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第十二章
「主様、使えの者が戻りました」
 この老人は育ちが良いのだろうか、それとも骨の髄まで教育されているのだろう。誰が見ても余程の事が起きたと感じ取れる。だが、態度は信じられない程に礼儀正しかった。
「かまわない、入れ」
「失礼します。主様、やはり、擬人と手を組み。我が国を挟み撃ちにし、禁忌とされている。あの、武器を使う可能性が高いとの知らせを受けました。それと、今日中に六種族が、我が国に入ります。即位式の為に来るのでなく、恐らく陽動作戦と考えられます。監禁致しますか?」
「そうか、一週間以内に新都を押さえろ。即位式と同時に仕掛ける。それまで何もするな。我は何も知らない振りをして、六種族を持てなせ。そして、式が終えずとも王冠を載せ終えたら即座に監禁しろ。人質にする」
「畏まりました」
 老人は指示を受けた事が成功すると感じての笑みだろうか、それとも、内に秘めた思いを主に求めているのだろう。そう思える笑みを浮かべながら退室した。そして、扉越しからでもわかる大きい声で指示を出していた。
 それから一時間も経つと、都市の中は上を下への大騒ぎになり。騒ぎが終わる頃には城門の前で別の騒ぎが起きていた。それは、兵が客人を迎える為に控えていたからだ。まるで戦でも始まるのではないか、そう、人々は恐れを感じていた。
「あら、珍しいわね。迎いに出るなんて」
「それも、そうだろう。六種族の全ての長老が出席するのだからな」
「だけど、少し物々しいと思わない」
 涙花は、信の側にいるのにまともな言葉を呟いた。それほど、整然としたと言うよりも、殺気を感じる物々しさだ。
「お待ちしていました」
 猪家の党首が慇懃無礼に呟いた。そして、それぞれの、専用室に迎えるように、部下に命令を下した。
「はっ、それでは」
 服の前面に猪の紋様のある部下だけが畏まった。そして、それぞれの長老を警護しながら案内役を務めると言うよりも、逃げられないように囲っているようにも感じられた。
 他の紋様の他家の兵は、民衆の騒ぎを静めるのが目的なのだろうか、そのまま動かずに簡易礼を送り、そのまま見送った。
「ありがとう。ゆっくりと休まして頂く」
 六種族の代表のように竜家の長老が呟く。
「戴冠式は一週間後に行います。それでは、私はこれで失礼します。ごゆっくりと」
 猪家の長老は満面の笑みを浮かべながら見送るが、その笑みは心の中の考えを隠すためだと、誰もが感じる不気味な笑みだ。
「信、いつ見ても嫌な笑みね。猪にそっくりよ。服に猪の紋様を付けなくても分かるわ」
 涙花は笑いを堪えた。
「それは仕方が無い。猪の遺伝子があるのだからな。涙花、面と向かって言うなよ」
「もうーそんなー話をしないでー」
 涙花は完全に緊張が取れたようだ。
「やはり考えすぎだな」
 信は、先ほどの笑みを見て不安を抱いたが、涙花の緊張の無い話し声が聞こえ、自分の考え過ぎと思い。不安が消えた。
「お集まりの皆さん。飛河連合東国の人達は建物に隔離しましたから安心して下さい」
「戦が始まるの?」
 民衆の中から不安の声が響いた。
「安心して下さい。我ら西国の六種族は、東国と違い武力に優れています。何が起きようと、必ず皆さんをお守りします」
 六種族の長老が都市の中心の建物に入ると騒ぎ始める。だが、静める為だとしても適切な言葉とは思えない。何故だろうか、その言葉には気遣いが感じられず、何か思惑があるように感じられた。
「ほう我らの紋様が描かれているぞ。まだ同族と考えているのだな」
 建物の中の長老達は、外の騒ぎが聞こえないのだろう。それは歓声で判断が出来た。
「そうだな、考え過ぎだったようだ」
「心配が無くなったのだ。思う存分に七日の間を楽しませて頂こう」
「そうだな。ははは」
