ここは塩の交換率が高いのですよ。知っていらしたのですか」 「本当ですか、ありがとう」 「それでは、誰でもがやっている。礼儀の奉仕活動をしてくれますね」 不審人物の尋問をする者は、この男のように仏のような安らぎの笑みを浮かべるのだろうか、それとも、この男が特別なのか、だが、この笑みでは心の底から感心して、全てをぶちまけるはずだろう。 「はい。私は礼儀を重んじますから」 「ありがとう。先にお礼をいいますね。仕事が忙しくて言えない人もいますからね」 (ほっ、これで素性が判断できるだろう。何も出来ない。ボンボンを装っても分かるぞ) と、心で考え、仏のような笑みを返した。 「それではまずは、薪割りをお願いします」 「えっ。こんな夜中に薪割りですか」 「月明かりで十分でしょう。貴方もですかぁ。はっーやれやれ、遣りたくないからですね」 先ほどの仏の表情からは例えようもない醜い表情を表し、盛大に嘆いた。 「すみませんでした」 「お願いします。あっ、私は台所にいますから少しの間一人で割っていてください。私は飲み物を作って、持ってきます。その時一緒に一休みしましょう」 (さて、陰から様子を見るのも時間が掛かるだろう。何を飲もうか) そう思いながら台所に入った時だ。地震か雷、いや、爆弾の破裂音のような音が響いた。 「なんだ」 (やはりな、化けたか) 驚いたが、意味が分かったのだろう。一人で頷き、風呂場に向かった。 「うぅん、難しいものだな」 甲は、何ども同じ事を呟き、大きい株の上に割る木を置いて、斧を投げているのだ。 「この男は何をやっているのだ」 風呂場にいた。薪を割る所と風呂を焚く所が隣の為に、男と甲との間は板壁一枚の隔たりしかない。その隙間から覗いていた。 「おおっわぁー」 隙間から覗いていた所に、斧が段々と近づき刺さった。何とか声を上げるのを我慢しようとしたが、体の機能が恐怖を感じ取り、叫び声を上げていた。 「おっと。うん、何をやっているのですか」 甲は刺さった斧を取り、隙間から覗いて見た。人がいると思って覗いたのでなく。ただ、穴が開いてしまい好奇心を感じたからだ。そして、顔を青ざめて腰を抜かしている人を見かけたからだ。 「何をやっているのですか、薪割りを頼んだはずですよ」 「そうです。薪を割っているのですが、難しいものですね。まだ、一つも割れません」 「わかりました。甲さんの所に直ぐ行きます。ですから、何もしないで、何も触らないでくださいね。お願いしますよ。必ずですよぉ」 「ううっむ」 斧を見て立ち尽くしていた。何故、自分を見て青ざめて怯えているのか思案していた。 「そのままですよ。そのまま、良いですか」 「はい」 「良い子ですね。この丸太に座りましょうねえ。そして、私のやり方を見ていてくださいね。まずは斧を持ちます。大きい株の上に割る木を載せて、斧を下ろして、トン、トン」 男は、甲の元に向かう数秒間に思案した。それも、そうだろう。薪の割り方を教えるなど、一度もした事も、聞いた事も無いからだ。 「おおお、簡単に割れた」 「簡単でしょう。投げないで出来ますねえ。それなら、お願いしても良いですね」 「大丈夫です」 と、答え斧を持ち上げた。時に、甲が怖いのだろう。何度も視線を向けながら家に入ろうとした。玄関まで来て安心したのだろう。大きな溜息を吐いた。その時だ。 「シュルル、ドッカ」 男の鼻先に斧がかすめた。 「ひっひい」 「大丈夫ですか。斧が株に刺さって抜けなかったのです。本当に済みません」 「ひっ」 (この男は故意にやっているな。そっちがその気なら、ぼろが出るまで苛めてやる) その頃の愛と蘭は、与えられた客室で蘭だけが格闘していた。 「何で蜘蛛がこんなにいるのよ。この部屋は蜘蛛の巣でないの。それに、カサカサと音はするし、何かいるわ。もうー嫌よ」 「ふっーはあー、ふっーはあー」 愛は幸せそうに寝息を立てていた。 「幸せな顔して本当にもー、愛は良いわねえ。 