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第十章
 時間を三十分遡る。時刻は朝八時。七人の女性と、真が、今日子の家から出る時だった。真は、七人の女性と離れ、興味を感じたまま行動した時だ。
「北に方向を変えました。あっ、いや、南に変わりました」
 明日香が声を上げた。
「広い空き地の近くからは離れないわねぇ。何かを探しているの、逃げているのかな?」
「先ほどと同じ所で、同じ男性・・・そう感じるわ」
「二キロの範囲は変わらないわ。もしかすると、学校裏の森林公園かも知れないわね」
と、真由美が思案して結果を伝えた。
「真由美が言った通りかもね。森林公園に行ってみましょう」
 七人の女性は、話題に上がった。その男性の話をしながら公園に向かった。もしかすると、七人の中の誰かの運命の相手かも知れない。誰が言ったのでないが、そう心に感じたに違いない。そして・・・・・・・・・。
「ねね、由美」
「なに?」
「由美は、男性と感じたのでしょう。どのような様子って言うか、容姿とか分かるの?」
「そこまで、分からないの。何て言うのかな・・・・」
「うんうん」
「それで、それで」
「幽霊のようにぼんやりと見えるの。男性だなぁって」
「それだけなの?」
「そうなの。私は、背が高い人なら妥協してもいいかなぁ」
「やっぱり顔でしょう」
「ええ、なんでぇ。性格が、一番でしょう」
と、七人の女性は、その容姿とか様々な事を笑いながら歩いていた。
「そろそろ、公園よね。何も感じないの?」
 今日子が、周りを見回すと呟いた。そして、北へ、北へと向う。すると何かを呼ぶ声が聞こえてきた。七人を呼んでいるはずではないが、何故か、自分達を呼んでいるように思い向う。一歩、一歩と近づくと、正確に何て呼んでいるのか分かった。
「シロ、シロ、どこに居る。シロ、シロ、出て来てくれ」
 新一の叫ぶ声が、はっきりと耳に入る所まで近寄ると、七人の女性の感覚器官に痛みを感じた。そして、七人が同時に、同じような言葉を一言だけ呟いた。
「あの男よ。間違いないわ」
 七人が指を刺す方向には、複数の人が居た。だが、問いただす事をしなくても同じ人を刺しているはずだ。その方向に居た人々は、勿論、初音の警護人の一人も居た。女性の声だから振り向かなかったのか、そうでは無かった。学校が近く運動部などが柔軟体操などで使用している為に、大声や叫び声などでは不審を感じるはずもなかった。指差された。その男性はまだ。
「シロ、シロ」
 叫び続けていた。それも、森林公園の中に入ろうか、それとも、住宅街の方に戻ろうかと考えているようだ。その様子を見て、今日子が近づいた。
「シロって犬なの猫なの?」
「えっ、猫です。でも・・・・・・何故?」
「猫を探しているのでしょう。一緒に探してあげる」
「でも、その制服を着ているなら学生だよね。学校は?」
 新一と今日子が話しをしていると、六人の女性も集まってきた。それに、気が付かない振りをして、初音の警護人は、この場から逃げるように消えた。恐らく、警護頭の荒井に知らせに向ったのだろう。
「あらあら、八時三十分ね。今からでは遅刻だわぁ。急いでも仕方ないわね」
「でも・・・・・その・・・」
「あなたも遅刻ねぇ。早く学校に行きたいのでしょう。なら、一人で探すよりも八人で探しましょう。それの方が早いわ」
「その・・・・・あのぅ」
「私は、鏡家の今日子よ。宜しくねぇ]
「私は、櫛家(くしけ)の明菜よ」
「白家(はくけ)の明日香」
「粉家(こなけ)の瑠衣。宜しくねぇ」
「えへへ、筆家(ふでけ)の美穂よ」
「宜しく、琴家(ことけ)の由美よ」
「弦家(つるけ)の、真由美です」