 戴冠式までの間、六種族の長老達は下にも置かない歓迎を受けた。接待を受けたからではないだろうが、心の底から祝福をしていと思われる顔色が表れていた。
「長老様方、式場へご案内したいのですが宜しいでしょうか」
 兵が現れた。服の前面に猪の紋様が描かれてあり、勲章か階級を表す物だろうか、歩くにも邪魔になると思えるほど身に着けている男だ。何故か苦笑いを浮かべている。恐らく、一般兵がする任務と考えているのか、それか、長老達に知られたら困る企みがあり、隠し切れずに表情に表れているようにも思えた。
「おお待っていたぞ。赴こう」
 東国の六種族の長老は、竜家の部屋に集まっていた。恐らく、戴冠式の時に儀式を催してくれ。と言われた時の打ち合わせだろう。
「それではお連れ致します」
「ああ聞き忘れていた。我らは儀式の事は何も伺ってない。旧来の通りなら問題はないのだが大丈夫なのか?」
「その事なら安心して下さい。竜家の長老殿が、我らの国王の頭の上に王冠を載せて頂くだけのお役目です。お名前を申し上げますからお気遣えなく」
「そうだったな。全ての事柄を擬人の様式に変えたのだったな」
「擬人様式か、あれは疲れるぞ」
「訳の分からない人を何人も呼んで説教のような話を聞かなければならないはずだ」
「そうなのか、それでは話す事も食べる事も出来ないのだろうなあ」
 竜家の長老が呟き終わると、他の長老達が愚痴をぶちまけ始めた。
「んっごほん。十二種族だけです。ですが、話や食事は困ります。同種族なのですから気遣いはないと思います。宜しいでしょうか、そろそろ時間が迫っています」
 軽く咳払いの後、苦笑いの顔をますます顰めた顔に変わり、再度、問い掛けた。
「ほう建物の地下にこのような祭壇室があるとは素晴らしい」
 案内兵の通りに建物の中を下へ下へと歩きながら不安を感じていた。何故、広場に向かわないのかと問い掛けようとしたが、案内された室内を見て歓声を上げた。
「ここで、十二種族代々の簡易儀式を済ました後、広場で最後の王冠の儀式を一般公開で行います。儀式の終了後は、この室で十二種族の談話会を開きたいと申しておりました」
「そうか了解した。心の底から楽しみにしていると伝えてくれ」
 東国の長老達は、同じような言葉を呟きながら相槌を打った。
「伝えてきます。それでは、紋章が描かれている椅子に座って居て下さい」
 案内兵は使命が終わったのだろう。心底から安心した顔色をして、この場を去った。
「まさか、拒否した訳では無いだろうな」
 予定時間より遅れたからだろう。案内兵は主と鉢合わせした。
「いいえ、大丈夫です。逆に喜んでいます」
「そうか、頼んだぞ」
「はっ、予定通りに行います」
「次の国王を向かいに行かなくてはなあ。待っているのだろう。あっ、その前に様子を見るか、顔を忘れる程会っていないのだからな」
「何時に始まるのだろうか?」
 地下の祭壇室に向かう間に言葉が聞こえた。
「お忘れですか、鼠家の長老。代々獣人族の、いや、飛河国の恒例の行事でしょう」
「そうだったな。次の年の王にはよく遊ばれたからなあ。特に虹家には半日待たされた事があった。その時の事を思い出したよ」
 東国の六人の長老は、それぞれの昔を思い出しているようだ。自分が王の時の思い出だろうか、それとも、他家の思い出に違いない。だが、一人だけが虚空を見詰めていた。それは涙花だ。それも悲鳴が聞こえたような表情だ。その方向には愛、蘭、甲、乙が居る所だ。確かに蘭は悲鳴を上げていた。
 最下の十三章をクリックしてください。


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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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