だけど、もし、起きて悲鳴を上げられたらねえ。それを考えると仕方が無いわ。今は我慢する。明日の朝、甲の死んだような顔を見られるなら我慢しなくちゃ」 蘭は、愛の為だろう。いや、ある意味では甲の為だろう。一晩中蜘蛛と格闘しなくてはならなかった。 「ふぁーんっはぁー良い朝ね」 熟睡できた心の底からの喜びを感じられる。大きな欠伸をした後は、蘭の事も何処に居るかなどまったく気にしていない。ただ、小鳥の囀りに導かれるように窓を開けて喜びを感じていた。それは本当に嬉しそうだ。 「愛、起きたのね。おはよう」 「ん、おはよう。良い朝ね」 空を見上げながら気の無い返事を返した。 「そうね」 蘭は、溜息のような声で答えた。 (だぶん、愛だけよ。気持ちの良い朝を迎えたの。都に住む、全ての人は夜中に起こされているだろうし、甲は一睡もしているはずないわ。私も知らない内に寝てしまったけど、小鳥の声は聞いたのよ。殆ど寝てないわ) 「愛、お礼を言って帰りましょう」 「んっ、お礼。そうね。人の家ですものね」 愛は部屋を見回して、今気が付いたようだ。 「はー行くわよ」 (もー興味あるものしか、頭にないのね) 愛は、窓の景色が名残惜しいのだろう。蘭は、無理やり手を引きながら部屋を後にした。 「お二人さん。おはよう。良く眠れました」 主人の奥さんだろう。満面の笑みで話を掛けた。その笑みだけで判断できる。全ての事柄を喜びに感じ、笑み意外の表情を作った事がないように思えた。 「はい。有難う御座います。気持ち良く寝られて疲れが取れました」 蘭は、愛が返事を返さないので肘を突いた。 「ん。はい、本当に有難う。気持ち良く寝られて、今も夢心地です」 「まあーそうなの。良かったわ。今、内の人がお連れさんを迎えに行っているから、来るまでお茶でも飲みましょう」 「うわぁー本当ですのぉ」 我を忘れたような満面の笑みを浮かべた。 「ミルク茶ですよ。嫌いでなければ良いけど、水を汲みに行くのは大変だから」 「蘭、ミルク茶ですって、ここに来たら飲めないと諦めていたわよねえ」 話を最後まで聞かずに即答した。表情からも分かるが、喜びを我慢できないのだろう。蘭の背中を何ども叩き、興奮を抑えた。 「良かったわ。椅子に座って待っていてください。温め直しますから」 「はい、有難う御座います」 蘭は、礼を返したが、愛は、惚けていた。殆ど、待たずにお茶が用意された。恐らく、主人が飲んで出掛けたからだろう。 「美味しいです」 蘭が言葉を掛けると同時に、愛と女主人は話を始めた。二人は別々の話題を挙げているのに、何故か会話の意味が繋がり盛り上がっていた。その様子を見て、蘭は、愛が歳を取ると、女主人になるだろう。そう感じた。二人の会話を聞いていると疲れを通り過ぎて、嫌気を感じ始めた。もう我慢できない。そう思った時に主人が帰って着てくれた。 「済まない。遅くなった」 「もうー早いですわ。話が盛り上がってきたところなのに、ほんとうにっもぉー」 頬をそんなに膨らませたら破裂するのではないか、そう思えるほど膨らませて愚痴を零すが、他人が聞いたら殴りたくなる甘い声色だ。恐らく、普段からも何事にも愚痴を零すのだろう。そう思える目線のやり取りだった。 「ゴッホン。蘭さんでしたね。お連れさんは疲れて動きたくないから、車で待っているそうですよ」 主人は、妻の甘い声を聞いたからだろう。一瞬だけ、顔を崩したが、二人が居る事を思い出し、甲の言付けを伝えた。 「甲に悪いわ。愛、早く行きましょう」 「ふぁい」 まだ、寝ぼけていて、正常な気持ちに戻らないのだろう。一言だけ、やっと吐き出した。 「ああっご馳走様でした。愛、早く、早くして」 蘭は、慌てて挨拶を済まし、手を引いて、甲の元に向かった。 「甲、ごめんね。いろいろ大変だったのでしょう」 蘭は喜びの余りに、表情が引き攣っていた。 「蘭、愛も大変だったのだなあ」 甲は、特に蘭の引き攣る表情を見て、何か嫌な事があったと感じた。 