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第六章
 時間は少し戻る。今日子が洞窟から出て直ぐ、真が、今日子の身体から離れて直ぐの出来事だ。今日子が、何故、直ぐに出掛けなかったか、女性なら当然だ。愛する人に会いに行くのだからだ。軽くシャワーを浴び、身支度を整えていたのだ。勿論、勝負下着も忘れるはずもないだろう。急いで、今日子が玄関から出ると、口笛の音が響いた。それから、どこに隠れていたのか、それとも、今、着いたのだろうか、女性が声を上げながら駆けてきた。
「今日子、十六歳の誕生日おめでとう」
「明菜(あきな)、ありがとう。でも何故、この時間が分かったわねぇ。まさか、待っていたの?」
 この女性は、櫛家(くしけ)の明菜、今日子と同族の幼馴染だ。そして、二人には分からないだろうが、始祖の転生に生涯を掛けた。側室の一人の転生した姿だ。
「私も十六歳になったのよ。想像が付くわよ」
「そうよね」
「今日子、あのね」
「ごめん。祝ってくれるのは嬉しいけど、私、直ぐにでも、晶に会いに行きたいの」
「分かっているわ。その事で来たのよ。今日子がしてくれたように、私達も、誓い(ちかい)の木を確保しておいたわ。誰も来ないから、ゆっくり二人だけの気分を味わいなさい」
「明菜、あ、ありがとう」
 今日子が、何故、涙を流すほど喜びを感じているのは、一族の中では有名な木なのだ。元々は、男性が、と言うか大人の男性が、何かの誓いの為の儀式として使用されていたが、それは、かなり昔の事で、最近では、女性の間で有名になっていた。二人だけで、運命の人との誓いの場として利用されていたのだ。有名なら、常に人が居るだろう。そう思うはずだ。だが、もし、木の前に人が居れば邪魔をしない。そう暗黙の了解となっていた。
「今ね。木の前で、明日香(あすか)と晶が居るわ」
「え、まさか、明日香の想い人?」
「違うわ。今日子がしたように場所の確保をしているだけよ」
「えっ、男性と話す事も出来ない。あの明日香なの?」
「そうよ。話が出来ないから丁度いいでしょう。そろそろ、二時間になるわね。だから、晶さんが可哀想だわ。なるべく急いで行った方がいいわ。まあ、でも、急がなくても、瑠衣(るい)が合図の口笛を吹かない限り、明日香は、その場から動く事も話しもしないでしょうね」
「え、瑠衣も居るの?」
「そうよ。それだけでなくて、六人全てが居るわ」
「そうなの。皆が居るのね」
「そうよ」
「皆に悪いから、急ぐわ。ありがとうね。明日にでも結果を知らせるわ。またね」
「馬鹿ねぇ。皆でないでしょう。本心は、晶に悪いからでしょう」
「もう馬鹿、本当に急ぐわ。また明日ね」
 急ぐと伝えたが、走り出す事はしなかった。だが、本心は走り出したいはず。なら、何故、と思うだろうが、女性らしい考えなのは様子を見たら分かる。恐らく、身支度が乱れてしまう。その姿を、晶に見せたくないのだろう。ゆっくりと歩いているが、表情からは心底から早く会いたい。でも、乱れた姿を見せたくない。その思案がはっきりと顔に表れていた。そして、時々、笑みを浮かべるのは、赤い感覚器官が見える。そう言われた。後の事を、思い描いているはずだ。
「ピュー」
 今日子が、目的地に行く途中で口笛の声が響く。明菜に続いて二度目の響きだ。自宅を出て、自分達が通う高校に着くと響いたのだった。まだ、目的地の誓いの木にはまだある。歩きで十五分くらいだ。早歩きでもたいして変わらないだろう。三度目の響きは、今日子の予想の通り、学校の裏山の入り口だった。疲れたのだろうか、立ち止まり辺りを振り向きながら息を整えていた。整え終わると同時に、続けて四度の口笛が響いた。自分の場所を知らせると言うよりも、早く目的の場所に行きなさい。そのように感じる優しい響きだった。それを感じたのだろう。今日子は、口笛が聞える方向に手を振ると目的地に向った。森の中に入ると五度目の口笛が響いた。もう今日子は辺りに関心を振り向かない。森を抜けると巨木が一本だけある空き地に出られる。その開けた場所にだけに目線を向けていた。そして、空き地に出ると、六度目の長い口笛が響いた。それは、今日子にではなく、明日香に合図の響きと思えた。