 新一は、七人の女性の人垣の隙間から初音を探した。一瞬だが、初音を見かけたのだが、初音は、何故か、近寄ろうともしなかった。そして、初音が、視線から消えたので学校にでも向ったと思ったのだろう。それで、安心したのでは無いだろうが、七人の女性に聞かれた事を話し出した。まあ、殆どが猫の話しだったが、それとなく、七人の女性は、左手の小指の赤い感覚器官を見せていた。恐らく、見えると言って欲しいのだろう。だが、初音は、新一が、七人に囲まれている姿だけを見て、怒りを感じたのだ。新一は気が付いていないが、そろそろ、初音が、荒井に武器の用意を告げた。八時三十五分は過ぎようとしていた。この時に、直ぐに八人でも、新一が一人でも猫の探しをしていれば、新一が森の中で倒れる事も、真がシロの体に入る事もなかったはずだ。その事は、新一が分かるはずもなく、まだ、話が続いていた。そして、やっと、八人の男女が、一人一人に別れて猫を探しに行こうと、その結果を出るまでには三十分も経っていた。時間では、九時を過ぎた頃、その時だ。
「守って」
と、何故だろうか、明日香が叫ぶと同時に、左手を体の真横に、新一を守るように上げた。
「ん?」
「ビューゥウウウウウウ」
と、七人の男女が不審を感じると同時に、風を切り裂く音が響いた。
「何だ?」
初音が、荒井に武器を用意しろと言った。その武器から放たれた弓矢の音だった。
「明日香、その左手の指・・・・」
 明日香が声を上げると同時に、赤い感覚器官は一メートル位まで伸び扇風機のように回転した。そして、信じられない事が起きた。弓矢は銃弾より遅いとしても人を殺せる凶器なのだ。それを、赤い感覚器官で弾き返したのだった。今日子は、二重の驚きを感じたのだ。運命の人しか見えないはずの赤い感覚器官が見えたのだ。恐らくだが、武器として使う場合は見るに違いないと感じた。
「え、嘘、なぜ、弓矢が飛んで来るの?」
と、明菜が驚きの声を上げるが、今日子が怒りの声をあげた。
「まだ駄目よ。防御して」
 その声を聞くと、六人は転生前の事が分かるとしか思えない行動をした。それは、美穂、由美、真由美が明日香と同じ仕草をした。それだけでなく、体を盾にするように新一の周りを囲んだ。そして、残りの三人は、威嚇から敵を探すように視線を動かした。それだけでなく、左手の小指の赤い感覚器官が敵を探すように動くと、敵を探し出したのか、又、変化した。今日子の赤い感覚器官は剣として構え、明菜の物は、鞭のように唸り、瑠衣のも槍のように伸びた。
「ん・・・・玩具?」
 今日子が、再度の攻撃が無いと感じたのだろう。視線は周りを探すのを止め、放たれた矢に視線を向けた。そして、驚きの声を上げた。驚くのも当たり前だろう。矢尻が凶器でなく吸盤だったのだ。それを見て安堵しようとした時だ。
「七人の女達ぃ。新一は、私の物よ。直ぐに消えなさい」
「私達の事を言っているの?」
 初音が叫び声を上げた。それも、四十メートルも離れているのに声が届くのだ。心底からの怒りで可能になったのだろう。だが、それだけでは収まるはずもなかった。
「もうぉおお、離れないのね。そう、分かったわ。荒井、矢尻を変えずに放ちなさい」
「えっ」
「放ちなさい」
「お嬢様?」
「放ちなさいと言っているのに聞えないの?」
 鬼の形相のように変わっただけでなく、声までも殺気を放っていた。
「辰(たつ)、放て」
「誰に向って放つのでしょうか?」
「新一に決まっているでしょう」
「七人の女性でなく、新一様に向けて放つのですか?」
「新一が、女性に色目を使うから悪いのです。常に、私だけを好きと言っていれば今回のような事にならなかったはずです。だから、新一に矢を放つのです。これからは、私だけを愛さないと命が無い。それを分からせるのです。分かったのなら直ぐに放ちなさい」
「お嬢様の言う通りです。新一様が、女性から離れるまで放ち続けます」
「そうよ。やっと、私の気持ちが分かったようね」
「お嬢様。辰が放てと言う言葉を待っています。命令して下さい」
 荒井は、人を殺したくない為に、初音の人間としての気持ちに縋った。だが、組の為、そして、お嬢様、その家族や仲間の為なら命を捨てても守るはずだろう。
「うんうん、放ちなさい」
 だが、荒井の気持ちが分からないのだろう。満面の笑みを浮かべながら命令を下した。
「当たれぇ~」
と、辰は、先ほど、初音に言った事を実行するように真剣に狙いを定めて放った。
「え、何故、又、放つわよ」