「ええ、蜘蛛とか、変な虫がいて怖かったわ」 「えっ」 と、愛が困惑した。 「そうか、そうか。大変だったのだなあ」 甲は涙を浮かべた。自分だけでなく、二人も同じだったのかと共感した。 (女性に虫攻めか。本当に酷いなあ。私も一息も吐く事が出来ないくらい辛かった。まだ、薪割りは良いほうだった。あの後は、自分の体重と同じ水量が入る桶を作らされ、何をするのかと思えば、それで水を汲んで来てくれだ。あれは疲れた。その後は食事の用意だ。風呂の掃除、拭き掃除だ。風呂を沸かせ) と、苦しい思いに耽っていたが、蘭が優しい言葉を掛けられ心底から安らいだ。 「泣くほど心配してくれていたの。有難うねえ。だけど良いのよ。私達は少しでも寝られたのだから、後は休んで良いわよ」 (甲も良い人なのねえ。これからは考えを改めるわ。本当にごめんなさいね) 男女に関係なく涙には心が動くようだ。 「いや、心配するな。大丈夫だぞ。愛、蘭に比べたら何でもない事だからなあ」 甲は、嗚咽を漏らした。 「甲さん。塩をお金に換えるのも、乙の所まで行くのも、私がしますから休んで下さい」 「塩をお金に換えてきた。後は、乙の所に帰るだけだ。気にしなくて良いぞ。自動制御で済むからなあ。私は男だ。大丈夫だ。愛と蘭はゆっくり休んでいてくれて良いぞ」 甲は、愛と蘭を無理やりのように床に就かせると、自動制御した後は体の機能が限界に来たのだろう。その場に倒れて眠りに就いた。暫くしてから、愛だけが起きだすと、御者席で手綱を持ちながら幸せそうに空を見続けていた。乙の元に着くまでには、愛は勿論だが、蘭も甲も、心身ともに回復するだろう。 最下部の第九章をクリックしてください。
第七章
枯れ井戸を中心に土で固めた家のような物が五件建てられていた。砂丘の上からは建物の中で四頭の馬が鳴いている姿が見えた。恐らく馬小屋だろう。奥行きがあるから十頭位は入れられるだろうか、それにしても何故、馬が鳴いているのだろう。そう思える姿で家人が別棟から出て来た。宥めるよりも辺りを見回した。普段は大人しいのだろうか、家人は首を傾げる。水か飼い葉の催促と考えたのだろう。馬を落ち着かせて二頭だけを放した。何故二頭だけなのか分からないが、馬はゆっくりと出て来て近くの草を食べる。段々と遠くに向かうが気に留めない。残りの二頭を宥めながら閂を閉める。突然に砂丘に目を向けたが、馬から知らされたのだろうか、家人は見慣れない物を見つけ、見つめ続ける。四人はそう思われても仕方がないだろう。馬も無く歩き旅にしては汚れてもいない。と言うよりも新品にしか見えない。そして旅装服にも見えないからだ。そして、家人は用事を思い出したのか、それとも殺気も感じられず、武器を持って無い事が見えたのだろうか、何事も無かったように家に入って行った。 「四頭いるな。これなら多分貸して貰えるだろう。直ぐに行こう。ほら、立ってくれ」 愛、蘭、乙は着いた事で安心したのだろうか、砂丘の上で座り込んでいた。甲だけは目が血走っている。目や表情からは早く恋人に会いたい。そう見えるが、恐らく早く済まして車の場所に戻りたいのだろう。 「はぁい、はぁい」 蘭だけが、嫌、嫌、声を上げる。二人が歩き始めると、愛と乙も付いて行く。 「ほう、これ家よねえ。土を固めた物よねえ。雨が降っても崩れないかしらねえ。蘭」 「もうー何を言っているの。固まったら溶けないの。愛、話しは止めなさい。聞こえたらどうするの。失礼よ。早く来なさい」 蘭は怒り声を上げた。当然の反応だろう。 これから交渉すると言うのに印象を悪くしたくない為だ。 「何の御用でしょうか?」 家人は話が聞こえ玄関に現れた。声色からだけで判断すると優しそうな中年と感じるが、髪と髭が覆われていて老年とも感じた。だが、目は人を殺した事があるような鋭い視線だ。視線が本心なら髪も髭も油断を誘う為だろう。四人は気が付かないが、武道を少しでも学んだ者なら感じるはずだ。 「あのう、ですね。