「あきら・・・」
 今日子は、言葉を無くした。それは、晶が、明日香の両肩に手を乗せて真剣な表情で言葉を掛けているように見えたからだ。だが、口笛の音が響くと、明日香は、何度も頭を下げて走りだした。恐らく、ごめんね。そう呟いたはずだ。そして、晶は、何度も頭を振りながら叫んでいた。恐らく、明日香に、何故なんだ。と何度も叫んでいるのだろう。
「あきら~」
 今日子は叫びながら駆け出した。その声が聞こえたのだろう。晶が振り向いた。それも、怯えるように少しずつ後ずさりした。だが、ある程度、下がると、晶は両手を広げた。
「今日子、誕生日おめでとう」
 だが、今日子は、晶が望んだように抱きついては来なかった。
「晶。今、何故、逃げようとしたの?」
「まさか、逃げてなどいないぞ」
「そう」
「会えるのを楽しみしていたぞ」
「なら、何故、家に来てくれなかったの?」
「それは、それは、当然だろう。誓いの木で会おう。そう言われるのを待ってかたからだ」
 今、思い付いたように話を掛けた。
「そうなの?」
「当然だろう。今日子、早く赤い感覚器官を、俺に見せてくれ」
「うっうん」
 今日子は、おそろおそろと、左手を晶の顔に向けた。
「ごめん。俺には見えない。でも、今日子、俺はまだ誕生日になってない。まだ、子供なのだろう。十六歳になれば見えるかもしれない。その時、俺に左手を見せてくれ、必ず今日子の赤い感覚器官が見えるよ。勿論、俺の赤い感覚器官も見えるはずだ」
 晶は、大きな溜息を吐きながら左手を見た。その後、何故だろうか、一瞬、笑みを浮かべたように感じられたのは考え過ぎだろうか。
「うん、そうね。そうよねぇ」
「大丈夫か?」
「うん」
「今日は、早く帰って寝た方が良いぞ。明日は、学校で会おう。会えるよなぁ」
「うん」
「俺は、今日は帰るぞ。明日、学校で会おう。おやすみ」
「うん、お休みなさい」
「なら、明日なぁ」
「うん」
 今日子は、晶が帰る姿を見続けた。見えなくなると、嗚咽を吐いた。
「今日子、大丈夫?」
 明日香が、誓いの木に戻ってきた。そして、一人、二人と今日子の元に近寄ってきた。
「どうしたの?」
「大丈夫?」
「今日子、まさか」
「今日子?」
「そう、見えなかったのね?」
 瑠衣の一言で、嗚咽だったのが、泣き叫ぶに変わった。
「瑠衣。うっうう、瑠衣、あのねぇ」
「何かの手違いよ。そうそう、まだ、晶は子供だから見えないのよ」
「晶にも、そう言われたわ」
「そうでしょう。晶の誕生日まで待ってみようね。だから、泣かないで」
「私達の、六人全員の想い人も見えなかったのよ。私達も、今日子と同じなの。相手の誕生日を待つのよ。その時は、見えるわ。だから泣かないで、ねえ、大丈夫だからねぇ」
 明日香は、口下手だからだろう。その言葉には真実味があると感じて、今日子は、泣くのを止めた。普段の通りではないが、笑みを浮かべた。
「そうねぇ。子供では仕方ないわねぇ」
「そうよ」
「ねえ、皆で、私の家に来ない。お母さんが料理を作って待っているはずなの」
「そうねぇ。今日子のお母さんは、料理の名人だしね」
「ねぇ、行こうかぁ」
 瑠衣の一声で、皆が同時に声を上げた。家に着くと珍しく父が出迎えてくれた。
「早かったなぁ。今日子の好きな料理だぁ。早く食べなさい」