 初音が、あれ程の大声を上げたのだ。もし、隠れていたとしても場所は特定出来るだろう。だが、初音は、本心からの叫びだったのだろう。堂々と姿を現して、新一に指差していた。
「守って」
と、明日香は、殺気を感じて放たれる前から構えて待っていたはずだ。そうでなければ、放つと同時に叫ぶ事は出来なかっただろう。
「ん?」
 七人の女性は、金属と金属がぶつかり合うような音を聞き、驚きを感じた。
「え、嘘、玩具ではないわよ」
 跳ね返った。その矢を七人の女性が見詰めた。だが、直ぐに、今日子と明日香が叫んだ。
「まだよ」
「今日子、明菜、瑠衣、私達の後ろに隠れて」
 明日香の言う通りに、二度目、三度目と、矢が新一に向って来る。そして、七度目の矢を弾き終わると、それ以上は放たれなかった。終わったと感じたが、その代わりに、初音の叫び声が響いた。
「何をしている。当たらないでは無いの」
「お嬢様、確実に当たるはずなのです。ですが、何故か、手前で弾き返るのです」
「そう・・・・・・なら威力が足りないのね。拳銃なら届くでしょう。拳銃を使いなさい」
「お嬢様、それでは、脅しでなく殺す事になりますが?」
と、荒井が問い掛けた。
「矢で駄目なら仕方ないわ。そう・・・なら足か手にでも狙って、なら死なないでしょう」
「はい、畏まりました。それなら、私自身が打ちましょう」
「早くしなさい」
 初音の掛け声で拳銃の引き金を引いた。一発、二発と続けて撃ったが同じように跳ね返された。それが信じられないのだろう。呆然と立ち尽くした。
「何をしているの。早く当てなさい」
「それが・・・お嬢様・・」
「跳ね返るのね。なら皆で撃ちなさい。誰かは当たるでしょう」
「ですが・・・・」
「何をしているの。私の命令が聞けないの?」
と、初音は鬼のような形相で指示をした。警護人は、初音の姿を見て心底から恐怖を感じたのだろう。三十人の警護人は、隠し持っていた拳銃を取り出すと直ぐに、新一に銃口を向けると弾奏にある全ての弾を撃った。だが、又、全てが弾き返されたのだ。
「むむむむぅううう。何をしているの。私は当てろと言っているのよ」
「それが・・・・」
「むむむ、まだ、弾は有るわね。全て撃ち尽くしなさい」
 初音の指示で、弾奏を取れ変えた。その様子をみて、新一は、恐怖を感じたのだろう。叫び声を上げながら公園の中へと逃げ出した。
「うぎゃぁああああ、殺される~ぅ」
「駄目、今、出てったら危険よ」
と、今日子は、新一に伝えるが、我を忘れているように走り続けた。その後を、今日子と友は、初音と警護人も追い掛けたかったのだろうが、殺気を放ちながら睨み合いが続き、動けなかった。その様子が分かるはずもなく、新一は走り続けた。それも、森の中へ、中へと、そして、自分の居場所も分からず、人の気配も感じられなくなると、心細くなった。すると、虫の鳴き声に怯え、蜘蛛の巣が顔に付くと泣き声を上げながら猫の名前を呼び続けた。
「シロ、シロ、出来て、シロ、怖いよ。シロ出てきてよ。シロ~」
 そして、新一は、また、違う蜘蛛の巣が顔に付き、それが目に入ったのだろう。痛みと恐怖で目を瞑りながら歩き続けた。このような歩き方なら街中でも、森の中でも転ぶのが当然だろう。思った通りに、三歩も歩く事もなく転んだ。
「シロ、シロ。助けて、助けにきて」
 だが、助けを呼んでも、シロは来てくれなかった。それよりも、新一には、これから死ぬ程の恐怖を体験するのだった。普通の人なら死ぬ程の恐怖ではない。ただ、顔の上を虫が歩き回ったのだ。
「ぎゃああああああ」
 普通の人でも気分が悪くなるだけだろうが、新一のように失神するはずがないはずだ。
 そして、悲鳴を上げた後、三時間後、シロの体に入った真と出会うのだった。
 
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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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