言い難い話ですが聞いて頂けませんか」 甲は心底から困っているように思わせるが、誰もそう思わないだろう。だが、見方によれば御曹司が困っているようには感じられる。 「何でしょうか。もし、宿をお探しなら、小金を頂けたら空き家をお貸し出来ますよ」 家人は右手を隠して話を掛ける。恐らく背中に武器を隠している。そう思わせたいはずだ。邪な考えがあるか確かめる為だろう。 (何も感じないのか、武術を知らなくても分かると思うが、余程の腕の持ち主か、それとも本物の馬鹿なのだろうか) と、家人は思いを巡らした。 「どうしても、町に行かなければならないのです。ですが、馬に逃げられてしまいまして、出来れば馬を貸して頂けないかと、話に来ました。駄目でしょうか」 「ほう、それはお困りでしょう」 穏やかに話を掛ける。だが、疑いが晴れず背中に差してある短剣を握り締めた。 「出来る限りのお金を払います。あっこれをお金に換えに行くのです」 甲は現物を見せれば良い返事を聞ける。そう考えて塩の袋を見せた。 「ほう、海の塩ですか、それも一級品ですね。これだと金の十倍の価値がありますよ」 家人は手触りと味を確かめた。 「そうでしょう。それで相談なのですが、お裾分け程度の塩で保障として考えてくれませんか、後は換金した時に正規の値段を払いますから馬を貸してくれませんか」 甲は、家人が一瞬だが表情が和らぎ手答えを感じて上擦った。 「そこまで言われたら断れませんね。それで貴方が一人で行くのですかな」 「いいえ、三人で行きます。心配でしょうから、もう一つの保障として、この男を置いていきますので好きに使ってください」 仲間から苦情が出ないように一気に話しながら乙の背中を叩いた。 「えっ、そこまでして頂かなくても」 一瞬だが、襲われる心配をして断ろうとしたが、即座に話を持ち出された。 「それで、三頭の馬を借りたいのですが」 「三頭ですか、うっ、ん。良いでしょう」 (考え過ぎか。本当に油断を誘うなら手持ちの塩を置いていくな。まあ襲われても、この四人なら負けるはずがないがなぁ) 「好きな馬を連れて行きなさい」 家人が口笛を吹くと、二頭の馬が直ぐに帰ってきた。そして、二頭を甲に手渡しながら馬を与えた。やはり、先ほど二頭放したのは遊ばせる為でなく、もしもの時に危険を伝える為だろう。四人は気が付かないでいるが、世間話をする中でポツリ、ポツリ出てくる内容がそう感じられた。それは、自分はこの近くの水の管理と関所を兼ねていると、四頭も馬が居るのは伝書の為だと話をしたからだ。 「そのような大切な馬を貸して頂いても宜しいのですか、任務の支障は無いのですか」 「大丈夫です。一頭いれば足りますから」 家人は、そう伝えた。 (この甲と言う男は、代替わりになっての始めての仕事だろう。少し様子が変だが報告はしなくても大丈夫だな) 甲は安心した。話をして心を落ち着かせられた。そう感じた。視線が和らいだからだ。 「ああっ忘れていました。この男は乙と言うのですが、働きに渋るようでしたら、この菓子を与えて下さい」 と、言いながら酒入りのチョコレートを家人に手渡した。乙に視線を向けるが苦情を言わないのは馬に乗りたくないのだろう。それは馬が近寄る度に顔が引き攣っているのだから間違いないはずだ。三人は家人に分かれの挨拶をすると即座に行動に移した。 愛、甲、蘭は何も話さずに車のある場所に向かっていた。乙の為に目標物の確認と換金を終わらせて戻る為ではないだろう。ただ、馬から振り落とされない為なのかもしれない。「やっと着いたぞ」 甲はふらつきながら車に向かった。 「外界では、このような物に乗って移動しているの。信じられないわ」 「だけど、蘭、行きの半分の時間も掛かってないわ。馬に乗って来たから夕陽も見える事が出来るのよ。良かったわ」 だが、馬の方にも言い分がある。自分の周りに蚊のような機械が飛んでいるからだ。まだこの世界には機械など無い。