 今日子は、父の言い付けよりも早く家に帰ってきた。父は、驚きの表情をしていた。晶と一緒で無いからか、早く帰って来たからなのか、表情からは分からなかった。それでも、娘が落ち込んでいる。それが分かったからだろう。六人の友人に挨拶だけすると、社(やしろ)に向った。恐らく、朝になっても、妻が向いに来るまで社から出ない考えなのだろう。もしかすると、娘の連れ合いが直ぐに会えるように、と祈っているに違いない。
「あら、皆で来たのね。久しぶりね。どうぞ、上がって、上がって」
「久しぶり」
「わぉお、いいのですかぁ」
と、六人の女性は、交互に、それぞれの気持ちを言葉で表した。今日子は、その様子を見て、友達に喜んでもらう為に、母に問いかけたのだ。
「ねね、お母さん。今日の夕食は何かな?」
「決まっているでしょう。祝い事には、今日子の・・・・どうしたの?」
今日子は、母の話を嬉しそうに聞いていたが、何故だろう。頭痛を感じたような仕草をしたかと思えば、その場で倒れた。
「きょう~」
 六人の女性は、今日子に駆け寄った。
「安心して、大丈夫よ。羽衣と赤い感覚器官が身体全体に繋がったからだと思うわ」
 今日子の母は、そう伝えると娘を玄関から居間に運ぶのを手伝って欲しいと頼んだ。そして、五分くらいだろう。時間が経つと、何も無かった様に起き上がった。
「如何したの?」
 今日子は、母と六人の友人が、自分を心配しているのは分かるのだが、何故か、笑みを浮かべている。その理由が分からなかった。
「今日子、今日の夕飯は、お赤飯にしましょうかね。直ぐ作れるから待っていてね」
「お母さん。そうですね。私もそう思いましたわ。作るのを手伝いますね」
「今日子も、大人になったのね。おめでとう。ふふ」
「あなた達、何を言っているのよ。お母さんも、何、冗談を言っているの。私は大人よ」
 今日子は、母にも、友人にも、自分を出汁にして楽しんでいるのは面白くなかった。それでも、自分を心配してくれた気持ちは分かっていたが、素直に喜ぶ事が出来なかった。
「もう、本当に怒るわよ」
 今日子は気が付いていないだろうが、母と友人の温かい心遣いで、晶の事を完全に忘れていた。その証拠に、普段の今日子のように笑みを浮かべていた。その様子を見て、母と友人も安心しただろうが、満面の笑みを浮かべるまで、今日子を玩具にするのを止めるはずがないだろう。
「今日子、明日も学校があるでしょう。それに、もう夜も遅いし、友達の御両親も心配するでしょう。そろそろ終わりにしなさい」
「お母さん・・・・・・・うん」
「お母さん。それは、大丈夫です。今日子の誕生日ですもの。そのまま泊まるって言ってきました。帰った方が良いのでしたら帰ります」
「私も」
「お母さん。大丈夫ですよ」
「うちの親、心配などしないから大丈夫、大丈夫です」
「親友の誕生日だから泊まるって言ってきました」
「私も言ってきました」
 明菜の考えなのだろうか、代表のように言うと、他の五人も同じように頷いた。
「そう、それなら問題は無いわね。娘の為にありがとう。でも、私からも御両親に連絡はしておくわ。ゆっくり楽しんで行ってね」
(今日子、晶君の事は残念だったけど、良い友人を持ったわね)
と、明子は感じた。全てが嘘だと分かっているのだろう。恐らくだが、それとなく、両親に言い訳をする考えなのだろう。
それから、食事が始まると、益々、舌が滑らかになり笑い声が大きくなった。勿論、夜更けまで家の明かりは消える事はないだろう。そして、今日子の満面の笑みを確認した後は、明日からの楽しい計画の為に、睡眠を取る事を決めるはずだ。
 最下部の七章をクリックしてください。

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物語を書いて五年になりましたが、私は「左手の赤い感覚器官(赤い糸)と「蜉蝣(カゲロウ)の羽(背中にある(羽衣)の 夢の物語が完成するまで書き続ける気持ちです。
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