始めて機械の音(人の耳にも聞こえないのだが、馬の方も聞こえたのでなく人口物を感じて恐れたのだろう)で死ぬほどの恐怖を感じたはずだ。 「蘭。それ位にした方が良いわ。馬だって好きで乗せていた訳でもないし、聞こえていたら本当に怒るかもしれないわよ」 「えっ、そうね。そうよね」 蘭は顔を青ざめた。先ほども死ぬ気持ちを味わったのに、本気で怒らせたら殺される。そう思っているからだろう。馬の手綱を持つ手が震えていた。 「ねえ、甲まだなの」 蘭は震えた声を上げた。甲から馬は臆病だぞ。大声を上げたら暴れる。そう言われたからだ。だが、甲の耳には届かない。夢中で車を馬車に見えるように装っているからだ。 (ほんとにっもぉー) と、心の中で悪態を付き、甲の所に行こうとしたが行ける訳が無い。馬車に装う作業の音。特に、金槌の音が聞こえ無い所で、逃げないように馬を捕まえているからだ。どうしようかと迷っている。馬から離れたい為に声を掛けた。それも馬を気にしながら何度もした。 「ねえ、ねえ。甲まだなの」 声が届いたのだろうか、それとも偶然なのか、甲が声を上げた。 「良いぞ。連れて来てくれ」 「愛、良いってよ」 「えっあっ、はい」 愛は空を見て惚けていた。 「お願いだから暴れないで歩いてよ。そう、そう、そうよ」 「ありがとう。馬を馬車の木枠に繋ぐから、もう少し捕まえていてくれよ」 甲が工夫をして馬車のように装ったが、ただ、車体を布で覆っただけだ。確かに車の後ろに木枠を固定して馬を繋げば、馬車に見ようと思えば見えなくもなかったが、大きさから見ても三頭では動かないだろう。それとも自力で動かすのか、それなら問題がないが後ろ向きで長距離を走れるか疑問だ。 「ねえ。甲、大丈夫なの」 愛は疑問を感じて問い掛けた。 「えっ何がだぁ」 「蘭も。そう思うでしょう」 「そうねえ。後ろ向きではねえ」 蘭は馬から離れる事が出来て、普段のような勝気の声色に戻った。 「あああ、その事なら大丈夫だぞ。手動なら「前方方向の運転席側だが、自動運転なら後ろ向きの荷台向きに動くからなあ」 「えっ何故そんな仕組みにしたの」 二人の女性は驚きの声を上げた。 「愛、そう言う事は聞かないのよ。甲の専攻職種の問題だと思うわ」 顔を顰めながら首を横に振っていた。恐らく話題にするな。と、言っているのだろう。 「おおお、良く分かるなあ。そうなのだよ。愛なら分かると思っていたがなぁ。星を見ながら行動したいだろう。私も地図を見ながら地形を見ないと行けないからなぁ。まさか蘭が、気が付くとは思わなかったよ」 満面の笑みを浮かべて話を始めた。 「その話は後で聞くわ。早く町に急ぎましょう。乙の元に早く帰らなければ行けないわ」 蘭は顔を顰めて話を逸らした。愛の問い掛けで気分を壊しているのに、その愛は荷台に座り夕陽を見ながら惚けていた。 「愛、良かったわね。夕陽もゆっくり見られて楽しみにしていたものね」 「はっ、出発するぞ。私は中に居るから、愛と蘭は確りと手綱を持って馬車のような感じに思わせていてくれよ」 甲の溜息は、二人の遊び気分に疲れを感じたのだろうか、それとも、愛車の傷の心配なのか、恐らく車の傷だろう。そう思えた。話し終えてから数分後に偽馬車は動き出した。辺りには、二人の女性の心の底から楽しんでいる会話が辺りに響いた。 三人が向かう先は飛河連合西国と言われる都に向かっていた。その国は幻の国と言われていた。何故、幻か。それは、獣人しか居ない為に、擬人が軍隊で攻めて来る者や邪な考えを抱く者を、獣人の嗅覚、殺気や心を読む力で感じ取り、都市中の獣人が消える事が出来た。その事に不審に思うだろうが、都市の生命線の河が不規則に流れを変えるのだ。砂の上を河が流れる為に酷い時は十キロも変わってします。その度に新都を造っていた。その為に、何か危機を感じたら旧都市に逃げる事が出来たからだ。その数も無数とは大袈裟だが、そう思うほど都市の跡があった。 「ねえ、甲。本当に町があるの。周りは廃墟しかないわよ。まさか、この車で一夜を過ごす事になるの。ならないわよね」 夕陽が沈んで、念願の満開の星空を見ていたが、何も変わらない事に気が付く頃だ。愛の気持ちを考えて、二人は無言でいたと言うのに、その本人が沈黙を破った。 「愛、そうでも無いと思うわ。 堀の向こうを見てごらん。最近まで住んでいたように新しいわ」 「そうなの。暗いのによく見えるわね」 「月明かりでも見えるわよ。建物が確りと残っているし、恐らく堀でなく河だと思うわ。 底の方に光っているのが見えるもの。河の流れが変わったのよ」 「そう。私は眼鏡だから見えないのかな」 「あっ愛ごめんなさい」 蘭は心の底からの悪いと思い謝罪をした。 「星も見飽きただろう。それなら、馬車の速度を上げても良いか」 二人の話し声が聞こえ、車内から問うと。 「ああ甲、良いわよ」 「ねえ甲、話を聞いていたでしょう」 「ああ、蘭の言う通りだ。河の流れが変わったようだ。五キロほど先に人体反応があるから住人は移ったのだろう」 「五キロなの。そう、まだ時間が掛かるわねえ。だけど、そんな時間に店屋が開いているの。本当に部屋に泊まれるのよね」 愛は話せば話すほど、険悪を顔に表した。 「えっあっあ、愛、流れ星を見たか」 甲は、愛に恐れを感じて話を逸らした。 (この女が一番怖い。表情や殺気が本物なら何をするか分からんぞ。この様な人が我を忘れて、原形を留めない程に殴り殺すのだろうなあ。何とかしないと不味いぞ。流れ星を探し疲れて寝てくれないかな) と、心で思いながら恐る恐る目線を向けた。 「えっ流れ星。ななんですか。それは」 一瞬で表情が変わった。目をキラキラさせえて、もう先ほどまで何で怒りを感じていたのかを忘れているようだ。 「仕組みなどを聞いているのではないよなぁ。知っていると思っていたよ。何て言えば良いのかな、星が動くと言うより流れるのだよ。見れば直ぐ分かるぞ。それよりも、擬人には面白い話しがあるぞ。流れ星が消えるまでに願いを言えれば叶うらしいぞ。試してみろ」 話し終えると、大きく溜息を吐いた。愛の顔色や様子で誤魔化せたと感じたのだろう。 (これで、明日の朝まで夢中で星空を見ていてくれよ。俺が流れ星に祈りたいよ) そう心の中で祈った。 「愛は何を願うの。ねえ愛」 蘭も女性だからだろうか、本当に楽しそうに話を掛けるが、愛は夢中で流れ星を探していた。町に入るまでは馬車の中も回りも静かだったのだが、流れ星が見つからなかった為だろうか、愛は喚き声を上げた。 「なな、何なの、無人じゃないの。これで人がいるの。これじゃ部屋に泊まるどころか食事も駄目でしょう。甲、絶対に何とかして」 愛が無人と思っても仕方がない。普通の町なら全ての家の灯りが消える時間ではない。それに、家々が粗末と言うよりも機能重視の簡易家だからだろう。夜だと人が住んでいないように見える。だが、三人は町の外側しか見ていないが、町の中心に行けば粗末な家がなくなり、開いている店もある事に気が付くはすだ。恐らく、故意に廃墟とは大袈裟だが、人を寄せ付けない考えだろう。住人全員が人付き合いを嫌っているか、それとも、襲撃を恐れているのだろう。町の造りでそう思えた。 「なあ、愛落ち着いてくれ、今日は馬車に泊まってくれよ。明日、塩をお金に換えたら好きな物も、好きな所を連れて行くからなあ」 「ぎぎゃあ、甲、変な事を考えているでしょう。寝言を聞きたいの。寝顔が見たいのね」 甲が何を言っても、愛は、我を取り戻してくれない。声は段々大きくなり、何を言っているか自分でも分からないのだろう。甲は頭を抱え座り込んだ。それもそうだろう。愛の叫び声が都市中に響いているはずだからだ。 最下部の第八章をクリックしてください。 |
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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